2004年7月に結成されたハヌマーン。二度のドラマーチェンジを経て、現在の山田亮一(Vo.G)、大久保恵理(Ba)、青木繁之(Dr)となる。2007年2月にはASR RECORDSより1st.ミニアルバム『デッセンクルー』をリリースし、それまでに活動の拠点としていた大阪だけではなく、東京・名古屋と活動の幅を広げている。
今回ハヌマーンから届いた1st.アルバム『World's System Kitchen』。前作の『デッセンクルー』が2007年2月にリリースなので、2年半振りの作品となった。白と黒を基調としたシンプルなジャケット写真の中に隠されている楽曲に引き込まれる。それぞれの楽曲タイトルからも、何かとても深い意味があるのではないかと想像させるだろう。山田が巻き舌調で歌う1曲目の『妖怪先輩』で始まるこの作品。幕開けの一発目が"妖怪"なんて...と思う気持ちもわかないはずはなく、ちょっと斜に構えながら聴いていたのだが、この楽曲で歌われている詞の世界観...正義と、誤った正義を抱いた故の気持ちの間で揺れ動く感情がとても共感できるものがあった。きっとこの感情、本当は誰の心の中にも潜んでいるのではないだろうか。続いて『猿の学生』。『猿の学生』と聞いて、パッと『猿の惑星』をもじったものだろうとは想像ができる。学校を卒業し、大人と呼ばれる年齢になった彼らの視点から学生を見て鼻で笑うような、でもどこか羨ましいと感じているような、微妙な心境が描かれた歌詞。途中に聴こえる猿の鳴き真似が入ることにより、ユーモアが加わった楽曲となっているが、どうしようもない現実にぶつかっていることを想像させる楽曲だ。『或る思弁家の記憶』では、イントロで脳を突かれているような、尖ったギターを聴かせる。『比喩で濁る水槽』は、ヒリヒリとした緊張感があり、深い闇に迷い込んでしまったようなサウンド。日常生活においてただ当たり前のことを当たり前にやるだけで、向かう先が全く見えていない。特に希望も見えず、夢も抱けず、このまま日常がただ過ぎていくだけなのかという不安。まさに現代の状況を説明しているかのようにも聴こえてくる。この曲は、曲の終わりにつれて希望が見えるような曲ではない。なんの光も差してこない。ただただ落ちていくだけの曲。それなのに、共感できる力を持った楽曲なのだ。そして、歌詞に出てくる「名前は知らないが、水泡をいつまでも撒き散らすあの装置」...確かに名前は知らない。
『バクのコックさん』という不思議なタイトル(今に始まったことではないが)を持ったこの曲は展開が多く、バラエティに富んだ楽曲だと言える。『アナーキー・イン・ザ・1K』では、あの曲を彷彿させなくもないが、敢えて書かないでおこう。この曲は80年代のロックンロールを意識したポップな楽曲。これまでにこの作品を聴いていて、"聴きやすい"曲はあったが、これだけ"ポップ"な曲は9曲目にして初対面である。そして最後のベースが掻き鳴らされ、攻撃的なサウンドの『Don't Summer』までの計10曲、1曲として同じような曲がない、多種多様な楽曲が詰め込まれた作品となった。この楽曲を制作している3人と、一度話をしてみたいと切に思う。
バンド名であるハヌマーンは、インド神話におけるヴァナラ(猿族)の英雄の1人だそう。彼らもライブハウス界において、無二の存在になるべく、ここから突き進んで行くに違いないだろう。(Rooftop:やまだともこ)