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10月9日 新宿LOFT公演<キノコホテル『サロン・ド・キノコ〜秋の人間狩り〜新宿編>

2010.10.10

IMGP5159.jpgキノコホテルの創業以来最大規模の単独実演会となる『サロン・ド・キノコ〜秋の人間狩り〜』、2ndミニ・アルバム『マリアンヌの休日』発表時のインタビューでは支配人であるマリアンヌ東雲(歌と電気オルガン)が「これでコケたら廃業の危機に追いやられるかもしれないの。キノコホテルの社運を賭けた一大事業なのよ」と語っていたが、新宿ロフトで行なわれた『〜新宿編』は蓋を開けてみれば単独の実演会としては史上最高の動員数を記録する大盛況っぷり。

開場直後からフロアに響き渡る鳥や虫の鳴き声はキノコホテルの深遠なる森に立ち入ったことをオーディエンスに突き付ける。我々が場内に立ち入った瞬間からすでに彼女たちのペースだ。
開演予定時間から20分ほど経って時点でやっと緞帳が上がる。まず、下手からエマニュエル小湊(電気ベース)、ファビエンヌ猪苗代(ドラムス)、イザベル=ケメ鴨川(電気ギター)の3人が不穏なアンサンブルを聴かせ、まだかまだかとシビレを切らせた頃に「お待たせ」という一言と共に支配人が登場。そこから『静かな森で』、『ネオンの泪』と一気に4人のペースに持っていこうとするも、ケメのファズが使い物にならなくなり演奏は一旦中断。さらにファビエンヌが汗を拭うタオルを楽屋へ取りに戻るという予測不能なアクシデントが続き、ステージは「ここはロフトでロフトプラスワンじゃないのよ!」と支配人に言わしめるトーク・イベント状態(a.k.a. 生ラウンジ・ナメコ)に。

「誰かファズを持ってる人いない?」という支配人の呼び掛けに、まさかの「ハイ!ハイ! ファズあります!」とフロアを掻き分ける声。何でもファビエンヌのドラムの師匠である竹ノ内先生(ファビエンヌ以外は初対面)がたまたまファズを持参していたというのだから、つくづく強運の持ち主と言わざるを得ないバンドだ。

その後、何もなかったかのようにケメのファズが炸裂する『真夜中のエンジェルベイビー』で流れを持ち直して以降はすっかりキノコホテルの意のまま。『還らざる海』、『ふたりの荒野』、『白い部屋』、『風景』と続く4曲は支配人いわく「自分で唄って眠りそうになった」とのことだが(笑)、キノコホテルの叙情的かつゴー・インセインな側面を発揮するには十二分なパートだった。特に白眉は陰影に富んだミディアム・ナンバー『風景』(最近タイトルが正式に決まったらしい)。今後のキノコホテルの新たな方向性を予感させる興味深い楽曲で、音源化が今から非常に楽しみだ。

いつものオムニバス・ライブと違い、トータルで2時間弱を単体で聴かせる実演会を体感して思うのは、バンドの得も言われぬアンサンブルの妙である。キッチュでキュートな見てくれに惑わされたら火傷をする。過不足なく歌とメロディを支えるエマニュエルの電気ベース、派手さはないが常に質実剛健なファビエンヌのドラム、とりわけファズを使用した時に火を吹くようなフレーズを暴発させるケメのギター、溜めに溜め込んだ情念を鍵盤上で瑞々しく昇華させるマリアンヌの電気オルガンと記名性の高いその歌声…それらがひとつの音の塊として結実した瞬間に音楽のミューズが確かに降臨するのだ。キノコホテルの生音に触れた時の、あの何とも形容し難い昂揚感はどうだ。問答無用に身体を動かしたくなるあの煽動力はやはりタダモノではない。いつものように『キノコホテル唱歌』で本編を締め括られた後の飢餓感は単独実演会であれば尚のこと。アンコールに応えて『キノコホテル唱歌 其の弐』で繋げる構成も実に心憎い。

ややすると色物として捉えられがちな彼女たちだが、その実は細心の注意を払って実演会や音源制作に臨むプロ意識の高い表現者集団である。そんなことはとうの昔から知っていると熱心なファンは仰るだろうが、そんな方々はこの先もずっと彼女たちの丹誠込めた音楽を大切にし続けるだろうからさておき。何かのきっかけでキノコホテルに関心を持った新参者のあなたに僕は告げたい。音楽にのめり込んで至上のカタルシスを得られる格好のバンドに巡り会えましたね、と。玉石混合の地下音楽の中でキノコホテルに目をつけたあなたのセンスはなかなかのものですよ、と。

昨夜の単独実演会で、キノコホテルは創業からの今日までそして明日からを余すところなく見事に体現してみせた。クライマックスはまだまだこれから。バンドという摩擦係数の高い人間力から生まれる熱さや危うさをこれほどまでにスリリングに魅せる存在も最近では稀だ。明日はどっちかまるで検討がつかないキノコホテルの未来に僕は懸ける。(Rooftop編集局長:椎名宗之)

演目
01. 静かな森で
02. ネオンの泪
03. 真夜中のエンジェルベイビー
04. ピーコックベイビー
05. 謎の女B
06. 砂漠
07. 還らざる海
08. ふたりの荒野
09. 白い部屋
10. 風景
11. 非常なる夜明け
12. 人魚の恋
13. もえつきたいの
14. あたしのスナイパー
15. #84
16. キノコホテル唱歌
〜アンコール〜
17. キノコホテル唱歌 其の弐
18. 山猫の唄
19. 真っ赤なゼリー

 

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