直線美(造語)を活かした歌やダンスなどを披露し、異彩な雰囲気が印象的な、女性ピン芸人"椿鬼奴"。今年芸歴15周年を迎え、6月9日には渋谷Duoで「椿鬼奴15周年リサイタル」が決定した。ロフトとも付き合いの長い彼女だが、ミステリアスな雰囲気と常にマイペースな芸への姿勢は、彼女にしかない大きな魅力だろう。自分の好きなモノを、全力で披露する姿は美しい。音楽活動も含め、今後も目が離せない存在の1人だ。(interview:鈴木 恵/Naked Loft店長)
歌は最初から歌っていた
「いえ、出演するまで知らなかったんです。私はライブを観に行くとしたら外タレばっかりで、ビースティ・ボーイズや、レディオヘッドが来日した時は、川崎クラブチッタには行っていたんですけど。ライブハウスはチッタぐらいかなぁ。あとは横浜アリーナとかロックフェスに行くとか。ライブハウスはあんまり行ったことなかったな。高校時代はライブを観に行く習慣もなくて」
── 学生時代も聴くのは洋楽ばかりでしたか?
「家にある廃盤ベストヒットとか、古い歌ばっかり聴いてましたね。高校の時は部活をやってたから、放課後はもう弓道しかやってなくて。浪人して、大学に入ってから遊ぶ友達の影響で洋楽を沢山聴くようになりました。スノーボード仲間がいて、車に乗り始めてからみんな洋楽を聴いてたかな。レッチリ(Red Hot Chili Peppers)とかビースティ・ボーイズとか。自分でも“BEAT UK”(1990~2002年まで放送されていた洋楽音楽番組)を観るようになりました」
── それから芸人へはどんな経由ですか?
「友達が“ケイコとマナブ”でNSC(吉本総合芸能学院)を見つけて、お笑いの学校があるよと教えてくれたんです。それで、とりあえずお稽古ごと感覚で応募して、週に2回3回、会社を早退させてもらって通っていました」
── 当時はどんなネタでしたか?
「最初はNSCで知り合った人とコンビを組んでたんですけど、最初のネタは“白虎隊”という時代劇(1986年大晦日、二夜連続で放送された時代劇)があって、その思い出が強いからそれをネタにしたりとか。『愛しき日々』という堀内孝雄さんの曲が主題歌なんですけど、それをネタの前後にはさむっていうことをしてました。私が歌って始まって、最後また『愛しき日々』を歌って終わるみたいな感じのネタですね。歌はもう、最初の頃から歌ってました」
自分が思っている「私」と、周りが思っている「私」が違う
「初めてはいつだったんだろうな。キワモノ演芸(2004年よりロフトプラスワンで開催していた、地下臭がたまらない名物イベント)か、(マンボウ)やしろさんのオールナイトトークライブかどっちかかな。キワモノ演芸は、下ネタのメンバーばっかりが出演していて、全然呼ばれる覚えもないし、出たくもなかったんです。下ネタ苦手だし、私下ネタなんかやったこともないのに…って。優勝した時(2006年春場所)もウクレレで歌唄ってただけだったし」
── 何故か呼ばれて、何故かハマってしまった感覚ですかね。
「そうですね。私からすると、ロフトのお客さんがウケやすいって感じかな。普通の劇場だと全然人気ないのに、ロフトだとウケるなと思って。私はサブカルの事を詳しくもないし、キワモノ演芸も嫌だし、ルーフトップとかで観るような過激なイベントや写真を見るだけでも嫌だし。だけど周りやお客さんからすると、私はそう見えてるんだなって思いますよね。そんなの全然好きじゃないのに。だから私が思う自分と、人が思う自分って違うんだなと思いました」
── 周りはしっくりきてるのに自分は納得できない、不思議な感じですかね。
「モノマネをやっていても、私は好きでやってるけど悪意があると思われたりするんですよね。普通のこと話しているのに、悪口に思われたりとか。そういう事が結構ありますね」
なんてピュアな人達なんだろう!
