Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューLITTLE DONUTS(Rooftop2015年12月)

パンクのアティテュードを身に宿した極上のジャズ・アンサンブル

2015.12.01

 勝手にしやがれの"kazz"こと田中 和(トランペット、パーカッション)、田浦 健(テナー・サックス)、斎藤淳一郎(ピアノ)からなるトリオ・バンド、LITTLE DONUTSが結成9年目にして初のアルバム『HAPPY TALK』を発表した。ポーグスの名曲やキャプテン・センシブル(ダムド)経由のミュージカル・スタンダード、ビートルズや松田聖子のヒット・ナンバー、果ては懐かしの日産自動車のCMソングや『水曜ロードショー』のテーマ曲に至るまで、オリジナル楽曲を交えながら放たれる古今東西のカバー曲はジャンル不問、縦横無尽。そんな選曲のセンスも異質なら楽器編成も異質、時代と逆行するようなオーバーダブ一切なしの一発録音も一貫したアンプラグドの生音勝負も異質中の異質。だがそんなことは柳に風とばかりにホットでクールなメロウ・ジャズを奏でる彼らのスタンスは、音の表層的な柔和さとは裏腹に徹頭徹尾パンクそのもの。異質でマイノリティなイノベーターだからこそ面白くて楽しい音楽がやれることを『HAPPY TALK』という作品は教えてくれるのだ。(interview:椎名宗之)

原曲の良さを大事に、シンプルな形で出せたら

──そもそもこのトリオ・バンドは、総勢10名からなるラテン・パンクバンド、THE BLUE DONUTSから派生したんですよね。
田浦:厳密に言うと、始めからトリオ編成だったんですよ。勝手にしやがれとは別のユニットとしてジャズっぽいことをやりたくて始めたんです。
田中:勝手にしやがれよりもフットワークが軽い感じでね。武藤(昭平)君がやっている「武藤ウエノ」、ソロ制作期からすると、トリオ活動は言わば「魁」でしたね。今もTHE BLUE DONUTSとLITTLE DONUTSを同時進行でやってるんです。
──“DONUTS”という言葉には思い入れがあるんですか。
田中:ドーナツ盤への愛着ですね。“青いドーナツ盤”ってちょっと特別感があるって言うか。昔あったじゃないですか、カラーのピクチャー盤って。
──当初から演奏する曲はノンジャンルで行こうと?
田浦:そうですね。トランペット、テナー・サックス、ピアノという編成でリズム隊がいないので、最初のうちはスタンダード・ナンバーをやるとピアノのリスクが高かったんですよ。でもやっていくうちに歌モノっぽい曲やシンプルにメロディを吹ける曲が説得力があっていいなと思って、今みたいな感じになったんです。
──トランペットもテナー・サックスも、ずっと吹きっぱなしなのは辛くないですか?
田中:まぁ、唄い手みたいなものですからね。
田浦:ボーカルに近いし、曲のメロディを淡々と吹く形になってきたんですよ。原曲の良さを大事にしてますね。
田中:そう、原曲を凄くリスペクトしながら吹いてるんです。それを素直に、シンプルな形で出せたらと思って。
──今回発表された『HAPPY TALK』の収録曲は、ライブのレパートリーを中心に選んだ感じですか。
田中:そうですね。通常やってる形をそのまま収めたと言うか。
田浦:8年やってきて初めてのアルバムで、ほぼベスト盤に近い感じですね。物量的にも。
──アルバム・タイトルにもなっている「HAPPY TALK」が象徴的なんですが、ダムドのキャプテン・センシブルがソロでカバーしているバージョン経由で原曲にアプローチしているじゃないですか。それは決してジャズ一辺倒ではない、パンクの洗礼を受けた皆さんの世代ならではですよね。
田浦:自分の通ってきたルーツの中で「この曲、格好いいな」と素直に思えるものをやってるだけなんです。自然とそんなフィルターになるんですね。
田中:僕は譜面を起こすこともないし、その時に思い浮かんだイメージのまま演奏してるんですよ。「HAPPY TALK」はセンシブルのシングル盤そのままの構成でやってるし、スタンダードな原曲ではない「HAPPY TALK」しか僕の中ではイメージがなかったんです。ソロ回しは僕らなりにちょっとスタンダードっぽく突っ込むんだけど、それ以外はいいとこ取りみたいな感じですね。
──皆さんの世代ならではと言えば、松田聖子の「ガラスの林檎」もそうですね。
田浦:当時の歌謡曲もちゃんと通ってきましたからね。どんな曲を取り上げても、編成が編成だけに面白く聴けると思うんですよ。
田中:「ガラスの林檎」はね、今回のリリースがやってみるきっかけだったんです。聖子ちゃんをカバーするならこれしかないと思って、2人に投げかけて。「SWEET MEMORIES」をやって欲しいとレーベルのA&Rから言われたんだけど、あれはいろんな人がやってるんでね。
──日産自動車のCMソング「世界の恋人」や『水曜ロードショー』のテーマ曲だった「水曜日の夜」をカバーするセンスも良いですよね。
田浦:その辺はkazzさんの選曲ですね。
──子どもの頃の記憶が呼び覚まされるし、改めて聴くとこんなに良い曲だったんだなという発見もあります。
田中:そう言ってくれる人もそんなにいないと思うんですけどね(笑)。そういう選曲も僕の頭の中にあるものを全部出してる感じで、ただやりたいだけなんです。衝動でもあるし、このトリオでやってみると良いんじゃないか? みたいな計算も何もなくて。その手のカバーは僕が中心で選んで、スタンダード・ナンバーは田浦君がセレクトしてくれるんですよ。オリジナル楽曲もけっこう田浦君が提供してくれてるし、トリオのイニシアチブを取ってるのは田浦君なんです。
 

