2月1日にデビュー記念日を迎える吉川晃司、5つのテーマ別プレイリストと、40年間の軌跡を辿る特集記事が公開となった。
公開されたプレイリストは、40周年記念サイトの企画 第2弾として実施されたファン投票企画にて、5つのテーマ「LOVE SONG」、「ROCK SONG」、「DANCING SONG」、「RUNNING SONG」、「DRIVING SONG」に合う楽曲を募集、投票結果1位から順に選曲。
デビューから現在までに発表された吉川晃司の全楽曲の中から選曲され、それぞれのテーマに沿ったプレイリストが楽しめる。さらに、Spotifyにて吉川晃司をフォローしていただいた方に、もれなくARフォトフレームをプレゼント。
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そして、1984年のデビューから現在までの40年間の軌跡を辿る特集記事が、デビュー40周年を記念して1月22日にリリースされた、ファン投票企画によって選ばれたLIVE映像Blu-ray3作品、最新リマスタリングによってSHM-CDと紙ジャケット仕様でリリースされたアルバム 17タイトルの徹底解説付きで到着。
いよいよ来週2月8、9日、日本武道館にて『KIKKAWA KOJI 40th Anniversary Live Tour Final』を迎える。
デビュー40周年を迎えた吉川晃司にぜひ注目していただきたい。
「渇き」を原動力として走り続けてきた吉川晃司の40年間
デビューしてから現在までの吉川晃司の40年間をひとつの言葉で表すならば、「渇き」という表現がふさわしいだろう。「渇き」とは渇望感であり、不足感であり、決して満足することがない心根を表している。ローリング・ストーンズのミック・ジャガーが「No Satisfaction」と、ボブ・ディランが「Like a Rolling Stone」と歌ったように、吉川は自らを取り巻く状況に対して、「No」を突きつけ、「渇き」を原動力として走り続けてきたのだ。
吉川がデビューしたのは1984年2月1日、シングル「モニカ」によってだった。その10日後の2月11日には、主演映画『すかんぴんウォーク』が公開されている。つまり、吉川はミュージシャンと俳優として、ほぼ同時にデビューというド派手な登場の仕方をしたのだ。そして同年、歌手としても俳優としても、多くの新人賞を獲得している。つまり、一気にスターになったのだ。だが、彼は決して満足することがなかった。それどころか、デビューしてからの彼はいつも不満げな表情を見せていた。
彼の初期のアルバムに楽曲を提供した作家陣は、原田真二、大沢誉志幸、NOBODY、後藤次利、伊藤銀次、佐藤健など、錚々たる顔ぶれである。映画3部作の監督は大森一樹だ。つまり、吉川は才能あふれるクリエイターたちのサポートを受けて、デビュー当時からクオリティの高い作品を発表し続けてきたのだ。当時の吉川が抱えていた「渇き」とは、芸能界という場違いな場所にいることへの違和感、そして自らの力量不足へのいらだちだろう。自分はまだまだこんなものではない。そんな焦燥感が彼を突き動かしていたと思うのだ。
◉アスリートのマインドを持ったアーティスト
音楽に関しては、作品をリリースするごとに自作曲の割合が多くなり、ライブにおいては、全身を使ってのパフォーマンスの激しさが増していった。ボーカル・ギター・ステージパフォーマンス・作詞・作曲・編曲など、足りないところを補強し、表現者としての能力を全方位で向上させることを、自らに課していたのだ。そうはいっても、そんなに簡単に成果が現れるわけはない。吉川がミュージシャンとして独特なのは、アスリートのマインドを持ったアーティストという点にある。彼が高校時代、世界ジュニア水球選手権大会の日本代表に選ばれ、オリンピック出場候補であったことは、有名なエピソードだ。
アスリートとアーティストの最大の違いとは、アスリートの努力や訓練の成果が記録や数字や勝敗で表されるのに対して、アーティストの生み出す作品やステージは、数字で表せない点にある。もちろん音楽だって、売上枚数、順位、動員数など、数字で表せる指標がないわけではない。だが、アーティストが本来目指すべき作品やライブのクオリティは、競技と違って採点不能だ。ここがアーティストの悩ましい点だ。アスリートの強みとは、おそらく積み重ねることの重要性を熟知していることだろう。つまり一見、目立たない吉川の大きな武器とは、努力を継続する才能にあると思うのだ。吉川の代名詞となっている「シンバルキック」は、自己鍛錬の日々の成果を可視化したものでもあるだろう。そしてまた、ファイティングスピリッツを体現しているものでもあるに違いない。
◉COMPLEXという壮大な音楽実験による未知の領域への挑戦
