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INTERVIEW

トップインタビューシャムキャッツ

シャムキャッツ、ファースト・シングル『渚』リリース!!
自主制作に戻り模索したバンド像。その先に見えた景色とは?

2011.04.01

『渚』はギリギリで頑張っている人に伝わる歌詞かなぁと思っているんです

DPP_1952.jpg── では、話にも出たので、本題のファースト・シングル『渚』について聞かせて下さい。今回、この曲をシングルとして選んだのはどうしてでしょうか?
夏目:たまたま、ですかね。というのも、古里さんから「テープMTRを使って音源を録ったらすごくシャムキャッツと合うと思うから、ちょっと時間を合わせてやってみない?」っていう話をもらったので、何を録ろうかという話になって…。
藤村:たしか、古里さんが『渚』が良いって言ってくれたんだよね。
夏目:ああ、そうだ。『渚』は自分達のターニングポイント的な曲だなっていう意識はあったと思います。
── という事は、その時点ではリリースは決まってなかったんですか?
夏目:はい、何も考えてなかったです。レコーディングしたのは去年の夏なんですけど、本当に試しでという感じで。
── そうなんですね。『渚』はキラー“サーフ”チューンという事ですが、やはり夏をイメージして作った曲なんですか?
夏目:いえ、特別に夏を意識して作った曲では無いです。曲が出来たのも、たしか2009年の10月ぐらいですし。
藤村:夏を意識というよりは、夏をちょっと思い出すような曲なんじゃない?
夏目:うーん…“夏”というよりは、本当に“渚”とか“海”っていうイメージ。僕の住んでいる所の2つ隣の駅が葛西臨海公園で、そこには人口の砂浜があるんですけど、よく行くんです。だから、自分にとって海って常にそこにあるものという感じなので、夏のイメージはあまり無いですね。
── 『渚』を作った時の事は覚えてますか?
夏目:ハッキリとは覚えてないんですけど、精神的にというよりは、身体が結構疲れていて。夜に家へ帰って、曲でも作るかなって気持ちになって。そしたら、渚のイメージが頭にパッと浮かんで、この感じをどうにか曲にしたいって思ってたら、イントロのティリティティリティっていう音が出て来て。海って波がずっと押したり引いたりしてるだけで、あまり代わり映えしないから、その繰り返される音が浮かんで、音に出してみたら、ああ、これは海だなってなって。ティリティティリティはずっと曲中に鳴らしていたかったから、それが鳴り続けても合うコードを探して、せーので一番最初にガッと歌った時に、歌詞もサビも出て来たんですよ。
── 歌詞も自然と出たという事は、結構その時の心情も影響していたんですかね?
夏目:後から思い返しての話になってしまうんですけど、『渚』が出来る半年ぐらい前に作った曲で、メンバーにも聴かせた事が無いんですけど、“砂のような体”っていう言葉を使った歌があるんです。これから自分はどうなっちゃうんだろうっていう気持ちと、体が重くて砂みたいだ、っていう内容で。その、“砂のような体”という言葉が当時の自分の気持ちとすごく合っていて、ずっと引っ掛かっていたんですけど、それが『渚』を歌った時に自然と出て来た感じはあります。
── パーソナルな内容でありながら、リスナーにとってはメッセージ性も強いような歌詞だと思います。
夏目:そう、これは是非伝えておきたいんですけど、『渚』はギリギリで頑張っている人に伝わる歌詞かなぁと思っているんです。自分も当時そういう状態だったんですが、何かすごい不安を抱えながら、上手く行かない事の方が多いじゃないですか。それでも、ウキウキする気持ちを持っているというか…なんやかんや何かに期待してしまう自分がいるという歌なんですよ。そういう自分の事を、決め付けずに解き放ってあげた曲です。
── なるほど。ちなみに、解き放った、というのはどういう部分でしょうか?
夏目:<砂の気持ちになったよ>と歌っているんですが、砂のように、風が吹いたら消えてしまいそうだし、雨が降ったらドロドロになってしまいそうだし。でも、それってすごく自由なんじゃないかなって。自分が何をしようが世の中ってたいして変わったりしないし、でも、それって悪い事じゃないよなと思ったんです。自分を奮い立たせて「頑張れ、頑張れ、俺は出来る!」みたいなストイックな感じでは無くても、もっと自分の背中を押してあげる事は出来ると思っているんです。それが、<何をしようが勝手だよ>なんです。しかも、それは本当にすごく甘い気持ちで。そういうイメージです。あ、あと、エロを含んでいるんですよ、この歌は。主人公は女の子なんですが、<駆ける×2 胸のよう>というのは、走っていて胸が揺れているイメージ。<弾む光 なんて揺れるんだろう>というのも、ピカピカと光る水面のイメージもありつつ…まぁ、要するにこれもおっぱい(笑)。エロは自分から取れるものではないですから。僕は、恥ずかしいという感情が好きなんですよ。恥ずかしい事ってあんまりしたくないけど、素晴らしい事ってだいたい恥ずかしいじゃないですか。本当に些細な事を言えば、電車でお婆ちゃんに席を譲る事も恥ずかしいし、優しい事をすると恥ずかしい。で、エロい事をするのも恥ずかしい。その恥ずかしいっていうイメージが良いなって(笑)。
