実話事件に題材を得て現役の弁護士が書いた奇妙な味わいの短編集。羊の目を恐れ、眼球をくり抜き続ける伯爵家の御曹司。彫像『棘を抜く少年』の棘に取り憑かれた博物館警備員。エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗......。 私はパリ人肉事件の佐川一政の名が突如出て来る「愛情」に強く惹かれた。陰惨な話もエエ話も淡々と。実際のケースから想を得て文章を展開していく......という手法には精神科医にして文学論を交えつつ著書を書く春日武彦にも通じるものも感じた。
訳者インタビューがネット上にあり気がついたのだが、本の表紙にも、そして収録のすべての短編作品に「リンゴ」が登場してきている! そして巻末の銘にはマグリットの「これはリンゴではない」......。リンゴといえば原罪の象徴。これは深い。リンゴは分かりやすく登場している場合もあればホント隠れキャラ的に登場してきている場合もあるのでそれを気に掛けて読んでも楽しい。(尾崎未央)
犯罪 / フェルディナント・フォン・シーラッハ
2011.11.07 CULTURE | BOOK