吉川は1988年に事務所から独立している。こうした行動の背景にも、「渇き」があったと思うのだ。当時の吉川の言動や行動からも、現状に満足することなく、未知の領域へと踏み込んでいこうとする強い意思が感じ取れる。彼は環境を変えて、活動するフィールドを移し、新たなる挑戦を始めている。1989年にBOOWYの布袋寅泰とともにCOMPLEX結成。破格のスケールの大きさを備えたこのユニットは音楽シーンに衝撃を与えた。
80年代末から90年代初頭にかけては、世界的にもロックのムーブメントが大きく変化した時期だった。ヒップホップやファンクの要素を採り入れたミクスチャーロック、デジタルビートを導入したデジタルロックなどが台頭し、ロックバンドにより強靱でソリッドなビートが求められるようになってきたのだ。COMPLEXはそうしたシーンの変化にも対応したユニットだった。サウンドだけではない。1989年の天安門事件、ベルリンの壁崩壊など、激動する世界情勢ともシンクロする内容が歌詞に反映されるようになった。
COMPLEXという壮大な音楽実験の場がソロアーティストとしての吉川のさらなる覚醒を促したのは間違いないだろう。アルバム制作では、90年代前半の作品では後藤次利、吉田建らをプロデューサーとして招き、90年代中盤以降は、菅原弘明との共同プロデュースという形を取って、自らがプロデューサーとしての視点を持ちながら、音楽制作にのぞむようになった。COMPLEX以降は、バンドサウンドを基本としながらも、2005年に開催された『THE FIRST SESSION LIVE 2005 〜エンジェルチャイムが鳴る夜に〜 』での山下洋輔、坂井紅助、村上“ポンタ”秀一によるジャズピアノトリオとの共演、2006年のDISCO TWINSとのユニットによるディスコミュージックの導入など、着実に音楽性の幅を広げてきているのだ。
◉大きな転機となった『日本一心』での音楽活動
2011年に起こった東日本大震災も吉川の音楽活動に大きな影響をもたらしている。同年7月30・31日のCOMPLEXの東日本大震災復興支援チャリティライブ『日本一心』開催、10月から12月にかけての『KIKKAWA KOJI LIVE 2011 KEEP ON KICKIN' & SINGIN'~日本一心~』ツアー開催、さらには2013年には、社会的な問題をモチーフとしながらも、エンターテインメントとして昇華したアルバム『SAMURAI ROCK』をリリースしている。これらの活動の原動力となっていたのは、「災害時にミュージシャンである自分に何ができるのか」という自問自答であり、無念の思いであり、「渇き」だろう。
東日本大震災以降、エンターテインメントの役割を強く意識するようになったことにより、音楽性の幅はさらに広くなっている。たとえば、2023年リリースの現時点での最新アルバム『OVER THE 9』では、スイングジャズの要素を採り入れた「ギムレットには早すぎる」、カントリーテイストの漂う「焚き火」なども収録されている。また、ライブ活動でも全国ツアーの他に、『KIKKAWA KOJI Premium Night “Guys and Dolls”』というタイトルのもとで、ファンク、フュージョン、ジャズなどの要素もあるアダルトなステージも展開している。吉川は80年代から2020年代まで、“体現”という言葉がふさわしいライブ活動を展開してきた。しかし、“Guys and Dolls”のステージからは“音楽表現”を究めていこうとする姿勢も見えてくる。エンターテインメントとしての音楽を追求する中で、現時点で不足していた部分をさらに磨き上げているように見えるのだ。
創作活動においても、ライブ活動においても、一貫して「渇き」を原動力として走り続けてきた40年間と言えるだろう。この40年間でリリースしたオリジナル・アルバムは20枚、ツアーは、COMPLEXでの1989年、1990年の活動も含めると、コロナ禍だった2020年を除いて、毎年ライブ活動を行っている。吉川自身がかつてマグロの回遊にたとえて、「止まってしまったら、死んでしまう習性」と語っていたことがある。かかと骨折、肋骨骨折、突発性難聴、声帯ポリープ、心臓カーテル手術、外傷性白内障手術などを乗り越えて、彼はライブ活動を行ってきた。この40年間は、「波瀾万丈」「不撓不屈」「不断前進」の日々でもあったのだ。
◉ファン投票企画によって選ばれたLIVE映像3作品がBlu-ray化
吉川のデビュー40周年を記念して、LIVE映像作品の中から、ファンがお気に入りの作品を投票するファン投票企画によって選ばれた上位3作品が、Blu-ray作品としてリリースされることになった。3作品について、年代順に解説していこう。
