兄のYUICHI(vo, g)、弟のKOJI(vo, b)、彼らの盟友であるHAZE(ds)から成る3ピース・バンド、SWANKY DANK。結成から2年、一貫してライヴハウスでの活動にこだわり続けてきた彼らが、自らの名をタイトルに冠したファースト・アルバムを遂に発表する。メロディック・パンクを基調とした彼らの音楽性は、甘美さと憂いが入り混じった胸を衝くメロディ・ライン、疾走感に溢れたタイトなアンサンブル、日本語詞と英詞を巧みに使い分けて唄われるYUICHIとKOJIの伸びやかなツイン・ヴォーカル、ふたりが織り成す流麗なハーモニーが大きな特性である。それらは腰を据えてライヴハウスでの活動に打ち込んできた彼らだからこそ培うことのできた技量であり、その妙味はファースト・アルバムの中でも遺憾なく発揮されている。SWANKY DANKが"HOME"と呼んで憚らない我が新宿LOFTも、新宿LOFTのスタッフが全面的なバックアップ体制で支えるSWANKY DANKも、目指すところは"ROCKIN'COMMUNICATION"──つまり、音楽を通じて図る心の交流、感情の共有である。今時そんなやり方は古いと後ろ指をさされようが、我々はオーディエンスであるあなたとコミュニケートしたいのだ。ヴァーチャルでは決して味わえない熱さ、昂揚、快感、魂の奮え。ライヴハウスでしか得られぬそうした感触を今最も愚直に体現しようとしているのがSWANKY DANKであると僕は思う。(interview:椎名宗之)
自分たちの原点であるライヴハウス
──結成以来この2年間というのは、バンドにとっては足固めの時期だったと言えますよね。
YUICHI:そうですね。自分たちとしての原点をライヴハウスで作っていきたい一心で、一歩一歩突き進んできた感じです。
KOJI:バンド名の由来も、ライヴハウスに根差したものなんですよ。"SWANKY"はイカしたという意味で、"DANK"はじめじめした場所...つまり地下室を意味してるんです。地下室=ライヴハウスから自分たちの音楽を発信していきたいっていう。
──前身バンドとSWANKY DANKの方向性の違いは、端的に言うとどんなところなんでしょう。
YUICHI:曲作りの話で言うと、前のバンドでは曲を作った当人がアレンジまで詰めてたんですよ。たとえば俺が曲を作ったら、それをメンバーに聴かせて「ここでスネアを入れてよ」みたいな感じで進めてたんです。でも、そんなやり方だと他のメンバーはただのバッキングに過ぎないし、それじゃとてもバンドとは言えないと思って。
──確かに、バンドと言うよりはソロ・ユニットに近いですね。
YUICHI:だから、SWANKY DANKを始めてからはそういう単独の曲作りを一切やめることに決めたんですよ。あと、曲は全部アコギで作ることにして、アコギで唄えない曲は作らない主義を貫こうと。アコギで作った曲をテーブルの上に載せて、みんなで聴いた上で「メロはこうしよう、コードはこうしよう」と何通りものアレンジを考えていくんです。
──同じ曲でも?
YUICHI:そうです。2ビートのハードな曲でも、ミディアムやスローにテンポを落としたアレンジも敢えて考えてみる。曲の方向性がどっちに転がってもいいように、何通りもアレンジを考えるんですよ。そうやってSWANKY DANKの音楽性を確立していくコンセプトに変化していったんですよね。
──"アコギでも唄える曲"というのは、SWANKY DANKの音楽性を紐解く鍵のように思えますね。骨格となる芯のメロディがしっかりしているのはSWANKY DANKの大きな特性のひとつですし。
YUICHI:実際にアコギを演奏しながら「この曲、どう?」ってメンバーに訊いてるし、そこで満場一致でいいと思えないようならひとまず寝かせておくことにしてます。3人が心底いいと感じた曲だけをアレンジしていくんです。
──厳選に厳選を重ねているわけですね。
YUICHI:そうなんです。ファースト・アルバムに収めた13曲も、60曲くらいあった中から厳選したんですよ。
──そんなにあったんですか!?
