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INTERVIEW

トップインタビュー田島ハルコ - ニューアルバム『聖聖聖聖』リリース! 今は当事者として女性をエンパワメントしていきたい

今は当事者として女性をエンパワメントしていきたい

2018.11.08

 LOFT系列出演多数の田島ハルコがニューアルバムをリリース。独自の世界観で作品を展開し変幻自在に活躍した2018年。時代を牽引するパワーは私たちをどこへ連れて行ってくれるのでしょうか?君たちは田島ハルコについてきているか?!制作、活動を裏付けるパーソナルなお話を伺いました。[interview:石川美帆]

マスタリングはヒット曲を学習した人工知能

──今回のアルバムは楽曲制作に関わる部分を全てご自身でされたということですが、完成されていかがでしたか?

田島:制作に関してはミックスまで自分ですが、マスタリングだけ人工知能っていうか…。

──?!

田島: LANDRっていう、曲を取り込んでマスタリングしてくれるサービスがあるんです。ミックスが苦手で、何パターンか作っていろいろ試したいんですけど、このサービスはそういうやり方に合っているので利用しました。

──そんなサービスがあるなんて知らなかったです。アーティストの皆さんは結構使われているんですか?

田島:海外のサービスで、日本ではまだそんなに浸透していないのかな…。人工知能がヒット曲を学習してやってるっぽくて、今っぽい質感になったと思います。

──未来感というか、アルバムのコンセプトにもリンクしている気がします。

田島:そうですね。90年代や00年代のリバイバル的なエッセンスも取り入れているから、バランスとしても面白いし。

──時間的にはどれくらいかけて作られたアルバムになるんでしょうか?

田島:アルバムにしよう! ってなってからは半年くらいですかね。最初はダラダラしつつ煮込んでた感じで(笑)、トラックだけあるけど完成してないものが結構残ってしまって、結局最後の1ヶ月弱くらいでまとめ上げました。

田島ハルコ最新アルバム「聖聖聖聖」のキャッチコピー

「人類のワックな所業を56億7千万年後から嘆くlilブッダ(a.k.a弥勒)に成り代わり、ニューウェーブ・ギャルかつ都市型の巫女である田島ハルコが、(自らを含む)愚かな人類に伝えるメッセージソング13曲」。

──かなり特徴的なコンセプトがあった上で非常にまとまりを感じますが、どういうプロセスで練られたのでしょうか?

田島:「ピンク聖」を作った時に、既に「聖」を4つ並べたアルバムを出したてそれを「セイントフォー」って読ませようって思ってて…(笑)。実は「次のアルバム”聖聖聖聖”にしよう」っていうのはだいぶ前にツイートしてるんです。読み方は「セイントフォー」じゃなくて「ひじりひじりひじりひじり」になりましたが…。

──ツイートしたり口に出したりして初めてしっくりきたりこなかったりが分かるときってありますよね(笑)。

田島:自分の中で違うってなったらすぐ消すし、そういう誠実さは全然無いです(笑)。でも、「いいね」的な温度感ってかなり直感的だから信用できる反応なのかもしれない。

──序盤は壮大に始まりますが、「奇跡コントローラー」で“田島ハルコ”の方から一段下がってきてくれたと感じました。で「バイブスの大洪水」でぶち上がって、楽曲的にはその後イルでドープなサウンドにクールダウンしていき、ラストはレゲエ調にチル…というまとまりを感じて聴きやすかったです。

田島:本当ですか。なんか一回聴いたらもう聴きたくない…ってなっちゃわないかなって思って(笑)。長いアルバムだから、疲れさせないような曲順とかはかなり意識しましたが。


人生っぽい音楽を作りたいんです

──個人的な感想として、これまで内省的に向き合ってきたものが外へ向かっている気がしました。

田島:外に向かっていると言っていただけるのは嬉しいです。「外に向かえてないんじゃないか」っていうコンプレックスがずっとあって。今回も実際どうなったのかよくわかってなくて、気になってるんです(笑)。一聴してポップな「奇跡コントローラー」を前面に出していますが、アルバム全体を聴いてどういう印象になるのか…。

──外に向かえていないんじゃないかっていうコンプレックスはずっとあったんですか?

田島:「自分の話が多い」って言われてきたことがその原因かもしれません。でも言われて思ったんですが、単に「呪い」かもしれない。私は、世の中の最悪な部分と向き合うのに抵抗がそんなになくて。例えば、バズってるツイートのリプライ欄とか…(笑)それで具合悪くなる気持ちもすごくわかるけど、私はむしろ毒を積極的に取り込んでそれを別の形でアウトプットするっていう感じでずっとやってます。これはどっちかというと外向き寄りのエネルギーな気がしてきました。

──何かに向き合おうとして「呪い」によって身動きが取れなくなってしまう人って実は多いと思うんですけど、少なくとも外へ向こうとしている田島さんの姿勢を目にして膝を打ったり励まされたりします。今回の楽曲でも、敢えて言うとフェミニズムのような、これからの同世代のアイコンとして追っていきたいと思えるパワーを感じました。NYLONブログもそういう精神性とリンクしていると感じます。

田島:ありがとうございます。そういうのは目指していたものなので嬉しいです。やっぱり自分のスタンスとしては、最終的には“人間”なんですけど、今は当事者として女性をエンパワメントしていきたいです。

──それはやはり今作で特に意識されているんでしょうか?

