8月29日(金)よりフランス映画『グレート デイズ!-夢に挑んだ父と子-』が全国で公開中だ。同作は、車いすの青年とその失業中の父親が二人でトライアスロンの最高峰“アイアンマンレース”に挑戦して、家族の再出発を目指すという物語。
初日鑑賞者のアンケートに基づく満足度は97.5%、WEBやTwitterには「ものすごくあったかくて、ものすごく力強い映画」「あたたかい涙ってこういう涙だって、久々に感じました」「素直に泣いた快作だ」などという感想が書き込まれ、本作が持つポジティブなパワーに反響を呼んでいる。とりわけ、映画の予告編や最大の見せ場であるラストシーンに使用されている挿入歌についての書き込みも目立っている。
使用されている楽曲は、アイスランド出身のアート系ポストロックバンド、シガー・ロスの4枚目のアルバムとなる「Takk…」に収録された「Hoppipolla」。物語が収斂するラストに挿入されており、映画に一層深みを与えている。
シガー・ロスは、アイスランド出身のポストロックバンド。彼らの音楽は、荘厳で深遠、繊細にして激情を湛えた幻想的な重層音と、フロントマンのヨンシー・バーギッソンの濁りのない透き通ったエンジェリック・ヴォイスが聴く者を覚醒感と甘美な陶酔感で包み込み、唯一無二の音世界を醸成させる。
97年のアルバム・デビューから現在までにアルバム6作品を本国のアイスランド・チャートで1位に送り込み、瞬く間に世界中で大ブレイクを果たし、02年の『( )』はグラミー賞ノミネートの他、数々の賞を受賞。08年の5作目『残響』は全米15位、全英5位、オリコン洋楽チャート5位を獲得している。11年には、08年の活動休止直前のライヴ音源&映像を収めた『インニイ』を発表。日本でも「爆音映画祭」などで複数回上映され大ヒットを記録している。昨年13年には、3人編成になってからは初、バンド7枚目となるスタジオ・アルバム『Kveikur』をリリースし、その勢いは留まることを知らない。
同バンドは、世界各地のリスナーやメディアに高く支持されている一方で、世の映像作家達も刺激している。『春にして君を想う』(91)で知られるアイスランド人映画作家フリドリック・トール・フリドリクソン監督作『Angels of the Universe』(00)のスコアを始め、アイスランド国内では他にドキュメンタリー映画『Hlemmur』(02)のサントラも制作。2001年には『あの頃ペニーレインと』などで知られるキャメロン・クロウ監督の熱烈な要望に応じて『バニラ・スカイ』に楽曲3曲を提供し、次作『幸せへのキセキ』(12)ではサントラを制作している。その他にも、ウェス・アンダーソン監督作『ライフ・アクアティック』(04)、スサンネ・ビア監督作『アフター・ウェディング』(06)、ダニー・ボイル監督作『127時間』(10)などにも楽曲がこぞって使用されている。
シガー・ロスが12年に発表した6枚目のアルバム『valtari 〜遠い鼓動』では、そのリリースを記念したミュージックビデオ・プロジェクト「シガー・ロスの世にも奇妙な映像実験」(The Valtari Mystery Film Experiment)」が敢行されている。
同プロジェクトは、シガー・ロスが自ら選んだ映像作家それぞれに予算1万ドルを渡し、アルバム「Valtari」から選曲し、感じ取ったままを自由に映像作品として制作するという意欲的な試みで、イスラエルの映画監督アルマ・ハレルやイタリアの女性フォトグラファーにして、『ランナウェイズ』(10)で長編映画を初監督したフローリア・シジスモンディや『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(02)のジョン・キャメロン・ミッチェル監督などが参加している。PVには、エル・ファニング、ジョン・ホークス、シャイア・ラブーフなどが出演している。
これまで他のどのアーティストも生み出しえないワン&オンリーの音楽世界を作り上げ、映像作品にも精力的にも参加し続けるシガー・ロス。
元「CUT」副編集長で映画ライターの門間雄介氏は、「シガー・ロスの楽曲には、悲しみも歓びも、優しさも美しさもすべてある。そのドラマ性、スケール感は、時として映画を上回るほど。サウンドトラックとして愛される理由はそこにあると思います」と分析している。
今年でバンド結成20周年を迎え、ますます飛翔し続ける彼らの楽曲が相乗効果をもたらす“映像作品”はそれだけでも一見の価値はありそうだ。