DPP_1962.jpg── 先程話していたような少しシリアスな部分と、このエロの要素はどう繋がっているんでしょうか?
夏目:うーん…そういう恥じらいも全部連れて行ってやろう、という気持ちですかね。恥ずかしくないという気持ちは、多分、一生無いだろうから。きっと、このインタビューを後で読み返しても恥ずかしい事がいっぱいだと思うんですよね(笑)。でも、そういうのもひっくるめて、<何をしようが勝手だよ>という歌です。よしっ、繋がった!
── (笑)『渚』はシャムキャッツの中でも特にシンプルな構成で、メロディも際立っている曲ですが、メンバーの反応はどうでしたか?
藤村:まず、全編を通してティリティティリティが鳴っているというアイデアが面白いなと思いました。それでいて、ちゃんとしたポップ・ソングだっていう所が良いなと。でも、ポップ・ソングと言っても、アヴァンギャルドとまでは言わないですけど、そういう変な部分も必要だと思っているんで。あと、夏目が「ベースは全部裏で入れてほしい」ってバンビ(Ba)に言っているのを聞いて、あ、これは良い曲になるなという予想はついて。菅原君(Gt)のティリティティリティっていうギターと、普通のポップ・ソングとは違ったバンビのベースの入れ方があったので、ドラムはとにかくスタンダードな叩き方をしています。
── 「DEMO SINGLE SERIES」の1枚目に収録されているデモ・ヴァージョン比べて、コーラスワークが多彩になってますよね。
夏目:間奏の「シュー、ワッ、ワッ」というのは菅原が入れたいって言ったんですよ。一瞬、海のイメージの曲でシュワシュワかぁ、ダサイなーと思ったんですけど(笑)。でも、ビートルズが『ドライヴ・マイ・カー』という曲で、「Beep Beep Beep Beep Yeah」ってクラクションの音をコーラスで入れたりとかしているし、そういう気楽な感じの方が良いかもと思って採用してみたら結構良かったです。それで、『渚』の“シュワシュワ”は泡のイメージもありますけど、ウルトラマンが飛ぶ時に「シュワッ!」って言うじゃないですか? ああいうのに掛けられるなと思って。自分達が飛ぶというよりは、小さい頃に飛べもしないのに「シュワッ! シュワッ!」と言っていた感じというか。
藤村:経験上、菅原君のそういう発想を取り入れると、意外と上手くいったりするんですよね。
── そして、ジャケットイラストは小田島等さんが担当しています。やはり、小田島さんが手掛けてきた、サニーデイ・サービスやくるりなど、そういったCDのアートワークがもともと好きだったんですか?
夏目:いや、それが違うんですよ。高2ぐらいの時に買った『BRUTUS』という雑誌でやっていたアート特集みたいなやつの中で、小田島さんが紹介されていたんです。そこに載っていたイラストが、当時の自分の気持ちを本当に表したかのようなもので、すごい衝撃を受けたんです。それから2年ぐらい時が過ぎて、大学に入った頃に、小田島さんの『無 FOR SALE』という漫画が出たんですけど、それにも打ちのめされて。こんなに素敵な漫画を書く人が世の中にいるのかと。その流れでトークショーとかにも行きましたし。
── どういう経緯でイラストを依頼をしたのでしょうか?
夏目:去年の8月に江ノ島のオッパーラという場所でライブをした時に小田島さんがいて、僕、普段は本当にそういう事しないんですけど、「小田島さんですよね?!」って声を掛けて小田島さんを好きだった事や、それを誰も分かってくれなかった事を打ち明けたりして(笑)。後日、思い切ってジャケットをお願いしてみたら実現したんです。夢のようですね。まさか、自分のCDのジャケットを小田島さんが書いてくれる日が来るだなんて。
── 良いイラストですよね。どんなイメージで描いてもらったんですか?
夏目:『渚』の音源を渡したら小田島さんからメールが届いて、「シャムキャッツの音楽、特に『渚』っていう曲は、バイクに乗る二人の男女がいて、それを車の中から通り過ぎるのを見ている感じで、その彼女は彼氏の背中にそっと寄り添いながら彼氏のタバコの匂いとかをちょっと感じているっていうイメージがある」って言ってくれて。それと、「バイクってスピード出していないと転んじゃうし、常に動いてないと立っていられないし、まるで恋みたいだから、この感じでいこう!」という事で描いてくれたのが、このイラストです。ジャケットの中にもドラマがありますよね。

