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INTERVIEW

トップインタビューLuminous Orange('09年11月号)

これまでの軌跡を詰め込んだベスト盤
『Best of Luminous Orange』

2009.10.15

 国内だけでなく海外でも高い評価を受けているLuminous Orangeが遂にベスト盤を残響レコードよりリリース! 収録曲は、唯一のメンバーである竹内里恵が、活動から17年の間にリリースした全音源の中から厳選された15曲。その中には入手困難となった作品からのセレクトもあり、これまでのファンにも新しいファンにも大切な1枚となるだろう。
 豪華サポート陣を迎え、変則的で風変わりなサウンドを聴かせながらも竹内の透明感のあるウィスパー・ボイスのバランスが絶妙で、何とも耳心地の良い作品である。この後、ニューアルバムのリリースを控えているというLuminous Orange。どんな素晴らしい楽曲を聴かせてくれるのか、そちらの作品にも期待ができそうだ。(interview:椎名宗之 / text:やまだともこ)

『Sugarcoated』がターニングポイント

──まさか残響さんから出すなんて! と意外だったんですが、どんな経緯があったんですか?

竹内:『Sakura Swirl』の日本盤を出す辺りから「新譜を出したいですね」という話はしていたんです。そしたら電話がかかってきて「いつ録音します?」って(笑)。でも、アヒト(・イナザワ)くんが抜けて、すぐには録れそうにもなかったので「ベスト盤はどうですか?」とお話させて頂いて。廃盤になっていた音源もあったので良い機会だなと思ったんですよ。17年目にして初のベストです。

──ベスト盤を作りたい気持ちは以前からあったんですか?

竹内:ベスト盤って考えたことがなかったんです。でも、廃盤になっている曲もライブでやっていて、「どこに売っているんですか?」と言われることがあったのでもったいないなって思っていたんです。

──実際17年という長い時間を1枚に集約するというのは、選曲も大変な作業なんじゃないかと思うんですが。

竹内:70曲ぐらいあったので、普通に選んでも無理だと思ったんです。それで『Flowline』はライブの1曲目にやったりしているのでこれを1曲目にして、それから1枚のアルバムとして聴けるような、各々の音源からセレクトしました。基準としては、うちの曲の特徴として変則的な構成とコードの色彩感があるので、両方兼ね備えた曲、流れにうまく溶け込むような曲を選びました。

──このうち2曲が再録ですけど、これはどんな意図で?

竹内:『Walkblind 』はオリジナルがアナログ16トラックの薄い録音なので、太い音で録ってみたいなって。『Honey Eyes』は3rd(『Sugarcoated』)の原盤使用許可が出なかったんですけど、初期の1〜2枚の後は雰囲気が違っていて、必要だなと思って録り直しました。

──2曲とも芯の太さが増したというか、力強い感じになりましたよね。1枚にまとめてみてやはり特異な音楽だという印象は持ちましたか?

竹内:初期の頃からあんまり変わってないんだなって思いました(苦笑)。

──変則的なコード感とか、不協和音や複合拍子を多用した音作りは一貫していると、改めて聴くとわかりますよね。始めた頃からそういう志向だったんですか?

竹内:そうです。もともとクラシックの近代音楽とかが好きで、バンドでそういうコード感をやってみたいなって。ペイル・セインツとかは変則的なものをやっていて、こういうことをやってもいいんだなっていう後押しにはなりました。

──個人的にターニングポイントだと思うのが『Sugarcoated』なんですよ。それまでは異端という評価を受けてましたけど、あのアルバムはロック寄りというかひとつの分岐点としてステップアップされたような印象を受けるんですよね。

竹内:構成とかは相変わらず変なんですけど、発声をちょっと変えたんですよ。ウィスパーっぽいというか。歪みのギターと私の地声があまり合わなくて、1st『VIVID SHORT TRIP』と2nd『Waiting for the Summer』はクリーントーンばっかりで、ウィスパーっぽい声にすれば歪んだギターに合うかなと思って宅録で試してみたら案外良かったので、何曲か書いて。

──所謂マイブラ的な手法ですね。

竹内:言われてみればそうですよね。その時は発明したような気持ちになっていたんですけど(笑)。

──ご自身の思う分岐点というとどの辺りになりますか?

竹内:私も『Sugarcoated』とか。それまでは歌謡曲的な曲の構築をしていたんですけど、もうちょっとロックっぽくなったかな。

──レコーディングの音の構築とライブで音を吐き出すのは別物と考えてます?

竹内:わりと別ですね。音圧とかも違うし、音の立体感も違いますから。

楽器と声を合わせてひとつの世界

──改めて聴いて思うのはメロディーの裏切り感が気持ち良いことなんですよね。昨年発表された作品はエレクトロニカ的な要素が半分ぐらいあって、色彩を強めた感じがしますけど、モード的にはそっち方面なんですか?

竹内:あのときはレーベルがなくて、自腹で全部やらなければいけなかったから(笑)。でも、お金がないならないなりにクリエイティビティの出しようがあるから、予算的に半分ぐらいスタジオで録って半分は家でやって。

──17年前と違って、今や自宅でなんでも作業ができる環境じゃないですか。すごい時代になりましたよね。

竹内:イアン・マスターズとはカセットのやりとりをしていましたね(笑)。郵送して、問題があるとやり直して送って...。時代は変わりましたよ。ネットを使ってデータで送れちゃうから。海外の人とかはやりとりがラクになりました。

──今もそうだと思いますけど、Luminous Orangeの音楽がまず最初に海外で受けたというのは、どんなところに理由があると思いますか?

