『こちらあみ子』で2011年に三島由紀夫賞を受賞した今村夏子。2014年に同作を文庫化して以降、しばらく作品の発表が無かったが、昨年の11月に待望の新作を刊行した。本書には、第155回芥川賞の候補作となった『あひる』の他、2編の短編が収録されている。
表題作『あひる』は、あひるを飼うことになった家族とあひるを見に来る小学生たちとの交流が描かれている。
あひるによって繋がる家族と小学生たち。言葉だけ聞くと幸せな光景が思い浮かぶが、それらが綴られた文章から滲み出てくるのは、大人のみっともなさや、子供の暴力にも似た無邪気さだ。
この話はとにかく居心地が悪い。作中でこれといって大きな事件が起きる訳ではないのだが、終止息が詰まるし、心がざわざわとかき乱される。『あひる』に書かれている居心地の悪さは、誰にでも身に覚えがあるはずだ。決して後味の良い作品ではないが、クセになるのでぜひ読んで欲しい。(Loft PlusOne West:平松克規)