フォークシンガー、ギタリスト(THE TOKYO)、モデル、俳優の肩書きを持ち、今人気上昇中の"こだまたいち"。
彼が下北沢SHELTERとタッグを組み、日本で一番新しいフォークFESTIVAL「花哥集会」を立ち上げる。こだまたいちと新世代フォークの現在地点、そして彼が提唱する「花哥」について話を聞いた。[interview:柳沢英則(新宿LOFT)]
フォークを好きになったきっかけ
——たいちはたくさんの肩書きを持っているよね(笑)。
こだま:自然にこうなっちゃいました(笑)。表現っていうものの上では地続きですから。一つ一つ本気でやってます。
——すごいね。大変じゃない?
こだま:好きなことは一生懸命やりたいんです。特に気負ってはいないですし、気取りたくもないです(笑)。
——それがたいちの良いところだね(笑)。フォークを好きになったきっかけは何なの?
こだま:ビートルズやボブディランの流れから加川良さん、吉田拓郎さんを聴いて衝撃を受けました。なんじゃこりゃあ!って。それからURCやカレッジ・フォークを追ったり、気づいたらどハマりしてました。
——フォークだけじゃなくて昭和歌謡全般の影響を感じるね。どんなところが好きなのかな?
こだま:例えば、ムード歌謡には「銀座」とか「長崎」とか地名がよく出てくるじゃないですか。僕あれが妙に好きなんです。ディテール感の中にこそ普遍的な感情が見えるというか。フォークにも多くて、高田渡さんだったら「三条へいかなくちゃ〜♩」とか。すーっと空気が匂ってくるんです。日本語も豊かですし、平気で固有名詞を出してくる人懐っこい人間像がたくさんあって好きです。あとは「ニューミュージック」と呼ばれる、ざっくり言うと日本でフォークがロックに影響を受けて発展したポップスなんですけど、この70年代辺りの演奏技術とアレンジ力には強い憧れがあります。
——たいちが去年出した1stアルバム「ところでね、」にはそういう演奏的な趣向も感じたよ。本当に好きなんだなと思った(笑)。
こだま:わあ…よく聴いてくださってますね(笑)。ありがとうございます。中高生の頃からいつかの為にとずっと曲は作ってたんですけど、ライブもしなけりゃ音源もなかったんです。2016年の冬に転機がありまして。
フォークを昇華した新しい音楽の存在
——ライブをやり始めたのがそれぐらいからだよね?
こだま:はい。いきなりZepp DiverCityで弾き語りしたんです(笑)。これが紛れもない「いつか」だった(笑)。本格的にやろうと決心してすぐにレコーディングをスタートしました。
——ライブも何度か観てるけど、たいちらしい温かさに溢れてて素晴らしいと思う。曲も声も独特だよね。
こだま:嬉しいです。周りにフォークをやっている人がいなかったから、変に縛られずのびのびと自分のスタイルを育めたのかもしれません。
——タイバンと出会うことで「外の空気」を吸うことになったと思うんだけど、何か影響はあった?
こだま:それが驚くほど良い出会いがあったんです。正直「フォークとはこういうものだ」とか偏った思いを少なからず抱いてたんですけど、フォークを昇華した新しい音楽の存在に気付いたんです。現代におけるフォークの多様性を発見できました。
——大海を知ったと(笑)。
こだま:そうなんです。世間にはどんな人たちがいるんだろうって進んで調べるようになりました。ある時ネットで一方的に知った京都の「ひとりバレーボウイズ」さんの音楽に惚れて、「タイバンしてください!」ってDM送るくらいには考え方が変わってました(笑)。結構やばいですよね。「僕たちは出会うべきです!」みたいなこと送りつけましたからね(笑)。
——かなり熱いね(笑)。シンパシーを感じる仲間に出会えた喜びが今回「花哥集会」の開催に繋がったのかな?
こだま:その通りです! 実際、「ひとりバレーボウイズ」のネギさんとはすごい勢いで意気投合したんです。彼も僕の音楽に感動してくれたから。すごく嬉しかったしフォークの未来に新しい可能性を感じたんです。僕とネギさんの間にあるこの感動を、分かち合える人がもっといるはずって。
——そうしてフォークを広めたいっていう感情が生まれたんだね。
こだま:もちろん、フォークをもう一度オーバーグラウンドなものにしたいっていう大袈裟な気持ちもあります。でもまずは体験して、感動してほしいんです。この感じ新鮮じゃない? って。
出演者について
——今回集まった出演者たちにはその空気感がある。みんな最高だよね。一人ずつ紹介してくれる?
