『スノーマン』『風が吹くとき』などでイギリス人なら知らない人はいない国民的絵本作家レイモンド・ブリッグズが、自身の両親の人生を愛情込めて描いた原作を映画化した、感涙必至の大人のためのアニメーション映画『エセルとアーネスト ふたりの物語』。
本作は、映画にオリジナル曲を書き下ろすことは珍しいポール・マッカートニーがエンディング曲を書き下ろしたことでも話題だ。なんといっても書き下ろしは、キャメロン・クロウ監督のたっての頼みに応えた2001年の『バニラ・スカイ』(主演トム・クルーズ)以来。しかもポールのアルバムにも入っていない、映画のサントラ盤のみで聞くことができる、貴重な楽曲なのだ。
なぜポールはオリジナル曲を提供したのか。昨年惜しくも亡くなった本作の監督、ロジャー・メインウッドの製作日記から、その理由と、さらにポールとの秘話エピソードを紐解く。
2012年、ポールが原作者ブリッグズの大ファンで、その絵本「いたずらボギーのファンガスくん」に着想を得た楽曲があることを知っていたメインウッド監督は、ブリッグズ本人に「映画のための曲を書いてくれないだろうか」とポールへの手紙を書いてもらった。しばらくしてポールからブリッグズに返事が届いた。答えはイエス!返事には「いくつか曲のアイデアがあるので、私たちたちがミーティングをする時にはきっとお聞かせできるでしょう」と書いてあった。けれどポールは当時ツアーなどで忙しく、その日が来たのは2年後の2014年。メインウッド監督、原作者ブリッグズ、プロデューサーのカミーラ・ディーキンがソーホーにあるポールの事務所をついに訪問した。ワーリッツァーのジュークボックスが部屋を占拠し、部屋の隅には1本のギターが置かれたオフィスで、ポールが聞かせてくれた曲の仮タイトルは「ママとパパ(Mum and Dad)」だった。もちろん、曲は申し分なく、ポールが16歳の時に亡くなった母への想いを書いた歌詞がつき、それは「In the Blink of an Eye」というタイトルに改められ、エンディング曲となった。
さらに映画には、74年にポールがシングルとして発売した、ポールの父、ジェームズ・マッカートニーの曲「Walking In The Park With Eloise」も新録で使われている。アマチュアのミュージシャンだったジェームズの曲を起用することになったのは、ポール自らのアイデアだった。ブリッグズの父アーネストも、ポールの父ジェームズも、戦時中に補助消防士として働いていたと昔話が盛り上がっていた時に、メインウッド監督が「お父上はチェット・アトキンスともレコーディングしてますよね」と言ったところ、ポールが「きみ、その曲が好きかい?」。この会話がきっかけで、この曲が劇中で使われることになったのだ。
レイモンド・ブリッグズが両親を描いた物語のなかで、ポール・マッカートニーは父と楽曲共演している。映画のラスト、ポールの曲が流れた後、続けてもう一度父ジェームズの曲が流れるという粋な構成に、ファンの方々はぜひ耳を傾けてほしい。
Live Info.
映画『エセルとアーネスト ふたりの物語』
9月28日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー
監督:ロジャー・メインウッド
原作:レイモンド・ブリッグズ(バベルプレス刊)
音楽:カール・デイヴィス
エンディング曲:ポール・マッカートニー
声の出演:ブレンダ・ブレッシン/ジム・ブロードベント/ルーク・トレッダウェイ
原題:Ethel & Ernest
2016年/94分/カラー/ドルビー・デジタル/ヴィスタサイズ/イギリス・ルクセンブルク/日本語字幕:斎藤敦子
後援:ブリティッシュ・カウンシル
© Ethel & Ernest Productions Limited, Melusine Productions S.A., The British Film Institute and Ffilm Cymru Wales CBC 2016
配給:チャイルド・フィルム/ムヴィオラ