1967年生まれの社会学者、岸政彦さんがブログなどに掲載されたものに書き下ろしを加えたエッセイ集。言葉で説明するのが難しいのですがすごい本です。こんな豊かで深い読書体験は、近年ないかもしれません。決して真似の出来そうにない文章の味わいは何なのでしょう。著者は沖縄や、被差別部落、生活史などを研究テーマにアイデンティティーや差別について考えられてきた方です。数多くの個人のライフストーリーの聞き取り調査の中で、こぼれおちそうなエピソードを元にこの本は綴られていきます。元風俗嬢、路上のギター弾き、ヤクザ、大阪のおばちゃん、学生、そして犬や猫との断片的な出会いを通して、とても解釈や分析は出来ないのだけれど印象に残る無意味さ、人生の偶然性、生きることの孤独などを抽出して、私たちの生きている社会というものについて深く考えさせてくれます。届くべきところに是非届いてほしい大切な一冊です。(Loft PlusOne West 渡辺智之)