スパルタローカルズ時代からロフトのステージに数多く立ってきた、HINTOのボーカル&ギターの安部コウセイとギターの伊東真一。その二人がHINTOとは別に活動しているのが、叙情性溢れる音楽を奏でる、アコースティックユニット堕落モーションFOLK2だ。
幾何学さと奇天烈さを降り交えながらも、洗練されたダンスミュージックを主体としているHINTOとは真逆とも言える、このユニット。2本のアコースティックギターのアンサンブルに乗せ、地方出身者の都市生活の日常を素朴に歌として綴ったかのようなその音楽性も印象的だ。
その堕落モーションFOLK2がロフトのスタッフ、樋口寛子が主催する歌ものフェス『DREAM MATCH 2016』(9/25 @O-EAST)に出演。当日は、その2本のギターによる奥行きのあるアンサンブルと、抒情性溢れる歌によって、聴く者のノスタルジックを掻き立たせ、その描き出す原風景と共に望郷への景色を広がらせるステージを展開してくれることだろう。
そんな2人が、この『DREAM MATCH 2016』インタビューシリーズに登場。自身の音楽性を始め、ロフトについて、同イベントへの参加の意義や意気込みを忌憚なく語ってくれた。
━まずは、今回の『DREAM MATCH 2016』に誘われた感想から教えて下さい。
安部 : 嬉しい反面、正直、意外なところもありました。と言うのも、僕らスパルタローカルズ時代から、ロフトでライヴをやったり、イベントに誘われることはあっても、今回出演される他のアーティストさんに比べ、そんなに(主催者の)樋口さんと蜜月な関係じゃなかったもので。彼女に出演依頼を頻繁に受けるようになったのも、わりとここ最近ですからね。
━ちなみに樋口さんには、どのような印象を?
安部 :凄くミュージシャンのことが好きで、音楽のことが物凄く好きな方なんだろうなって。それが凄く伝わってくるんですよね、樋口さんからは。でも、それって、同じようにイベントやライヴに来ているお客さんにも伝わると思っているんです。企画者のそういった気持ちみたいなものって。だから、今回も"凄くいいイベントになるな…"愛情あふれるイベントになることは、間違いなさそうだな…"との予感と、あとは樋口さんが伊集院光さんのラジオが好きで、昔よく聞いていたらしい情報を得たので(笑)、"この人は間違いないゾ! "と(笑)。
━(笑)。
安部 : "人生の機微を分かってそうな人だゾ"って(笑)。波長も合いそうだし、「では、出演しましょう!」と (笑)。なので、メンツや会場、規模よりも、まずは樋口さんのやるイベントだってところで出演を快諾させてもらいました。
━今回のメンツでも弾き語りの方もおられますが、そんな中でも堕落はかなりの叙情派ですもんね。
安部 :アコースティックギター2本で他の人がやっていないようなこと、アコースティックギターの絡みやアンサンブルを観せられたらいいなと思います。元々このユニット自体、<肩の力をむちゃくちゃ抜いて演ろう!>というところから始まっているんで、観ていただくお客さんにはリラックスしていただきつつ、一般の弾き語りの方々とは少し違った私たちの音楽性を楽しんでもらえると嬉しいです。
━これまで数多くの形態で出演してきたこのロフトですが、お二人にとってこのロフトは、どのような印象のライヴハウスですか?
