2008年1月の1st.アルバムの発表以来、シュアな耳を持つロック・ファンの間で強烈な注目を集めてきたMASS OF THE FERMENTING DREGS(マス・オブ・ザ・ファーメンティング・ドレッグス)が、新作『ワールドイズユアーズ』をリリース。中尾憲太郎(ex.NUMBER GIRL、SLOTH LOVE CHUNKS、SPIRAL CHORD)を共同プロデューサーに迎えた本作で彼女たちは、剥き出しのダイナミズムはしっかりとキープしつつも、イノセントなポップネスを向上させることで、自らのセンス、ポテンシャルを大きく広げてみせた。激烈にノイジーでありながら、時にキラキラとした光を放つギター・サウンド、そして、ヒリヒリとした痛み、葛藤を気持ちよく解放してくれるメロディ・ライン。マスドレの音楽は今年、さらに強い支持を得ることになるだろう。(interview:森 朋之)
ギュッと、ドン!と。
──昨年の10月に下北沢SHELTERでdipと対バンしたときのライブを見せてもらったんですが。
宮本菜津子(ボーカル&ベース):あ〜そうなんや。ありがとうございます。
──あの時点で既に、ニューアルバム『ワールドイズユアーズ』に入っている曲を演奏してましたよね?
宮本:やってましたね。ちょうどやり始めた感じのときやんねぇ?
石本知恵美(ギター):うん。
宮本:もう録り終わってたんですよ、あのとき。
──あ、そうなんですか。
宮本:昨年の10月にまとめて全部やったんです。録りから...。
石本:ミックスから。
宮本:マスタリングまで、全部。10日間くらいかな?
──かなりタイトな感じでした?
宮本:ギュッと(笑)。そんな感じやんなぁ?
石本:うん。ギュッと、ドン!と(笑)。
──"ギュッ、ドン"っていうレコーディングで(笑)。まず、ギリギリまで研ぎ澄まされたようなサウンドがすごく良くて。こんな音で録りたい、っていう音質に対するイメージってありました?
石本:音質...どうやった?。
宮本:そういうのは...中尾さんに任せたところがありますね。なぁ?
石本:うん。私たちのほうから「こういう音で」っていうのはなかったかな。
──中尾さんとのレコーディングは初めてですよね?
宮本:はい、初めてでした。
──制作前には、何か話をしました?
宮本:というか、スタジオからずっと一緒にやってたので。曲作りとかに関しても、一緒にスタジオに入ってアドバイスをもらったりとか、1ヶ月前、2ヶ月前からずっと一緒に行動してたんですよ。だから改まって、レコーディングに向けて話をするっていうわけではなくて、作曲作業の流れのなかでいろいろ話してたっていうか。
──アドバイスっていうのは、わりと具体的なテクニカルなことだったりするんですか?
石本:そうですね。「こういうのはどう?」っていうアイデアだったり。それを受けて、実際にやってみて、ああだこうだと話して。」
宮本:「ここでこういう展開はどうかな?」とか。最初は私たちだけで作るんですけど、要所要所でアドバイスをもらって。そんな感じですね。
──そうやっていろいろと試していく中で、よっしゃ!っていう瞬間があるわけですよね。
宮本:うん、多々ありますね、それは。
石本:うぉー!! っていう感じで(笑)。
宮本:やっぱり、私たちよりも遥かにたくさんの音楽を知ってるし、経験もあるじゃないですか。だから、出てくるアイデアとかも"それは私たちからはなかなか出てこない"っていうものが多くて。
──アレンジの幅も広がりますよね、当然。
宮本:そうそう。それはいいことやと思うし。
──でも、それをジャッジするのは2人だったりするんじゃないですか? 最終的に"これはカッコいい、間違いない"っていうところに至らないと、楽曲としては成立しないだろうし。
石本:うん、そうですね。
宮本:でも、「これはちょっと...どうやろう?」っていうのはそんなになかったかな。
石本:これもいいけど、こっちもええなぁ、っていうのはあったけど。
宮本:うん。
──音源を聴かせてもらってもライブを見ていても感じるんですけど、音に対する価値観というか、"これがカッコいい!"って思うポイントがふたりの間ですごく近いんじゃないですか?
