私小説を自らメガホンを取り、映画化した『喜劇 愛妻物語』。ダメ夫と毒舌妻を愛らしく描き、笑いと涙をさそう痛快コメディ。今作で赤裸々に自身をさらけ出した足立紳監督に映画『喜劇 愛妻物語』そして奥様への思いを語っていただきました。[interview:柏木 聡(LOFT/PLUS ONE)]
僕が撮るのが一番かなと思った
――今作は何もない状態で香川県の讃岐にシナリオハンティングに行った体験が元になっているんですか。
足立:そうです。当時は仕事がなく家にいた時で、さぬき映画祭でプロットコンペがあるのを奥さんが見つけてきたんです。香川県を舞台にしないといけなかったのですが行ったことがなくて、「何とかお金ひねり出すから」と青春18きっぷで行ったんですけど、特に何も見つけられなくて、ひたすら夫婦げんかしていた旅でした。「でも、応募しろ」という事で、そのコンペには道中をまんま書いて応募したんですけど一次審査も通過しかったので、よっぽどダメなものなんだろうなとほったらかしにしてたんです。その後『百円の恋』とかがちょっと評判になったので、出版社の方から「小説を書く気はありませんか」と連絡をいただいて「考えたこともないです」と答えたら、「映画でボツになったオリジナル企画があったら見せて欲しい」と言われたので、2度と会うこともないしいいやと思って3つくらい見せたところ「2つ小説にしましょう」と言われたうちの1つがこれなんです。
――ちなみにもう1つは。
足立:もう1つは『14の夜』です。あれは映画と小説を同時進行でやることになりました。
――では、2つとも実現したんですね。
足立:そうですね。
――今作は小説が先行ということで、改めてシナリオにするうえでどの点に一番重点を置かれましたか。
足立:小説は旦那の心の声のような形で進んでいるのですが、シナリオに置き換える際に具体的な行動のお芝居にしないといけないので、奥さんと一緒に実際にお芝居をやりながらシナリオにしていきました。
――まとめていく中で難所になったことはありましたか。
足立:元々、映画にしたくてプロットコンペに応募した作品なので、シナリオにするよりも小説にする方がはるかに難しかったです。シナリオの方がスラスラと書けた感じではあります。
――シナリオライターとして活躍されている足立さんが、監督も兼任されたのはどういった経緯だったのですか。
足立:撮りたい人もいないでしょうし、僕が撮るのが一番かなと思ったんです。プロデューサーはほかの監督を考えていたらしいんですけど、「僕じゃ、ダメですかね」みたいな感じで相談してやらせてもらいました。
――ご自身で監督もされることに奥様からは何かありましたか。
足立:「あんた監督してきなさいよ」という感じで、させてもらえないなら断れくらいな感じでした(笑)。
――そうなんですね(笑)。劇中の「小説も書きなさいよ。そしたら監督もできるし」というセリフがありましたが、普段から言われていたのですか。
足立:奥さんは書いたシナリオがことごとくプロデューサーたちから相手にされずに帰って来るのを見ていたので、「もう、小説にしたら」というのはけっこう早い段階から言ってました。ただ、僕の中で小説というのはちゃんとした人が書くものというイメージがあったんです。シナリオがいい加減というわけではないですけど、簡単に書けないと思っていました。出版社の方からお話をもらった時は、「1回恥をかけばいいだけだから」と思って書きました。
こんな人ですみたいな話は、ほとんど話してない
――それが映画化に至ったという事なんですね。ご自身たちがモデルの、夫婦役お二人のキャスティングはどのように選ばれたのですか。
足立:水川(あさみ)さんは僕がずっと好きな女優さんなんで、『33分探偵』という深夜ドラマでの演技がとても面白くてずっと一緒にお仕事したいという思いがあったんです。小説を書いている時からなんとなくチカのイメージは水川さんというのがあったので、映画にできるとなった早い時期から「水川さんどうですか」と制作サイドには言っていました。濱田(岳)さんは中村(義洋)監督の「ポテチ」という映画があって、その中でちょっとした泣き笑いのシーンがあるんですけど、そこがずっと僕の頭の中にあって今回のラストシーンのイメージと重なったのが大きかったですね。
――キャラクター作りに関してはどのようなお話をされましたか。
足立:豪太はこんな奴ですという事やチカはこんな人ですみたいな話は、ほとんど話してないんです。僕の家で撮影をするのは決まっていたので、こういうところに住んでいる夫婦なんですという事を感じ取ってもらおうと思って、本読みの際に家に呼んだんです。そこで初めて本読みをしたときには、もう濱田さんは映画で演じられているのと同じ顔をされていました。なので最初は演技でやっているのか、元々こういう全然ダメな人なのかどっちなのかが分からないくらいでした。豪太のヘラヘラして問題をかわそうとする、本当はかわせていなくてもかわした気になっている、生きている感じが出ていて何も言うことはなかったです。あと、僕が書く男性は受け身のキャラクターが多いんですけど、濱田さんはほかの作品を見ていてもお芝居で余計なことをしないというか、変な小芝居で前に出てくることをされなくて、それがこの役にはとっても合ったんだと思います。
――濱田さんの役者としての個性がそのまま生きるような役だったんですね。
足立:現場で僕がこんな顔をしていたらしいんですよね。それは水川さんもおっしゃっていました。水川さんは僕のヘラヘラぶりを見ていてちょっとイラっときたのが演技にはいい作用になったとおっしゃってました。
――ご自宅を撮影現場にされて原作もご自身の経験を元にとのことですが、実際は何割くらい反映されているのですか。
足立:9割くらいです。一番の嘘は奥さんが映画の中でだいぶ優しいとう点です(笑)。
――普段からもよく喧嘩されているということですか。
足立:喧嘩というよりは一方的ですよね。罵り合いって言われても罵り合いになってないような気がします。
――それを監督として外側から見ていていかがでしたか。
足立:濱田さんの演技が良かったからだと思いますけど、外側から見て改めてこの男はダメだなと思いました。
――ダメ男にこれだけ、本気でぶつかってきてくれる人はなかなかいないですよね。
足立:そういう相手を見つけられたのが一番のラッキーなことじゃないかと思います。
罵倒するところは立ち回り
――罵詈雑言のボキャブラリーがすごくて、よくぞここまで酷いことを頭から丸のところまで書ききれるなと思ったのですが。再現度はどれくらいですか。
足立:再現度は相当高いですよ。
――そうなんですか(笑)。
足立:うちの奥さんは普段はそれほど口が回る方じゃないんですけど、僕を罵倒するときだけは何かが憑依したように言葉が湯水のごとく出てくるんです。一つの芸になってると思うくらいです。だから水川さんにも罵倒するところは立ち回りだと思ってくださいという事は伝えました。
――立ち回りというのはわかる気がします。
足立:濱田さんが「途中から水川さんの罵詈雑言を浴びるのが気持ちよくなってきた」というようなことを言われたんです。それは僕もそうで、言われ始めたころは傷つくし腹も立つんですけど、だんだん今日は切れてるなとか、新しい言い回しが出てきたなとか、ちょっとお客さんのような感じになっているんです。
――罵倒芸ですね。
足立:はい。そういう意味では、いいセリフを授けてくれて感謝してます(笑)。
――アキ役の新津(ちせ)さんもすごくいい演技をされていました。ただ、父親が罵られている姿をどのようにみられていたかがすごく気になります。
足立:僕も演技とはいえあんなの浴びるのはよくないだろうとは思っていたんです。なので、新津さんには「パパとママが言い合っているのを不安そうな表情で聞かないでね」とは伝えました。