竹内:日本って何か流行るとそればっかりになっちゃうから、その時は聴いてくれる人がいなかったんだと思っています(笑)。

──作品を聴くリスナーを想定した時に、狭義的ではないんでしょうね。

竹内:宮本輝の言葉を山田詠美が言ってましたが、100人の読者がいたら、そのうちの1人の目利きを想定して書く。わかる人だけわかればいいじゃなくて、目利きで厳しい審美眼を持った人がいて、その人が楽しく読めるようなものを、というふうに心がけていましたって。音楽もそうかな。100人の内に必ずその人がいるかは知らないけれど、そういう人を想定して作っています。

──通して聴いて思ったのは、軸にあるのは歌心なんだなと感じましたね。ギターのシェイプでソリッドな音も格好いいんですけど、なんとも言えないふんわかとした清涼感のある歌声。耳に残るのは竹内さんの歌なんです。

竹内:実は自分の声って好きじゃないんですよ(苦笑)。でも、作曲家の自分がいて、そこに竹内里恵がいて、歌えるからこいつでもいいかという感じでやっているので、それよりも弦の鳴りと声の響き合いの方が大事です。

──日本人はカテゴライズが好きで、Luminous Orangeは所謂シューゲイザーと言われていますが、先入観を持たずに聴けば歌モノとしても聴けるんじゃないかと。『Best of Luminous Orange』は良い曲ばかりですし。

竹内:シューゲイザーと言われるとどこか違和感があって、窮屈さは感じますけどね。シューゲイザーと言われる人たちって、そこまで変速構成とかテンションコードとかの感じではないし、緻密に構成する人もいるけれど、マイブラとかはシンプルですし。音が似てるからこのバンド好きでしょって言われると、いやいやいやいやって思いますね(笑)。もともとシューゲイザーと言われていた人たちもシューゲイザーだと思ってやっていたわけではなくて、チャプターハウスは打ち込み行ったし、アンビエントに行った人もいるし。

──Luminous Orangeは、アンビエントとか打ち込みになりきらず、最後は人の手を加えるというバランスが絶妙ですよね。昨年のアルバムもそうですし。

竹内:ピアノとか好きなんですけどね。でも、声を入れないと終わった感じがしないというか(笑)。それと、曲よりも歌詞が勝っちゃうのが許せないんですよ。全体でひとつの世界という感覚。意味が付き過ぎちゃうのは嫌なんです。

感動を音で伝える

──来年ニューアルバムがリリースされますが、どういった感じになりそうですか?

竹内:ちょうど曲を書いていたのが2年前から昨年ぐらいまでなんですけど、アヒトくんとツアーを回っていた時で、わりとドラムをフィーチャーした曲が多いんです。

──こんな大事な時期にアヒトくんは何を考えているんでしょうね(笑)。

竹内:クリストファー・マグワイヤ(ex.くるり)が来るんですよ。クリストファーの友達がうちのファンみたいで、マイスペを見てドラムを探しているらしいって教えたらしく「僕やるよ」って。まずは、レコ発とレコーディングをやりましょうかって合いそうな曲をピックアップして。

──ドラムという、ものすごく強力なリズムに方向性が寄っているということは、肉体性を帯びたものへの回帰というニュアンスもありますか?

竹内:2年前ぐらいの時にサポートだったCa-pの藤井(真生)くんと、せっかくアヒトくんが一緒にやっているからバンド感を出そうよと言っていたんです。

──バンド感とか剥き出しの生な感じに行き過ぎることなく、エレクトロの無機質な感じとのブレンドが一番良い気がしますけど。

竹内:なんだかんだ言ってもそういう曲はがんばらないと書けなくて(笑)。気が付くとミドルテンポばかりになっちゃうんです。だから、今度は一緒にやってる人を活かすような曲に。そろそろ自分に飽きてきたというか(笑)。違う要素が入ってくると楽しいんです。だからと言って、スタジオで曲を書いたりはできないですよ。コードチェンジやリズムチェンジが急にある事にグッと来るので、スタジオでセッションはしませんが、その人のプレイにインスピレーションを受けて、この曲をこの人がやったら絶対にかっこいいって曲を書いたりするんです。

──メンバーが替わったら、その人に合わせた曲になるんですか?

竹内:その人の得意なことってあるから、それと自分の曲の持ち味を考えて作ります。

──こうして見ると、竹内さんの創作の原点や曲作りのモチベーションの核になるのは心地よい裏切りのある音楽を作りたいというか、どこにもない音を生み出したいという感じがしますね。

竹内:子供の頃とかに衝撃を受けたこととか、言葉でうまく説明できない感動みたいなものって子供なりに思っていたと思うんです。でも、口で説明してもうまく伝わらなかったり、よくわからないって言われて孤独になっていくとか(笑)。それを音で聴かせてわかってもらいたいというのが続いて原動力になっていると思うんですよ。

──三つ子の魂百までというところですね。

竹内:そうですね(苦笑)。

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Best of Luminous Orange

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LIVE INFOライブ情報

Best of Luminous Orange発売記念ワンマンライブ Day1
11.13(fri)高円寺 HiGH
ゲストアクト:eksperimentoj

Best of Luminous Orange発売記念ワンマンライブ Day2
11.14(sat)渋谷 O-Nest

12.05(sat)京都 MOJO
with)People In The Box / perfect piano lesson / and more

12.06(sun)神戸 Star Club
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