YUICHI:この2年、延々と書き溜めてましたからね。結成以来、ずっと音源を出してこなかったので、どんなタイプの曲を作ってもアリっちゃアリだったんですよ。だからホントにいろんなタイプの曲を作って、いろんなことを試してきたんですよね。
──いろんなタイプの楽曲をライヴでやって、オーディエンスの反応を窺ってみたり?
YUICHI:そうですね。ライヴという空間で対話を重ねて精選していったと言うか。どれだけ自信のあった曲でも、そこで反応が良くなければボツにしてみたり。『CHANGING』というずっとライヴでやり続けて大切に温めてきた曲もあったんですけど、アルバムのコンセプトにそぐわないものは今回泣く泣く外すことにしたんです。
──そのコンセプトというのは?
YUICHI:"開放感"ですね。そのテーマに合わない曲は苦渋の思いで見合わせました。
KOJI:あと、YUICHIが19歳の時に作った『Galaxy』みたいな曲も入ってるんですよ。
YUICHI:昔の曲を引っ張り出してきて、みんなでアレンジを練り直したんです。そういうケースの曲もありますね。
アルバムでもオーディエンスと"対話"したい
──タワーレコード限定で発売されたシングル『One Sided』は、全員全裸でレコーディングに臨んだと伺いましたけど(笑)。
YUICHI:そうなんですよ(笑)。全裸で演奏したのはその『One Sided』と『滝の如く』という曲で、その2曲はアルバムのコンセプト通りに"開放感"を大事にして録ったんです(笑)。最初、3人でブースに入ってリズム録りをしてた時は演奏が固くて、アルバムのコンセプトが"開放感"なんだから開放的に行こうと。で、エンジニアのホッシーさんに「オマエら、服脱げよ!」って言われて、ガラス越しにスタッフが見てる中でスッポンポンになって(笑)。でも実際、演奏が格段に良くなってきたんですよ。ただ、それでもどうしてもドラムがモタってしまう。何でだろう? と思ったら、ドラムのHAZEがキックを踏む時にヘロヘロになってしまうと(笑)。
──ああ、大事な部分が当たってしまいますからね(笑)。
YUICHI:そういうことです(笑)。そのヘロヘロを解消するためにガムテープで固定したら一発OKで、メチャクチャいいテイクが録れたんですよ(笑)。
──そんな堪え忍ぶ努力があったとは(笑)。
YUICHI:さらに後日談があって、録り終えたテイクを車の中で聴いてみたんですよ。結果的にはいい感じで録れてたんですけど、演奏が終わってスティックを置いた音とかも入ってたんです。その部分をよくよく聴いてみたら、ガムテープを剥がす音と一緒に「イテッ! イテテテテッ!」っていうHAZEの絶叫が聴こえてきて(笑)。
──その部分は泣く泣くカットされたわけですね(笑)。
KOJI:ボーナストラックとして入れようかっていう話もあったんですけど(笑)。
YUICHI:でもそれじゃ、"ピー音"ばかりが入ることになっちゃうし(笑)。
──その"開放感"というのは、身も心も開放できるバンドを始動させたことを含めてのコンセプトなんでしょうか。
YUICHI:それもあるんですけど、自分たちのことよりも聴いてくれる人たちが開放的になってくれたらいいなと思って。日々生活していく中で、いろんな悩みやストレスがあるじゃないですか。それを僕らのライヴで吹き飛ばして欲しいんですよね。ライヴでお客さんと顔を合わせると、その人が楽しんでいるのか、あるいはつまらなくしてるのかが直に判りますよね。ライヴはお客さんひとりひとりとの対話の場だと僕らは思ってるし、今回のアルバムでもそういう対話ができればいいなと考えたんです。僕らの音楽を聴いてストレスを開放して欲しいし、明日からまた頑張ろうと思ってくれたら嬉しい。普段のライヴも、お客さんがライヴハウスを出る時に元気になれているようなものにしたいんですよ。
──自主企画の"Min・ute・man"(ミニットマン)も、テーマとしてあるのはそこですか。
YUICHI:それプラス、気軽に足を運んでくれるような場所でありたいですね。仲間同士で気軽に楽しめる場所を提供したいんです。家に引き籠もってネットに走るよりも、外に出て人と会うことのほうが得るものは大きいじゃないですか。その意味で、ライヴハウスはまさにうってつけの場所だと思うんですよ。ライヴはバンドが発信するものですけど、僕ら自身もお客さんからエネルギーをもらえるんです。僕らもそれを受けて"明日もまた頑張れるな!"と思えますからね。
──シングル同様に、アルバム自体も群馬の合宿でレコーディングされたんですか。
KOJI:そうですね。3、4日行くのを何度か繰り返して。
YUICHI:PRINCE ALBERTのメンバーがやってるブギーっていうスタジオが群馬の藤岡にあって、そこに合宿所があるんです。スタジオに入るのがだいたい正午前で、それから夜の11時くらいまで集中してやってましたね。それ以降の時間になると風呂が締まっちゃうんですよ(笑)。
──近くに温泉があったりとか?
