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トップレビュー清春『ETERNAL』- 止まっていた時間が動き出す‟生命"のサウンド

清春『ETERNAL』- 止まっていた時間が動き出す‟生命"のサウンド

2024.08.05    | CD

発売日:2024年3月20日
品番:YCCW-10424
形態:CD
定価:3,300円(税抜3,000円)

収録曲:
1. Carnival of spirits
2. SAINT
3. RUTH
4. ETERNAL
5. 霧
6. SWORD
7. ロープ
8. Interlude by DURAN
9. 砂ノ河
10. Interlude by タブゾンビ(SOIL&"PIMP"SESSIONS)&栗原健
11. DESERT
12. FRAGILE
13. Interlude by 栗原健
14. 狂おしい時を越えて
15. sis
16. 鼓動
17. ETERNAL(reprise)

黒夢でのデビューから30周年を迎えリリースされた清春ソロ11作目のアルバムは、不死鳥を連想させるジャケットが象徴するように「今この瞬間が永遠」をテーマに制作され、土着的で多国籍なサンドが‟生命”を感じさせる、情熱的で壮大な作品となった。
 
2018年発売の『夜、カルメンの詩集』のスパニッシュなサウンド、2020年発売の前作『JAPANESE MENU / DISTORTION 10』のロックンロール&ブルージーなベースレスサウンドの系譜から、パーカッション、サックス、トランペットが加わって民族感が増し、ロックの枠にとらわれない自由なサウンドを構築。
冒頭から人類の起源を感じさせるアフリカンな「Carnival of spirits」から始まり、情熱的なフラメンコギターが特徴的な「SAINT」、「ETERNAL」、エキゾチックなラテンの「RUTH」、ボサノバ調の「FRAGILE」と多国籍なサウンドに加え、「ロープ」ではムーディーなシティ・ポップ、さらに、シンプルながらこのアルバムの中で一番の新境地ともいえる「sis」や、「SWORD」、「霧」では、ポストロック / エモ / マスロックなテイストの美しく柔らかいアルペジオが、優しく感情を刺激する。パターンから脱して曲ごとの映像度が増し、清春のボーカルを中心に国や時代が転換していく。情熱的な生から安らかな死へと向かいまた生まれ変わる、輪廻のようなループ感。それをただ見守る不死鳥。清春自身の歴史の中でも、また、現代の音楽シーンにおいてもまったくちがうベクトルにたどり着いた重要作といえる。
 
不死鳥は老いて寿命を迎えると、自ら火の中に飛び込んで新たに生まれ変わるといわれる。もちろん人間の肉体では不可能だが、精神なら可能だ。消したい過去や、消えてしまった過去があったとしても、今この瞬間から何度でも新しく作っていける。過去でも未来でもなく‟今”がすべて。その‟今”の連続が永遠を作っていく。ライブのMCなどで毎回自身のアーティストとしての終焉について言及するため、つい終わりに意識が向いてしまうが、そうではなく、いつからだって、何度だってやり直せるという力強くポジティブなメッセージがこのアルバムの核にある。
 
海外公演への挑戦や、黒夢、SADSを含む、アーティスト人生を総精算するかのような60本のアニバーサリーツアー、また、ウクライナ人道支援ライブ、能登の被災地訪問、復興支援ライブ、チャリティーライブなどに加え、メディアへの出演など、この2024年の精力的な活動が、従来のファンだけでなく多くの人の止まっていた時間や、目に見えない何かを突き動かしているのは間違いない。終わりを意識した作品や活動によって、誰かの何かが始まっていく。それは、このアルバムがこの世に存在する限り、何十年先もずっと永遠に繰り返されていくはず。それこそ、まさに「‟今”が永遠」ということなのではないか。このアルバムは、この先どれだけ年月が経ってもきっとどの時代にも馴染むことなく、触れた人に命を吹き込む生命の音楽として継承されていくはずだ。(小野妙子 / Rooftop編集部)
 

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