text:柴 那典
自らの信じる「格好いいロック」だけを突き詰めた
本気だ。
シーンの潮流や周囲の状況や、流行りや「今はこういうものがウケるから」というマーケティング的な発想や、そういうすべてのものに背を向けて、ただひたすら自らの持つ刃を研ぎ澄ましてきた。シンプルに、迷いなく、自らの信じる「格好いいロック」だけを突き詰めた。そうすることで、ビリビリと張り詰めたテンションと、強力なエネルギーと、漂う色気を帯びるアルバムを作り上げてきた。
WHITE ASHのニュー・アルバム『THE DARK BLACK GROOVE』は、そういうバンドとしての大きなターニング・ポイントになるような一枚だ。そしてこれ、2010年代の日本のロック・シーンにとっても大きな一石を投じる作品になるかもしれない。「孤高」ではなく、ここから始まる新しい流れの先端になるようなエッジの鋭さが宿っている。
全11曲。まず気づくのは曲が短い、ということ。2分台が6曲、3分台が5曲。そして、それぞれの曲も基本的には骨組みだけをバシッと叩きつけるようなナンバーになっている。
最も象徴的なのが、リード曲としてMVも公開されたアルバムのオープニング・トラック「Orpheus」だ。「ドン・ドン・タ・ドン・ド・ドン・タ」というリズム・ループの上でのび太(vo, g)の歌が響く。そこにコーラスが重なってくる。曲の半分近くはビートと声しか鳴っていないという、極限まで削ぎ落とされたようなアレンジだ。
そこにまるでレッド・ツェッペリンを想起させるような骨太なギター・リフが乗っかってくる。しかもこのリフ、ひとつの音からしか成り立っていないのだ。リズムの音に合わせてオクターブを上下するだけの、ほんとにプリミティヴなリフ。シンプルの極みのようなバンド・アンサンブルなのだが、その音は強力に鍛え上げられている。山さん(g)の奏でる硬質なギター、彩(b)のシュアなベース、そして剛(ds)の叩き出す力強いビートが、それぞれに存在感を主張する。
2曲目の「Just Give Me The Rock 'N' Roll Music」を聴くと、彼らの変化が確信に満ちたものであることが伝わってくる。何しろ、曲のタイトルですべてを言い切っている。「ロックンロールをくれよ」。またしても曲の切っ先となるのはギター・リフ。リフの切れ味はこれまでもWHITE ASHというバンドにとっての大きな武器となっていたが、その重心はグッと低いところに置かれている。そのグルーヴの「重さ」が、今回のアルバムの核心ともリンクしている。タイトルは『THE DARK BLACK GROOVE』。ダークで、黒いグルーヴ。ロックンロール本来の、ブルースの燃えたぎるグルーヴのことを意味しているのだろう。
海外のロックとの同時代性を感じさせる存在
およそ1年3ヶ月ぶり、バンドにとっては3枚目のフル・アルバムとなる本作。1枚目の『Quit or Quiet』は結成から積み重ねてきたインディー時代の集大成の姿を見せるようなアルバムだった。アークティック・モンキーズに衝撃を受けて結成したバンドが、同時代のUKやUSのロックのスタイリッシュな格好よさと邦楽ロックの豊かなメロディ・センスを昇華して作り上げてきた自らのオリジナリティが結実したような一枚だった。
そしてメジャー移籍を果たし、瞬く間にシーンの注目株となってからの2nd『Ciao, Fake Kings』は、言わばバンドがより広い場所に打って出たことが反映された一枚だった。蔦谷好位置をプロデューサーに迎えた楽曲も収録し、サウンドの振り幅も増えた。4人だけの音にこだわらず、さまざまなアイディアを盛り込んだアレンジが採用された。そういう自由度の高さは本作にも引き継がれているが、圧倒的に違うのは新作は「足し算」ではなく「引き算」の発想で作られている、ということ。
すでにさまざまな場所で語られているが、ここ2、3年の日本のロック・シーンには明確なひとつの潮流がある。それは、ひとつの曲によりたくさんのフックを詰め込むような曲調だ。イーブン・キックとオープン・ハイハットの組み合わせで「ドツ・ドツ」というビートを叩き出し、オーディエンスを踊らせる四つ打ちダンス・ロックの方法論も一気に広まった。
たとえば一曲の中に数曲分の情報量を詰め込み、高速BPMの中でクルクルと場面が展開していくようなタイプのラウド・ロックも人気を獲得してきた。ライブの場でオーディエンスの熱狂を呼び覚ますため、よりハイ・カロリーなサウンドを志向するバンドも多くなってきた。その背景には、フェスというものがロック・リスナーにとってのひとつの中心的な場になってきたことも大きいだろう。
が、WHITE ASHというバンドは、そういった今の傾向とは一切関わり合いのないところで新作を作ったようだ。おそらく、のび太が前々から標榜してきた「シンプルで格好いい」ロック・サウンドをひたすらに追求した結果なのだろう。
