次になにをしたらいいんだろう? という10代の葛藤
──血の繋がったイトコが家を買いあげようとし、「うちの工場で雇ってやるから」と声をかける場面がありました。地元で育ち働くことが幸福だと思う価値観への疑問の持たなさや、ティーンネイジャーへの想像力のなさは見ていて苦しかったです。なぜ、せまい人間関係の閉塞感を撮影しようと思われたのですか。
アンシュル:もともとは、田舎の問題をテーマにいれようと思って撮影をはじめたわけではありませんでした。でも、この場所で撮影をすると決まったときに、イトコなど、血が繋がった関係性で起こる問題はなんだろうと考え、お金や遺産のことだろうと自然にわきあがりました。役者さん自身には、普段喋るトーンと同じままで演技をしてくださいとお伝えしたので、より現実味を増したのかもしれないです。場所、喋るトーン、音楽、などたくさんの要素が重なったこともありますが、もし都会のバーでおしゃれなスーツを着た男性が同じセリフを言っても、おそらく現実味は生まれないと思うんです。この映画も、いくつかテイクを重ねながらいちばんリアリティが出るように考えました。
──父親の一人称が会話の相手によって、「お父さんはね、」とか「おじさんはね、」に変化するニュアンスもリアリティがすごかったです。日本語と英訳の細かい言葉の選び方は監督自身もこだわっていたのでしょうか。
アンシュル:わたしは英語で台本を書いているので、もともとの一人称はすべて「I(アイ)」になるのですが、実はヒンドゥー語でも「わたし」とか「おとうさん」という一人称があるんです。日本語にするときにそういったニュアンスは気をつけてはいますが、今回のセリフに関しては特別入り込んで指定をしてはいないです。ディレクションをするときに、「こういう言い方をしないで」や、「こういう風に言って」、などの細かいことは特に伝えておらず、役者さんにゆだねて、「本人になって話してください」と伝えているんです。ですからアドリブも多くて、最終的には役者さん頼みになっています。役者さんの力量ですね。
──映画「コントラ」は、家族関係に問題を抱えている人にも必要な映画だと感じました。
アンシュル:わたしの中でも、家族問題は描きたいテーマです。この映画は、ソラと”後ろ向きに歩く男”の関係性もテーマのひとつではあるのですが、戦争や田舎などいろいろなストーリーを絡ませており、家族はやはり主軸になっています。
──父親と彼が心を通わせ始めたあたりからソラの顔が浮かなくなります。うまくいきはじめた家族関係に、なぜまた葛藤を持ってしまったのでしょうか。
アンシュル:このあたりのシーンになってくると、ソラにとって探していたものや興味のあったものがどんどん解決してしまい、「じゃあ、次にわたしはなにをしたらいいんだろう?」と気づきはじめます。10代のもつ、自分はどうしたらいいんだろう、この田舎で今後なにをしたらいいんだろう、といった不安もあり気持ちが下がっている状態なんです。
──今回のタイミングで上映を決められたのはどのような想いがありましたか。
アンシュル:コロナの状況が続いてはいるものの、ここで上映を決めたほうがいいと思いました。今はオンライン上映などもありますが、劇場で上映をすることを想定して撮影していたので、スクリーンの迫力や音響で体験をしてほしくて、どうしても劇場での上映を願っていました。今の状況でも映画を見ていただけることはとてもありがたいです。劇場の中でしか体験できない映像美や音楽を体験してほしいです。
──いよいよ上映がはじまります。これから見る方に向けてメッセージをお願いいたします。
アンシュル:『コントラ』はとても正直な気持ちで作りました。もしかしたら、今までの日本映画とは違った印象を受けるかもしれません。戦争をテーマのひとつに取り上げたこともあり、年代の高い方が見ることが多いかもしれないですが、この映画を通しておじいちゃんおばあちゃん世代がどんな想いをしてどんな体験をしたのかを、若い方にこそ知ってほしいと思います。ぜひ、感想をSNSなどで書いてもらえたら嬉しいです!