2005年に解散したfra-foaのボーカリスト三上ちさこが、ソロ活動を経て20年ぶりに結成したバンドsayurasの2nd EP。『In the dArk』というタイトルの中の「Ark」には箱舟という意味があり、コロナが明けても、この先どうなるか分からない不安だらけの暗闇(dArk)の中を一緒に進んでいける箱舟(Ark)になれるようにとの想いを込めて制作された。
NIRVANA直系の陰鬱としたイントロや、渦を巻くような空間系ギターが作り上げるオルタナティブサウンドに乗せて、押し込めた感情を解き放っていく伸びやかで妖しいボーカルがfra-foaを感じさせる一曲目の「惰性」。あえて避けてきたというオルタナど真ん中のサウンドは、やはりしっくりくる。しかし、当時と明らかに違うのは、孤独を叫ぶのではなく、自分軸をしっかり据えて前に突き進んでいく力強さ。他者を拒絶して自分だけの宇宙に逃げ込むのではなく、もがきながらも外に向かっていく強い意志。そのブレない芯の強さはメンバー全員の年齢やキャリアの長さに由来しているだけでなく、彼女自身の幼少期から培われたであろう世の中を見る視点が人とは違うからだろう。
前作『Adult Organized Rock』の「揺れる」に通じる、世の中の真実、常識とされているものを当たり前のように信じて踊らされる社会に疑問をぶつける「悪魔の実」や「Not for Sale」は、まさに日々真実がひっくり返っていく今と重なる。押し付けられる窮屈さや、情報過多で身動きが取れなくなってしまう現代社会の中で、よりどころを外に求めるのではなく、自分の中心に軸をしっかり据えること、つまり自分を信じることで、何が起ころうと、周りがどうであろうと揺らがない強さが生まれる。そのことに確信を持って突き進む姿を見せて伝える大人たちのカッコよさと、かつて「僕はここにいるよ」と全身で孤独を叫んでいた彼女だからこそ寄り添える「Setbacks」のような押しつけがましくない優しさが、進むべき道を照らしてくれる。重苦しい空気を蹴飛ばすラスト、「Not for Sale」の軽快なロックサウンドとストレートな歌詞が爽快。(小野妙子 / Rooftop編集部)