面白いのは、ここ数年、ガラパゴス的な環境の中で情報量過多な進化を遂げるJ-POPや日本のロックの一方で、アメリカのポップスやロックのシーンはどんどん音の装飾を削ぎ落したソリッドな曲調の方向に向かっている、ということ。昨年にグラミー賞を受賞したロードもそうだった。ガレージ・ロックの2人組、ブラック・キーズが2010年代のアメリカの最重要バンドになっていることも、その象徴のひとつだろう。
今の彼らがそういった2010年代のアメリカやヨーロッパのロック・シーンの潮流をどれだけ意識しているのかは分からない。が、少なくともメジャー・シーンで活躍するバンドの中でそういった意味での海外との同時代性を感じさせる存在が彼ら以外には見当たらないのも、また事実だ。今年4月にはそのブラック・キーズの11年ぶりの来日公演が行なわれるが、4月22日の公演にはWHITE ASHがサポート・アクトとして出演することも決まっている。そこで起こるだろう化学反応も楽しみだ。
CMソングに起用されシングルとしてもリリースされたアルバム収録曲「Hopes Bright」の中で、のび太は〈すべては君次第〉〈目の色を変え/運命を変える君が/僕らの明るい希望〉と唄っている。WHITE ASHの新章を、どう受け止めるか。ビルドアップした彼らが放った力強い宣言が、どんな結果を生み出すのか。それも「君」にかかっている。
ニュー・アルバム『THE DARK BLACK GROOVE』先行試聴会
ミニ・レポート
2月某日、全国4箇所でアルバム先行試聴会を行なったWHITE ASH。
全箇所メンバー4人揃って登場し、アルバムの全曲試聴、制作秘話を含めたトーク、アコースティック・ライブが行なわれた。
当日来場者に配布されたアンケートを元に、いち早くアルバムを試聴したファンのアルバム・レポートを掲載!
2月11日(水)札幌 Musica hall cafe
「映画のサントラを聴いてるようにイメージできました」(えみ・北海道・50才・女)
「ドラムの音が特に印象的。今までの曲と違う気がする! めっちゃかっこいい!」(亮介・北海道・19才・男)
「思わずニヤリとしてしまう1曲ですね」(すやすや・北海道・43才・女)
「全体を通してかっこよくのれるアルバムだと思います」(ユマ・北海道・22才・男)
「攻めて来たなーと感じるアルバム♪」(ゆか・北海道・32才・女)
「WHITE ASHらしさがとても出ていました」(ひかり・北海道・20才・女)
「めっちゃグルーヴィー!」(あっきー・北海道・31才・男)
2月14日(土)東京 SOUND INN STUDIO
「対訳って面白いですね。のび太さん独特の曲作りへのこだわりを感じました」(東京都・わかにゃん・30才・女)
「思わず身体がリズムを刻んでしまいました!」(東京都・カンパリソーダ・24才・男)
「のびさんの声が曲と凄い合ってる!」(立川市・まべかわ・30才・女)
「ダークな感じでかっこいい音。らしさが出てるかも」(埼玉県・とめ・41才・女)
「全曲色が違うけど同じ世界観で聴けた」(埼玉県・ハグレモノ・男)
「最高にカッコいい!」(東京都・ヨネコ・22才・女)
「ライブで聴くのが楽しみ」(東京都・ザキ・23才・男)
「対訳が凄く好き」(東京都・あんな・20才・女)
「頭からダーク感が出ていて、凄くワクワクする」(かなこ・20才・女)
2月15日(日)大阪 CINEMATIK SALOON
「グルーヴ感! 最高です」(まる・兵庫・21才・女)
「海外の映画の主題歌にピッタリな感じ!」(すー・滋賀・32才・女)
「ギター・ドラム・ベース・ボーカルの“Groove”感がハンパないです!」(ゴリ・大阪・17才・男)
「アルバムがひとつのストーリーになっているという意味がよく分かりました」(きのこ・大阪・31才・女)
「フルボリュームにして腹でドラムを感じたい!」(MIKI・兵庫・48歳・女)
「かっこいい! もう一回、いや、もっと何度も聴きたい!」(しーちゃん・大阪・28才・女)
「11曲聴いても全く飽きませんでした」(のんたん・大阪・15才・女)
2月17日(火)名古屋 KDハポン
「聴き入りすぎて感想全部書けませんでした」(はるか・愛知・20才・女)
「最高ー!」(あばら・愛知・22才・男)
「訳が特に好きです、WHITE ASHのバラード、好きです」(もりし・愛知・33才・男)
「とにかくかっこいいです!」(コム・愛知・31才・女)
「ALBUM、ハードリピート決定っ!!!」(まいこはーん・愛知・27才・女)
「思わず体が動いてしまう感じです」(彼花・愛知・19才・女)
「やっぱりのびちゃんの声、大好きだなぁと思いました」(みわ・三重・21才・女)