神奈川県は茅ヶ崎に暮らす田村家のHIP HOP UNIT、TAMURA KING。構成はデザイナーの兄NASA、着ぐるみクリエイター・ラッパーの長女なみちえ、ダンサーの次女MANA。シーンに彗星の如く現れた彼らが生み出すillでdopeなサウンドと一見おふざけに見えるも意志のあるパンチラインに世間は反応せざるを得ません。一方で彼らの無邪気な一面と制作の一端を垣間見ることもできました。今、最も注目される三兄弟の激動の瞬間、見逃せません![interview:小柳元・石川美帆(NakedLoft)]
僕ら全員、肺が弱いみたいです
──『お前をにがす』や『TAMURA KING』がネットで話題になっていますが、先日は鬱フェスに出られて、大きな舞台でパフォーマンスをされました。ジャンルも様々な方と共演されたと思います。
なみちえ:私は何処かの界隈にいるって感じではないので、“ジャンル”を肉体を使って横断している感じで生きてます。鬱フェスはTwitterのフォロワーのリプライがキッカケで知り、応募しました。結果、多種多様なアーティストと交流ができてとても良い経験でした。こういう交流からコラボレーションが出来たらいいなと思っています。
──いろんな人と出会う機会が増えたと思いますが、心境の変化はありますか?
なみちえ:ライブオファーが増えて、必然的に人が集まる場所に多く行くようになり、クラブ内のタバコの煙などが負担になってよく咳をするようになりました。
NASA:僕ら全員、肺が弱いみたいです。僕、肺気胸なんで。
なみちえ:MANAも喘息だし。
──ダンスって肺活量要りそうですが大丈夫ですか…?
MANA:最近どんどんキツくなってます。
──それでも続けているのは表現方法としてダンスがしっくり来るからでしょうか?
MANA:はい、喋らなくていいし。
なみちえ:確かに。私はラップをやっていますが、それも“喋ってる”とは思ってなくて。会話の為の言語よりも、表現の為の言語を扱う方が得意です。
NASA:僕は、言葉って本当は要らないんじゃないかって思うことがあるんです。この前、僕がいきなり、あるダンスの動きをしたんですが、ちょうどその日MANAちゃんが夢でその動きを教える夢を見ていたらしいんですよ。
なみちえ:私はあれが驚いたな。家に招いた友人がおじいちゃんの椅子に座った瞬間に、妹のことを突然「まな坊」って呼んだんですが、その「まな坊」っていうのは田村家で唯一おじいちゃんだけがMANAを呼ぶ時の名称だったんですよね! なんで知ってんの!? ってなりました。…兄が撮影編集した『お前をにがす』の動画も私の想像通りのものができたしね。これらはよく私は、「無言の共通言語」とか「遺伝子の打ち合わせ」って勝手に呼んでます。
常に何かに怒ってる
──ご兄妹でいつもどんな話しをされてるんですか?
NASA:どの一日を切り取っても公開できないようなくだらない話しばっかりです。ほんと、良くないです。ちゃんとした話しもしているはずなんだけどなあ。
なみちえ:仲が悪かったら一緒に「タマキンタマキン」言わないですよ。
NASA:三人で常に何かに怒ってるっていうのはあるかもしれないです。
──例えばどんなことに怒っているんですか?
NASA:う〜ん、みんな騙されているなって思いますね。例えば、ウコンとかのお酒対策のドリンクってあるじゃないですか。お酒を飲んで、体が悲鳴をあげて、二日酔いになって、どうするかってなったときに、酒をやめようじゃなくて、ウコンドリンクを飲んで、さらにお酒をまた飲む。なぜならかっこいい俳優や綺麗な女の人が美味しそうにお酒を飲むCMを見ているから。そこに明らかに何かを狙っている人がいるでしょってことに気付けない人が多い、そういうところにキレてるみたいなことが多いですかね。
──どうして見て見ぬ振りをしているのかっていう。
NASA:もっと本質を考えて省くアップデートをするべきなんですよ。満員電車も本当は誰も乗りたくないはずなのに、当たり前だと思ってることとか。
なみちえ:これは私が勝手に作った説なんですけど、私が最近よく人に言う、地球の外にでっかいコントローラーがあって、大多数の人間が一つの同じコントローラーについたコードに繋がれて操作されてるんじゃないかなって。だからみんな考えずにコントローラーに操作されて同じ動きをする。楽しいことも、悲しいことも。社会、性別、歳、界隈、多分、束ねるでっかいコントローラーにはいくつか種類があるけど、私と同じコントローラーの人は見たことがない。
NASA:多くの人が気付いていない当たり前のことを疑って、見えなくなっている可能性を探るみたいな活動もしたいと思っているんです。
TAMURA KINGは死ぬまで解散できない
──常日頃から本質を考えて、世の中に対する怒りを三人で共有しているってことが兄妹で表現する鍵なのかなと思いました。お家でみんなでお話しされるんだと思いますが、ご両親はどんな方なのかも気になります。
NASA:僕はあんまり両親のことを「親」だと思ってないんですよね。
なみちえ:確かに。ママには、「私はあなたを母だとは思っていない。あなたは私という芸術家を創造した」とか言ったりしてます。パパはパパです。現在骨折休養中。
NASA:そういう意味ではおじいちゃんとおばあちゃんが“親”って感じはする。
なみちえ:そうだね、金銭的サポートっていう面でも。おばあちゃんはタクシー運転手でまだ働いているんですけど、たまに駅まで乗せてくれて、それで逆にお小遣いもらったりするんですよ。お金をもらってタクシーに乗れちゃうんです(笑)。
──世の中にそんなタクシーが(笑)!
NASA:すごく優しくしてくれるので助かってます。
──家族の中で対等な部分と頼れる部分とのバランスがちょうどいいのかもしれませんね。
NASA:ママとパパはお金のこととかはあまり気にしてないような気がするね。
なみちえ:だから私は仕方なく、美輪明宏をスマホのホーム画面にしてるんだよ。(金ピカのスマホ画面)
──本当だ(笑)!
なみちえ:これにしてから本当にお金が入ってきました。次の曲のテーマは美輪明宏じゃない!?
──最近は家族とか地元とかが実はしがらみで、そこから逃れてもいいんだっていう流れもあります。
なみちえ:今の私だったら、一人で生きるのはコストパフォーマンスが悪いんですよね。
NASA:生物学的には間違っていることなんですよ。生まれてから自分で立つまでに1年以上かかるような生物なので。だから人間はコミュニティを大事にするんですけどね。家族から離れるっていうのは、僕にとっては幸せから離れるプロセスだと感じます。とりあえず一緒にいた方がいい。経済的にもそうだし。
──家族というコミュニティがあるからこそ、チープな身内ノリに違和感を感じるんですかね。
なみちえ:そうですね。結成まで9年かかって、死ぬまで解散できないTAMURA KINGの結束力でクリエイションしていくとコンセプトにも深みが出せますし。
──三人でクリエイトしていくグルーヴが明確に出てきたのはいつ頃からなんですか?
なみちえ:いつ頃からっていうか、いつもこんな感じで、成長とともにみんなが表現するクオリティが上がったんだと思います。根源的にはいつもウンコチンチンキンタマってノリですよ。
NASA:チンチンがまとまったってだけなんですけど(真顔)、それがまとまってない感じが伝わるのはTAMURA KINGのYouTube のゲーム実況の動画です。
なみちえ:あれが根源で、そこで出たアイデアを別のメディアとしてまとめたのが曲なんですよ。ていうかあれ実況すらしてないけどね(笑)。