Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー田中紘治(BELLRING少女ハートディレクター)(Rooftop2017年1月号)

黒幕・田中紘治ディレクター激白!
フロア最前の向こう、モッシュの向こう、後方のさらに向こうを見ろ!

2017.01.05

 主力メンバーである朝倉みずほと柳沢あやのが年内をもってグループを卒業するため、一時活動休止となったBELLRING少女ハート。我が新宿ロフトでもロック・バンドに負けずとも劣らない激しすぎるライブ・パフォーマンスを繰り広げ、数々の名演を残してくれたベルハーが他のインディーズ・アイドルと比べて一歩も二歩も抜きん出た存在となり得たのはなぜなのか? また、新メンバー加入&改名後の新体制の行方は? すべての鍵を握るディレクターの田中紘治(AqbiRec代表)を直撃し、彼の見据える視点から新生ベルハーの未来を読み解く![interview:望月慎之輔(新宿ロフト)]

アイドルをやるきっかけはお客さんの熱量

──今回、現体制で最後となるベルハーの写真集+DVDをロフトブックスから出させていただくことになりまして。

田中:すごくいい仕上がりですよね。メンバーに写真集を見せたらテンションが上がってましたよ。まるで貸本に群がる昭和の子どもたちみたいに(笑)。「早く早く! 次のページ!」「前のページに戻ってー!」ってすごい盛り上がってました。

──ロフトブックスではこれまでにおやすみホログラム、あヴぁんだんど、生ハムと焼うどんの写真集を出してきたんですけど、ベルハーもいつか出したいと個人的に思ってたんですよ。それでちょっと前から田中さんと話を進めてたんですけど、みずほちゃん(朝倉みずほ)とあーやん(柳沢あやの)が卒業するというまさかのタイミングで発売することになってしまって(インタビュー後の12月19日、甘楽も新グループへの移籍が決定)。

田中:思いがけずメモリアルなものになりましたね(笑)。でも、僕はロフトさんプロデュースの写真集で良かったと思ってるんです。新宿ロフトってステージの広さが絶妙で、メンバーがバンドっぽくギュッと凝縮された写真が撮れるんですよね。広すぎず、狭いわけでもなく、すごくいいバランスで格好いい写真と映像が撮れる。床の市松模様もインパクトがあるし。

──ベルハーのライブ写真を撮るのって相当大変だと思うんですよね。あれだけ激しく動き回るアイドルもなかなかいないじゃないですか。曲はもちろん、振り付けも独創的だし。

田中:ベルハーは撮るのが難しいと思いますよ。唄うことを前提としてないメロディと、唄うことを前提としてないダンスなんで(笑)。だから意外と実力のある子たちに育ったなと思ってます。

──それは田中さんの生み出すベルハーの世界観が圧倒的だからだろうし、その世界観のなかでメンバーがもがいてる感じがすごくいいんですよね。

田中:2017年はその辺をもうちょっと上手くやりたいですね。もっとネジを緩めて外に届くやり方をしなきゃなと思ってるんです。

──僕はBiSをきっかけにアイドルに興味を持ち出して、2012年頃から新宿ロフトでいろんなアイドル・イベントをブッキングしてきたんですけど、自分のなかで軸になっていたのはBiSとベルハーなんですよね。とにかくアイドルのライブはお客さん一人ひとりの熱量がすごくて、バンドのお客さんの熱量の比じゃないし、なかでもBiSとベルハーのお客さんが群を抜いてましたね。

田中:僕がアイドルをやり始めるきっかけもお客さんの熱量でした。フェスとかホントにコアなお客さんが集まるバンドのライブはフロアの盛り上がりを含めて面白いんだけど、普通のライブだとお客さんが腕組みをして見てるじゃないですか。ライブ会場では何一つリアクションがなくて、家に帰って一生懸命ブログでも書くのかな? みたいな(笑)。

──そうそう。バンドのお客さんって何を考えながら見てるのかな? って思っちゃうんですよ。静かに見て、静かに帰って。

田中:みんな親戚みたいなんですよね。僕の場合、アイドルに興味を持つようになったのはももいろクローバーさんなんです。『小中高一貫ももえび学園〜ももいろクローバーの部〜』というバラエティ番組のディレクターをやることになって、まずはももクロのライブを見ることにしたんですよ。アイドルなんて全く興味がなかったんですけど、実際にライブを見たらメンバーのパフォーマンスはもちろん、お客さんがすごくて。一生懸命ライブを盛り上げようとしてるし、この人たちはホントにライブが楽しいんだなと思ったんです。ただ若いオネエちゃんたちのケツを追っかけてるんじゃなく、純粋にライブを楽しんでるんだなって。