KOJI:近くにいい温泉があって、そこでみんなでシャンプーを掛け合ったりしてました(笑)。
YUICHI:どれだけ流しても泡が落ちないシャンプーなんですけどね(笑)。
3人で試行錯誤して精選した楽曲だけが残る
──ロケーションまでもが開放的だったんですね。
YUICHI:それも功を奏したと思いますね。レコーディングでは突き詰めるだけ突き詰めて、その後は風呂に入ってガッツリと呑む。まぁ、呑んでる時もレコーディングの話になっちゃうんですけどね。一度、僕とKOJIが激しい言い合いをしてる中で、HAZEが焼酎を呑みながらひとり泣いてたことがありましたね(笑)。
KOJI:あれはかなりエモーショナルな瞬間だったよね(笑)。言い合いと言っても、酔っ払ってしょうもないことでケンカになっただけなんですけど。
──曲の方向性を巡って言い合いになったりすることは?
YUICHI:曲作りのディスカッションは3人でよくしてますけど、言い合いになることはないですね。僕とKOJIは実の兄弟だし、感性が似てる部分も多いので、HAZEの意見が凄く重要なんですよ。5つのコードを4つにしてみたらどうだとか、この部分のメロディを一音上げてみたらどうだとか、HAZEの意見にはハッとさせられることが多いんです。そうやって各自がいろんなアイディアを出し合って、それらを実際に演奏した上で、その中からいいものだけを選ぶ感じですね。
──YUICHIさんが英詞の曲を、KOJIさんが日本語詞の曲を作るというわけではないんですか。
KOJI:そういう明確な区分けはないですね。歌詞もみんなでアイディアを出し合いますから。
YUICHI:歌詞が英語になるか日本語になるかは、アレンジで決まることが多いんですよね。アレンジによって"この曲は日本語が合うな""この曲は英語で行こう"というふうに判断しているので、そこはケース・バイ・ケースなんです。僕らは日本人だし、日本で活動しているからには日本語の歌詞を大切にしたいと思っているし、その一方で英語の持つ言葉の力も凄く大きいと思っているんです。洋楽を好きな人たちや、日本のパンクが好きな外国の方にも聴いてもらえますしね。ひとりでも多くの人にSWANKY DANKの音楽を聴いてもらいたいからこそ、日本語詞と英詞の両方を使っているんですよ。
──意地悪な質問になっちゃいますけど、統一感に欠けるんじゃないかという懸念はありませんか。
YUICHI:ないですね。日本語詞でも英詞でも、"これがSWANKY DANKの音楽なんだ"という自負がありますから。
──なるほど、合点が行きました。万国共通であるメロディを最優先に考えると、唄われる歌詞は確かにケース・バイ・ケースですよね。メッセージ性を強く打ち出したい時は日本語を使ったほうが効果的だろうし、英語のほうが肌艶の良いメロディもあるでしょうし。その中で『One Sided』は日本語詞と英詞の両方が使われていて、今のSWANKY DANKを体現しているような楽曲ですよね。
KOJI:そうですね。自分たちの音楽を一番判りやすい形で表現できた曲だと思います。
YUICHI:名刺代わりの曲になるとも思ったので。でも実は、この『One Sided』だけが未完成の段階でアルバムに入れようと考えた曲なんですよ。あと1曲入れることになって、『One Sided』だけが出来てなかったんです。KOJIが「あと1曲は『One Sided』にしよう」って言い出して、僕もHAZEも青ざめちゃったんですけど(笑)。
KOJI:まだ『One Sided』っていうタイトルもなくて、サビしか出来てなかったんですよ。
