amazarashiから届けられた初のフルアルバム『千年幸福論』。これまでミニアルバムが続いたので、待望のフルアルバムとなり、どういう曲が、言葉が詰まっているのかを心待ちにしていた。プレイボタンを押し、1曲目の『デスゲーム』から、これまでのamazarashiにはなかったサウンド、そしてドキッとするフレーズの数々、『未来づくり』までの全12曲がどんな表情をしているのかを大いに期待出来る幕開けだった。また、秋田ひろむの書く歌詞で描かれる"生と死"の圧倒的なまでの表現力は変わらず、聴く者の感情を揺さぶる作品であることは確かだ。
2011年は待望のライブが行なわれ、1st.ライブはキャパ400人に対して3000人の応募、2回目となったリキッドルームでのライブもチケットが5分でソールドアウト、そして3回目のライブが2012年1月28日(土)渋谷公会堂で決定している。
今回もメールにてamazarashiの中心人物・秋田ひろむへのインタビューを敢行。今年行なわれた2回のライブのこと、『千年幸福論』のこと、来年1月28日に決定している渋谷公会堂でのライブの話などを訊いた。(interview:やまだともこ)
ようやくスタートラインに立つことが出来た
── 今年、念願のライブを観る事ができ、とくに1st.ライブとなった渋谷WWWの公演(amazarashi 1st LIVE 「この街で生きている」)は、amazarashiの曲を生で聴ける時ががようやく来たんだという気持ちと、映像と音とのリンク、感動と興奮の波が一気に押し寄せて来るライブでしたが、秋田さんとしては初ライブをやる前はどんな気持ちでしたか?
「不安でした。実際amazarashiがどんな風に受け入れられているのか分からなかったので。でも思いっきり歌うしかないだろうなと腹はくくってました」
── 渋谷WWWでのライブ後は、どんなことを思いましたか?
「一つ目の壁はなんとか越えられたかな、と思いました。ようやくスタートラインに立った感じです。バンドメンバーとの関係もライブをやる事で深まった気がしたので、次が楽しみでした」
── 9月19日に行なわれた「この街で生きている」追加公演@恵比寿リキッドルームでのMCでは、“もっと良い曲を書きたいし、またライブをやりたい”とおっしゃってましたが、2回のライブが終わり、やはりもっともっとライブをやりたいという気持ちは強くなっていますか?
「そうですね。もっとやりたいです。今回の反省が次のモチベーションになっている気がします。もっとライブをやって見えてくる事も沢山あると思うので。音楽的な事も、ファンとの距離感も」
── ライブをやられたことにより、ライブを意識した曲というのは考えることはありますか?
「今のところないです。ライブを意識して曲を作っても、そんなに変わらない様な気がします」
── では、自分の書く言葉がたくさんのリスナーに影響を与えているという自覚はありますか?
「あまりないです。ないというか、想像出来ないというか。そういう事は気にしないようにしています」
── そして遂に1st.フルアルバム『千年幸福論』がリリースされますが、完成して率直な感想をお願いします。
「フルアルバムが一つの目標だったので、それがリリース出来るところまで来られたのがまず嬉しいです。作品自体も、今の全力で作ることが出来て、自分の中のハードルを越えた手応えがあるので、早く聴いてもらいたいです」
── 恵比寿リキッドルームでのライブでは『デスゲーム』、『空っぽの空に潰される』、『古いSF映画』を演奏されましたが、手応えは感じましたか?
「はい。『デスゲーム』なんかはamazarashiの中でも新しいタイプの曲ですし、ライブ映えするなぁ、なんて考えながら演奏してました。皆、集中して聴いてくれている空気感は分かったので、良かったと思います」
── 曲の『千年幸福論』の歌詞は私はすごく好きでしたが、この歌詞は、秋田さん自身の願望があるのでしょうか?
「千年続く幸福なんて無いのですが、それを“人生ってそういうもんだよ”と言う様なニヒリズムではなく、悲しいものは悲しいと、見苦しくても諦め悪く言える事が人の人らしい部分なんじゃないかと考えていたので『千年幸福論』をタイトル曲にしました。そういう意味では願望です」
── 秋田さんにとって“幸福”とはどんなものですか?