──そう、ヲタクのイメージがすごく変わったんですよね。ヲタク=秋葉原にいる人たちみたいな先入観があったけど、よくよく話してみると元はバンドが好きだったり、面白い現場を探し求めていたらアイドルに行き着いたって人が多くて。

田中:いわゆるヲタクの人とバンド好きな人が共存できるのがアイドルの現場なんですよね。それが僕には新鮮で面白かった。

──アイドルのお客さんはアイドルの話だけしてるわけじゃないですからね。ライブ以外の時はバンドの話もするし、カルチャー全般に対して興味を強く持ってるし。

田中:ベルハーも、ベルハーだけが好きって人が集まった時期より、アニメも映画もバンドも好きで…って人が集まったフロアのほうが面白かったですね。

 

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新宿ロフトがベルハーを鍛えてくれた

──YouTubeに上がってるベルハーの初期のライブを見ると、フロアの雰囲気がいまと全然違いますよね。みんな同じ振り付けとコールをやってるし。ここ最近のフロアは暴動みたいになってるじゃないですか(笑)。

田中:何事も義務になっちゃうとダメですね。この曲になったらあれをやんなきゃとか、やらされてる感が出ちゃうと面白くない。ヲタ芸でもMIXでも様式美だから「また同じタイミングで同じことをやらされてるよ」みたいに感じるのかな。勝手に飽きて文句をたれる。知らねぇよ! って話です(笑)。

──僕がハバナイ(Have a Nice Day!)を初めて新宿ロフトでブッキングしたのは2012年で、アイドルを手がけ始めたのと同時期なんです。ハバナイも普通のライブハウスにめちゃくちゃ飽きてて、アイドルと一緒にやるライブを2014年くらいから積極的にやるようになった。そのライブへ来るお客さんがすごく生き生きしていて、ベルハーやハバナイみたいに既存の枠組みを飛び越えようとする面白い存在が同じ頃に新宿ロフトに出てきたのは必然だったのかなと思うところがあるんですよ。

田中:そうかもしれませんね。ベルハーにとって新宿ロフトは、毎回試される場所だったんですよ。つまんないテンションでライブをやると、それがもろに出てしまうので。ステージがそんなに高くないから、後ろのお客さんからすると頭がひょこひょこ見えてるだけなんです。だからただ唄って踊っていつも通りにやると、お客さんの不満は大きくなる。新宿ロフトの音響と照明は最高だから、あとはメンバーがどれだけ体を使って表現してお客さんに届けるかなんです。それを常に試される場所だったし、定期的に新宿ロフトに出させてもらったことはベルハーにとってすごく大きかったですね。

──鍛えられてた感がありました?

田中:鍛えさせてもらったし、アイドルは絶対に新宿ロフトに出たほうがいいと思う。パフォーマンスを支えるだけの設備が整ってるし、照明一つを取ってもその曲に合った世界観を作り出してくれるので。メンバーがステージから飛び出すくらいのエネルギーを持っていれば、それがちゃんと返ってくる会場だと思うんですよね。

──ステージもフロアも絶妙の広さですしね。

田中:“ザ・ライブハウス”ですからね。メンバーが甘やかされないし、ちゃんと鍛えられる場所なんです。

──ベルハーはホントにいろんなライブハウスに出てますよね。小さい所だと100人以下だったりとか。

田中:80人キャパの所もありますよ。さすがにまだホールには遠く及ばないですけど、売れて大きな会場でライブをやるようになっても、100人キャパの会場でも面白いライブをやれなきゃダメなんです。大きい所でやれる力がなければ小さい所でも面白くない。「ウチは中くらいのハコ向きなんで」とか「今日のライブはこういう環境だったから仕方ないよね」とか言ってるようじゃ話にならない。どんな会場でもステージいっぱい、フロアいっぱいに使わなくちゃダメです。音響の設備がよっぽど合わない所は選びませんけど、どんな会場であれ「今日のライブは良かった!」と思わせる工夫はいつもしてるつもりです。