安部 : スタッフの一人ひとりが意思を持っていて、みなさんやる気があるライヴハウスだなって。スタッフのみなさんや場所自体は、けして明るくはないんですが(笑)、妙なバイタリティがあるんですよね、このロフトには。だけど、今でこそ慣れましたけど、最初に福岡から東京にライヴを演りに来て、ここに出させてもらった時は、場所も場所なんで(新宿歌舞伎町所在)、おっかないライヴハウスだな…と思いましたよ。東京のおっかなさの代表みたいなライヴハウスでした(笑)。10数年前は、それこそこの辺りも客引きが沢山いたし。
伊東 : 僕の想い出は、初めてフジファブリックと一緒にライヴをやった場所ってことかな。その時のフジの印象がかなり鮮烈で。演奏は上手いし、完成度も高かったし。凄く嫉妬したのを覚えています。
━『DREAM MATCH 2016』への意気込みを聞かせて下さい。
安部 :僕ら、もう年齢的にもよるのか、"このライヴで爪痕を残して…"や、"これを機に売れてやろう!!"なんて気概で、イベントライヴにあまり臨まなくなってきてるんです。いわば、"そのイベントの中で、自分たちがどういったポジションなのか?""何を求められているのか"?を察して、イベント全体が面白くなればいいなといった考え方に変わってきたと言うか。その自分たちの役割を果たせば、イベント全体が楽しくなるし、来た人も満足してもらえるんじゃないかなって。
伊東 :実はライヴだと、自分たちの曲以外にもカバー曲等もやったりしているんですが、それもその日に合わせて何がやれたらなって。樋口さんがやるイベントということもありますし、うちらなりの役割を出せたらいいなと思っています。
━9月21日にはHINTOのニューアルバム『WC』もリリースになりますね。
安部 ::いわゆる自分たちがいいと思うものを反射神経で作ってみようと。実は、その作り方って元々堕落で始めた頃の作り方でもあったんですよね。なので、これまでとちょっと違う感じに捉えられるかもしれない。
━前作に比べ、かなり行き切った印象を受けました。
安部 : 前作で、"まだ行けたんじゃないか?"との気持ちは正直持っていて。で、その行き切れなかった理由として、理屈だったり、頭で考えているところだったりしたんじゃないかと。聴き手や届け手のことを考えちゃって、それがどうしても足枷になって、中途半端なものになってしまっていたんですよね。
━意外でした。何か歌に意思やメッセージめいたものを感じる曲があったので、てっきり聴き手のことをより考えての作品作りにシフトしたとばかり思ってました。
安部 :前作はお客さんを意識していたのに対して、今回は全くしてないんですよね。そんな中、こういった曲たちが生まれたのが、自分でも不思議で。ズレてんのかな、俺 (笑)。逆にモチーフが明確になったのが要因かなと。
━その相手というのは?
安部 : 例えばメンバーですね。「ザ・ばんど」っていう曲はメンバー自身がテーマになっていたりするし、発した言葉からインスパイアされた曲、具体的な人物がいて、その具体的な人物が発した言葉で、その場の雰囲気がこうなって、自分の気持ちがこう変わって…というのが、どの曲にも根本にはありますからね。とは言え、書いていること自体は全てフィクションですけど。逆に、そこがより伝わりやすさに繋がっているのかもしれませんね。僕自身、この作品を非常に気に入っていて。珍しく自分の作品をリピートして聴いてます。
伊東 :年々言葉にしなくても分かり合ったり、任せる部分が増えてますからね、お互い。メンバー間でも、"たぶんこうやってくれるだろう"と予測できるようになっているというか。それがより作品として表れた感はありますね。
━最後に新宿ロフト40周年へのメッセージをお願いします。
伊東 :「40年」ってパッと聞き、"長いな"って印象ですが、よくよく考えたら自分も既に38歳なので、けっこう長く生きてるんだなって。まずは、それにショックを受けました(笑)。ホント、最初にロフトに来た時のカルチャーショックは大きくて。"恐ろしそうな街だな…"って(笑)。あの頃は常々、新宿の街が苦手に思ってましたけど、来る度に愛着って涌いてくるんでしょうね。逆に今じゃ、"新宿って居心地がいいな…"とさえ思えるようになってきました。自由なんですよね、新宿は街が。今ではロフトに来るのが全く苦痛じゃなくなっていて不思議です。
安部 :みなさんにお祝いされているのも、キチンとこれまで意味のあるイベントや気持ちのあるブッキングをしてきた証拠だし、その積み上げから成るものですからね。その基本をこれからも是非続けて行って欲しいです。<ロフトに行けば面白い対バンが観れる><ロフトらしい対バンだね>や、<ロフトのステージで観ると、いつものバンドも違った風に見える>、いつまでもそんなライヴハウスで居続けて欲しいです。