数多くの名作を世に送り続けているアニメーション監督、大地丙太郎。監督デビューから20周年を迎える今年。イベント開催を前に今までの作品や映像制作に対する思いを語っていただきました。[interview:柏木 聡(Asagaya/Loft A)]
観ている人を裏切ってやろうという反骨精神
──20周年おめでとうございます。
大地:ありがとうございます。
──どうですか、20年を迎えて。
大地:実はそれまでに3年もった仕事がなかったんです。カミさんは演出になることもホントは反対だったんですけど、「やるんだったら3年頑張ってみなさいよ」って言われて演出を始めたんです。やり始めたら面白くて、今はやめる気はまったくないです。監督は演出をやり始めて4年目で依頼を受けたんですが、最初は自分に合ってないんじゃないかと思ってました。やってみると監督のほうが面白かったですし、ありがたいことに仕事が途切れなかったので続けてこられました。
──監督と演出の違いが分からない方も多いと思いますが、違いや大事なものは何ですか。
大地:違いは僕自身もよく分かってないです。僕は原作のあるものを手がけることが多いので、再現力と順応性は必要だと思います。原作の世界に馴染めるかどうかは大きいと思います。あとは魂の入れ方ですね。演出論は答えが明確に出るものではないような気がします。いつも探りながらやっています。
──大地さんはギャグからシリアスドラマまで作品の幅も広いですよね。今度舞台化もされる『こどものおもちゃ』はまさにそういった作品ですが、当時はどのように制作されたのですか。
大地:「アニメはアニメで自由に作って下さい」と言っていただけたので、もちろん原作を踏襲しつつではありますが、オリジナルを作るのに近い感覚もありました。最初は探り探りでしたが、だんだん面白がってやるようになっていきました。他と同じだと思うなよって観ている人を裏切ってやろうという反骨精神は大きかったですね(笑)。
──私も当時、視聴者として気持ち良く翻弄されてました(笑)。原作も凄くドラマティックな作品ですからね。
大地:当時は娘の年齢が近いということもあって、親としてもそういったいじめや学級崩壊といった問題にピリピリしていたところがあったので、出来たということもあったんだと思います。こうやって話をして思い直すと、今やっている舞台ではまだまだその時の精神が足りないかなと思ってしまいますね。舞台は僕から言い出したことなんですけど、まだちょっと手探りなところもあります。今作ったらどうなるんだろうという楽しみはあるんですけど、悪戦苦闘の予感もけっこうします(笑)。
──新しいものに挑戦するのがお好きですよね。作品内でもそういった点がいくつも見られますし。
大地:そうなんです。新しいものがないと面白くないので、刺激は常に欲しいんですよ。
──少女漫画作品と共に多いのがギャグマンガですが、漫画はよく読まれるんですか。
大地:あまり漫画を読むほうではないので、依頼を受けて読むことが多いです。ギャグ作品は好きなので、依頼をして下さる方はよく分かってらっしゃる、ありがたいなと思っています。
憧れとリスペクト
──実写作品を観られることのほうが多いんですか。
大地:そうですね。最近だと『半沢直樹』にハマりました。近衛十四郎さんが好きなので、『素浪人』シリーズや『柳生武芸帳』が好きですね。
──ハードボイルドな作品じゃないですか。『風まかせ月影蘭』はその影響があってですか。
大地:完全に憧れとリスペクトから作りました(笑)。『ルパン三世』を監督された小池健さんにも参加していただけて、本当にありがたかったですね。
──好きな人が作ってるなと思ってました。殺陣の見せ方は今のアニメに影響を与えてると思いますよ。
大地:そうですかね。国内だけじゃなく海外でも未だに好きだと言っていただけることがあるので、ありがたいとは思っています。
──『フルーツバスケット』も海外評価が高い作品ですよね。あれは静かな作品で空気感を表現するのが難しいように感じますが。
大地:依頼してきたキングレコードの大月(俊倫)さんが偉いですよ。最初に絵を見た時、「なんでこれを持ってきたんだよ。こんな美しい絵の作品をおっさんができるわけない」って言っちゃいました。でも「大地さんしかいないんだ」と言うから、じゃあ作品をやりながら探るよって(笑)。監督だったので僕の手柄みたいになっていますが、キャラクターデザインで林明美さんに原作の雰囲気を再現していただけたり、他のスタッフも原作の良さを出してくれたので、あれはスタッフのおかげです。そういうスタッフを見極める目と集められる手腕を持つ大月さんは凄いなと思います。
──音楽の入り方も素晴らしかったですよ。
大地:岡崎(律子)さんの歌が素晴らしかったですから。
──他の作品でも音楽の入り方が素晴らしいと思っています。