田島:「奇跡コントローラー」や「selfie」が入っている前回のEPからはかなり意識しています。「ピンク聖」含めたそれ以前はもっとどろどろした理不尽、怒りを吐き出すイメージが強かったんですが、もっと考えていることをポジティブにわかりやすく変換していこうってなりました。

──怒りをポジティブに変換できるかどうかは重要ですよね。

田島:必ずしもそうじゃなくてもいいとは思いますが、今回はこうなりました。

──楽曲的なものも含めて影響を受けたものってありますか?

田島:戸川純さんや平沢進さんを感じるってよく言われますが、好きだし嬉しいんですけど、そういう世界観を意識して作っているというより、面白い音があったから使ってたらそうなったという感じだったりします。私の曲はほとんどサンプル音源を使ってて…つまり自分でゼロから打ち込んだものじゃないんです。アメリカの有名なラッパーが全く同じサンプルを使っていたこともあって面白いです。

──場所もジャンルも全然違う人が同じ素材を使って全然違う表現をしているっていう現象は面白いですね。

田島:サンプルそのまんまとかだとヒップホップ的かもしれないけど、私の場合洋楽っぽい引き出しが少ないから土着的な、日本的なものになる…。曲の構成とかも、Aメロがあって〜サビがあって〜最後サビを繰り返して〜っていうものになってしまうので、世界標準なサンプル音源を使ったとしても、ドメスティックに仕上がるのは面白いなと思っています。

──ありふれた素材を使っても、その人の持っている引き出しを重ねることで全く違ったものになっていくんですね…人生って感じですね(笑)。

田島:そうなんです! 人生っぽい音楽を作りたいんですよ…。


心の中に常にギャン泣きしてる赤ちゃんがいるんです

──曲を作るモチベーションみたいなものはやはりまず「怒り」にあるんですか?

田島:怒りともいえるけど、満たされないから曲を作っている感じはあります。トラックや曲自体はそのエネルギーで結構つるっとできちゃうんですけど、曲に昇華することで更なる「満たされない思い」が発生してしまう。その「満たされない思い」って、子どもの頃が原因な気がしてて。

──というと…?

田島:誰かが「よかったよ」って言ってくれたら、それ自体はすごく嬉しいんですけど全然満たされないんですよ。どこか信じられないというか。98点とってお母さんに見せたら「なんで100点じゃないの」って、言われたことはないんですが、これと同じことが今自分の中で行われているみたいな感覚です。

──わかります。ガッカリしたくないから98点で素直に喜んではいけないって無意識に自己防衛してしまうような。

田島:それはもう自分で乗り越えるしかないってなりました。クラウドファウンディングで渋谷の大型ビジョンに自分の広告を出したのもそうで、すごく有名になりたいっていうのが目的で音楽をやっているわけではないのに、それと噛み合わない満たされなさを解消させるためにやったことでもあります。

──そのもやっとした感じを多くの人は世間からの目や現実的なことを気にして見て見ぬ振りをするようになっていく気がします。

田島:多分私も今までの人生は諦めていたんですよね。でもいろいろなきっかけがあって諦めきれなくなってきました。

──そうだったんですね。今年はアルバム発売の他にも先ほどのクラウドファウンディングやNYLONブログの連載やYoutubeの活動も始められて新しい動きが多かったですが、“98点の先”に関係しているんでしょうか?

田島:「98点の先」的な気持ちはここ2年くらいで出てきて、そこからいろいろと模索しながらやっています。それまではメジャー志向的なものは全くなく、漠然とどうにかなりたいっていうだけだったんですけど、「どうにかなりたい」の落とし所が自分でもよくわからなかったんです。それが最近YoutuberだったりNYLONブロガーの先にありそうなことが分かって。華やかそうなその場で何をやっていくのかはこれから模索していく感じですかね。

──NYLONのブログに関しては決まって私も嬉しくなりました。

田島:あれはかなり自分の癒しというか…。私、心の中に常にギャン泣きしてる赤ちゃんがいるんです…。それをなだめてあげているのがあのブログで…(笑)。これわかる人にはわかると思うんですけど、オシャレになりたいとかキラキラしたいっていうのって、思春期に産まれるはずだった赤ちゃんなんですよ…。それを実は見て見ぬ振りをしていて。自分なんかできるわけない、オシャレじゃないし、可愛くないし、友達もいないし、って勝手に諦めてたんです。中学の地元のしがらみとかから離れて高校進学してやっと好きにできるって生まれた赤ちゃんだったのに、なんか知らないけど他にもっと可愛い子いるとかで無視しちゃってて。そいつが今赤ちゃんのまま巨大になって目の前に現れて向き合わなくちゃいけなくなっているっていう状況なんです。

──私の中にも赤ちゃんいます…!(笑) もしかしたらそういう同世代は多いのかもしれませんね。根本的な部分で今の世代と共感できるところがあるからこそ、今後の表現活動に期待してしまいます。

田島:これからも巨大な赤ちゃんをあやしていく活動を展開する予定なので、いろいろお付き合いいただければと(笑)。トークイベントも時々やってますが、音楽として表現される作品からはこぼれ落ちたノイズ含め、私は面白いですよ! 何か引っかかるものがあれば音楽に限らず注目してもらえると嬉しいです。まずは最新のMVを見てもらえればありがたいなと思いますね!

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田島ハルコ
『聖聖聖聖』

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