中高生に日本近現代史の最前線を語る連続講義本・第二弾である『戦争まで』は、 日本が太平洋戦争に至るまでの3つの重大な交渉局面(満州事変とリットン報告書、 日独伊三国軍事同盟、 日米交渉)において、 各人がどのような思惑でどのように動き、 どのようにして他の選択が退けられて一つの選択がなされきたのかを一次資料にあたりながら考察した書籍。
リットン報告書により、 かつての日本の人々は、 どのような情報を見て、 なにに反発し、 国際連盟の脱退へと向かったのか。 なぜ、 なんのために、 日独伊三国軍事同盟を、 ドイツの特使が東京に到着してから20日間という非常に早いスピードで締結したのか。 当時の人たちが持っていた情報、 置かれていた環境を再現し、 つぶさに見て、 過去の場面を立体的に立ち上げている(※1)。講義を受ける中高生たちは、 やわらかい頭で必死にくらいつき、 著者は全力で研究の最新成果を伝える――そんな歴史学の面白さを味わえる本書は、 紀伊國屋じんぶん大賞2017受賞 の1冊。
毎年、 8月15日の終戦記念日にあわせて全国の書店にて大きくお取り扱いいただき、 他の月の5~6倍の売り上げをあげている(※2)。 戦後75年目の今年も各書店にて展開されている。
著者の加藤氏は、 8月13日に出演したNHKのテレビ番組で、 新型コロナウイルスによるパンデミックが世界に広がるなか、 国家による政策の是非について鋭い意見対立が起きている現状に触れ、 そのような国家を二分する意見対立が社会を緊張させるとき、 どのような事態が起こるのか、 1930年代の日本で起きていた対立と、 結果的に生じた事態を解説し、 「それぞれの主張を支える根拠や決定へ至るプロセスが、 国民の前で十分に情報開示されることが本当に大切だと思います」 (『視点・論点「戦後75年 私たちはなぜ戦争の歴史を学ぶのか」』NHK[総合]、 2020年8月13日)と述べている。
加藤氏が、 『戦争まで』に込めた思いは、 「国家と国民の関係が大きく変わろうとしている。 そのような変動期において、 社会の動きを柔軟に、 冷静に考えるためには、 どうすればいいか。 選択を迫られるとき、 問題の本質が正しい形で目の前の選択肢に反映されているか、 歴史を学ぶことで見抜けるようになってほしい 」というものだった。
本書の連続講義に参加してくれた生徒の一人は、 講義の感想を次のように話してくれた。
「私は、 戦時中の日本に対して、 何やってるんだ、 敗けるに決まってるじゃん、 みたいに感じたことがありました。 教科書では、 出来事一つひとつに文章で理由が書かれていますが、 今なら絶対こう考えないのに、 どうして?、 と思っていました。 ですが、 今回(講義を受けて)、 それを一つの文章で明確にすることはできないんだと知りました。一つの出来事には、 それに賛成する人、 反対する人、 行動を起こす人、 迷う人など、 多くの人が絡んでいて、 それぞれの思いがあり、 結果として歴史があるんだなって。 これから生まれる歴史もきっと、 人の思いによって、 良くも悪くもなっていくんだと思います。 だから、 過去を学ぶことに、 未来を作る希望を見出せるのかな 」
戦後70年の2015年4月に朝日新聞が行った世論調査では、 「日本人がなぜ戦争をしたのか、 自ら追及し、 解明する努力を十分にしてきたと思うか」という問いに対し、 「いまだ不十分である」と答えた人が65%という結果となった。 5年後の現在、 それはどこまで進んでいるだろう。大事な歴史の分岐点で、 かつての日本人は、 世界の人たちは、 何を見て、 何を選択したのかを当時の人たちの目線で体感して思いを馳せること。
そして、 新型コロナウイルスが流行する現在、 目の前に提示されている選択肢について冷静に検討すること。 終戦記念日の今日、 本書を片手にぜひ考えてみよう。
視点・論点「戦後75年 私たちはなぜ戦争の歴史を学ぶのか」
◎放送日: 8月13日3時50分~
◎放送局: NHK[総合]
※1 本書について詳しく触れている著者インタビュー。 真珠湾攻撃から75年、 歴史家・加藤陽子氏は語る「太平洋戦争を回避する選択肢はたくさんあった」12月8日は「国民が国家の行く末に関われなかったことを噛み締める日だ」ハフポスト日本版。
※2 トーハン『TONETS i』 調べ