YUICHI:他にも曲はいろいろ出来てたんですけど、KOJIはそれよりも全く新しい曲で勝負したいと。それを受けて、即群馬行きですよ(笑)。顔面蒼白の状態で、歌詞もメロディもかなり急いで作りましたね(笑)。
──スタンダード性も高いし、急いで作ったとは思えない出来ですけどね。
YUICHI:何とか形に出来て良かったですよ。歌詞は5、6回書き直したし、もの凄く焦ってたんですけど(笑)。
心も体も一緒じゃつまらない
──『Slow Down』に顕著ですけど、全体を通してコーラス・ワークの妙が存分に味わえますよね。ハーモニーの美しさもSWANKY DANKの大きな魅力のひとつだと痛感したんですが。
YUICHI:コーラスに関しては、曲作りの段階でKOJIとふたりでハモりながら考えてますね。
KOJI:YUICHIが唄ってるところを、僕が勝手にコーラスを付けてみたりもしますし(笑)。ふたりの声の絡み合いは、バンドにとって大きな強みだと思ってますね。
YUICHI:ただ、自分たちでもどっちが唄ったか判らなくなる時がたまにあるんですよ(笑)。周波数的なものが似てるのかもしれませんけど。
──それはやはり、同じ血が流れているがゆえですね(笑)。
KOJI:YUICHIの唄ってる高音をエンジニアのホッシーさんが落とそうとすると、僕の唄う高音まで落ちるみたいなんですよ。「同じような声質でやりやすかった」って言われましたからね(笑)。
YUICHI:ひとりずつ唄うと個性の違いがはっきりするんですけど、声が混ざり合うと判別が付かなくなるんですよね(笑)。
──でも、ふたりの声が混ざり合った瞬間は至上のハーモニーとして昇華するという。
YUICHI:ライヴでコーラスをすると、「ハモりはDATで流してるの?」って訊かれることがたまにあるくらいで(笑)。
──そんな、アイドルのコンサートじゃないんですから(笑)。それにしても、全13曲中、切々と唄い上げるのは最後の『一つになる心』だけで、後は全部メロディアスで疾走感に溢れたナンバーという潔い構成ですよね。
YUICHI:アルバムのコンセプトが"開放感"だったし、何よりもまずライヴ感を出したかったんですよね。ライヴの疑似空間みたいなものを作り出したかったし、アルバムを聴き終えた時にライヴっぽさを感じ取ってもらえたらいいなと思って。
──1曲目の『キミノナノ』から12曲目の『My Story』までフルスロットル全開ですからね。
YUICHI:で、最後の『一つになる心』で少し休んでもらうという(笑)。曲の並びに関しても各自がアイディアを持ち寄って、いろいろと悩みながらパズルを組み合わせるように考えたんですよ。『一つになる心』を最後に置くことはすんなり決まったんですけどね。
KOJI:満場一致で最後しかないということで。
YUICHI:実際のレコーディングでも最後に演奏したんですよ。レコーディングに懸けたいろんな思いを歌の中に込められるんじゃないかと思って。
──『一つになる心』は人類愛的なニュアンスもあるスケールの大きな曲だし、最後以外には考えられないですよね。
YUICHI:"一心同体"って言葉がありますけど、心も体も一緒じゃつまらないよなと思うんです。体が別々でそれぞれの個性があるというのに、そこを一緒にしたくないと言うか。自分たちの個性を生かしたまま、心だけひとつの方向に向かえば、誰かと争うこともなく優しくなれるんじゃないかなっていう。たとえて言えば、没個性な学ランを着たくないから裏ボタンを替えてみたりするじゃないですか(笑)。誰かと同じことをやりたくないからこうして音楽をやってるわけだし、一心同体になりすぎると面白くないんですよ。
