神話無き国が作り出した神話、アメコミでの「神々の戦い」を描いた傑作が復刻
アメコミが日本で敷居の高いジャンルであることはファンだからこそ十分熟知しているつもりである。独特のコマの組み方、ピチピチなコスチューム。しかしなにより垣根となっているのは「連続しているドラマになかなか途中から入りにくい」事ではないだろうか。確かにどれも下手すると第二次世界大戦くらいからやっている大長寿シリーズだったりはする。そんなのあんまり関係ないんだけどねぇ。しかし、原作もあたりもしないであのクソみたいな「X?MEN」の映画シリーズだけみてアメコミを語られても正直困るのである。俺のマグニートは学ラン着たジジイなんかじゃない!
さておき。その連続性からアメコミが敬遠されるのであるならば、本作「キングダム・カム」などは最適なのではないだろうか。1冊でキッチリと完結し、DCコミックスのキャラクターも総出演し、キャラの設定も理解できる好著といえる。
世界の平和、真の秩序を巡ってスーパーヒーローたちが2分割され、相反する個性のスーパーマンとバットマンの対立がいつしか地球滅亡の危機にまで発展する。スーパーマンがアメリカの愛国心や世界の警察的な役割の象徴だとしたら、バットマンはアメリカ開拓時代から培われてきた自警団的なものの象徴。そう考えて読む事も可能である。「コミックだから子供向けだろ」などという偏見を打ち砕くかのように、スーパーヒーロー達には過酷な展開が待っている。スーパーヒーローが「えの素」みたいにホネホネになるなんてこの漫画くらいではないだろうか! 実際の人間にポーズを取らせ写真を撮り、そこに着色していくという気の遠くなるような絵を(表紙だけでなく)全編に渡って描いているアレックス・ロスの偉業も是非味わって欲しい。
本書といい「ヘルボーイ」といい、最近は以前日本でも刊行されていたアメコミの再販が目立つ。ヤフオクで何万も出して買わなくなっていいのは非常に助かるのだが、昨今のアメコミ作品も出して欲しい所である。マーベルのスーパーヒーローがみんなゾンビ化する「MARVEL ZOMBIES」や、スーパーマンがもしアメリカでなくて旧ソ連に落下して、共産主義の先兵となった世界を描く「Superman: Red Son」など、色々まだ面白い作品はあると思う。「ヒーローマン」や日本版アニメ「アイアンマン」などでアメコミへの興味も増している今、更なる出版を望みたい所である。(多田遠志)