まさに「巨星堕つ」…水木しげる翁が敗戦70年の年、旅立たれた…大往生のはずなのに落涙止まらぬ。「1作を」といわれたら本書。面と向かって水木翁に問うた者はいないのではと推察するが、「主人公(=水木)が太陽や鳥の美しさに見とれたから部隊(戦友)全滅」とも読める。90%事実…自らの気質優先により大量死が出たということを罪悪感を持ちつつ描き切ったことが水木翁の真の凄みだ。触れてはならない点か…と思っていたが没約1年前の呉智英×南伸坊『水木しげる論』を読むと「激戦地訪問は愉快。彼らは死に、自分は幸福」と! 執筆時と違う偽悪かもしれないが、快楽至上、教養主義の徹底はちょうど今年発見された出征前手記(『戦争と読書』所収)からぶれていない。人間綺麗事じゃないと髄から判り判らせる。生の希求が至上。そうでないのは社会がおかしい。ぐるり周り人間に優しい。真の敵が米兵でないのは野火も同じ。戦争未体験の塚本監督が野火を公開した年の旅立ちは示唆的だ。どうか妖怪たちと心ゆくまで遊び戯れてほしい。(尾崎未央)