──そういった骨太なメッセージが平易な言葉で綴られているのがいいですよね。どの曲にも通底しているのは、『滝の如く』の歌詞にある"振り向くんじゃなく 前を向いて行こう"というポジティヴさだと思うんですが。
KOJI:『滝の如く』では、滝を心に見立てているんですよ。水流の激しい滝もあれば、緩やかに流れる滝もある。人間の感情の起伏も一定じゃないですからね。"大きく悩んだ分だけ乗り越える力が増していってるんだ"という歌詞は、聴いてくれる人たちへのメッセージであると同時に、自分自身にも言い聞かせている部分もあるんです。
YUICHI:あと、滝の水しぶきをひとりの人間として考えて、大きな水の流れの中で人間同士が支え合って生きているんだっていう意味を込めたつもりなんですよ。
誰かを大切にすることは自分を大切にすること
──ああ、だから傷つけ合い奪い合う争いの不毛さを冒頭で唄っているわけですね。その他にも、"どんな迷いがあっても/どんな苦しい時も全部/理由があると思うんだ/それは幸せへ続く道"と唄われる『Letter』然り、"当たり前の日々の中/走り抜いて 止まらないで"と唄われる『Cheers』然り、力強く背中を押してくれるような歌詞が多いですよね。
YUICHI:身近にある大切なものが見えなくなることってたまにありますよね。たとえば、両親に対して素直に「ありがとう」と言えない時とか。でも、恥ずかしがらずに「ありがとう」と言えたら両親は凄く喜ぶ。そういう大切なことって身近にたくさんあると思うんです。僕ら自身、音楽をやり続けてきてそういうことに気づけたんですよ。その自分たちが気づけたことを音楽を通じて少しでも伝えていきたいし、そこに共感してもらえたら凄く嬉しいですね。
──どの曲も、ライヴでの経験値の高さがタイトな演奏に繋がっていますよね。収録曲はライヴでお馴染みのナンバーばかりですし。
YUICHI:『いつまでも』と『Be My Self』以外はライヴでやってますね。その2曲は、音源が出た後に初めてライヴで聴ける曲を入れようと思って作ったんですよ。
──『Galaxy』の中に"泣いたり笑ったりしている意味を大切にしている人が勝って行く"という歌詞がありますが、みなさんにとって"勝ち負け"というのはどんな基準で決まるのかなと思ったんですよね。
YUICHI:何事も自分のために行動していると消極的になると言うか、臆病になってしまう気がするんです。でも、誰かのために行動を起こしていくことは"勝ち"だと僕は思うんですよ。誰かを大切にすることは自分を大切にすることに繋がると思うし、"情けは人のためならず"じゃないですけど、最終的にはすべて自分自身に跳ね返ってくると言うか。他人を大切にできなければ自分も大切にできないし、自分を大切にできなければ他人のことも大切にはできないと思うんですよね。
──確かに。演奏面で特に気を留めた点はどんなところですか。
KOJI:僕は基本的にライヴを想定してベース・ラインを作っているので、難しいことをしすぎてライヴで再現できないようなことは避けようと心懸けましたね。ファースト・アルバムということもあって、音作りに関してはかなり細かい部分までこだわって、ストイックに臨んだつもりです。
YUICHI:ジャックのこの部分を磨いたらいい音になるんじゃないか? とかね(笑)。ホッシーさんとの相性も良かったと思うんですよ。一緒にディスカッションしながら、どういう音にしていくかをしっかりと話し合った上で作り込みましたから。オクターブに合うギターを友達に借りてきて音を重ねたりもしたし。ギターは6本くらい重ねたんですよ。
KOJI:自分のじゃないっていうのが凄いよね(笑)。