── 鬼奴さんを語るには“キュートン”(増谷キートン、くまだまさし、アホマイルド、しんじ、からなるお笑いユニット)も外せませんが。
「キュートンに入ったのは2002年くらいかな。15年くらい前に、若手のユニットライブがいくつかあって、そこのひとつにキートンさんとかアホマイルドとかがいたユニットがあったんです。それが解散になって、そのキワモノ系の人達で何かしらやろうと、キートンさんとアホマイルドが社員さんに声かけてもらって集められたのがキュートンで、そのうちの1人が私でした。でも入ってから周りを見たら、くまださんとか、しんじさんとかなので、そこでまた私何で呼ばれたんだろう? と思ってました」
── そこでもまた、周りと自分が思っているイメージが違う、と思う所ですね。
「そう、私こういう風に思われてるんだなって思って。それからキワモノ感もどんどん出て来たような気がします。キュートンにいるから余計そう思われたんだと思うんだけど。キュートンも最初は、下品な人達だなぁ、嫌だなぁって思って活動してましたけど、だんだん…慣れました。人柄に触れてから、ああ良い人達なんだって思って。やってみてからは、みんななんてピュアな人達なんだろう! と思いました」
シルバーウルフにはドラマチックなモノを感じた
── レイザーラモンRGさんと出会ったのもその時期だと思いますが、最初の印象はありますか。
「RGさんが、当時ルミネ(the よしもと)のライブで、シルバーウルフ(外見は白ずくめの上下服に長めの銀髪、狼の耳を頭に付け着用した姿)のネタをやってたんですよ。私はシルバーウルフの衣装にドラマチックなものを感じて、『人間だけどオオカミに育てられたっていう設定で、人間を傷つけそうになるけど、ふと我に返るみたいなお話どうですか?』みたいなことを言ったような気がするんですよね。話はたしか、自分は人間だと思うんだけど、育ての親をひょんなことで殺してしまう、みたいなことを言ったのかな。それをRGさんが真に受けて、くまのプーさんのぬいぐるみを育ての親に見立てて、みたいなネタを本当にやってくれたんですよね。全然ウケなかったのに『ありがとう!』と言ってくれて、すっごい良い人だなって思いました。私が言ったことを本当にやってくれる人なんているんだ! って。あとは、キワモノ演芸の時に、すごいネタ数を持ってきてたから、なんてちゃんとした人なんだろう! って思ってましたね。こだわりっていうか」
── イベント“Like a recod round!round!round!”つながりで、藤井隆さんに出会った頃についてもお聞きしたいのですが。
「“本番で〜す”って番組を、藤井さんと宮川大輔さんがやってらして、若手のショートコーナーに出たのが初めの出会いだったと思います。今でも営業でやってる、MAXさんの『GIVE ME A SHAKE』に合わせて“鬼MAX”っていうのをやったら、藤井さんがめっちゃ笑ってて。ほどなくして、“2 WEEKS NOW”っていう吉本ファンダンゴの番組があって、それにいきなりレギュラーで呼んで頂いたんですよ。それで、あつむ(渡辺鐘、現:桂三度)さんと3人で番組が始まったんです。藤井さんは、その後も“やりすぎコージー”で一押し芸人みたいにして出させてくれたりとか、番組はその後も色々。本当に嬉しい事ばかりを頂いていましたね」
6月9日に15周年リサイタル開催
── 今年の6月9日には渋谷Duoで、鬼奴さんの15周年リサイタルが決定しましたが、どのようなイメージですか?
「10周年記念リサイタル(2008年6月9日、東京カルチャーカルチャーで開催)とほぼ同じメンバーや構成でやると思います。藤井さんとのコーナー、キートンさんとのコーナー、黒沢(森三中)さんとのコーナー、バンドのコーナーっていう、おなじみの感じですかね」
── 今年やってみたい活動などはありますか?
「金星ダイヤモンドでCDを出したいと思ってます。以前のアルバム『ヴィーナス☆ダイヤモンド』は原盤がないって言われちゃって。問い合わせがすごいから、“増刷していいですか?”なんて言われたのに、“原盤なくて無理です、どうしましょう?”なんて事もあったから」
── 女優業はどうでした?
「いや、あれは全然。オファーがあったらやりますけど、自分からやろうとは思わないですかね。どちらかといえば歌の方がやりたいです。バンドのCDを出して、発売記念イベントとかをやっていきたいですね。呼んでくれたら地方もいっぱい行ってみたいと思ってます」
── いいですね。バンド活動もありつつ、最初はハマるのが意外だったロフト系でも、引き続き色んなイベントお願いします。鬼奴さん専用大ジョッキが各店にあるのも、うちからの愛情の表れなんですよ。
「ああ、嬉しい! ありがたい。脳梗塞の診断があって以来ね、お酒も控えなきゃとかあって、大ジョッキももう廃棄かなと思ったけど、最近は無視してまだ大ジョッキで飲んでるんでね。また今日も飲むし!」