『fantasy』から1年、カフカの1st ミニアルバム『空を継ぐものたち』がタワーレコード限定でリリースされる。何年か前に初めてインタビューをした時は、触ったら壊れそうな繊細なバンドだという印象だったが、そこから月日が流れ、彼らは大きく変化をしていた。
これまでは"例えば、どこにも存在しない世界の物語"というテーマで音楽活動をし、どこか空想の世界で生きているような世界観を持っていた。しかし、今作を聴いた時に、地に足をつけて音を鳴らし始めていると感じられ、物語というフィクションではあるが、言葉のひと言ひと言、音のひとつひとつからはバンドとしての強さが溢れていた。それはとてもキラキラとした輝きに満ちていて、今のカフカが自信を持ってこの作品を完成させたことも想像できた。
今回はひさしぶりのインタビューということもあり、メンバー3人にお話を窺った。彼らの発する言葉からバンドとしても人としても変化し進化していることが感じられた。(interview:やまだともこ)
コンセプトを抜きにしてゼロからやってみよう
── Rooftopでのインタビューは2008年にリリースした『Memento.』以来になってしまったんですが、作品はコンスタントにリリースされていたんですよね。
カネコ コウタ(Vo&G):アルバムを3枚(『Memento.』2008年8月、『cinema』2010年2月、『fantasy』2011年8月)とシングルを1枚(『Sirius e.p.』2011年4月)リリースしていますが、『Memento.』をリリースして次の作品を出すまでに1年半あいてしまったんです。というのも、レーベルがなくなってしまい、路頭に迷っていた時期があったんです。曲は溜まっているけれどCDを出せないという状況があって、その当時からライブの制作をしてくれていた方に話をして、協力してもらいながら今まで続けて来れています。いろんな人の協力があって、今回CDがリリース出来て、この世界は人と人との縁だなと改めて思いました。今は関わってくれる人たちと、みんなでカフカというバンドを動かしている感じがあります。
── 今回の『空を継ぐものたち』を聴いた時に、歌詞に込められたメッセージが強くなったとか、バンドが変わってきているということは感じていましたが、それがこうして話している言葉からも感じています。
カネコ:『Memento.』をリリースしてくれたレーベルがなくなって放り出されて、音楽業界のことを右も左もわかっていなかったから、いつ解散してもおかしくないという状態になったのも事実で。でも、たくさんの人の協力があって、ちゃんと地面を固めて行かなければとも思ったし、僕らも強くなったんですよ。こうして続けて来れたということは大きいですね。
── ところで『空を継ぐものたち』は、全7曲“空”をテーマに書いた作品だそうですが。
カネコ:空は僕にとって欠かせないもので、何かと空を見てるんですよね。基本的に…空を見てるんです。
ヨシミ ナオヤ(Ba&Cho):基本的に空を…。
カネコ:空を見ていると自分の中でリセット出来るものもあるし、何かを始めるきっかけになったりもするし、全てにおいて一度原点に戻ることが出来る場所だと思っているんです。今回どの曲にも“空”というキーワードが入っているのは、ひと言で“空”と言ってもいろんなストーリーがあって、僕が見ている空はそれぞれの曲の主人公が見ている空を継いで、それで歌詞を書いているんだと思っていて。だから、自分の中でひとつの重要なキーワードになっています。
── それぞれの主人公が見ている空は切なかったり、春のように晴れやかな空だったり、聴いていてすごくいろいろな景色が浮かびました。実際カネコさんは外に出て、空の下で歌詞を書くことが多いんですか?
カネコ:歌詞自体は外で書くことはないです。でも、1年ぐらい閉鎖的な、朝起きても雨なのか晴れなのかわからないぐらい空が見えない部屋に住んでいたことがあったんです。
── 地下ですか?
カネコ:いや。窓を開けたら隣の家の壁が目の前にあるような部屋で。基本夜型なのでひさしく太陽を見ないという日が続いたんですけど、1年ちょっとその部屋に住んでいたら精神状態がおかしくなっていったんです。それで日当たりが良いところに引っ越したら気分も良くなり、人ってちゃんと太陽に当たらないとダメなんだなって本当に思いましたよ(笑)。
── その部屋に住んでいたのはいつぐらいなんですか?
カネコ:『Sirius e.p.』とか『fantasy』を作っていたあたりですね。自分の中にあるものとか感情をどんどん掘り下げていくような歌詞ばかりが出来上がりました。
── 自分と向き合い過ぎてしまったというか。
カネコ:良い意味でも悪い意味でもすごく突き詰められた感じがします。今回はその点、ちゃんと外の世界と繋がりが出てるかなと思いますね。
── 曲が明るくなりましたもんね。それが暗い部屋からの変化だとは思わなかったですけど(苦笑)。
カネコ:自分もわからなかったですけどね(笑)。でも、今は自分が自然になったと言うのが一番しっくり来ますね。バンドも自然に鳴らした音楽がそのまま出来ていて変に気張らなくなったという感じがしています。
── そうやってバンドが変化したきっかけは、部屋が変わった以外にもありますか?
カネコ:これまでに出したアルバムの3枚の世界観は、架空の世界だったりが描かれていて、自分が作家的な感じで物語を紡いでいたんです。でも、前作の『fantasy』を出して、そういう世界観のものは一度終わりにしようと思っていたんです。バンドのコンセプトとして、“どこにも存在しない世界の物語”というのがあったんですけど、一回そういうことを抜きにしてゼロからやってみようって。それで今作を作ったのでたぶん違うと思います。どっちもやりたいことではあったんですけど、これまでは歌詞が何を言ってるかわからないという意見もあって、それが悔しかったし、もうちょっとみんなにわかってもらえるようにするためにはどうしたらよいか考えたんです。新しい挑戦ですね。
── 聴いてくれる人と共有したい何かがあるということなんですか?
カネコ:それぞれの感想があって良いと思うので、自分が言ってることを全部共有してほしいとは思っていないんですが、それぞれが理解してほしいんです。今までは僕が提示した世界をそのまま頭の中で再現して聴いていた人が多いと思うんですけど、聴いてくれた人がそれぞれの解釈をして、その人なりの聴き方をしていいのにって葛藤はいつもありました。
── ということは、歌詞の書き方も変わりました?
カネコ:心持ちが変わったのが表れていると思います。
── 少しずつ変化をしていますが、ご自分の中でカフカと言えばこれだというものはあるんですか?
カネコ:この3人であることがカフカであって、それ以外はそんなにないです。音楽性が変わっても、こうじゃなきゃいけないというのはないですね。
── では、今後こうなっていきたいというイメージはありますか?
カネコ:今回プリプロをやっている時に二方向の選択肢があったんです。今までの世界観を突き詰めて、エフェクトをすごいかけるとか、いろんな機材を使うとか、同期するとかピアノ入れるとか、音楽的にもっと深いところに行くとか。それとも、原点に返って3人でシンプルにやるか。曲はどちらにもいけたんですけど、今回はあえてシンプルに。なので、今後はいろんな楽器を使って、音楽的にも突き詰めてもっと深いところにというのもやってみたいです。
── アイディアがどんどん出てきますね。
カネコ:尽きないですよね。