──まるで格闘家みたいですね。

田中:僕のなかにプロレス魂みたいなものはないんですよ。どっちかと言えばボクシングのほうが好きだし。そのなかでもアンタッチャブル(触らせない)な川島郭志選手とかが好きで、派手な打ち合いは別に好きじゃない。ただ、プロレスラーは骨折してても勝たなきゃいけないし、痛いように見せちゃいけない。その部分では共感するんです。ボロボロの体でリングに上がって、満身創痍でも勝たなくちゃいけないっていうスタンスに。

──ゆぅゆ(美月柚香)も骨折して車椅子姿でシェルターのライブをやってましたよね。

田中:本当は休養中も車椅子で出演させたかったけど、心が折れちゃってて無理でしたね(笑)。とにかく、いいコンディションといい会場が整わないとライブができないユニットにはしたくなかったんです。

──その意味でもベルハーはタフなユニットですよね。

田中:タフですね。新メンバーになるほど脆いです。ある程度お客さんが歓迎してくれる状態で入ってくるので。

──ということは、唯一のオリジナル・メンバーであるみずほちゃんが一番タフなんですかね?

田中:みずほは時と場所を選ばずにいつでも勝負する、辻斬りみたいな存在ですね(笑)。

──思いもよらぬ行動に出ることもありますよね(笑)。

田中:瞬発力はかなり鍛えられてると思いますよ。だからこそこのタイミングで彼女を手放すことがホントに残念なんですけど、僕らに一方的に育てられてきたわけじゃないし、卒業という選択は彼女本人が成長した証でもあるんです。僕らが彼女からもらったこともたくさんあるし、今後は自由を満喫してください、って感じですかね。

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こういう機会がなければベルハーを壊せなかった

──ベルハーって従来のアイドル像からだいぶかけ離れてるじゃないですか。サイケデリックな楽曲も難解だし、ぶっちゃけ見た目もめちゃくちゃかわいいわけじゃない。でも、僕のなかでベルハーは一番アイドルらしい存在なんですよ。

田中:ありがとうございます。僕もそう思いながらやってます。

──僕の思うアイドルはどこか壊れそうな雰囲気があると言うか、ダメになっちゃいそうなギリギリの感じがライブで垣間見れるといいなと思うんですよ。

田中:テレビで「風の谷のナウシカ」を唄うデビュー当時の安田成美さんみたいな(笑)。でも、安田成美さんは歌が下手なわけじゃなくて、細野晴臣さんの曲が難しいだけなんですよ。お世辞にも上手には聴こえないのが、なぜか愛おしかったりする。YouTubeに上がってる映像を僕はいまでも時折見てるんですけど。

──上手く説明できないけどなんかいい、ってありますよね。全体の雰囲気と言うか、佇まいと言うか。ベルハーにもそういうところがあると思うんです。

田中:ただ、ここ最近は「ベルハーと言えばこういう感じ」みたいなイメージがだいぶ固定されてきましたね。それは否応なく固まってくるものだし、その意味も含めてこのタイミングで活動休止するのはちょうど良かった気もするんです。正直、ここまで出来上がってきたものを壊すのはもったいない気持ちはありますよ。でも、自分のやりたいことがある程度形になって、ここから先はどうなるのかな? と思った時に、一度壊してまたやり直したい気持ちがどこかにあったんです。それに、こういう機会がなければ壊せなかっただろうし。いままでは自分のなかで踏ん切りがつかなくて壊せなかったのかもしれないけど、メンバーの意志によって壊れてくれたのかなぁ…と思ったりもしますね。だから新しいことを始める2017年がすごく楽しみなんですよ。

──10月に新宿ロフトでやった新メンバーの公開オーディション、あれをもう一度やってもいいですよね。

田中:ぜひ、やりたいですね。年内でベルハーは活動休止ということになってたんですけど、1月2日、3日に行なわれる『New Year Premium Party 2017』から出演のオファーをいただいたんですよ。主催者の方にどうしても諦めきれないと言ってもらえたので、代わりにヘルパー(HELLRING乙女パート)さんに出演してもらおうかと思って。

──ヘルパーというのは、『闇金ウシジマくん』で知られる真鍋昌平さんのドルヲタ漫画『アガペー』に出てくるベルハーをモデルにした架空のアイドルですね。そんなヘルパーの最初で最後のライブが実現すると。

