"ギャグ"。お笑い業界が花開く今、笑いに対してかなりシビアに評価する人が多くなっている昨今。そんなプレッシャーののし掛かる言葉を冠にする、"ギャグ漫画家"と呼ばれる人たちがいる。華やかなテレビの笑いと違い、日々締め切りと読者の反応に対するプレッシャーと向き合い、一人孤独と戦いながら、ペン一本で多くの人を笑わせるという荒波に挑む生き方。ほとんどのギャグ漫画家は息が短いと言われながらも、確固たる人気を確立した数少ないギャグ漫画家たちの中で、私がもっとも影響を受け、敬愛している「おおひなたごう」というギャグ漫画家がいる。独特のギャグセンスで多くのファンを魅了しつつも、今や伝説とも謳われている、阿佐ヶ谷ロフトAで開催された『ギャグ漫画家大喜利バトル!!』の完全プロデュースを成し遂げたおおひなたごう氏に話を聞いた。(interview:佐々木理恵/阿佐ヶ谷ロフトAプロデューサー)
寺田克也のスタッフ参加で"これは行ける"と思った
──『ギャグ漫画家大喜利バトル!!』はどのようにして始まったのですか?
おおひなた:最初はロフトAさんから「イベントをやりませんか」というメールが来ていて、その時はなんにも決まっていなかったのですが、その後にダイナマイト関西の出場依頼が来たんです。出るなら演習しなきゃいけないな、ということで、ちょうどイベントの要請もあるし、「ギャグ漫画家の大喜利はどうでしょう?」と返事を返したのが始まりですね。でも、ロフトAさんからのメールがなかったら、『ギャグ漫画家大喜利バトル!!』はやってなかったと思います。
──そう言って頂けると嬉しいです。ただ、メールをした時は、「とにかく何かやりませんか」というような内容で、無茶振りだったかなと思ったのですが(笑)。以前より私自身が大のおおひなた作品ファンでして、おおひなたさんが漫画以外にも面白いことをいろいろやっている方だと知っていたものですから。大喜利のようなことは以前にも経験があったのですか?
おおひなた:実は2003年か4年に、『TVブロス』で『ギャグ漫画家大喜利バトル!!』というのを誌面上でやっているんです。その時のメンツは、ピョコタン(第一回、第二回出場)、『サナギさん』の施川ユウキ、他に若手の漫画家を入れて6人くらいで。その時の優勝はピョコタン。だから僕、ピョコタンにも負けてるんですよね(笑)。
──ピョコタンさんは、自分でも漫画家仲間を集めて大喜利をして、毎週ニコニコ動画で配信していますね。1月7日にはネイキッドロフトで『漫画家だらけの大喜利 公開生放送!』というイベントも開催予定なんですが、ピョコタンさんも『ギャグ漫画家大喜利バトル!!』への出場にかなり影響を受けているようですね。
おおひなた:本人も、"『ギャグ漫画家大喜利バトル!!』で優勝するための練習"を想定してやっていると言っていました。
──第三回ではピョコタンさんが強敵になりそうですね。
おおひなた:人選もまだ未定なので、なんとも言えません(笑)。
──人選と言えば、第一回はかなりメンバー集めに苦労されたということでしたが。
おおひなた:誰もやったことがないですからね、芸人のやつを見せられて、「こうやってやるんだよ」って言われてもね(笑)。漫画家がいきなり人前に出て、ああいうことをやるっていうのはよっぽど勇気の要ることだと思いますよ。事実、二人に一人には断られましたし。断られると、やっぱり落ち込みますね。そんな中でも、田中圭一さんはすぐに「全然OK」みたいな感じで割と軽く返事をくれましたね(笑)。大体の人は、ちょっと迷ってから。でも、あんな緊張感のある闘いになることを知らないですから、その時は割と気楽に引き受けてるような感じがしました。
──そういった苦労もあり、第一回目から錚々たるギャグ漫画家集団の出場が決まって、かなり話題になっていたわけですが、実は審査員席の方々もかなりの大御所でしたよね。
おおひなた:そうですね、最初審査員をどうしようかって考えていた時に、前に僕のmixiの日記に寺田克也さんがコメントを付けてくれたことがあって、その時にダイナマイト関西のことを書いてくれていて、それで、"あ、好きなんだな"っていうのが残っていたんです。あと、寺田さんが『ヤングジャンプ』で『マンガOOGIRI』という連載を持っていて、それは寺田さんが4ページの元の漫画を描いて、吹き出しの部分だけいろんな芸人さんやタレントさんがセリフを入れていくっていう。その辺のことからも、大喜利に関しては詳しいんだろうなと。それでやって頂けないかと連絡してみたんです。ご本人は、ちょっと責任重大だということでかなり迷っていましたが、最終的には引き受けて下さいました。凄く安心したと言うか、寺田さんにスタッフになってもらえたことが支えになりましたね。それで"あ、この企画は行けるんじゃないか"という感じがしました。
