ロックンロールへの愛をあらん限りの力でかき鳴らすバンド・ザ50回転ズが1月17日(水)、9年ぶり4枚目となるフルアルバム『ザ 50回転ズ』をリリースする。
バンド名をそのままタイトルにした本作には、ロックンロール・映画・アニメなど、彼らがこれまで親しんできたさまざまなカルチャーから着想を得た、バラエティーに富んだ全12曲が収録されている。
今回はアルバム発売と、リリース当日にロフトプラスワンウエストで行われるトークイベントの開催を記念したインタビューを敢行。取材に応える3人は終止ゴキゲンで、アルバムの充実ぶりが窺える時間となった。[interview:宮武 孝至/text:平松 克規(Loft PlusOne West)]
9年ぶりの4thアルバムをリリース!
——今回9年ぶりにフルアルバムをリリースということなんですけど、そんなに経ってたんですね。
ダニー(G.Vo):その間に音源をリリースしていなければ満を持してた感じになるんでしょうけど、ボクら9年の間にミニアルバムを連続して5枚出してるんですよ。
ボギー(D.Vo):ボクたち、ミニアルバムが好きなんです。コンパクトなサイズ感でスカッと聴けるし、それを持ってすぐツアーに回れるから。
ダニー:製作期間も短いし、レコーディング費用も半分で済むしね。そういうところにかまけてたら、何と5枚も出してた。お客さんから「オマエらええかげんにせえよ」っていうお叱りもあったので、次は違うボリュームで出しますと約束したんです。で、7インチを出して、お客さんが「ウソでしょー!」ってもっとコケました。
ドリー(B.Vo):「曲数減ってる!」って。
——ハハハッ。
ダニー:でも7インチって、聴くことが出来へんお客さんもいてはるんで、「次はフルアルバム出す」って言い切っちゃいまして。それで出しました。「ファーストアルバムのリマスターでーす!」って。「新曲ないんかい!」ってなって、いよいよ今回です。
——(笑)。アルバムを聴かせていただいて、〈音楽愛〉や〈ロックンロール愛〉が散りばめられている作品だと思いました。
ダニー:ありがとうございます! ボクらって、面や演奏テクニックで売ってるバンドじゃないんですよ。だからオレたちに残されたんは、最初から持ってる〈ロックンロール愛〉。このアルバムにも色んなフレーバーがあって、ボクらのルーツがそのまま出てるアルバムになってると思います。
——アルバムタイトルをセルフタイトルにしたってところにも、「自分たちの!」って想いが、また1個乗っかっているかなと思ったのですが。
ドリー:これタイトル決めたのが、レコーディングもマスタリングも終わって、音が完成したその日の晩なんですよ。メンバーで「お疲れ!」って乾杯した時に、ダニーが「あまりにも50回転ズっぽいアルバムやから、セルフタイトルでどうかな?」って言って。ボクも、その日だったかその前の日に同じことを考えてたんですよ。それを伝えたら、「じゃあこれしかない!」って感じになって、スパっと決まりましたね。
ダニー:自分たちに確信を持って作ったアルバムなんで、曲順もタイトルも一瞬で決まったんですよ。奇をてらわずに自分たちのやりたい音楽を、ズドーン! とやったら、何もかも上手いこといきました。
——ミニアルバム5枚のリリースを経てのフルアルバム、制作方法に変化はありましたか?
ダニー:ミニアルバム5枚の時は、Pro Tools(作曲、レコーディング、編集などを行うソフトウェア)を使った現代的なレコーディングをさせてもらってたんです。でもPro Toolsだと、どういう音が録れるのか予想できちゃうんですよね。ボクらも自分の想像を超える音で録りたい。それでデビューから10何年ぶりなんですけど、ファーストアルバム以来の「テープで一発撮り」って手法に戻りました。
——戻ったんですか。
ダニー:はい。でも別に「原点に立ち戻ってやってみようぜ!」って意識したわけじゃないんですよ。今の50回転ズにふさわしいプレイと熱量をレコードに込めるには、どういう手法が良いのか? って考えてたら、それかなって。
——全曲1発録りなんですか?
ダニー:そうですね。やり直しが出来ないんで、曲の後半でミスったらだんだん空気が沈んでいくんですよ。
——ハハハッ。
ダニー:今やったら、ミスったところからやり直すっていうのは、技術的には出来るんですが、今回はなしで。頭のカウントから、ケツの減衰まで全部パッケージして成功しないとNGなんで、結構スリリングなレコーディングでしたね。最低限のトラック数で、メタリカルな段階を踏まず、いかにバンドがライブで出してるプリミティブな音に近づけるか、それを目指して録りました。
——今回は、ヴィンテージの機材がかなりあるスタジオで録音したんですよね?
ダニー:はい。the NEATBEATSのMr.PAN(眞鍋)さんのプライベートスタジオでレコーディングしました。そこで音を鳴らすと、やっぱPro Toolsが入ってる街のスタジオとは違って、初回から全然予想を上回ってくるんですよ。
ドリー:とは言っても、ボクらは「ヴィンテージが良い」「ヴィンテージがやっぱりスゴい」って思ってる訳じゃないんですよ。ベースやギターは現行のを使ってるし。
ダニー:そう。今の50回転ズが出すべき音を探してたら、ヴィンテージに行き着いただけでね。
——具体的にはどんな機材を使ったんですか?
