生き様が伝わってくる池畑のドラム
──"THE COVER"は普段一緒にプレイすることのないバンドマンとの異種交流戦だし、出演する側としてはカヴァーする純粋な楽しさと共にヒリヒリした緊張感も味わうことになりますよね。
武藤:"この人と組んだら、あの人はどんなタイム感で来るんだろう?"っていう楽しみもあるし、凄く斬新で刺激的な企画ですよね。名前はもちろん知ってるし、よく呑んでもいるけど、一緒に音を出したことがないっていう人と演奏すると"この人はこんなクセがあるんだ"っていう発見があって、凄く面白いんですよ。緊張と共に楽しむことで、自分も磨かれますからね。
池畑:カヴァー曲に対してどういうアプローチをしていくのかも面白いよね。俺はみんなのプレイやその楽曲が活きるように叩いてるけど、各々がもっと好き勝手に勢いでやったほうがホントはもっと面白いんだと思う。ただ、セッションは親睦を深めることが大事だから、俺はみんなに合わせる感じになるんだよね。
仲野:池畑はすべてにおいてプロデューサー的な視点を持ってるから、そこがちょっと可哀想なところではあるよね。
池畑:どこか足りないものがあれば、特に歌が間違えそうになったら上手くフォローを入れたりはするね。
仲野:ぶっちゃけさ、格差っていうのはどうしようもないんだよ。長くやってりゃいいってもんでもなくて、若くても凄い感覚のいいヤツはいるし、長年やっててもボケてるヤツはいるし、でもそいつは悪いヤツじゃないし、小難しいヤツもいる。チョイスする側としてはバランスが凄い難しくて、そんな時に池畑がいい潤滑油になってくれるわけ。でも、池畑みたいに俯瞰できるヤツと全然できないヤツがいるからこそ面白いんだよね。
──池畑さんは学年主任の先生みたいな感じなんですね(笑)。
仲野:そうそう。"THE COVER"のCDを出した時のジャケットも先生役だったしね(笑)。
武藤:2年くらい前に、池畑さんの50歳を祝うイヴェントを見に行かせて頂いたんですよ。池畑さんはトータルで4時間くらい叩きっぱなしで、キュウちゃん(クハラカズユキ)とツイン・ドラムをやったり、いろんな楽曲を演奏されていたんですけど、池畑さんのドラムの音に人生観が出ているように感じたんですよね。その一音一音に叩きのめされたって言うか、池畑さんの生き様みたいなものが伝わってきたんですよ。今回の"THE COVER"は茂さんの50歳をお祝いするイヴェントだし、頑張って参加させて頂きつつも、茂さんの生き様が歌から滲み出てくるのを見るのが楽しみなんですよね。
仲野:池畑は今回、「茂の50歳なら協力してやるよ」って言ってくれたんだけど、池畑潤二として出るとこはここだっていう明確さがあるよね。何でもかんでも出てりゃいいとは思ってないとこがセンスがいいんだろうけどさ。
池畑:まぁ、後輩に頼まれたら断れないよね(笑)。茂は音楽だけじゃなくてバランス感覚に優れてるんだよね。面と向かっては言わないけど、そう思ってるよ。
──池畑さんから武藤さんにドラムの闘魂伝承があったり、"THE COVER"には音楽の地層が積み重なっていく面白さもありますね。
池畑:それはやっぱり、茂がいるからこそできることだよね。
仲野:俺は場が提供できてりゃいいなって思うだけだよ。みんながそこでいろんな楽しみ方をしてくれりゃいい。でも、"このほうがラクだな"って思うとこを自分でどれだけ消していけるかが難しいね。いろんなヤツがいて、いろんな楽しみ方があって、メチャクチャになることをどんだけ楽しめるかっていうさ。ただ、手を広げてイヴェンターが入っちゃうと、責任の所在が見えなくなるのがイヤなんだよ。文句があれば俺に言って欲しいわけ。まぁ、文句が来すぎるのも困るけど(笑)、そういう判りやすさだけは残しておきたいね。
武藤:好きな曲をカヴァーするのは、ミュージシャンとして原点に帰れるところがいいですよね。僕もいきなりオリジナルをやってたわけじゃなくて、最初に組んだのはコピー・バンドでしたから。好きな曲があって、それを演奏したい...それこそが原点で、なりきれないかもしれないけど、俺だってポール・クックになってみたいっていう。カヴァーをやると、音楽を始めた頃の初期衝動と同じような気持ちにすぐに戻れますよね。自分を解放できるし、純粋に遊べるし、カヴァーをやってる時のミュージシャンってホントにステキですよ。
池畑:選んだカヴァー曲によって、その人となりが窺えたりもするよね。
仲野:今回は俺の誕生会をいいことに、各ヴォーカリストに「1曲だけオリジナルを入れてくれ」ってリクエストしちゃったんだよ。本来の"THE COVER"とは路線がズレるけど、俺への誕生日プレゼントとして1曲オリジナルを唄ってくれと。
とっつぁんパワーを見せつけてやる!