バンドとしての印象の前に、曲の印象があるってのは面白い

DPP_1956.jpg── また、今回、満を持して全国流通という事ですが、シングルはアルバムと違って色々とハードルが高かったと思うのですが…。
夏目:周りの話を聞くと、シングルは安いからお金の回収が出来ないし、売れにくいし…っていう事になってるじゃないですか。何となく。でも、僕らは今は自主で動いているから、最悪、作った分だけでも返ってくれば大丈夫ですから。それだけ自由なので。今のインディーズって、まずはアルバム出して、っていう感じじゃないですか。そうすると、バンド全体の雰囲気というか、バンド自体がどうなんだという評価の仕方にシフトしちゃうと思うんですよ。まずは、そうじゃないところで勝負出来るならしたい、っていう気持ちがあります。
藤村:ここ何年かのインディーズの潮流としてアルバム志向が強いのって、たぶんJ-POPに対する反動なのかなって考えているんですけど。「僕らはこういう音楽性を持っているから、それはアルバムじゃないと見せられない」というところもあるのかなって。でも、それによって、逆に聴く人の幅が狭まっているんじゃないかなとも思うんですよ。そうやって、オーバーグラウンドとアンダーグラウンドがどんどん離れていってしまっているように感じていて。それじゃ、ちょっとつまらないなって感じますね。僕らは、両方に位置出来る素質があるバンドだと思っているので、そういう意味でシングルを出すのは良いのかなって思ってます。
── シャムキャッツのメンバーが思春期の頃って、シングルCDがすごく売れていた時期ですよね? ロック・バンドも含めて。そういう時代を知っている事も影響しているのでしょうか?
夏目:うん、そうですね。それが良かったんですよ。今みたいに、急にアルバムが出るっていう感覚とは違って。シングルで知って、それでアルバムを買うっていう感じだったので。シングルで色々な振れ幅の曲を聴きながら、アルバムに向けてウキウキすると言いますか。僕が生まれて初めて買ったのは、奥田民生の『股旅』というアルバムだったんですけど、『イージュー・ライダー』とか、『恋のかけら』『さすらい』とかシングルを通ってからアルバムを買いましたから。そうすると、シングルじゃない曲もすごく入ってきやすい気がするし、知らない曲を聴くワクワクもあるし。そういうワクワクする感じを僕らも出せたら良いですね。
── まずは曲で勝負したいという事でしょうか?
夏目:1曲づつに印象が強い方が良いですよね。バンドとしての印象の前に、曲の印象があるってのは面白いと思う。そんなのは上手くいかないと言う人もいると思うんですけど、きっと上手くいく方法があると思うんです。だから、挑戦ですよ、これは。去年、「ワクワクする作戦を練らなければ駄目だ」とネスト(渋谷O-NEST)の店長の岸本さんに言われてから、考え方を変えたんです。固定観念を持たずにやってみようと。僕らはそういうのを取っ払っちゃっていい場所にいるんで。
藤村:オーバーグラウンドの音楽業界はいま悲惨な事になっていると思うんですけど、それなのにインディーズのバンドがそのやり方で同じようにやってもしょうがない。だから、もっと面白い切り口で見つけていかなければいけないですよね。
夏目:ま、オーバーグラウンドのそういう状況は反省として知ってはいるんだけど、自分達でもやれる事がもっとあるかなって。オーバーグラウンドの話になってくると、お金のサイズの話にもなっちゃうから論点がずれてしまう。他と比較してどうこうじゃなくて、あくまで自分達が理想としているものに近づこうとすると、こういう動きになるっていう事だと思います。どこまで通用するか分からないですし、失敗したら大口叩いておいて、って言われるかもしれないですけど。ま、良いかって。つまらない事をしててもね。結局、自分達がワクワクする事に尽きるんですよ。それから、人にもワクワクしてもらうという状況を、そういう物を、作っていくしかないですね。僕らはそういう行動理念で動いてます。
── 今後はツアーを経て、4/24に青山月見ル君想フにてリリース・イベントがあります。会場のセレクトも意外ですが、出演者もその会場に似合わない曲者揃いですね。
藤村:月見ルは去年初めてライブをした時に、自分達のグルーヴがすごく出易かったんですよ。
夏目:音と鳴りが合ってたよね。それで、誰を呼ぼうかって話になって、単純にその時に自分達の好きなバンドを呼ぼうってなって。相当面白いと思いますよ。
── ちなみに、4/24以降の予定は既に決まってますか?
夏目:色々なタイプの曲をたくさん書いているので、それをどう出そうかと考えているところです。とにかく自由なのが強みだから、したいように出来るというか(笑)。もう一回シングルを出すのか、アルバムにするのか、レーベルを通すのか等々、絶賛作戦会議中ですが、とにかく楽しみながらやろうと思います。
藤村:その中で4人で出来る可能な限りのポップ・ソングを作りたいなとは思いますね。

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シャムキャッツ 1stシングル

NFBS-001 / 500yen(tax in)
IN STORES NOW
※1,000枚限定生産

LIVE INFOライブ情報

2011.4.24(日)青山 月見ル君想フ
「渚」リリース記念スリーマンショウ “ゲットダウン青山”

開場18:30 / 開演19:00
前売2,000円 / 当日2,300円(1ドリンク別)  
出演:シャムキャッツ / 昆虫キッズ / the mornings
VJ:小田島等
DJ:柳緑花紅

2011.4.02(土)札幌Sound Lab mole
2011.4.03(日)札幌spiritual lounge
2011.4.9(土)下北沢440
2011.4.17(日)つくばPARKDINER
2011.5.14(土)桜台 pool
2011.6.26(日)“Simokitazawa Indie Fanclub 2011”

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