「笑って生きる事です」
どう生きて、どう死ぬか
── 今年は震災があり、明るい未来を想像できないようなニュースが続きましたが、それも踏まえた上で今作は制作されたのでしょうか? 所々震災を思い出すフレーズが見受けられましたので。
「はい。『デスゲーム』や『古いSF映画』は震災の影響があります。それ以外は割と普段通り作りました。でもいつも身の回りで起こった事や、それについて考えた事を歌にしているので、全部普段通りと言えば普段通りです」
── 今作でも“生きる”と“死ぬ”ことについて歌われた作品が多いですが、こういった歌詞を書く理由とは?
「いつもそういう事ばかりを考えているからだと思います。“生きる”と“死ぬ”と、たまにラブソングがamazarashiのアルバムの中での共通した割合だと思うんですけど、それは僕の頭の中の割合とほぼ同じです」
── 秋田さんが書く歌詞は四季や人の一生、1日など、時間の流れが想像しやすいものが多いのですが、そういう歌詞になるのはなぜですか?
「そういう情景を思い浮かべて曲を作るからだと思います。上で書いた身の回りの事を歌にする、っていうのもあると思います」
── 今作で衝撃を受けたのは『遺書』ですが、この曲を書こうと思った経緯を教えて下さい。
「僕は一生音楽をやるつもりなのですが、自分がどう生きて、どう死んでいくかという曲が今まで無かったので、そういうものもあってもいいかなと思って作りました。ミュージシャンとしての意思表明です」
── また『14歳』はどこか“夢”を追いかけてる感じのある歌詞でしたが、秋田さんの14歳もこういう感じの少年だったんでしょうか?
「歌詞の内容の様な時期は実際あったのですが、14歳の時の出来事ではありません。『14歳』としたのは、歌う事の瑞々しい初期衝動を表したかったからです」
── 14歳の頃からバンドをやりたいとか、ステージに立ちたいとか、誰かに自分の作品を認めてもらいたいという気持ちはありましたか?
「ありました。実際バンドを始めたのが14歳でした。今も気持ちは変わらないのですが、つい見失いがちなので、こういう歌を作ったのかもしれません」
── 『冬が来る前に』に出てくる三保野公園とはどういった場所ですか? 青森にあるそうですが。
「僕が生まれた青森県横浜町にある公園です。家から近くて、小さい頃よく遊んだ場所です」
── 曲の情景描写が素晴らしいですが、そういった曲のインスピレーションはやはり青森が多いですか?
「東京の歌も多いので一概には言えませんが、実際足を止めて見とれてしまう様な景色や、そういうゆったりした時間の使い方が出来る環境が、インスピレーションの源である事は間違いないです」
── そろそろ青森は寒い時期ですか?
「寒いです。今日は灯油を買いに行きました」
── 最後の『未来づくり』は、“明日はきっと素晴らしい”という歌詞が印象的でしたが、この曲を作った経緯を教えてください。また、希望を持った明るめの歌詞の曲をアルバムの最後に置く理由がご自分の中であるのでしょうか? 前作『アノミー』の『この街で生きている』もそういう感じでしたので。
「これは古い曲なんですが、当時感じた事をそのまま歌にした曲です。僕は卑屈な人間だったので、あらゆる事を勘ぐって見ていたのですが、疑っていた物が実は自分の思い違いだったとか、そういう出来事が沢山あって、単純に人の優しさに、目の覚める様な思いをした時期でした。丁度青森に帰って来た頃です。世界に心を開く事で世界も開ける、という歌です。僕は1曲の中に、どうしても最後に希望を入れたくなってしまうのですが、アルバムを通しても、そういうものが見えたら良いなと思って最後の曲にしました」
── 今作を書くにあたり、読んだ本や映画を観たり等はありましたか?
「『古いSF映画』は元々構想だけあって、どうしようか悩んでいたので、SFの映画や小説を色々観ました。それくらいです」
── では、来年1月28日に行われる渋谷公会堂でのライブの意気込みをお願いします。
「僕の音楽的なゴールはきっと、歌を作って、それが誰かの心に触れる瞬間なんじゃないかと最近考えていて、だとすれば、ライブは僕の音楽のゴール地点です。それだけに気合いも入ってます。一生懸命やります」
── 渋谷公会堂にライブを見に行った事はありますか?
「ないです」
── 秋田さんがamazarashiとして目指すものとは?
「良い歌を作って、それを何らかの形で発表できればそれでいいです」
── 2011年、音楽活動をしていく中で、印象的だったことを教えてください。
「ライブをやれた事です」
── 来年はどんな活動をしていかれますか?
「良い歌を作って、それを何らかの形で発表したいです」