YUICHI:自分のは1本だけだからね(笑)。ギターは上物だし、ライヴではベースとドラムがしっかりしていればいいと思ってるんですよ。"ジャーン!"と勢いよく弾いて迫力を出せればそれでいいと言うか。音源ではそのアプローチから一歩進んで、自分なりにこだわってみた感じなんです。
──どれだけ性急な曲でもリズム隊は見事なまでに安定していますよね。
KOJI:その辺は全裸になった成果も出てるんじゃないですかね(笑)。どの曲も"いっせーのせ!"で録っていて、どうやってグルーヴを生み出すかをああでもない、こうでもないとずっと考え続けてましたね。その答えがまさか全裸にあったとは思いませんでしたけど(笑)。
言葉にならない感情をどう伝えるか
──あと、『10World』で唄われている"10個の世界"とは何なんだろうと気になったんですよ。"10World is in yourself"という歌詞が冒頭にありますけど。
YUICHI:これも感情のことなんですよ。たとえば今この瞬間猛烈に怒っていたとしても、誰かに面白い一言を掛けられた途端に思わず吹き出してしまう。その時点でひとつの世界がまた切り替わるわけです。そんなふうに感情が切り替わることを世界にたとえてみたんですよね。喜び、怒り、哀しみ、楽しみ...自分の中には世界がいっぱいあるんだ、っていう。
──ひとりの人間が宇宙のような存在であると?
YUICHI:そうですね、壮大なことを言えば(笑)。
──それが英詞であれ日本語詞であれ、SWANKY DANKの楽曲にはどれも迸る感情が歌に込められていますよね。
YUICHI:歌詞の重要な部分は特に、如何に感情を込めるかを気に留めてますね。歌詞の聴き取りづらい部分があれば、どうすれば聴きやすくなるかを3人で話し合いますし。
──今回、歌録りはかなり時間を費やしたんですか。
KOJI:だいぶ掛かりましたね。歌って、歌詞をただ唄えば伝わるようなものじゃないですから。言葉にならない感情をどうすれば伝えられるか、七転八倒しながら考えて考え抜きましたからね。
──目前に迫る締切のこともあるだろうし、何よりも初のフル・アルバムを完成させるプレッシャーも大きかったんじゃないですか。
YUICHI:録ってる時は無我夢中だったのでプレッシャーを感じる余裕もなかったんですよね。アルバムが完成した直後も"やっと出来た!"という感慨のほうが大きかったですから。でも、今この時点で冷静になって考えると、ひとつの作品を作り上げたんだという実感がようやく湧いてきましたね。これは決して自分たちだけのアルバムではなく、ライヴを見に来てくれるお客さんやスタッフのみんなと一緒に作り上げたアルバムなんだという思いが込み上げてきてるし、それを今リアルに感じてます。ひとりでも多くの人たちに早く聴いて欲しいという気持ちももちろんありますし。
──バンド名をそのままアルバム・タイトルに冠することは当初から考えていたんですか。
YUICHI:僕らの原点はやっぱりライヴハウスなんですよ。さっきも話した通り、SWANKY DANKというバンド名自体がライヴハウスを意識したものだし、この2年の間にライヴハウスで育ってきた曲たちを聴いて欲しいという意味においても『SWANKY DANK』以外にないと思ったんですよね。
──先ほど話題に上がった『CHANGING』のような今回は音源化されなかったライヴの定番曲は、いずれ機会を見て発表することも考えていますか。
YUICHI:そうですね。その時点の感性で改めて聴いた上で、アレンジを新しくして音源にするのもいいんじゃないかと思うし。
──少々気が早いんですが、次作の構想はすでにあったりします?