1994年9月にリリースされた『CONCERT TOUR 1994 My Dear Cloudy Heart』は、1994年2月5日から5月29日にかけて49公演行なわれた『CONCERT TOUR 1994 My Dear Cloudy Heart』のファイナル公演、5月29日の横浜アリーナの模様を収録した作品である。アルバム『Cloudy Heart』収録曲を軸としたコンサートで、曇り空のような晴れない心境、不安や迷い、孤独感や喪失感がテーマとなった楽曲が目立つ構成になっている。1曲目の「Purple Pain」はこのコンサートを象徴するナンバーだろう。幕の上がってない暗いステージの上に光が点滅して、吉川の姿が浮かび上がる。「泣き出しそう」「吐き出しそう」「逃げ出しそう」といった歌詞が痛切に響く。だが、歌声はエネルギッシュそのもので、痛みをパワーに変換していくような強靱さを備えている。続いての「VENUS ~迷い子の未来~」で幕が開き、一転して開放感あふれるエネルギーがほとばしっていく。さらに、「KISSに撃たれて眠りたい」では観客との熱烈なコール&レスポンスが起こっている。抑圧された状態から一気に開放されていくようなオープニングの流れが見事だ。影の要素をしっかり描いているからこそ、光のかけがえのなさが際立っていく。当時、吉川は28歳、鬱屈した思いを一瞬で完全燃焼していくようなアグレッシヴかつワイルドなパフォーマンスも見どころだ。<夢を取り戻すのさ>と歌われるアンコールの「Cloudy Heart」では、吉川の人間味あふれる歌声が染みてくる。歌い終わった瞬間、上を見上げる吉川の姿が印象的だ。吉川の最後のギターソロは、“希望の歌”のように響く。
2本目は2010年2月6日に武道館で行なわれた25周年のアニバーサリーツアーのファイナル公演、『25th ANNIVERSARY LIVE GOLDEN YEARS TOUR FINAL at 日本武道館』の模様を収録した作品だ。もともとのリリースは2010年6月30日だった。この武道館のステージでは、その前年の2009年にリリースされたアルバム『Double-edged sword』にちなんで、“ソード(剣)”がモチーフとして使用されている。オープニングナンバーの「Purple Pain」では、LEDモニターの背後で、吉川が剣を振りかざして歌っている。シルバーの衣装を着た吉川自身がソードそのもののように見える瞬間があった。25周年のアニバーサリーイヤーということもあり、「アクセル」「SPEED」などの代表曲も演奏されたが、この時点での最新アルバム『Double-edged sword』収録曲も多く演奏された。「死ねない男」「El Dorado」「ロミオの嘆き」などなど、ソリッドな歌声にズシッと揺さぶられた。「El Dorado」ではまばゆいばかりのゴールドの光を使った演出によって、武道館が黄金郷に化した。「ロミオの嘆き」では吉川のこぶしに呼応するかのように、会場内から多くのこぶしが突き上げられた。この映像作品の大きな見どころは、約14分に及ぶ25thメドレーだ。「A-LA-BA・LA-M-BA」「にくまれそうなNEWフェイス」「RAIN-DANCEがきこえる」「1980」「BE MY BABY」「モニカ」などなど、シングル曲やCOMPLEXの代表曲がこれでもかと並び、25年間という歳月を音楽によって一気に駆け抜けていくようだった。メドレーの最後を飾るのは、吉川の生き方を体現するナンバーの「BOY'S LIFE」。44歳の吉川の揺るぎない闘志と、観客への愛と感謝とがパッケージされた作品だ。
3作品目は、2012年9月21日にリリースされた『KIKKAWA KOJI LIVE 2011 KEEP ON KICKIN' & SINGIN'!!!!! ~日本一心~』。2011年10月30日の横浜アリーナの模様が収録された作品だ。通常のツアーと決定的に違うのは、「日本一心」という旗印を掲げていることだろう。もちろん極上のエンターテインメントを提供するという意味では、どのステージも変わりはない。しかし、使命感が気迫となって現れていることが伝わってくるステージなのだ。1曲目の「1990」から渾身の歌とパフォーマンスに胸が熱くなる。2011年にリリースされた2枚のベストアルバム『KEEP ON KICKIN'!!!!!』『KEEP ON SINGIN'!!!!!~日本一心~』収録曲中心に選曲されていて、代表曲が並んでいる。「RAIN-DANCEがきこえる 2011」「INNOCENT SKY 2011」「LA VIE EN ROSE 2011」など、過去の代表曲に新たなアレンジが施されて、スリリングなバンドサウンドが堪能できることも、このステージの見どころのひとつだ。ブルースフィーリングあふれる演奏の中で、凜とした歌声を披露している「INNOCENT SKY 2011」からは、46歳の等身大の吉川の思いが伝わってくるようだった。「MODERN VISION 2007」では、吉川とEMMAこと菊地英昭と伊藤可久とのトリプルギターによる白熱の演奏も圧巻だ。このライブ映像で特筆すべきなのは、吉川の母校、府中小学校の生徒たちと一緒に作った、平和への祈りを込めた歌「あの夏を忘れない」がアンコールで披露されたことだろう。子どもたちの真っ直ぐなコーラスが流れる中で、吉川が胸にこぶしを当てながら、力強く、そして優しく歌唱している。“日本一心”という旗を掲げた、このステージは、音楽によって人の心を繋いでいくものでもあった。