ジャズの入門編としても最適の一枚

──kazzさんがとにかくやりたい曲をやるというスタンスでも、ちゃんと作品全体の統一感がありますよね。
田中:そんな統一感なんて生まれるとは思ってなかったけど、そこは化けたところですかね。まぁ、もともとの発想がミクスチャーなんでね。今までやってきたバンドとやり方は同じなんですけど。
──今回はオーバーダブ一切なしの一発録音ですが、勝手にしやがれでもやっていない手法なのでは?
田浦:最近はやってないですね。ただ、生々しい音を録りたいという発想は同じなんです。それを「せーの!」で録れるならそうしよう、って感じで。生々しく録れればメロディの説得力が出てきますし。
田中:一発録音は集中力が高まるし、全部録り終えると自分たちの演奏が上手くなってるのに気づきますね(笑)。
田浦:お互いの顔を見ながら息を合わせて演奏するのが今回は醍醐味だったし、その意味ではスタジオ作品でありながらライブ録音盤ですね。
──オリジナル楽曲もカバー曲と負けず劣らず名曲揃いで、とりわけ東北民謡のリフを参考に作られたという「SOYA」は和洋折衷な雰囲気でユニークですね。
田浦:あれは斎藤が書いた曲ですね。ジャズもそうですけど、やっぱりちょっと土着的なもの、アーシーな感じなのがみんな好きなんですよ。
──穏やかで心が和むメロディが奏でられる「ユキさんの後姿」は、ブラサキ(Bloodest Saxophone)の押川ユキマサさん(バリトン・サックス)をイメージして作られたそうですが。
田中:ブラサキをご存知の方ならニヤッとするんじゃないですかね。コワモテな雰囲気とは裏腹な彼のほのぼのとした性格、天然っぽいところを曲にしてみたんですけど、ちょっと美化したところはあるかな(笑)。
田浦:確かに、かわいくやりすぎた感はありますね(笑)。
──田浦さんいわく「荒波に漕ぎ出す船がイメージの曲」というメランコリーな風情の「BLUE BLUE BLUE」は、キャッチーさが際立ちますね。
田浦:三拍子だからかな。当時は三拍子の曲が好きだったんですよ。
田中:あれはトリオをやり始めた初期の頃の曲なんです。癒しの極みですね。
──まろやかでこくのあるジャズ・バラード「MERLOT」もリラックスした雰囲気に浸れて良いですね。
田中:僕らの定番のバラードですね。出来たのは結成してからだいぶ経った頃なんですけど。
──構成の妙もあると思うのですが、そうしたオリジナル楽曲はホレス・シルヴァーやドン・ピューレンのカバーと並べても違和感なく溶け込んでいますよね。
田浦:オリジナルにしてもカバーにしても、ソロ回しとかもなるべくやらずに、楽曲をシンプルに表現するのが一番良いって結論に至ったんです。それもあるんじゃないですかね。
──そもそも、トランペット、テナー・サックス、ピアノというミニマムな編成で古今東西の名曲を縦横無尽に演奏するスタイル自体がパンクですよね。表層的には洗練されたホットでクールなメロウ・ジャズだけど、アティテュードはとびきりパンキッシュだと思うんですよ。
田浦:ボーカルとピアノの伴奏みたいな感じもあるし、発想はその延長線上にあるんです。まぁ、結果的にこうなっちゃっただけなんですけど(笑)。
田中:実はね、ライブではクラッシュとかもやってるんですよ。「WRONG 'EM BOYO」なんかはもとから管楽器が入ってるから定番だけど、その辺以外の曲もやったりして。
──ポーグスの「FAIRYTALE OF NEW YORK」は納得のカバーですけどね。
田中:ポーグスをやるならあの名曲以外に考えられなかったんです。まだまだやれる曲はあるけど、こうしてアルバムに入れるならね。
田浦:歌メロをそのまま吹いてもかなり格好良くなってると思うし、個人的にも凄く良いカバーだと思うんですよね。メロが美しいからそのままやれるんですよ。
──美しいし、うっとりしますね。原曲本来の良さを別の角度から照らし出すことに成功した好カバーだと思いますし。
田中:そう言っていただけると嬉しいですけど、そんな理解のある人たちばかりじゃないですからね(笑)。もっとたくさんの人に聴いてもらいたいんですよ。
田浦:取っつきやすさはあると思うんですよね。耳馴染みの良いキャッチーなリフも多いし、これくらいシンプルな演奏ならジャズの入口としても最適だと思うし。
 

