友人の結婚披露宴で余興を披露するべく、久しぶりに集まった高校時代の友人6人。学内ではたいして目立たず、恋愛にも、ケンカにも、ソーラン節にも無縁で、うだつの上がらなかった学生時代の思い出は、文化祭の片隅で赤フンで踊り狂ったしょうもないことばかり...。映画『くれなずめ』は、そんな平凡な男子6人が、披露宴と二次会の間の数時間に、現在と過去、生と死を行き来する奇想天外な青春ドラマだ。
監督は映画『アフロ田中』やドラマ「バイプレイヤーズ」シリーズなどを手がけた松居大悟。本作は自身が作・演出を務める劇団「ゴジゲン」で2017年に上演し大好評を博したもので、今回、個性的な俳優たちによって新たに映画化された。また、作品のテーマともいえるヒット曲『それが答えだ!』のウルフルズが、映画のために新曲を書き下ろし、作品のテーマをより深めているのも特長だ。公開を控える松居監督にお話を伺った。(TEXT:加藤梅造)
友達に書いた手紙みたいな作品
──松居監督にとって本作は「友達に書いた手紙みたいな作品」とのことですが、どういう経緯で映画化されたんですか?
松居:もともとは、大学の時に劇団に誘ったけど断られてふらっといなくなった友達のことを思い出しながら書いた作品です。誰かに届かせようとか全く思ってなかったので、映画にするなんて申し訳ないと思ってました。だから、映画にするとしても、その個人的な気持ちを大切にしようと。その手応えはまだよくわからないんですが、観た人が皆、自分の友達の話をしてくれるんです。それって映画が観た人のものになっているのかなと。
──監督にとってのパーソナルな作品ですが、観た人はたぶん忘れていた自分の過去の記憶を思い出すんじゃないかと思います。僕も大学時代の友人たちのことを思い出しながら観てました。
松居:思い出すことって、何か劇的なことでは全然なくて、ラーメン屋からの帰り道とか、電車に乗ってた時の友達の横顔とか、そんなどうでもいい場面ばかりなんです。そういうのって普段、物語ではあまり描かれない所なので、それをすくい上げたいというのはありました。
──主人公の吉尾(成田凌)を含む3人が友達の家で雑魚寝しながら、暗い部屋でぼそぼそ会話するシーンとか、いかにも学生っぽいなと思いました。
松居:だらだら話しているだけの無駄な時間なんですけど、今思うと貴重な時間ですね。ただ、それを素敵な思い出のように見せるのもしらじらしいし、できるだけさらっと撮りたかった。
──男子の群像がメインですが、唯一、同級生の清掃委員(前田敦子)が花を添えてます。もちろん恋愛には至りませんが。
松居:記憶に残る役ですよね。この映画は気を抜くと切ない話になってしまうので、明るくて楽しいムードにするためにも、思い出を誇張したように演じてもらいたいなと思いました。
冴えない人たちの切実な機微
──監督は撮影現場で、役者にこう演じて欲しいと指示するのが好きではないそうですね。「作品を僕のものにしたくない。みんなが意志を持って取り組んでいる状態が好き」だと。
松居:映画は総合芸術なので、全てが有機的につながっていて『この人と作ったから、こんな作品になった』ものをやっていきたいと思ってます。
──演劇も稽古場で芝居ができていく所があると思いますが、この映画もすごく演劇的な手法を感じました。特に後半は怒濤の展開ですね。
松居:後半になればなるほど、自分でもこれどうなっていくんだろう?と思いながら台本を書いていました。生死の向こう側まで行っちゃって、これ本当に成立するのかなあと。物語が昼と夜、生と死の狭間の話なので、作品自体が演劇と映画の狭間になったらいいなとも思っています。
──特撮シーンまで出てきて(笑)。
松居:自分でもなんであんなことにしたんだろうって。とにかく心臓を投げ合いたかったんです(笑)。その前のシーンで欽一が熱いセリフを言うんですが、そのままいくと少し恥ずかしかったんです。どうやったらこのハシゴを外せるかなと。最後のシーンは自分でもどう芝居をつけていいのかわからないまま撮ったんですが、グッとくるものになりました。
──劇中、居酒屋で欽一と明石(若葉竜也)が演劇関係の先輩から「お前らはコメディだもんな。もっと社会と向き合えよ」と説教されるシーンがかなりリアルでしたが、あれは監督の実体験ですか?
松居:そんなことはないですが、ああいうことを言われることはよくあって、やっぱりコメディだとすごくバカにされるんです。「安い笑いでごまかしてるんだろう」って。そういう時に劇団員が代わりに言い返してくれたら嬉しいだろうなと思って書きました。
──『アフロ田中』や『男子高校生の日常』もそうですが、松居監督の映画は冴えない登場人物がすごく魅力的に描かれますよね。そこにすごく共感します。
松居:冴えない人たちの切実な機微を見つめるような日本映画があまりないので、じゃあ自分でやろうと思ってるのかもしれないです。不良同士でケンカするとか、きれいな女の子と恋をするとか、そういう映画を観ても自分はそこにいないし、なんとなく自分の思春期がなかったことにされてしまいそうで。でも、不良がケンカして勝って嬉しいというのと、学校の帰りに友達と食ったラーメンがおいしいという喜びは一緒なんじゃないかと思うんです。こういう何気ない時間が価値のあることだと伝えたいですね。
──今回、ウルフルズが書き下ろした主題歌が、この6人の青春ドラマにすごく合ってると思いました。
松居:『ゾウはネズミ色』というタイトルからして、この映画にすごく寄り添ってくれているし、『それが答えだ!』のアンサーソングで、「あれは答えじゃなかった」と歌われたことに感動しました。僕たちの思いが届いた気がして嬉しいです。
──最後に、今後はどんな活動をしていこうと思いますか?
松居:基本的に劇団公演が年に1回あって、それ以外に映画やドラマなどをやっているんですが、演劇や映画などの垣根を壊すような表現ができたらいいなと思っています。