田中:そうなんです。ヘルパーさんでもライブを一度やりたいと僕も考えていて、これが最初で最後のチャンスだと思ったんですね。

──真鍋さんが『アガペー』を描くにあたってベルハーをモデルにしたのは、どんな経緯があったんですか。

田中:ちゃんとした経緯を僕は把握してないんですけど、もえち(宇佐美萌)のヲタクで漫画を描いてる女性がいたんです。その方が『ヤングマガジン』の編集部に原稿を持ち込みしてたんですって。で、真鍋先生が久々に『ヤンマガ』で読み切りを描く、それが地下アイドルの話であると。それでたまたまそのヲタクの女性が編集部の人からアイドルを紹介して欲しいと言われたそうなんです。他にもアイドルの候補はいたそうなんですが、実際に真鍋先生がベルハーのライブを見て決めてくれたみたいです。

──へぇ。ちゃんと見てくれたんですか。

田中:マーズでのライブを見て、写真を撮って参考にしたそうです。ベルハーのヲタクにも取材をして。その上で事務所に改めて真鍋先生と編集部の方が取材に来てくれたんですよ。その場でいろいろと話を聞かれたんですけど、真鍋先生の聞き方がちょっと吉田豪さんみたいだったんです(笑)。

──“聞き出す”系でしたか(笑)。

田中:いろいろと喋った後に、しまった、ここまで話しちゃったか…とか思ったんですけど、ま、真鍋先生ならいいかと(笑)。最初の話では他のアイドルにも話を聞くということだったので、ウチが使われるのはほんの一場面くらいかなと思ってたんですけど、出来上がったのを見たらベルハーがドーン!と大きく扱われてて驚きましたね。取材の時に「メンバーのなかで一番物語になるのはどの子ですか?」と聞かれたんです。それで一番衝突していたみずほとあやのが面白いのかなと思って、「いまの2人はだいたいこんな雰囲気ですね」と伝えたんですよ。真鍋先生もそこに食いついたみたいで、漫画のなかでピックアップされてましたね。

──ベルハーを紹介した女性はもえち推しだったのに(笑)。

田中:噂によると、もえちを描いて欲しかったらしいです。スンマセン。

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アイドルにウソをつかせちゃいけない

──田中さんはヲタクにどう思われてるんでしょう? 割と愛されてる気がしますけど。

田中:うーん…どうなんでしょうね。

──ツイッターではちょっと意地悪と言うか、平熱キャラと言うか。いい人になろうとはしてませんよね。

田中:いい人じゃないですからね、実際。

──田中さんとベルハーみたいに、運営の顔が見えるアイドルって意外と少ないなと思って。

田中:自分が思ってることを隠してもしょうがないし、隠すようなことをしなきゃいいなと思ってますね。何かを隠すと他のこともどんどん隠さなきゃいけないし、あの子にもこの子にも黙ってもらわなきゃ、ってことになるじゃないですか。そう思うに至ったのもきっかけがあるんですけど……これ、話が広がりすぎですか?

──いや、全然大丈夫です(笑)。

田中:僕の人生最大の失敗があるんです。と言うのは、例の方々の番組を作ってた頃に、バラエティの演出上ではよくあるウソを本人たちにつかせちゃったんですよ。

──番組を面白くさせるために?

田中:いや、構成上の辻褄を合わせるためにです。後になって番組のDVDがリリースされることになって、その発売記念のトークイベントで僕の辻褄合わせをメンバーが一生懸命、本当にあったように話してるんですよ。それを見て、これはやっちゃいかんことをしたぞと思って。俳優や芸人さんならともかく、アイドルにウソをつかせちゃいかんとすごく後悔したんです。

──アイドル本来の魅力が削がれるということですか。

田中:そうですね。たとえば世界一の絶叫アトラクションに乗ってくださいというこちらの指示に、彼女たちはカメラの前で泣きながら「絶対にイヤです!」って怒るんですよ。そういう自分たちの本音もちゃんとカメラに向けて出せばエンターテイメントになることを彼女たちは理解してるわけです。事務所の人から「さすがにここはカットしてください」と言われない限りはガンガン本音を出していく。そのスタイルがすごく面白くて、学んだことがとても大きかった。だけど、他のアイドルの方だと同じような構成でも「すいません、いまの顔は撮らないでください」とか「いまのはカットしてください」とか(笑)。

