Rooftop ルーフトップ

REVIEW

トップレビュー小さき声のカノン──選択する人々

小さき声のカノン──選択する人々

2015.03.18   CULTURE | MOVIE

MOVIE
鎌仲ひとみ(監督)
渋谷イメージフォーラム他で上映中

 『ヒバクシャ』『六カ所村ラプソディ』『ミツバチの羽音と地球の回転』と“核をめぐる三部作”を作ることによって、少しずつでも人類から核の脅威を減らしていこうとしていた鎌仲ひとみ監督にとって、3.11の震災で引き起こされた福島の原発事故はまさにあってはならない最悪の事態だった。広島原発の168個分にあたるセシウム137は福島だけでなく日本中を広範囲にわたって汚染したが、あろうことか日本政府は避難の範囲を最小限にするために、それまで守っていた年間1ミリシーベルトという基準値を20倍に引き上げた。そのため事故前よりはるかに多くの被曝を受けながら、何の対策も施されない多くの子供達が日常を生きなければならなくなってしまったのだ。「どうしたら子供達を守ることができるのか」この思いに突き動かされ、鎌仲監督は事故後の福島、東京、北海道、そしてベラルーシでカメラを回した。
 福島の二本松市にある真行寺の住職・佐々木さんは家族が離れ離れになることを避けるためここに留まることを決めた。「最初から国が(自分達を)見捨てていくんだなっていうのは分かってた」「ここで暮らすなら、少しでも被曝しない方法を自分で探したい」。境内の幼稚園には全国から支援の野菜が届き始めた。佐々木さんの妻のるりさんは幼稚園の親御さん達に野菜を配っていくうちに、彼女の元にこの活動を手伝いたいというお母さん仲間が集まり始めた。「わたしたちは本当にただの泣き虫のお母さん。それでもこういうことができる」。少しずつ活動を広げていくお母さん仲間たちだが、るりさんは「(政府の方針に従わないことで)少数派になってしまうことの恐怖が大きかった」と事故直後の自分を振り返る。
 この映画には他にも見えない放射能の恐怖と闘う多くの市民が登場する。ベラルーシのスモルニコワさんは、チェルノブイリ原発事故後の低線量被曝地域で暮らす子供の被害を減らすため、海外へ保養に出す活動を長年続けている。日本でこの保養を受け入れている「チェルノブイリへのかけはし」代表の野呂さんは、福島原発事故後、関東圏の子供達を保養に受け入れるプログラムを始めた。彼女達に共通するのは、国や政府が何もしないのなら、自分達の力で始めるという「DIY精神」だ。スモルニコワさんは「やっているのは政府でなく個人です。普通の人には大きな力があるのです」と語っている。
 事故の衝撃に立ちすくみ、ただ困惑している時期は過ぎた。迷いながらも自分達の意志で子供を守ろうとするお母さん達の小さな声が、国境を越えて響き始めた姿がこの映画には描かれている。大きな声を出すもの、国や強者の理論ばかりがまかり通る世の中で、この映画が捉えた小さき声の共鳴(カノン)に自分が共感できるかどうか。それこそが震災後の社会で一番問われていることなのかもしれない。是非あなたも耳を澄ましてこの声を聴いてみて欲しい。(加藤梅造)

関連リンク

CATEGORYカテゴリー

TAGタグ

RANKINGアクセスランキング

データを取得できませんでした

休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