心を込めたことは間違いないです
──これだけこだわりの詰まった映画化。もちろん原作の五十嵐さんも観られたと思いますが、感想は伺われましたか。
渡辺:ドキドキしていて面と向かって伺えていないんですけど、完成後に対談した際に、「もとの種から分化したものだと思う。『海獣の子供」を描こうとしたときに持っていた根本の部分は共に有したもので、たまたま私は漫画で渡辺さんは映画になりました」という、これ以上ない表現で評論してくださって、自分の中でのひそかなる勲章になっています。
──最高の賛辞。まさに空と海の関係ですね。感想つながりで伺いますと、キャストの皆さんが、ある面で最初の観客になるわけですが、アフレコの際の皆さんの感想も伺えますか。
渡辺:皆さん作品に興味を持ってくださって嬉しい限りでした。線撮りひとつでも凄いことになっていたので、その情念も感じていただけたんだと思います。そういう意味では作品に赴くにあたって、最初の関門を突破したなとその時は思いました。
──そのエネルギーを受けての演技ですと、キャストのみなさんのプレッシャーも凄そうですね。
渡辺:皆さんもワクワクとして頂けて、こうなるんだと楽しんで帰られていました。そこがフィルムに焼き付いているのが大事なことですし、こちらとしても伝わったのは嬉しいことです。
──そのこだわりが嫌らしくなくいいバランスで伝わるので、観ていて五十嵐作品のもつ哲学的なテーマもうまく受け取れました。本当に最高の形で映像化していただき、最後まで皆さんにこだわっていただけて、感謝しかないです。
渡辺:ありがとうございます。皆も喜びます。下手するとあと数年やっている可能性もありました、永遠に終われない作品じゃないかと思うくらいで(笑)。
──(笑)。そうは言ってもいよいよ公開ということで、コアな方も多い五十嵐大介ファンのみなさんも期待しています。
渡辺:そうですね。正しかったかどうかというのは、今、絶賛していただいてちょっとだけ自信になりました。心を込めたことは間違いないです。詭弁ではなくスタッフの作品愛は本物です。原作を愛し、そこになろうとし、作品に対する愛を最後まで表現しきりました。キャストの皆さんもそうですね。キャラクターに対する愛情と熱意を真摯に向き合った結果がこのフィルムになっています。人が描き・人が演じる、アニメーションにとっては凄くシンプルな部分ですが、非常に尊いものです。それが織りなす独特の世界観。『海獣の子供』は非常に贅沢なフィルムになっていますので、そこを余すことなく味わっていただければと思います。この劇場作品を通じて原作漫画を手に取っていただいたり、江ノ島水族館に足を運んでいただけるとさらに嬉しいですね。