LITTLE DONUTS
「HAPPY TALK」

FAMC-206
価格:2,300円+税
LABEL:LIFERECORDS
発売・販売:株式会社KADOKAWA
IN STORES NOW

amazonで購入

【収録曲】
1. ALICE IN WONDERLAND(lyrics:BOB HILLIARD/music:SAMMY FAIN)
2. FAIRYTALE OF NEW YORK(lyrics & music:McGOWAN, FINER)
3. SISTER SADIE(lyrics & music:HORACE SILVER)
4. ユキさんの後姿(music:LITTLE DONUTS)
5. HAPPY TALK(lyrics:OSCAR II HAMMERSTEIN/music:RICHARD RODGERS)
6. SONG FROM THE OLD COUNTRY(lyrics & music:DON PULLEN)
7. ガラスの林檎(lyrics:松本隆/music:細野晴臣)
8. BLUE BLUE BLUE(music:LITTLE DONUTS)
9. HELLO, GOODBYE(lyrics & music:JOHN LENNON, PAUL McCARTNEY)
10. SOYA(music:LITTLE DONUTS)
11. BROADWAY(lyrics & music:BILL BIRD, TEDDY McRAE, HENRI WOODE)
12. MERLOT(music:LITTLE DONUTS)
13. 世界の恋人(lyrics:野上彰/music:芥川也寸志)
14. 水曜日の夜(music:NINI ROSSO)

iFIオーディオ×OTOTOY presents
LITTLE DONUTS 11.2MHzDSD録音 at TAGO STUDIO
配信限定ミニ・アルバム制作中(タイトル未定、近日詳細発表)

【収録曲】
・TILL THERE WAS YOU(The BEATLES)
・HAPPY TALK(ミュージカル『South Pacific』より)
・BUNNY HOP(勝手にしやがれ)
・SAYONARA BLUES(Horace Silver)

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