──歌い継がれてきた名曲はスタンダード性が高いのと同時に、演奏する難しさもあると思うんですが、その辺はどうなんでしょうか。
池畑:俺はまず、原曲をちゃんとコピーすることから始める。基本的にはオリジナルに忠実な感じでやってるね。選曲は主にヴォーカルがやるんだけど、その中に自分も得意だった曲があると、"その曲は任せといてくれ、本物そっくりに叩くから"っていう気持ちになるよね。
武藤:自分はドラム&ヴォーカルとしても参加させて頂く場面があるので、ヴォーカルの立場で選曲をやらせてもらっているんですけど、ルースターズだけは選曲しないようにしてます。池畑さんの前だし、あまりに畏れ多いなと思って(笑)。当日はとにかく茂さんに"ありがとうございます"っていう気持ちで一生懸命やって、最終的にあったかさみたいなものを出せればと思ってますね。自分がションベン小僧だった頃から一線で活躍されてる方たちと一緒にやらせてもらえるんで、感謝の気持ちを込めながら頑張ってやるだけですよ。見ているお客さんからも、出演する僕らからも、愛情が溢れていれば成功かなと思いますね。
──50代の先輩として、池畑さんから茂さんに言っておきたいことはありますか。
池畑:まず、感謝の気持ちを忘れないように、ってことかな(笑)。優しさが凄くあるのはよく知ってるし、いつも矢面に立ってみんなを引っ張ってきた強さもある。そんな優しさと強さを兼ね備えたままで、これからも"THE COVER"を続けていって欲しいね。俺自身、50歳になる前と後じゃ意識が変わった部分があるんだよ。エネルギーが無尽蔵にあるわけじゃないから、あるものの中でそれをどこまで使い切るかのバランスが難しい。使いすぎると反動が大きいことは50歳になった時によく判ったから。
──リンゴ・スターは69歳、チャーリー・ワッツは68歳で、偉大なる先人がまだ現役で叩いている以上はまだまだ負けていられないぞという気持ちもありますか。
池畑:もちろんあるよ。そのためにも、いつでもいいコンディションで叩けるように身体を整えなきゃなと思ってる。かと言って、毎日走り込んでるわけじゃないけどね(笑)。やっぱり、何事も気力が一番大事かな。そこも含めて、今回の"THE COVER"は今までみたいに単なるまとめ役になっちゃダメかなと思ってるんだよね。行けるところは勢い良く行こうかなって。
仲野:池畑が今言ったエネルギーの使い切りのバランスは、俺も40代の後半になって感じたよ。30代の頃はまだイケイケじゃなきゃおかしいだろう!? って思ってたから、そのぶん悩みも多かったね。40代の後半なんてもうジジイだから開き直るしかないんだけど、エネルギーも限られてるわけ。"そんなことやるのはロックじゃねぇよ"みたいな30代とはちょっと違って、必要とあらばトレーニングもやらなきゃなんないし、そうは言いながらもツアー中に呑みすぎてダメになることは今も山のようにあるんだけどさ(笑)。
──今回の"THE COVER SPECIAL"での酒の消費量もとんでもないことになりそうですね(笑)。
仲野:うん。それまでに肝臓を鍛えとかなきゃ。まぁ、今度の3日間は平均年齢が異常に高いけど、とっつぁんパワーを見せつけてやる! って言うかさ。それが希望になると思うんだよね。"ああ、これでいいんだ"とか"まだやれんじゃん"みたいなことを若い輩が感じてくれればさ。楽曲の選曲とか細かいことはマニアに任せておいて、いくつになっても遊んでいられるんだっていう希望は見せたいよね。
武藤:ミック・ジャガーなんて、四捨五入したら70歳じゃないですか。それに比べたら茂さんや池畑さんはまだ中堅だし、僕なんてまだ41で全然若手ですよ(笑)。
仲野:いやいや、向こうは地球を相手取ってるけど、俺なんて村規模だよ? "せめて町まで行こうよ、茂!"って感じだからさ(笑)。でも、俺が子供の頃は大人の世界がまだ厳格にあったし、ガッツのあるとっつぁんどもが減ってくると対抗意識も盛り上がらねぇし、希望になんないよね。みんなヘタレて人生に疲れ切っちゃってたらさ。女の子はすぐにオバサンって言われるしさ、ギャルの時にさんざんやっとけみたいによく言うけど、その気持ちも判るよ。
池畑:判るか?(笑) よく聞いてみると突っ込むところがたくさんあるからね、茂は。こんなとっつぁんになっちゃダメだよね(笑)。