◉アルバム 17タイトルが最新リマスタリングでリリース
1984年リリースの1stアルバム『パラシュートが落ちた夏』から、2009年リリースの17thアルバム『Double-edged sword』までのオリジナル・アルバム 17タイトルも、最新リマスタリングによって、SHM-CDと紙ジャケット仕様でリリースされることになった。過去の音源をいい音で聴くことで、それぞれの作品が新たな表情を見せる瞬間もあるだろう。
10代の吉川の歌声が楽しめるのは『パラシュートが落ちた夏』、『LA VIE EN ROSE』、『INNOCENT SKY』の3枚だ。80年代前半から中盤にかけての作品は、近年の80年代シティポップスの再評価の流れも踏まえて聴くと、また新たな発見がありそうだ。『MODERN TIME』『A-LA-BA・LA-M-BA』『GLAMOROUS JUMP 』は、ポップスターからロックスターへの吉川の過渡期の作品である。これらの作品からは、吉川が試行錯誤し、新たな領域へと進んでいる姿が見えてくる。
COMPLEXを経て、91年にリリースされた『LUNATIC LION』は、吉川の新たな始まりを告げるコンセプチュアルな作品となった。テーマは人間の内なる狂気や衝動。ロカビリーやグラムロックの要素も反映された実験作にして問題作だ。『Shyness Overdrive』『Cloudy Heart』『FOREVER ROAD』は、吉川が自分のオリジナリティーを確立した作品だろう。『FOREVER ROAD』収録曲の「BOY'S LIFE」は20代最後の作品。30代の活動に向けての決意表明であり、指針のようでもある。
吉川が30代にリリースしたのは、5枚のアルバムだ。ビートロック全開の『BEAT∞SPEED』、ジャングルなどの打ち込みも導入した『HEROIC Randezvous』、ファンクビートが際立っている『HOT ROD』だ。90年代後半は、吉川の新境地を開拓する姿勢から刺激的な作品が生まれた。ソリッドなギターと強烈なビートが印象的な『PANDORA』、海をテーマとしてブルージーな世界が描かれた『Jellyfish & Chips』という21世紀の最初の2枚は、剛と柔という真逆の質感を持つ作品になった。
40代にリリースされた2枚のアルバムは、音楽的かつ肉体的な作品となった。ダンスロックのビートを大胆に取り入れながら、生身の音楽として成立している『TARZAN』、鋼のようにソリッドな質感を持った歌声とギターとが象徴的な『Double-edged sword』、いずれの作品も“体現”という言葉がふさわしい。
これら17作品からは、吉川が進化し続けてきた歴史が刻まれていることが見えてくる。と同時に、どの作品にも、瞬間瞬間に完全燃焼してきたエネルギーが封じ込められていることも感じ取れるだろう。それぞれの作品が独自の輝きを放っているからだ。そしてその輝きが色あせないのは、常に先を見るまなざしが存在しているからだろう。現状に満足する瞬間、安住する瞬間は、おそらく一瞬もなかったに違いない。「渇き」を別の言葉に置き換えると、飽くなき向上心、追求心、冒険心といったところだろうか。吉川は基本的には、人を励ます歌は歌ってきていない。だが、満身創痍になっても、挫折しても、壁にぶつかっても、ひたすら前をめがけて進み続けてきた自らの姿を歌に刻むことによって、結果的に、楽曲を聴いた者、ライブを観た者の胸の中に炎を灯し、奮い立たせているのだ。デビューからの40年はまだ通過点にすぎないだろう。『25th ANNIVERSARYLIVE GOLDEN YEARS TOUR FINAL at 日本武道館』の中で、吉川が「次は50周年で!」と発言している。つまり2035年である。どこまで走っていくのか、どこまで見届けられるのか。おそらく吉川は70代になっても、「渇き」を原動力として走り続けているに違いない。(文:長谷川誠)
Live Info.
KIKKAWA KOJI 40th Anniversary Live
■2025年
2月2日(日)島根県民会館
16:30 OPEN / 17:00 START
問い合わせ:キャンディープロモーション岡山
チケット料金:全席指定 ¥9,900(消費税込)
※3歳以上チケット必要
KIKKAWA KOJI 40th Anniversary Live Tour Final
■2025年
2月8日(土)・2月9日(日)日本武道館
16:00 OPEN / 17:00 START
問い合わせ:ディスクガレージ
【チケット料金】
全席指定 ¥9,900(消費税込)
車椅子席 ¥9,900(消費税込)
注釈付き指定席 ¥9,900(消費税込)
2F後方立見 ¥9,900(消費税込)
※3才以上チケット必要