ドリー:ベースアンプは、なぜかダニーが所有してる60年代のアンプを使いましたね。
ダニー:それがドハマりでしたね。
ドリー:それって、ライブでは使えない出力のちっちゃいアンプなんです。でも最近気付いたんですけど、レコーディングに馬鹿デカい音量はいらない。
ダニー:そう! ボクたち9年やって、やっと分かりました。ライブで使ってる武道館で出来そうなあのアンプは、レコーディングではいらない!
——ハハハッ!
ダニー:今回はドラムのヘッドも、昔の牛皮みたいな音を演出するためにあえて人工的にムラを作ってるものにしたんです。叩くトコによって音が変わるんですけど、それが生っぽくてスッゴく良い。
ボギー:そのヘッドはライブでも使ってるんですけど、PAさんも褒めてくれました。今回はそれを選びましたけど、今後模索していく上で他のも試したら面白いかなと思うようになりました。
ダニー:だからこの9年間は、自分たちにふさわしい音を鳴らす選択肢が増えた期間でもありましたね。
様々なカルチャーを横断して生まれた楽曲たち
——収録曲についてもお聴きしたいのですが、ホントにバラエティーに富んだアルバムですよね。
ダニー:今回、「アナログシンセを入れてみよう」っていうのが、1つのテーマだったんです。最初に入れたんが、『ハンバーガーヒル』って曲。これは曲の途中でテンポが変わるんですけど、不穏な感じを出すために参考にしたのが、『狂い咲きサンダーロード』の冒頭とエンディングなんです。煙がモクモクしてバイクが炎上してる場面のバックに、アナログシンセみたいな音が鳴ってるんですよ。それで似たような音が出るシンセを探しました。『クレイジージジイ』は、ロックンロールにシンセを取り入れた初期のイギリスのバンド「Sweet」に影響を受けてて、グラムロックとハードロックの間で、でもセンスが良いってところを目指した曲です。他にも『デヴィッド・ボーイをきどって』はドリーの曲なんですけど、『ジギー・スターダスト』前後のデヴィッド・ボーイの宇宙的な浮遊感を上手く演出できてるかなと。
——ホント聴いてたら、音楽史を追体験してるような感じになりました。
ダニー:オレたちの好きな音楽史。80年代頭で終わりますけど(笑)。
——『純情学園一年生』にも、アナログシンセが入ってますよね?
ダニー:そうですね。これなんかは、完璧に80年代の学園もののアニメソングですよね。『うる星やつら』でもラムちゃんが飛んだ後に、「ピヨピヨピヨー♪」ってアナログシンセが入るじゃないですか? ああいうので、ちょっと遊びたかったんですよ。
——ロックだけじゃなくて、映画やアニメからも影響を受けてるんですね。
ダニー:パンクロックやチャック・ベリー、ロックンロールやラモーンズっていうのは当然自分のルーツなんですけど、そういう音楽に興味を持ち出す前のルーツって、やっぱりアニメソングや日本の歌謡曲やったんですよね。だからアニメソング担当で『純情学園一年生』、歌謡曲担当で『新世界ブルース』を作りました。
——『新世界ブルース』は、メッチャ面白かったです。他にも『ちんぴら街道』とかはセリフもあったり、映画のサントラみたいですよね。
ダニー:『ちんぴら街道』は、梅宮 辰夫が出てた東映の三流アクション不良ムービーをイメージしてるんです。和物やから、三味線や語り、合いの手を入れたら絶対ええやんって。あと浅野ゆう子が歌う『LOVE BEAT 3-3-7』の三三七拍子のハンドスクラップをパロッたりもしてます。
——元ネタ満載ですね。
ダニー:自分たちのルーツをお客さんに示しつつ、今までやってきたこととは違う歌を出したかったんですよね。アナログシンセや『ちんぴら街道』の話もそうですし、『あの日の空から』なんかは、30歳を超えてからじゃないと書けんような赤裸々な歌詞の曲です。あと『ホテルカスバ』では、ドリーが初のウッドベースに挑戦してます。
ドリー:スラップ奏法は、これで初めて勉強しました。
ダニー:この曲のルーツは、80年代前半に流行ったストレイ・キャッツがいた「ネオロカビリー」ってシーンなんですよ。あとスイングバンドを組んでたボギーもルーツになってます。
——本当に渾身のアルバムなんですね。
ダニー:はい。でもまだ、オレたちのレコーディングはまだ終わってません。みんなが買ってくれて、ようやくアルバムは完成するんです。1人2枚。いや3枚お願いします!
リリース当日は裏話満載のトークイベントへ!
——(笑)。そんなアルバム発売日の1月17日(水)には、ロフトプラスワンウエストでリリースイベントを開催します。イベントは、どのような内容になりそうですか?
ダニー:もう、歌なしでお喋りだけかな。お酒をしっかり頂きながらの、アルバムの裏話・こぼれ話、それと自分たちのルーツを語る! あと今30秒だけ限定公開してるPVを、初めてフル公開しようかなと。2時間オーバー必死です。
——元ネタを全然知らなくても、絶対楽しめますよね。
ダニー:そうですね。深く知らなくても楽しめるのがトークライブのテーマですから。やっぱりライブのMCで「次の曲はね! イギリスのバンドのパクリです!」とは言いづらい。こっちも盛り上がりづらいし。トークイベントは、ボクらの違う側面をアピールできる良い場所です。
ドリー:バラエティに富んだアルバムと同じように、トーク内容も色んな方向に飛んで行くと思うんで、その辺も楽しみにして欲しいですね。