──自分の魅力に自信がないんでしょうね。

田中:カメラが回ってる間は全部が素材という姿勢でいろよ! って。そういうやり方をしていくからにはやっぱりウソをつかせちゃいけないんです。だからウソをつかなくていいように、言い訳をしなくていいようにしたい。ギスギスしてたらギスギスしてるでいいし、楽しいんなら楽しいで、それが何よりだし。

──アイドルはアーティストじゃないし、与えられた歌と踊りと環境のなかでどう魅力を出すのかと言えば、自分自身をさらけ出すしかないですよね。

田中:上手なウソをつけるようになったらアイドルは卒業でいいんじゃないですかね。まぁ、つかなくちゃいけないウソもありますけどね。

──2月以降に活動再開が予定されている新生ベルハーはどんな感じになりそうですか。

田中:方向性としてはスマートに始めたいです。スーッと流れるように始めて、スーッと定着させたい。

──そのためには下準備がかなり大変そうですね。

田中:はい。いまは最初に出す曲を選んでる最中なんですけど、偶然性を大事にしたいんですよ。最初からあまり決めてかからないように、いろんな偶然を拾い上げて、それを結びつけて発展させたいんです。そのためにはメンバー一人ひとりの意識が重要になってきます。「私たちは売れるんだ、売れるためにこういうことをするんだ」という意識がちゃんとしてないとクリアすべき課題を素直に呑み込めないし、もたもたしてるうちにチャンスが逃げてしまう。そういうことがいままでもさんざんあったんで、ベルハーの魅力を損なわないように意識しつつ、ちゃんとこの世界で結果を残したいという気持ちのある子を選んでますね。あとはやっぱり人に好かれないといけないから、話をしていて「この子はいいな」とか「面倒見たいな」とか思える子を選んでます。僕がそう思えるくらいなら、テレビ局のスタッフやライブハウスの人も同じように思ってくれるはずなので。

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何とかして押し上げたいと思わせるアイドルの意識

──ベルハーのメンバーはみんな人たらし感が強いからかわいがられますよね。以前、阿佐ヶ谷ロフトAでアイドル・プロデューサーの対談イベントをやって、田中さんとベルハーのメンバーに出てもらったじゃないですか。

田中:はいはい、ありましたね。

──阿佐ヶ谷ロフトAのステージ上にはなぜか和太鼓が置いてあるんですけど、イベントの休憩の時にみずほちゃんからいきなり「あの和太鼓を叩いてもいいですか?」って聞かれたんですよ。その言い方がまるで親戚の子どもみたいだなと思って(笑)。

田中:それ以来、ワンマンのたびにあの和太鼓を借りてるんです。この間のTDCホールでもお借りしました。

──エッ、阿佐ヶ谷ロフトAの和太鼓を!?

田中:ええ、ずっと借りてます(笑)。今度のブリッツでも借りたいなと思ってます。みずほはたまに会う人が好きなのかな。頻繁に会ってるとイヤな面が見えてきて信じられなくなるみたい。

──程よい距離感が大事なんですね。

田中:そうそう。まぁ、ベルハーのメンバーはみんな基本的に人懐っこい性格だし、そういう部分は大事ですよね。それプラス、自分たちがどうなりたいのかをちゃんと人に説明できるといい。

──ライブを見ていて、「どれだけ売れたい気持ちがあるんだろう?」と思ってしまうアイドルは多いですね。プロデューサーと同じ視点で目標に向かっていかないとブレイクするのは難しい気がします。

田中:「こうなりたい」って気持ちがあるから応援したくなるんだけど、その気持ちがなければ「いまのままでいいんじゃない? 楽しそうでいいよね」って親戚のおじさんみたいな目線になっちゃいますね。引っ張り上げたいなり、押し上げたいなり、そう思わせてくれるようなことを本人が語れないとやっぱり難しい。自分が番組をやってた経験があるから余計にそう見ちゃうんですよ。「俺が番組のスタッフだったら、この子を助けるかな?」って。心から応援したいと思えたアイドルって、ももクロさん以降だと生ハムと焼うどんの2人(西井万理那と東 理紗)とか。あまり関わりはなかったけどBiSHのアイナちゃん(アイナ・ジ・エンド)とか。