こだま:喜んで! ではまず、さっきも話に出た「ひとりバレーボウイズ」さんから。京都のバンド「バレーボウイズ」のリーダーであるネギさんの弾き語り。とにかく一度聴いたら口ずさんでしまう魔法のメロディ。僕の中では「翼をください」で有名な「赤い鳥」のイメージに近いです。優しい歌い方と伸びのあるボーカルが癖になる。
——読者に一言で勧めるなら何て言う?
こだま:「これが最先端のJ-POPだ」
——ありがとう(笑)。2人目は?
こだま:「三ケ田ケイゾウ」さんです! 「あぶらすまし」のボーカリストで、福島県のライブハウス「club SONIC iwaki」の店長さんです。柳沢さんが教えて下さったんですよね。
——そうだったね。俺は三ケ田さん好きだから。
こだま:まだお会いしたことがなくて、YouTubeに上がってる動画はほぼ全部観たのですが、言葉の熱量に圧倒されました。信念があれば伝わるんだ、と教えてくれている気がします。そして声がすごく好きです。コーヒーで言うとキリマンジャロのような心地よさです…(笑)。
——うん(笑)。一言で勧めるなら?
こだま:「心を預けたい言葉と音楽。是非『子供達に贈る歌』を聴いて欲しいです」
——一言じゃなくなったね(笑)。3人目は紅一点の「中野ミホ」さんかな。
こだま:はい(笑)。中野さんはロックバンド「Drop's」のボーカリストで「冬のごほうび〜♩」ってCMで歌ってる方です。THE TOKYOのタイバンで知ってから何度もライブ観に行ってて。ボトムの低いビートでソウルフルに歌い上げる「Drop's」の時の印象と違って、弾き語りでは中野さんの内省的な一面が際立ちますよね。自分の感情を一つ一つ引き出しにしまってるような奥ゆかしい女性像。「天然記念物級に陰のある女性SSW」です。
——ステージに上がると変わるよね。びっくりする。「タカイリョウ」くんはどう?
こだま:「the twenties」のボーカリスト、タカイリョウさん。彼はスターですよ。一度弾き語りを観た時に、詞やメロディ以前に伝わってくるものが凄まじかったんです。僕はタカイさんの存在感と、カレン・ダルトンのように危うさを孕んだ美しい声が好きです(笑)。勝手にキャッチコピー付けるなら「生き様を弾くカリスマ」です。
——まぁ分かるかも(笑)。最後はDJの「笹井トシオ」くんだね。
こだま:彼はロックイベント「Blast Jams!!」の主催者です。僕にとっては、この笹井くんがいることがすごく大事なんです。花哥集会は実際に足を運んでもらうリアルの場ですから、お客さんには空間ごとまるまる楽しんでほしくて。例えば喫茶店ってBGMにマスターの趣味が出るじゃないですか。その雰囲気に惹かれて喫茶店に通っちゃう人は結構いると思うんです。コーヒーの味に影響するというか(笑)。僕は笹井くんのDJに全幅の信頼を置いてますし、そういう場作りをすることが花哥集会の大きな目的なんです。空間はネット上じゃ得られない感覚ですから。
——なるほどね。最後に「花哥団」について教えてくれるかな? 「花哥」って造語だよね。どんな意味が込められてるのかな?
こだま:はい! 造語です。花の匂いを嗅げる生な空間、鼻歌を口ずさめるメロディ、そしてフォークを華やかに盛り上げたい、という意味を込めてます。そして「哥」は中国語でブラザー的な意味があるんです。同士が増えたら嬉しいですし、みんなで音楽をやりたい。だから花哥団はメンバーを固定せず都度召集されるオールスターバンドです(笑)。今は僕がボーカルですけど、いずれは色んなゲストボーカルを迎えられるようなスタイルにしたいと思ってます。ソロでは出来ないフォークサウンドに挑戦します。全ての世代の方に感動を伝えたいです。ぜひ花哥集会へ!