宮本:あ〜。
石本:まあ、でも、そうやろうな。
宮本:うん。ただ、基本的な知識があんまりないんですよね、音楽の。(ギターを弾く真似をしながら)これが何のコードかはわかってない。あと、何拍子になってるかがわからんとか。なんとなくやりながら「今のガーッ!っていうの、カッコいい」とか「今のシュン!っていう音がいい」とか言ってて。そういう感じでやってるから、カッコいいと感じる感覚は似てるんだと思いますね。
石本:「これは無いなぁ」っていうのも...。
宮本:うん、「無いなぁ」も一緒やもんな。
──複雑なコード感だったりとか、「これ、変拍子?」っていうリズムもあって。それもカンでやってることなんでしょうか?
宮本:まるまる"カン"ですね。そうやんなぁ?。
石本:うん。たとえば曲をまとめるときに「ここは何拍子になって、こっちは何拍子で...」って整理すると、「あれ、どうなってんやろう?」って。
──逆に演奏しづらくなったり。
宮本:そう。もちろん、整理したほうがやりやすくなることもありますけど(笑)。ライブの前に練習してるときも、"振り付け"みたいな感じなんですよ。
──振り付け?
宮本:小節が変わった、みたいな話じゃなくて、(身振り手振りで)ここはこうなる! っていうニュアンスでやってるっていうか。そのほうがたぶん、向いてるんだと思うんですよ。今さら音楽の理論的なことを勉強しても...っていうのもあるし。
石本:うん、そうやな。
宮本:そこは変わらないと思いますね、きっと。
何かフツフツとした感じ
──なるほど。あの、1st.アルバムをリリースした後、バンドに対する注目度も確実に大きくなってるし、周囲の状況も変わってきてると思うんですよ。そんな中で、自分たちのペースやスタイルをキープしていくのって、大変じゃないですか?
宮本:そやなぁ...でも、それほど大きな状況の変化があったとは実感してないかもしれないです。たとえばライブのとき、目の前にお客さんがたくさんおるってなったら、うわーっ!! ってなるけど、逆に言うと、そういう時くらいしか実感することはない。うわ、すごっ! っていうのはあるけど、変わったなぁとは思わないかな。
石本:そうやね。
宮本:すごっ! とは思うけど、自分たちは何も変わってないから。そこは何も感じてないかな。
──たとえばバンドを始めたときに「何年後にはここでライブやって、アルバムをリリースして」みたいなビジョンもなかったですか?
石本:ないですねぇ(笑)。前もって目標があって、そこに向かってがんばっていくっていう感じではなかったから。
宮本:ただバンドがやりたい、っていう感じでしたからね。「バンドやりたいなぁ」から始まり、「かっこいい曲をつくりたいなぁ」に発展し、「ライブもやりたいなぁ」っていうことになり。そこから、やっぱりいっぱいの人に聴いてほしいから、CDも出したいよなぁって。そうやって進んではきてるんですけど、最初に目標があったわけではないんですよね。ビッグになりたい、っていうのもなかったし。
石本:ないな、それは。
──なるほど。ちょっと遡りますけど、ふたりが最初に出会ったのは学校ですか?
宮本:最初に会ったのは高校のときですね。クラスが違ってたんだけど、共通の友達がいて知り合った、みたいな。女子高やったんですけど...最初はどうやったっけ?。
石本:何でやったかな?。
宮本:知恵美ちゃんがニルヴァーナ好き、っていう話を聞いたのは、ケータイの番号を交換してからやろ?
石本:あ、でもねえ、私がメール交換しよって言った。
宮本:わぁ、そうやったっけ? 珍しいな、それ。そういえば手紙くれたもんなぁ。
──手紙?
宮本:ノートの端っこを破って、手紙書いたりするじゃないですか。それを共通の友達からもらったんやっけ? 知恵美ちゃんから直接やった?
石本:直接渡したと思う。
宮本:そうか。私のクラスに遊びにきた時にもらったのか。
──女子高って、どんな学校だったんですか?
宮本:普通ですよ。
──お嬢様っぽい学校とかではなく?