──分かりやすいくらいのガツガツ感があるって言うか。

田中:うん。そこまで売れたいんだったら、こっちもできることがあればやろう! って思っちゃう。目標に向けて明らかに足りない部分があるなら、じゃあこんなことをやってみない? と提案したくなる。すごく頑張ってて、なおかつ売れたいと心底思ってるのを伝えてくれるわけだから。

──シビアな話ですけど、結局、売れないと何も残りませんからね。

田中:どれだけ曲やパフォーマンスが良くてもそれだけじゃダメで、それをよりたくさんの人に見てもらって記憶に残さないといつか消えちゃうので。あと、目の前にある細々とした人間関係にとらわれてる場合じゃない。とらわれてるアイドルは多いと思う。それに足を引っ張られて沈んでいっちゃう。いろんな場面でケチがついたりもするし。それで「こんなことをやってみてもムダ」なんて言う。同じように身動きが取れなくなってしまった自分でも気をつけたいです、これから先は。

 

潜在的なお客さんにも目を向けてライブをやるべき

──性格もバラバラな5人のメンバーに同じテンションまで高めてライブをやってもらうのはすごく難しいですよね。

田中:考えてることややりたいことはバラバラでもいいんですよ。テンションだってバラバラでいい。でも、「今日のライブをいいものにしよう」っていう気持ちがメンバー間で一致してないとダメですね。最近のベルハーのライブで良かったのは、大阪遠征でギリギリの時間に到着して急いで準備をした時です。必要に迫られて気持ちが一致して、共闘関係になった(笑)。でも長い目で見たらそれじゃダメでしょ?

──その場しのぎですからね。そう考えると、ワンマン・ライブって成果を残すのがすごく難しいと思うんですよ。ワンマンを成功させたい気持ちは一致してるんでしょうけど、そこまでの気持ちを持っていく過程がメンバーそれぞれで全然違うじゃないですか。

田中:難しいですよ。演出に力を入れても、終わってみるとメンバーの気持ちはバラバラで。パフォーマンスや演出がロイヤル・ストレート・フラッシュみたいになれば最高なんですけど。最後のブリッツ・ワンマンでさえ噛み合わないかもしれない。

──それはまたどうしてですか。

田中:まとまりかけると壊れようとする力が働いちゃうので。そこを乗り越えられるか。もしかしたら、ワンマン翌日の新宿ロフトのほうが吹っ切れて遥かにいいライブをやるかもしれない。正月と春のワンマンほどセットや演出にお金はかけられないし、今回はシンプルにメンバーの実力が問われます。まぁ、ワンマンはホントに難しいですね。

──アイドルを取り巻く環境やフロアの動員も刻一刻と変わっていくし、ワンマンの読みは難しいとブッキングをしていても感じますね。

田中:ディレクターの目線だとアイドルとしての姿しか見えてないけど、家族や友達と過ごす実生活も裏にはあるわけで。だからなんて言うのかな、いろんなことを抱えながらも、どこを見据えてるか常に分かる子は心強いなと。れーれ(仮眠玲菜)は先を見てるのが伝わる。

──もっとでかくなりたい、売れたいと。

田中:うん。彼女はかなり早い段階から「いまはグループの状況が良くないです」と客観的に見ていたんですよ。普通、自分に降りかかるイヤなことに対してキーッとなるか、何か思っても黙ってるんだけど、れーれは「いまグループがこんな状態なんですけど、どうしたらいいですか?」と相談してくるんです。加入して数ヶ月くらいの頃からそんな感じ。いまはだんだんとお客さんにも信頼されてきてるんじゃないかな。

──なるほど。

田中:あと、メンバーは平日の対バンにベルハー目当てで百何十人か入ってても「今日お客さんが少なかった」って言います。メンバーからはいつものお客さんか、沸くお客さんしか見えないんですね。チェキをためらうお客さんだっているし、後ろのほうでパフォーマンスをジッと見てるお客さんだっている。そういう人たちの存在をもっと信じてほしい。仮にお客さんが少ないと感じていても、フロア最前の向こう、モッシュの向こう、そのまた向こうに見てもらうパフォーマンス。