YUICHI:ありますね。ファースト・アルバムが完成して何度も聴き直していると、早く次の作品に取り組みたいという欲求が生まれるんですよ。実際、「次、どうする?」みたいな話はすでに3人でしてますから。
お互いの生き様が交錯するようなライヴ
──皆さんが"HOME"と呼んで下さっている我が新宿LOFTですが、どんなイメージを抱いていますか。
YUICHI:僕にとってはずっと憧れの場所なんですよね。LOFTで好きなバンドのライヴを見ると、そのバンドの生き様が見えてくるんですよ。バンドはもちろん、オーディエンスの生き様さえも。そういうものまでLOFTという空間は引き出してくれるんだなと思ったし、だからこそいつかあの市松模様のステージに立ちたいとずっと思ってたんです。まぁ、初めてLOFTのステージに立てた時は、緊張の余り何をやったかさっぱり思い出せないんですけどね(笑)。どうやって音を作ればいいのかも判らなかったし。
KOJI:僕もLOFTには客としてよく通っていて、いつかあのステージに立ちたいと思ってました。実際にLOFTでライヴをやれるようになって、店長の大塚さんや現場のスタッフの皆さんがホントにいい人ばかりで、ますます好きになりましたね。
──酒好きの店長からアルコール度数の高い酒を振る舞われることも多いのでは?(笑)
YUICHI:KOJIは大塚さんから「お疲れ様!」ってテキーラを差し出されて、グイッと呑んだ瞬間にトイレに駆け込んだことがありましたね(笑)。
KOJI:あの時はもの凄く体調が悪かったんですよ。その後どうなったかは推して知るべしですけど(笑)。
──ライヴを終えた後に店長からアドヴァイスをもらうようなことは?
YUICHI:結構して頂いてますよ。「もうちょっとMCを頑張ったほうがいいんじゃない?」とか。
KOJI:あと、「もっとバンドの個性を活かしたほうがいい」とか。有り難いですよ。
YUICHI:そういうアドヴァイスを頂いた後は「一緒に呑もう」と誘ってもらえますし。
──1月にはLOFTで"Min・ute・man"の2回目が行なわれましたけど、やっぱり徐々に会場を大きくしていきたいですか。
YUICHI:できればこれからもLOFTで続けていきたいですね。こだわりのある自主企画ですから。
──ちなみに、"Min・ute・man"というネーミングの由来というのは?
YUICHI:誰もが気軽に集まれる場所として、秘密基地みたいなイヴェントにしたいと思ったんですよね。ただ"秘密基地"じゃダサイと思って、他のネーミングを考えたんですよ。"Min・ute・man"っていうのは、アメリカの独立戦争の時に招集された民衆の兵士のことなんです。招集されたら1分(minute)で駆け付けるからそういう名前が付いたみたいなんですけど。
──今後の自主企画も楽しみですが、アルバムの発売に合わせて始まるツアーも楽しみですね。
KOJI:今回が初めてのツアーになるので、これまで以上に気合いを入れて臨みたいですね。
YUICHI:ずっと関東近郊を中心にライヴをやってきたので、尚のこと楽しみなんですよ。ライヴに関しては、ただ純粋にお客さんに楽しんでもらいたいだけなんですよね。僕らのライヴを見て暖まって欲しいし、そこで僕らの生き様を感じ取ってもらえたら嬉しい。その一心なんです。
──お客さんの生き様もSWANKY DANKにぶつけて欲しいですよね。ライヴハウスはコミュニケーションの場なんですから。
YUICHI:そうですね。そうやってお互いの生き様が交錯するようなライヴをやっていきたいし、初めてのツアーでもそんなライヴを積み重ねていけたらと思ってます。1本1本生き様をぶつけて、次のステップアップに繋げられたらいいなと。
KOJI:先輩のバンドの方々からも「ツアーは凄く勉強になる」ってよく聞いてますし、楽しみですね。今はツアーを成功させて、今後に繋げていきたい気持ちでいっぱいなんです。
──今日はあいにく不在のHAZEさんも、ツアーに臨む気持ちはおふたりと変わらないんでしょうか。
YUICHI:同じなはずですよ。多分、あいつはいいライヴをやれた夜に焼酎を呑みながら泣いてるんじゃないかな(笑)。