美しい死などというものはない
──エンディングで小椋佳さんの歌う『生きろ』が流れるのですが、「美しい死などというものはない」という歌詞など、まさに映画のテーマを歌い上げた素晴らしい曲ですね。
佐古:本当に映画の最後にふさわしい主題歌です。小椋さんの所で最初に歌を聴いた時、映画の中で証言してくれた人達の顔が次々と目に浮かんできて、思わず涙が出てきたんです。本当に感動しましたね。「死んでしまいたいという気持ちが湧いたとしても、それは頭の中のほんの一部で、人間の身体は常に生きようとする。それが命の声なんです」と小椋さんは言っているんですが、まさに生きるという人間の本能に正直であることが歌われています。それは今のような生きることが難しい時代にあっても重要なメッセージになっている。ちょうど小椋さんがラストアルバムを作っていた時に主題歌を依頼したんですが、ラストアルバムということで死を意識した内容や、人生を振り返る曲も多かった所に、島田叡や証言者の言葉を聞いて、自分も「もう少し余生のおまけとして生きてる命を享受してみようと思うに至った」と話していました。
──あと、映画を作っている時は、まさか今のようなコロナ渦の中で公開されるとは想像もしてなかったと思います。
佐古:これはパンフレットにも書きましたが、思いもよらぬ非常時にはリーダーの決断ひとつで私たちは右往左往させられてしまう。それが間違った判断だった時にどうなってしまうのか、歴史にはたくさんの教訓が刻まれている。その教訓をわたし達は本当に今活かせているのか? まさしくこの映画で語られていることは「いま」を問いかけるものでもあります。
──映画は、3月6日に沖縄の桜坂劇場で先行公開され、3月18日にはユーロライブで開催される「TBSドキュメンタリー映画祭」の中で公開されます。TBSドキュメンタリー映画祭は今年が第1回目ですね。
佐古:TBSが手がけたドキュメンタリー映画としては『カメジロー』が最初だったんですが、実は以前から東海テレビさんが次々とドキュメンタリー映画を制作しているのを横目で見ながら、どうやったら自分達もこういうことができるんだろうと思っていました。TBSの報道局には昔からずっとドキュメンタリーを作ってきた歴史があるんです。だからこれまで『報道特集』や『ニュース23』などで取り上げたテーマにもう一度じっくり取り組むことで、何か自分達のもの作りの姿勢をもっとアピールできるんじゃないかと。今回の映画祭は、放映時のままのものもあれば、新たに編集したものもあるんですが、ラインナップを見ると、いろんな視点でたくさんの作品を作ってきたんだなと改めて思いました。テレビってどういうふうに観てもらっているのかって僕たちはよくわからないんだけど、映画の場合、お客さんがわざわざ映画館まで足を運んで、しかもお金を払って私たちの作品と向き合ってくれている姿があり、直接感想などをやりとりできる双方向性がある。映画はテレビよりも古いメディアだけど、実は新しい可能性があると感じていますね。