──木を見て森を見ず、みたいな感じなんですね。

田中:ステージをちゃんと見たいというお客さんが入れ替わり入ってきてるんですよ。後ろのほうで女の子の集団が手拍子しながら見てたりとか。思ってるより自分たちを見に来ている人は多い。チェキを撮りに来る人たちとしか交流できないから分かりますけど、潜在的なお客さんはたくさんいる。運営としても、もっとたくさんライブハウスまで来てもらえるよう線をつなげられなかったのは残念です。それでもライブはすごい状態にまで持っていってくれたなとは思ってます。だからいまのベルハーの形がなくなるのはホントに残念なんです。もう少し、この先を信じさせられれば良かった。

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コマーシャルが打てるカオスを目指したい

──ライブであれだけ熱狂的な盛り上がりを生み出すインディーズのアイドル・グループって後にも先にもベルハーだけだと思うし、一つの頂点を極めたのは間違いないですよね。

田中:この先、ベルハーみたいなグループは二度と出てこないだろう、という形で終わるつもりですけどね。もしかしたらレーベルメイトのヤナミュー(ヤなことそっとミュート)がガーン!と行くかもしれないけど、ヤナミューが狙ってるマスはベルハーとは違うところにあるので。

──田中さんにはベルハーをコーチェラ・フェスティバル(カリフォルニア州インディオの砂漠地帯で行なわれる野外音楽フェス)に出演させるという目標がありましたよね。

田中:微妙に手がかかってたんですよ。ベルハーをすごく押してくれてたフェスの関係者が「テントを選ばなければ出れるんじゃないか?」と応援してくれてました。目指すのは活動再開して、もう一度立て直してからになりましたけど。

──でも、諦めてはいないんですよね?

田中:もちろん。1年延びるのか2年延びるのか分からないけど、より急がなきゃって気持ちにはなりました。いいメンバーが揃ったら急いで仕上げる、急いで結果を出す。長く続けられるように自力はちゃんとつける。壊さないように、でも急成長させるように。そういう体制作りを2017年は頑張りたいですね。2016年は主力メンバーの離脱が決まって、僕も一時期完全に停止してしまったし。だけど、何か面白いことを立ち上げようとした時に壊れるものはもう仕方がない。無理に延命しようと思えばできるけど、そういうことじゃないし、もっと大きな場所で勝負をして結果を残したいんです。

──2016年のアイドル界隈である種の揺り戻し現象が多々起こったぶん、2017年は面白いことが起こりそうな気がしますね。

田中:いまの運営規模だからこそできることとできないことがそれぞれあるんです。これが大手の事務所だったらベルハーみたいな楽曲じゃ勝負できないし、こんなパフォーマンスもできないでしょう。でも必ず頭打ちになる瞬間が来るわけで、その時にどうやって人を巻き込んでいくかが肝になるでしょうね。2017年は新生ベルハー、新グループ、あやののソロの三本柱で面白いことをやっていくつもりです。主軸のベルハーも名前を変えて一からの出発ですね。ハイロウズがクロマニヨンズになった時みたいな感じで(笑)。もう一度新鮮な気持ちで始めることなので。まずはその変化を楽しんでくれる人たちだけ見に来てくれればいい。そこから新しいファンと広げていきたいです。

──新しいベルハーが踏み絵みたいなことになりそうですね。

田中:もちろん分かる人にだけ分かればいいとは思ってないんです。分からない人に分からせるようにしなくちゃいけないし、そのためにも2017年は届けやすい楽曲やパフォーマンスを生み出す環境を整えたい。ハマってみたらとにかく奥が深かったみたいな、コマーシャルが打てるカオスを目指していきたいですね。

 

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BELLRING少女ハート写真集+DVD
Photograph collection and DVD『AROUND THE WORLD』

A3/オールカラー/全24頁/中綴じ/DVD付き
定価:本体2,500円+税
ISBN:978-4-907929-18-3 C0073
一般発売:2016年12月30日(先行発売12月22日)
ロフトブックス(有限会社ルーフトップ)刊

真っ黒なセーラー服に黒い羽根をまとった5人の少女がサイケデリックロックやグランジロック、エレクトロニカなどの楽曲をときに激しく、ときにエモーショナルにパフォーマンスをする──。
東京のアンダーグラウンドシーンでカルト的人気を誇る地下アイドル「BELLRING少女ハート」(通称ベルハー)がLIVE DVD付きの特大写真集を刊行。
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