小田和奏というミュージシャンの紹介はインタビュー本編に譲り、インタビュアーの実に個人的な話からで恐縮だが、2011年の東日本大震災時に東北で過ごしていたわたしは何日もの間ろくに眠れない日が続き、ようやく寝られた日にNo Regret Lifeというバンドのライブを見ている夢だったことを今も忘れることはない。
さて、11月26日に彼がリリースする『Songs on the Piano』(オフィシャルウェブサイトで先行発売受付中)は、"live movie"と"live audio"の2タイプで、映像で楽しむも良し、耳だけで楽しむも良し。"43歳の今の自分の記録"と語り、彼がグランドピアノ1台に向かい歌うその音は生々しい人間らしさで溢れていた。発売日にはLOFT HEAVENを会場にグランドピアノでのライブも決定、お客さんを前に歌う彼の姿を見られるこの日が今から楽しみでならない。2023年秋・小田和奏が応えたインタビューは、普段通りの彼の呼び方で進めたことをご了承いただきつつお読みいただきたい。(Interview:高橋ちえ)
人生は1回しかないし絶対に後戻りができないから、やりたいことをやろう
──『Songs on the Piano』、DVDで楽しませてもらいました。曲の合間に挟まれるインタビューを耳にして、“コロナ禍”での自身の変化がこの作品が生まれる一つではあったのかなと思います。コロナ禍、和奏くんはどんなふうに活動をされてましたか?
和奏:うん、小田和奏というソロ名義の活動と同時にCodaとして『ジョジョの奇妙な冒険』のテーマソングを歌ったりしていて、この2つがリンクしない…同じ自分の活動なのに、ソロとしてはライブをやるだけならやろうと思えばやれる状態ではあったけど、Codaとしてはイベント等もたち消えになって動けない。自分の中の整合性を取る・筋の通し方が自分の中で難しかったんですよね。だからもう、誰もが安心してライブに足を運べるところまでは待とうと(決めた)。それで、去年の9月ぐらいから自分の中で“よし、自分で責任を持って動こう”って動き始めて。だから約2年半は(コロナ禍の)様子を見てた感じですよね。
──自宅などで、音は鳴らし続けて。
和奏:そうですね。配信ライブをやったり、自分の作品に限らず制作やいろんなアーティストやバンドのアレンジをやったり、作ることをメインに。リモートでもできたし、そうやって凌いでいたみたいなところもありましたね。いち早く(ライブ等をしたり)動いてた人間からすると“いつまで我慢する必要があるんだよ”みたいな、見えない文字だけど見えるメッセージもあったりしたけど、これに関しては正解が皆違うしね。僕、去年の7月にコロナに実際に罹患したんですよ。後遺症のようなものも特別ないですけど3日間高熱が出たりして、それで自分の中で1本筋が通り始めたんですよ、“やってみなきゃわかんないことは、やってみよう!”って。それでやっと踏ん切れた。それまではずっとどうしたら良いんだろう、動かないのは正解なんだろうかと思っていたことが。だから自分で歌う曲を書くのが一番難しかった、何を歌ったら良いのかわかんなかったから。それがコロナ罹患後にだんだん、自分の中で価値観が定まっていった感じでしたね。だからコロナ禍を経て自分の人生観みたいなものもアップデートされたところもあるのかな。
──“人生観のアップデート”、具体的にはどのように?
和奏:うん、やっぱりね、人に会いたい。僕の今のテーマで、“誰かのハッピーのきっかけであろう”っていうのがあって。音楽がそもそもそういうものだと思うし、コロナでいろんな人に会えなかったからやっぱり、いろんな人に会いたいなぁって。そもそも僕、最近いろんな人に“柔らかくなったね”って言われるんですよ。前は僕そんなにキレキレだったのかな?(笑) それと前から思っていた価値観ではあるけど、やっぱり人生って1回しかなくて絶対に後戻りができない、だったら全部(やりたいことは)やってみようって。
──今、お話しされていたようなことはまさに『Songs on the Piano』DVDでのインタビューでも語っておられますよね。
和奏:そうですね。何かもう…ね、遠慮してるのはもったいなくない?(笑)っていうのはあるかな。誰もが経験することで言うと、人って生まれてきて死ぬ…死生観の話になっちゃうけど、いつか死ぬっていうことを身近に経験していくと余計に、今生きていることを精一杯やらなきゃもったいないな、って腹を括らざるを得ないと言うか。僕は基本的に欲張りで食いしんぼうで、行きたいところもやってみたいこともいっぱいある。でも遠慮してたら、そういうものを全部食べ切れないで死んじゃうんじゃないかって思って。あとは“丁寧に生きよう”ってことも思いますね。これが俗に言う、歳を取ったことだとも言われるんですけど(笑)。
──和奏くんも40代になって、年齢を重ねるからこその良い変化なのではと思ったりしますよ。“丁寧に生きる”というのは、もう少し具体的に伺うと?
和奏:たとえばSNSのやり取りとかにしても、コイツにはタメ口でコイツにはタメ口じゃない、みたいなのを全部やめようと思ったんですよ。あと、朝起きて人に会ったらちゃんと“おはよう”って言えるとか、本当にそんな感じのこと。だけどそれで変わったし、ブログみたいに書いてるnoteも今、1400日ぐらい連続で書いてて。そういうグッドルーティンができてくると、今度は朝ちゃんと起きるんですよ。もっと言うと夜更かしもしなくなるんですよね(笑)。お酒は今も変わらず好きだけど、飲む頻度は本当に減ったし。
──X(旧Twitter)を朝に開くと大体、和奏くんの「雑記」というタイトルでnoteのリンクを見ています。noteに思いを書くことで自分の考えをまとめられて浄化できたりもして、まさにグッドルーティンなのではと思いますよ。
和奏:そうですよね、まさにデトックス。書き始めたときは創作のヒントがいっぱい埋め込めるんじゃないかなと思ったふしもあったし、今書いていることはコロナが明けたら盛大な布石として面白い素材になるんだったら最高だなと思ってましたね。今やっていることも全部、後々のストーリーの途中になっているんだな、って、書き続けてることによって思えるようになったと言うか。もともと読み物とか本が好きだし、思いっきり文章を書いてしまえ! みたいな(笑)ところから始めたんですけどね。
──ちなみに、最近読んだ本でオススメがあれば教えてください。
和奏:いろいろあるなぁ…林真理子さんの本とか、あとランニング・走るのが好きなので駒澤大学(陸上競技部監督を務めた)・大八木弘明さんの本で『必ずできる、もっとできる。』とか。今読んでるのはつんく♂さんの『凡人が天才に勝つ方法』で、最近は生きるヒントになるような本を読むことが多いですね。