シングル『ブギーナイト・フィーバー』に収録された3曲には煌びやかに回り続けるミラーボールの絵が思わず喚起されるディスコテークな音楽性が通底しているが、それが決して懐古趣味的なものではなく、極めて今日性の高い資質が内包されていることに気づく。そして、もうひとつの今日性──"N・O・W"をスローガンとして掲げ、"N"(泣けて!)、"O"(踊れて!!)、"W"(笑えて!!!)という3拍子が揃った広く親しみやすい音楽性を標榜しているのが如何にも彼ららしい。
そんな音楽的志向が最も理想的な形で具象化されているのが、泣く子も黙るタイトル・トラック『ブギーナイト・フィーバー』である。肉感的でタイトなバンド・アンサンブルに絡む流麗なストリングスの音色からは、往年のディスコ・クラシックに対する彼らの深い憧憬の念が窺えて思わずニヤリとする。まるでラメが織り交ぜられたかのように光沢のある眩いサウンドに、賑々しく跳ねまくる菊住守代司による4つ打ちのキック、瑞々しい躍動感に満ちた梅田啓介のベース、ファルセットを多用した情感豊かな永友聖也のヴォーカル。そのどれもが掛け値なしに素晴らしい。また、日本人の琴線に触れる翳りのある情緒がメロディに滲み出ているところも特筆すべき点だろう。本誌らしからぬはしたない言い方を敢えてさせてもらうならば、"濡れている"のである。歌詞にそうした直接的な表現があるわけではないのだが(ベイベーに対して臆面もなく愛を説く大胆さはある)、茂みの奥から溢れ出る愛液の如き湿り気と淫靡さが醸し出されているのだ。それは考えてみればディスコ・クラシックにおける必要不可欠なテーゼであり、こうした艶めかしい質感はプロデュースとアレンジを手掛けたCHOKKAKU(SMAPや嵐、L'Arc〜en〜Cielや真心ブラザーズ等を手掛ける編曲家・音楽プロデューサー)の手腕による部分も大きいのだろう。バンドとCHOKKAKUががっぷり四つに組んだ結果、グルーヴィーでありながら胸を衝く切なさが入り混じった珠玉の名作がここに誕生したのである。
カップリング曲もまた素晴らしい。梅田が作詞・作曲を手掛けた『北京原人』はファンキーの極みを行くナンバーで、種族保存の本能を全開にしたケダモノ的な求愛がテーマ。音楽的にもプリミティヴな方向に行くのならば、唄う内容もヒト科ヒト属ヒト種のホモ・サピエンスとして人間の動物的な側面に立ち返ろうと言わんばかりの"原人系ディスコ"である。"ウーガガウガ!"と咆哮するイントロも実にユニークだ。また、電気グルーヴの不朽の名作『Shangri-La』をカヴァーしているのもこうしたシングルならではの趣向と言えるだろう。あくまで人力にこだわった逞しいバンド・アンサンブルに女性コーラスをフィーチャーし、彼らなりのフロア仕様となっている心憎い出来だ。こうした人の温もりが伝わる生音こそが彼らにとっては"Shangri-La"...つまり"理想郷"なのだろう。
さらに、本作のアート・ディレクター/映像ディレクターに松任谷由実やMr.Children等の諸作品で知られる信藤三雄を起用、往年の任侠映画をモチーフにした刺青ジャケットとビデオクリップが制作されている。永友いわく"阿鼻叫喚のディスコ絵巻"が描かれたこのビデオクリップがまだ非常に良い出来で、豪華な出演者のラインナップは大きな話題を呼ぶはずだ。現時点ではまだその詳細をお伝えできないのがとても口惜しい。本作の初回生産限定盤にはこのビデオクリップとメイキング映像を収録したDVDが付くそうなので、是非刮目して頂きたい。
キャプテンストライダム独自のディスコ観がギッチリと詰め込まれたこの『ブギーナイト・フィーバー』は、バンドの"ディスコ・イヤー"の幕開けを高らかに告げる決意表明の如き一枚だ。セクシーでキャッチーでダンサブルなこの音楽的志向は恐らく、昨年の『明日に向かって踊れ!』ツアーで得た感覚的な手応えが強い確信に変わったからこそなのだろう。結成10周年という節目の年に"踊る"という人間の根源的な解放欲求に基づく行為に彼らが着目したことは示唆的である。ロックが本来持ち得たダイナミズムを湛えたその心躍る音楽は、ブルース・リーの名言"考えるな、感じろ!"を地で行くものだ。今月下北沢シェルターで復活する自主企画『キャプテンストライダム presents 大安おばけナイター』、そして『CTSR DISCO JOURNEY SUMMER』と題された全国ワンマン・ツアーで彼らは日本全土を"阿鼻叫喚のディスコ絵巻"に陥れるだろう。踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々。魅惑のディスコ・ロックが誘引するエクスタシーをあなたも是非体験して欲しい。(text:椎名宗之)