みんな作品に対する理解度が高いので助けられています
――大学生のドラマですが、映像作品を制作するという面では普段のお仕事とリンクしているかと思いますが、その点でプレッシャーになることはありませんでしたか。
小林:彼らが言っていることが当たり前だからこそ辛いと感じることはあります。僕らが作る商業作品ではどうしても落としどころを作らなければいけないので、日々葛藤していることを言葉にされると辛いですね。
──やはりそう感じられることがあるんですね。
小林:違う意味でプレッシャーになるのは、クリエイティブの部分で彼らが凄い人たちの集まりという点です。それをどう表現するかというのは難しいです。とはいえ、彼らは大学生なので負けるわけにはいかない。
──そういう形での葛藤も生まれるんですね。確かにプロがDAICON FILMつくっても面白いのかってことですもんね。アマチュアが作品にかけた熱意がクオリティの底上げをしていくということもありますから。
小林:実際に大学で作ったフィルムはそういう物だと思うんです。その熱をどう表現するかは難しいですね。恭也たちがトラブルの中で作品を作り、それが人を感動させる。プロとして作った僕たちが、それを表現することが出来るだろうかということにスタッフ一丸となってチャレンジしています。
──DAICON FILM繋がりにもなりますが、作品舞台のモデルは大阪芸術大学(以下、大阪芸大)やその街になるんですね。
小林:そうですね。実際に大阪芸大とその周りもロケハンに行きました。知っている人からすると、「あそこだ」とわかると思います。でも、足りないですね。もっと行きたかったなという気持ちもあります。
──アニメ業界にも大阪芸大出身の方は多いですが、スタッフにも出身の方はいらっしゃるのですか。
小林:OPの絵コンテを担当してくれた方は大阪芸大出身なので、設定制作を手伝ってもらいました。スタッフではそれくらいです。知らないだけでほかにもいるかもしれませんが、あえて大阪芸大の方を集めたということはないですね。制作スタッフではないですが、伊藤くんのマネージャーも大阪芸大出身ですよ。
──そうなんですね。
小林:あとは原作者の木緒さんが大阪芸大出身なので、イメージを含めて共有していただいてます。今回は実際にあるものがモデルなので、そこで助けられている部分はあります。実在するものは出来る限り許可を取っていただいて作品に落とし込んでいます。
──本棚の本のタイトルもこだわっていましたよね。そこからもリアルさが出ていました。
小林:少しでもそう感じてもらえればうれしいですね。2006年に何が流行っていたかとかは調べればわかるので、時代背景もなるべく嘘をつかないように気を付けています。
──伺えばうかがうだけ、こだわりの凄さに圧倒されます。
小林:時間はかかっています。そこを再現してくれているスタッフやfeel.のみなさんは本当に頼りにしています。
──コロナ禍ではより難しくなっていると思いますが、どのように作品の世界観を共有されているのですか。
小林:そこは打ち合わせの積み重ねですね。コロナ禍なのでリモートも取り入れていますが、大事なところは可能な範囲で直接会って打ち合わせをしています。みんな作品に対する理解度が高いので助けられています。それでも、原作物の映像化は難しいです。すでに作品として出来上がってるものをアニメに持ってくるとなると、どうしても無理はかかりますから。
──媒体が変わるとそこはしょうがないです。小林監督はメインキャラクター5人をどのように捉えられているのですか。
小林:恭也は出来すぎているので、難しいです。ともすると共感されづらいんです。出来るのに自分を弱く見せている姿は、見かたによっては嫌な奴にもなるんです。
──恭也は有能なんですが運が悪いんですよね。
小林:そうなんですよ。
──あとは純情すぎるなとは思いました。
小林:28歳ですから、それなりに恋もしていると思いますけどね(笑)。5人の中で僕が共感するのは(鹿苑寺)貫之ですね。どうして悩んでいるかがわかるんです。
──貫之は自分の才能で勝負して、自分の才能がダメだと思うところは人間的ですよね。
小林:傍から見ていて凄くても本人の中の基準があるじゃないですか、そこが共感しやすいんです。一番難しいのはシノアキです。キャスティングの際も一番悩んだキャラクターでした。彼女は特殊で難しいですね。
──特殊というのはどういった点ですか。
小林:ドラマが小出しの部分があるのもそうですが、天然な部分もありつつ常識人で。一番悩んだキャラクターです。逆に奈々子は分かり易いですね。
──そうですね。河瀬川はどうですか。
小林:出来る子ですよね。あまり描かれていませんが姉とも何かがあるんでしょうね。どう考えても憧れの人だったんですよ、でも今に対する反発もあって。
──そうですね。
小林:河瀬川自身にも、どこかで挫折があったんだろうなと思いっています。
──本当にドラマが丁寧に描かれている作品ですね。そこがアニメならではの見せ方でも違和感なく画になっているのが素晴らしいです。
小林:アニメ的な表現とドラマのバランスをどうするかは意識しています。画的に引っかかる物・アニメ的な嘘も必要ではあるので、そこはアニメならではの悩みです。feel.のみなさんには頑張っていただいて、良いものになっています。
──それだけ熱を持って作られたアニメ『ぼくリメ』が放送されるわけですが。
小林:そうですね。物作りをメインに据えた作品なのでその瞬間だけ楽しむだけじゃなく、『ぼくリメ』観たことで映像業界にかかわらず将来を考えるきっかけになってもらえると嬉しいです。さらに言えば「『ぼくリメ』を観てアニメ業界を目指したんです」という人に会えると嬉しいですね。