風通しの良い会社にしたい
──社内に認めてもらえることって難しいですか?
石谷:「東映として」という冠がつけば珍しいテイストの作品なので認められても、冠がなかったらどうなんだろうと…。でも今回、「ワクワクする」と言って作品を手放しに喜んでくださったのはベテランの方が多かったんです。「今の東映ではこんなこともできるんだ」ってメッセージを受け取ってくださったのかなって思います。
──褒めてくれたベテランの方と一緒に新しいことができるといいですね。
石谷:そうですね。私としては現場が楽しいと思うのが一番で、風通しが悪いことが一番悪いことなので。この作品で風通しが少しでも良くなってくれたらいいなと思います。でも本作だけじゃダメで、どんどん後に続かないといけないんです。すぐ売上に直結しなくても、こんなことができたら面白いんじゃない? っていうアイデアがある程度のところまで上に通らないといけないと思うんです。『ジュラしっく!』が開けた小さな穴の後に他の作品が次々に続いて大きな穴をこじ開けて、会社の風通しが良くなって、いろいろと冒険できたらいいなと思います。もちろん、今継続している作品も大切に続けつつですが。
──すごいですね、立派な方ですね。
山本:会社にもこんな人はあんまりいないですよ。僕もそうなんですが、みんな萎縮しちゃうし。石谷さんは熱血で引っ張ってくれるんです。それについていければな、という人は多いと思います。
──普段は一緒にお仕事しているんですか?
石谷:作業場が各階に分かれているので、隣り合って仕事をする機会はほとんどありませんね。私は、進行さんに指示の伝達を全てお任せしちゃうと誠意が伝わらないと思うので、会いに行ったりします。今回、美術監督をつとめてくださった倉橋隆さんは逆によく聞きに来て下さいました。円滑に作業を進めるにはコミュニケーションが大事だなと思います。
山本:コミュニケーションを取れるのが一番合理的なんですよね。できる人はみんな合理的です。
石谷:確かに、できる人は合理的ですね。
山本:みんな面倒くさくなって、会話もしないし適当に仕事してこれでいいだろうになっちゃうんですけど、それじゃつまらないですよね。僕も淡々と描けるタイプのアニメーターではないので、やはり気分が乗らないとなかなか描けないんですよね。『ジュラしっく!』はちゃんとしようと思える作品でした。
石谷:テンションは大事ですよね。
山本:大事ですよね。
石谷:そういえば、作監作業は初めてでしたよね。
山本:はい。1分でこんなに大変なので、本編はもっと大変なんだなと思いました。
──誰かの絵を自分の絵に直すのは大変でしたか?
山本:それは問題なくて、自分の絵が画面に出るということが初めてなので怖かったですね。でもやるしかないので、やるんですが…自分の設定の絵を見ながら描くことができなくて…。
──キャラクターを覚えているからではなく?
山本:いや、これでよかったのかなってずっと思っちゃいまして。自分の絵に確固とした自信があればいいのですが…。
石谷:いや、そんな自信のある人いないですよ。
山本:やっぱりなかなか。ぶっちゃけ一度も設定見なかったんですけど…。
石谷:私は本編の絵の方が好きでした。乗ってきた感じがして。最後の方なんか絶対設定の顔じゃないんですけど凄い良かったです。
山本:それならよかった。
──結果的に本編が良ければいいのでは?
山本:まあ1分だからできたのかも。
石谷:あ、それはそうですね。漫画の連載中にどんどん絵が変わってしまう漫画家のような感じになってしまうと大変ですしね。
山本:素直は全カット顔違いますね…。
石谷:最後まで悩んでましたね。ハイライトとか。最初の15秒バージョンを出した後、フルバージョンに向けて全カット直してたり。
山本:伊藤さんや石谷さんが現代の中学生にこだわっていたので。僕もいい歳なんで… 外見くらいは可愛くといろいろと悩みました。
石谷:でも、もともと子供描くの得意じゃないですか?
山本:子供って自分の理想をのせられるんですよね。大人ってそれなりに自分の人生を歩んいでて、こうやって生きて行くのかなって思ったりするんで。実際にはいないかもしれないんですけど、子供って未来があるからこんな風にって思えるから描けるんですよね。描いてて元気になるんですよ。
石谷:でも、今回は古生物の方が楽しかったと…(笑)。
山本:いや、古生物も可愛いです。普段はいない古生物を、いろいろなシチュエーションで描けました。
──いいコンビですね。
石谷:いや、山本さんはもう組みたくないんじゃないですかね(笑)。
山本:石谷さんとやるのは大変です…普通時間が無い時とか枚数減らしたり、アクションプラン抑えたりするんですけど…。
──妥協がない(笑)。
山本:そう、妥協がない。こんな動きにしてくださいって束できて、それを一枚一枚描かなきゃいけなくて…まじか! って。
石谷:すみませんでした!
山本:でも、確かに良くなってるんですよ。普段やらないことをやると見えることもあるなと。
──いい化学反応なのでは?
石谷:いや、経験が足りないんですよ。この作業量でどこまでできるかっていう明確な時間がわかってないから無茶させてしまうことであって。それは他作品の演出をした時もよく言われました。運が良かったのは、最終回だったり、今回のようなリミッターを外していい作品が多かったことです。今後はちゃんと経験を積まないといけません。