「板子一枚下は地獄」…な芸能界の荒波にたゆたう怪奇譚目白押し!
今年6月、8月、10月と精力的に発行された実話怪談本のニューフェース。扇情的なのに素っ気ない感じもする体裁に反し、これが実に良作なんですよ!芸人、グラビアアイドル、俳優らの間で語られ伝わる怪談を放送作家が自身の体験も含めまとめたシリーズだ。嫉妬、羨望、妄執うずまく華やかな舞台の裏は奇々怪々な話ばかり。怪談好きなら聞いた事があるような都市伝説も少しは混じっているものの、その場合でも「売れない芸人が騒音クレームを気にせずネタ合わせを思う存分するため訪れた場所が心霊スポットで…」など妙なリアリティがある。怪談要素を抜きにしても裏方話としても純粋に楽しめるのではなかろうか、プラスワン等ロフト系スペースに集う人には特に。
初巻はトイレでトンでもないモノに×××してしまった「ネタ合わせ」が実にコワ面白かった。心霊系だけでなく平山夢明ヒト系怪談「東京伝説」ばりの恐怖譚(「いじめ」「害虫駆除」)も多々あるんだけど、芸人由来で笑いもまぶされかなりお得感アリ。2巻目も同じくで、特に心霊トレーディングカード話さいこう! 秋だけど気にせず刊行された3巻目はヒト系怪談の「狂ったカメラマン」が最高に怖かった…自分もこういう目にいつ遭うかわからないと思えた。
これだけ短い間に巻を重ねているのにどんどん面白くなるのは実に近年稀な良質怪談本だと思う。思うにまとめている放送作家らの手腕が良いため、芸能に携わる人たちの恐怖体験が読みやすく手際よく開陳され一気呵成に読めるからではなかろうか。それにしてもこういう話を見聞きするたび、本来は船乗りたちに用いる「板子一枚下は地獄」という言葉がピッタリのオトロシイ世界だな…とガクブルしちゃうのでありました。 (尾崎未央)