──ロフトAでも、審査員席の重要さを感じまして、楽屋でしっかりフリップが見えるように大きいモニターに買い換えました。それは当日の様子を見ても、本当に良かったと思います。3人モニターに釘付けになって見ていましたので。
おおひなた:ありがとうございます。ロフトAさんのお力添えあってのイベント成功でもありましたね。審査員席も、相当集中してやっていましたから、かなり疲れる中でもやりやすかったと思います。
イベントの企画者と出場者としてのWプレッシャー
──大喜利のスタイルにもかなりこだわっていましたね。
おおひなた:ダイナマイト関西そのまんまですね。10年くらいやっているイベントなので、完成しているじゃないですか。そのフォーマットをそのままお借りしてます。一応、ダイナマイト関西出場を想定してやっているので、ルールが違うと意味が無くなってしまうというのがあって。そこは、バッファロー吾郎さんにも「お借りしてすみません」ということは言っておきました。
──おおひなたさんはイベントが決まってからもかなり準備に熱心でいらっしゃいましたね。ロフトAでも大喜利イベントはいくつかやっていますが、『第一回ギャグ漫画家大喜利バトル!!』の前にはせきしろさんの『大喜利寺子屋』を見に来られていましたね。
おおひなた:そうですね。やはり初めてなので、他の大喜利イベントがどういうものなのかと。他にロフトAでも大喜利イベントをされている業務用菩薩さんのイベントにも出たりしました。
──ロフトAでよくやっている大喜利スタイルは、平机に大勢並んで、挙手制で答えるというスタイルがほとんどですが、それは下手すると隣りの答えが見えてしまうところもあったりするので緊張感の違いは相当あると思いました。『ギャグ漫画家大喜利バトル!!』は一対一のバトルで、お互い両端に分かれて一問一問で勝負するスタイルなので。
おおひなた:『大喜利寺子屋』を見させて頂いたのですが、司会が南海キャンディーズの山ちゃんだったので、司会の面白さもかなり前面に出ていたというのがありまして。司会があんまり面白いと、持っていかれちゃうなと思ったので(笑)、『ギャグ漫画家大喜利バトル!!』のほうは、司会はもう裏方に徹してもらって、どんどん進めてもらうというふうにお願いしていたんですよ。でも本番の時はね、ホントに淡々とやってくれるので、"もうちょっと面白いこと言ってもいいのに"と思ったりはしましたが(笑)。その辺は僕が徹底してしまったんですね。「ホントにもう、なんにも言わなくていいですから」って(笑)。「回答者が集中してできるように」って伝えてあったので。だから余計、緊張感が出てしまったのかもしれませんね。
──第一回はそういったプロデュースも初めてで、かなり大変だったと思いますが、そんな中ご自分も出演されるということで、もの凄く複雑な心境だったのではないかと思います。他の出場者のみなさんも相当緊張して挑んでいらっしゃいましたが、おおひなたさんはイベントが成功するかということも心配しつつ、勝負をするという。
おおひなた:そういうの、好きなんですよね。なので、その状況を楽しんでやっていたというのはあります。ただ、"絶対勝たなきゃいけないな"というプレッシャーは凄く感じていました。これで負けたら超恥ずかしいなー、と。思いっきり負けてますけど(笑)。
──田中圭一さんと一回戦で当たったんですよね。田中さんはあの日一番勢いがあったように思います。得意の下ネタが凄くて(笑)。
おおひなた:振っちゃったんですよね、下ネタの話を。開始前のインタビューで「下ネタをOKにしてしまったことを後悔しています」みたいなことを言ってしまいまして。田中さんの流れを自分で作ってしまったなぁと。あれは失敗だったと思います(笑)。
──そういう意味で言うと、出場者それぞれのキャラクターは凄く濃かったですね。第一回から相当面白いものになったと思います。最後の辛酸なめ子さんとうすた京介さんの一騎打ちは今思い返しても、凄い試合でした。最後の優勝の決め手になったうすたさんの答えはちょっと寒気が立つくらいでしたし。また、お題を考えられる方もかなり凝って作っていると感じました。
おおひなた:お題も一応、元芸人とか、現役のギャグ漫画家とか、お笑いをわかっている人に依頼しています。
──おおひなたさんの周りにはお笑いが好きな人が多いんでしょうか。
おおひなた:そうですね、僕の漫画が好きだと言ってくれる人はお笑いが好きだったりしますし。
──おおひなたさんのギャグ漫画のセンスもさることながら、漫画以外でも面白いことに多々挑戦されているので、おおひなたさんが何かやろうと声を掛けられたら、面白そう! と思って集まってくる人は多いでしょうね。このイベントの成功もそこにあると思います。
おおひなた:ありがたいことです。