常に先へ行くMUTSUMI
──今回DVDの他にCDとして1998年9月のロンドン・アストリアホールでのライブ音源が全曲収録されてますが、これがまた貴重ですね。MUTSUMIさんの死後、SUPER JUNKY MONKEYの未発表音源としてリリースされた未完のアルバム『E・KISS・O』のライブバージョンとも言えるもので。
しのぶ 私は『E・KISS・O』に入っている曲がすごく好きで、この先を聴きたかったという気持ちはありますね。自分でいうのもなんですが、今出したら売れると思います(笑)。『E・KISS・O』に入ってるのは1曲目以外すべてデモとして録音したもので、中でも「Towering Man」は録音当日にMUTSUMIが「こういうの考えてきたんだけど」ってメロディを持ってきたので、その場で新しいリフやアレンジを作って、できたてをそのまま録りました。
──僕はこの『E・KISS・O』のデモ音源が最終的にアルバムとして完成したらすごいものになったと思うんです。ミニアルバム『SUPER JUNKY ALIEN』がさらに進化を遂げたんじゃないかと。
しのぶ MUTSUMIは常に先に先に行くタイプだったんです。メンバー全員が納得できるような曲が完成した頃にはMUTSUMIは次に興味がいっているということの繰り返しで、この時も私は曲を作りながら頭が追いついていなかったんです。MUTSUMIの中にはイメージが広がっていたんだと思うんですが。
──SUPER JUNKY MONKEYはアルバムを出す毎に進化していましたが、『SUPER JUNKY ALIEN』と『E・KISS・O』はとりわけ変化の度合いが大きかったと思います。
しのぶ 初期のハードコアっぽい曲が好きな人にとってはその辺りから賛否が分かれたんじゃないかな。その頃は、1曲1曲というよりはアルバムまるごと、ライブまるごとで何かをやろうとしてたんだと思う。
──それが「何か」というのは?
しのぶ 少なくとも私はよく分かってなかった(笑)
──そう聞くとなおさら『E・KISS・O』の完成型を聴いてみたかった! そういう意味でも、今回その一端を伺い知ることができるライブCDが収録されてすごく嬉しいです。
小林 このロンドンのライブはメンバーもすごく気に入っていたから今回出せて本当によかった。
──ほかにもDVDの映像特典として、初期SUPER JUNKY MONKEYのビデオ作品『キャベツビデヲ』が収録されているのも得した感じです。僕もVHSで持ってますがまさかDVD化されるとは思ってなかった。
しのぶ この前、シェルターでDVDの上映会(6/19深夜開催)をやった時、あんなに大勢でこの『キャベツビデヲ』を観てるのがすごく可笑しくて。それもみんな真剣に観てるから(笑)。曲に合わせて叫んでいる人もいて、SJMのお客さんさすがだなって。
小林 これがライブ録音というのが今思うとすごいね。
しのぶ 上手いんだよあの頃!(笑)。今の十倍ぐらい上手かった。
小林 当時、ライブ録音を残しておきたいということで録ったんだけど、結果的によかった。ライブはごまかしがきかないから。
──あえてライブ録音だったんですね。
しのぶ あとMUTSUMIがメジャーで出す前にインディーズで出したいというのにこだわってたんです。
──なるほど。でもライブCDは分かるんですが、ビデオ作品までインディーズでよく出しましたね。ライブとは別にビデオ撮りもしている訳ですから。それもキャベツの山に埋まったり着ぐるみで演奏したり(笑)
しのぶ メンバーからはそういうアイデアがいっぱい出てくるんです。あれもやりたいこれもやりたいと。そういうアイデアをちゃんとやってくれるスタッフに恵まれてたんです。普通だったらキャベツ百個も買うぐらいならもっと別の所にお金使えよってなりますよね。
小林 出てくるアイデアがみんな面白かったから、どんどんやっちゃえと。
しのぶ それでメンバーがどんどんわがままになっていったんですよ(笑)
引力が働いている方向がきっとある
──ともあれ6月にDVD発売、7月30日にフジロック出演、8月3日に発売記念ライブとにわかに慌ただしいSUPER JUNKY MONKEYですね。
しのぶ 今度のライブについて言うと、いま行こうかどうか迷っている人がいたら、是非観に来た方がいいですよ。次いつあるかわからないですから。あとその時に体力があるかどうかも...(笑)
──それ以降の活動については白紙なんですか?
しのぶ そうなんですよ。何か決まってたらお知らせできるけど......ホント何もなくて。
──でもこれで終わらないような予感もしますが。
しのぶ ああ、わかります。その時になってみないとどうなるかわかりませんが。
──あとは運命に委ねるしかないって感じですか?
しのぶ カッコよく言うとそうかもしれない。音楽をやっていくって、そういう所があると思う。20代の頃は全部自分でコントロールできてると思い込んでいたものが、ある時点から、よくも悪くもその人の道がある気がする。他の道も選べるかもしれないけど、委ねたときに引力が働いている方向がきっとあると思うんです。SUPER JUNKY MONKEYに限って言えば、ガンガン活動してた時どういう気持ちだったか思い出せないけれど、いま音楽ってもの自体をやる感覚は、当時とは明らかに違ってますね。運命的なものがあるとしたら、また(SUPER JUNKY MONKEYを)できることが単純に嬉しいし、いま自分が楽器を演奏していることが幸せだと感じることですね。それは委ねる感じかもしれない。
──僕は去年のライブを体験して、SUPER JUNKY MONKEYという存在が思ってた以上に大きかったんだと個人的にも客観的にも思いました。運命として見れば、MUTSUMIさんももちろんいるし、お客さんもスタッフもずっとそこにいるんだなって。
しのぶ 私もそう思う。去年やった時から、SUPER JUNKY MONKEYというバンドを客観的に見てる自分とバンドの中でやっている自分と両方いるのかもしれない。客観的な自分は10年以上前のMUTSUMIがいる自分たちを見てるし、現在進行形でやっている自分もいる。そういう2つの感覚がありますね。
小林 去年やった時はまだそこまで客観的になってなかったかもしれないね。だから今年のライブは去年とは見え方が全然違うんじゃないかな。
しのぶ うん、今年はまた今年のライブなんだろうね、きっと。