「STAY HOME」の時代、 ときに現実空間の代替ともなった「ゲーム」。 『美術手帖』8月号は、 世界をシミュレーションする手段としても注目される、 ゲームとアートのクロスポイントを探る。
今日、 様々な角度から研究の対象ともなっている「ゲーム」。 本特集では、 その手法を使ったメディア・アートから、 芸術性を追求するゲーム作品、 さらには現代美術における遊戯性の系譜まで、 広くゲームとアートの領域が重なるところにある実践をとりあげ、 その関係と、 新たな表現の可能性を考える。
PART1では「ゲームアート」と呼ばれる領域を中心に、 アートにおける新たなメディアとしてのゲームについて紹介。 巻頭アーティストインタビューでは、 国内でいち早くゲームの技法を取り入れてきた谷口暁彦と、 岡山芸術交流などに出品したことでも知られ、 ゲームAIを使った制作を行うイアン・チェンが登場する。
また、 このテーマを考えるうえで知っておきたいゲーム用語などのキーワードをイラスト入りで解説。 愛知県美術館学芸員の副田一穂による、 アナログゲームなどをモチーフとしたアーティストの実践の紹介、 若手アーティスト・大岩雄典による「ゲームブック」形式の論考などから、 ヴィデオゲームにとどまらず両領域の関係を考察する。
PART2では、 ゲームにおける芸術性に着目。 ゲームクリエイターから、 国内外で注目される個人制作者・麓旺二郎(もっぴん)と、 『ぷよぷよ』で知られ現在は上演形式の作品なども手がける米光一成にインタビュー。 また、 商業ゲームにおける「美」の概念を、 批評家の藤田直哉が分析する。
主に作品性を重視したインディ・ゲームを指す「アートゲーム」と呼ばれる分野については、 ゲーム研究者・松永伸司の監修により紹介。 テーマ別の作品カタログのほか、 アートゲーム制作者の草分けとして知られるジェイソン・ローラーがその制作について語るインタビュー翻訳も掲載する。
PART3は論集として構成。 ゲーム制作者・文筆家の山本貴光による、 初期コンピュータ・ゲームを題材としたゲームの視覚効果の分析、 世界的ゲーム研究者のイアン・ボゴストと美学者の吉田寛による、 『あつまれ どうぶつの森』とコロナ禍の世界について考える対談、 近現代美術史にゲームの系譜を見出す中尾拓哉による論考などを掲載する。
ほか、 ゲームにおける多様性やフェミニズムに注目するキュレーターのイザベル・アルヴェールへの取材や、 ゲーム内で撮られた写真作品「インゲームフォトグラフィ」のビジュアルページなど、 120P超の大ボリュームの特集となっている。 また今号では、 久門剛史のロングインタビューや、 コロナ禍における世界のアートシーンの状況レポートも掲載する。
特集 ゲーム×アート
PART1
アートに見るゲーム的実践
谷口暁彦
砂山太一=聞き手
イアン・チェン
沖啓介=聞き手
ゲーム×アートを考えるためのキーワード解説
谷口暁彦+松永伸司+大岩雄典+吉田寛=文・構成
コラム:イザベル・アルヴェールに聞く
世界のゲームアートとポストコロニアル/フェミニズム
THE WORLD OF IN-GAME PHOTOGRAPHY
ブノワ・パイエ/オリー・マ/相川勝/ロバート・オーヴァーヴェック
クレア・ヘンシュカー/ロック・エルムス/レオナルド・サン/ケント・シーリー
ジョシュ・テイラー/エロン・ラウチ
アナログゲームから読み解くアーティストたちの実践
副田一穂=文
[ゲームブック]壁抜けと攻略:インスタレーションとヴィデオゲーム(をプレイする)
大岩雄典=文・構成
PART2
表現としてのゲーム
麓旺二郎
今井晋=聞き手
米光一成
島貫泰介=聞き手
[論考]ヴィデオゲームにおける「美」とは何か? 藤田直哉=文
トピック別アートゲーム作品ガイド
松永伸司=構成 葛西祝=文
コラム:「意図せざる社会秩序」の生成を表現するメディアとしてのゲーム
井上明人=文
ジェイソン・ローラー
イェスパー・ユール=聞き手 松永伸司=翻訳
PART3
ゲーム×アートの論点
[論考]みる→さわる→わかる→ ──ヴィデオゲームの視覚表現と経験
山本貴光=文
コラム:先取られるリバイバル
『スプラトゥーン2 オクト・エキスパンション』に見るレトロ表象の美学
gnck=文
[論考]ミュージアム・コレクションとしてのヴィデオゲームをめぐる諸問題
副田一穂=文
[論考]ゲームの展示、 展示のゲーム
松永伸司=文
イアン・ボゴスト×吉田寛
「説得的ゲーム」と『あつまれ どうぶつの森』
[論考]アート・イン・ザ・ゲーム──ゲームアート前史
中尾拓哉=文
ARTIST INTERVIEW
久門剛史
徳山拓一=聞き手
特別寄稿
文章を書くこと、 翻訳すること、 文章のなかで翻訳物と向き合うこと
高橋さきの=文