大地:そこにはちょっとこだわりがあります。
──コメディー作品も音楽は命というところがありますよね。そういったセンスはどうやって磨かれたのですか。
大地:赤塚(不二夫)さんが好きだったので、その影響が大きいですね。そのバックにあるチャップリンも含めて、笑いに生涯を懸けていた方々の情熱を受け継ぎたいなとは思っています。柏木さんは本当によく観ていただけてるんですね。
──もともとファンなんです。『神様はじめました』ももちろん観てました。OPも本当に格好良くて、何度も観返しています。
大地:嬉しいですね。実は、OPは苦手なんですよ。『神様〜』は楽曲が本当に世界観にピッタリで素晴らしかったので、久しぶりに良いものが出来たなと思っています。あの歌詞にも惚れていて、字幕じゃない観せ方をしたかったので、入れ方のアイデアが浮かんだ時は嬉しかったですね。
──キャラクターの演技もそうですけど、歌詞のインサートするタイミングも気持ち良くって、本当に素晴らしかったです。
大地:2期もそうですが、OP・ED共にまさかここまで作品を愛した楽曲を作ってもらえると思っていなかったので、ハナエさんの曲を聴いた時は感動しました。
現場での縁は大事にしている
──作品作りを含めて、大地さんは人との繋がりを大事にされるなと思っています。
大地:現場での縁は大事にしています。
──若手の方を起用し、育成される手腕も凄いなと思っているのですが、どういった点を注視して起用されているのですか。
大地:ピンときた方を起用しているだけなので、特にココをというところはないですね。名塚(佳織)さんの声優デビューは僕の作品ですけど、それ以降は彼女の努力の賜物ですよ。
──スタッフでも長濱(博史)さんなど多くの方を育てられているイメージがあるのですが、育成論のようなものがあるのですか。
大地:ないですよ(笑)。みんなそれぞれ自身で努力されたからです。優秀な方ばかりですから、ずっと仕事を手伝って欲しかったけどそういうわけにはいかなかったですね(笑)。長濱さんなんかはトークも面白いし、作画出身ということもあって僕とは違う視点を持っているので、一緒に仕事をすると刺激になります。
──『蟲師』の雰囲気はご一緒された『フルーツバスケット』の空気感に近いと思ったので、影響があったのではと思いました。意外と自分で気づいてらっしゃらないだけで、リンクしている部分があるんだと思いますよ。
大地:そうなんですかね。この二つの作品のスタッフは一緒に仕事をしている人が多かったので、みんなは混乱しなかったのかを聞いてみたいくらいですよ。
──オリジナル・原作共に大地監督の色を残しつつも世界観を見事に表現されていたので、自分なりの演出論を持ってらっしゃるのだと思っていました。
大地:そこら辺は自然に降りてくる的なものがありますね。作品ごとに作法は違うので、臨機応変にしないといけないですから。漫画の場合、吹き出しがあることを考慮した画面作りをしているので、それを分かった上で映像に転換しないといけないんです。漫画を実写化する際の失敗はそこを分かっていない人が多いことなんじゃないかなと思います。観せ方が違うんだから、無理に迎合しないで映画ってものを教えてやるくらいの気位が欲しいんですよね。
──大地さんの作品は実写でやっても遜色がない演出になっていると感じるのですが、敢えてアニメを選ばれた理由は何だったんですか。
大地:僕らの世代はアニメが全然市民権を持っていない時代でした。実写の世界に就職できなくてアニメに、という方も多かったですから、その悔しさを何とかしようという反骨精神があったので。実写の世界はいつまでも憧れであって欲しいとは思っています。最近は好きな監督がアニメを実写化して面白くなくって、がっかりしたこともあるので。実写のほうが上だからな、って観せてくれる人が現れたら、ついていきたいです。
──アニメ監督を20年されても、やっぱり実写映画がお好きなんですね。
大地:好きです。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『ダイ・ハード1・2』などの洋画も好きです。最近はああいう作品が少ないのでまた観たいんですよ。イベントではこういう話もしたいですね。
──いいですね。今、触りを聞くだけでも面白いので是非!
大地:2はなぜ駄作が多いのかのメカニズムも検証したいなとも思っていて、自分の作品ではそうなってはいけないと気をつけているつもりですけど。この話もイベントにとっておきます。話したいことがいっぱいあるな、時間足りるかな(笑)。
──平日ですけど気にしないでヤッちゃいましょう。是非、聞きたいです。
大地:この作品のここダメだって説教コーナー、Twitterとか口外禁止で話しちゃいます(笑)。他にもいろいろと盛り上がるイベントにしたいと思っているので、楽しみにして下さい!