石本:いやー、全然(笑)。
宮本:まったくですよ。セーラー服やったけど。
──でも、ニルヴァーナは好きだったと。
宮本:あ、そうや!! そのときね、知恵美ちゃんのアドレスが"nevermind"やってん。
石本:ハハハハハ! そんなことまで言わんでええやん(笑)。ちょっと恥ずかしい。
宮本:ごめん(笑)。でも、そこからよね? "nevermaind"って、もしかして...って思ったし。カート(・コバーン)が好きやって言ってたし。そう、メールでカートの話したもん。
石本:そうか。
宮本:そのとき知恵美ちゃんが「今ベランダにいるんやけど...」とか言ってて。それ、めっちゃ覚えてるもん。
石本:それも言わんでええわ。
宮本:ごめん(笑)。でも、ホントに覚えてるんですよ。アドレスを見て、私から話した気もするし。それきっかけで、同じ学校でニルヴァーナが好きな子がおるってわかったんやと思います。珍しい! って。
──珍しいですか(笑)。
宮本:いや、それは珍しいですよ。そのときはちょうど浜崎あゆみさんとかがすごい人気になってて、みんなが好き好きってなってるときだったから。でも、私はそのときちょうどロックを聴き始めてて。あ、ロック好きな子が学校におる! って嬉しかったんです。
──何かのインタビューで読みましたけど、hideさんも好きだったんですよね?
宮本:大好き。でも高校のときはhideから、zilchにいってたんですよ。そこからマリリン・マンソンとかにいってしまって、ラウド・ロックが好きになったんですよ。スリップノットとかもちょうど出てきたときで。
──zilchからスリップノットに行くっていうのは、きっとhideさんも喜んでるんじゃないかな、と。
宮本:ははははは! そうだといいですね。大好きでしたもん、コーンとかデフトーンズとか、重いやつばっかり聴いてた。そういうのを聴いてたから、学校にニルヴァーナが好きって子がいるっていうのが、すごく貴重だったんですよね。
──まあ、ニルヴァーナはそんなに重い音ではないですけどね。
宮本:あ〜。でも、hideさんのSpread Beaverに参加してたKAZさんがやってたOblivion Dustも聴いてたから、そっからUKのバンドにもいったし。そのなかにニルヴァーナとかホールとか、あとスマパンとかもあって。洋楽ばっかり聴いてましたね、とにかく。
──なるほど。知恵美さんは"カート最高"って感じですか?
石本:うーん、何やろう...。ニルヴァーナの音楽がそのときの自分の状態とかと、たぶん合ってたんじゃないかなと。
──わりと殺伐とした高校時代だったってことですか?
宮本:ははははは。
石本:まあ、どっちかっていうと、「わー、楽しかった!」という感じではないですね。何やろうね?
宮本:高校くらいのときって、具体的なことがあったわけじゃなくても何かフツフツとした感じがあるじゃないですか。そういうのは私もあったな。
石本:そう。何かわかんないですけどね。
宮本:友達もおるし、楽しいっていえば楽しいんやけど、意味もわからずイライラしたりモヤモヤした気持ちになったりっていう。私の場合は、それが重い音楽とリンクしたんだと思いますね。一緒になってワーッと騒ぐ感じではなくて、ひとりで聴きながら「あー、なんか落ち着く」みたいな。
──そこで精神的なつながりがあったんでしょうね、ふたりの間に。
石本:そうかもしれないですね。でも、ホントに仲良くなったのは高校を卒業してからなんですよ。
──バンドをやることもなかったんですか?
宮本:でも、知恵美ちゃんはギターやってたよな。
石本:うん。
宮本:最初がhideさんだったっていうのもあって、私もギターを持っていて楽器は触ったりしてたけど、バンドはそれほどしてなくて。
石本:なっちゃんがやっていたコピー・バンドを見に行ってましたよ。
宮本:それも高校卒業してからやんなぁ?
石本:そうかな。でも、学祭にも出てたやん。
宮本:あ、学祭...。そうか。
──何のコピーバンドだったんですか?
宮本:ハイスタですね。友達が突然、ハイスタに目覚めたんですよ。あと、その子が当時地元のアマチュアのバンドの中に憧れてたドラマーがいて「私、ドラムたたきたい!」って言い出して。で、「なっちゃん、ギター弾いて」って。私ハイスタは聴いたことなかったから、そこで初めて聴いて、ギターのコピーして。...あれ、すごかったよな。だって、ベースおらへんかったやん。
石本:そう、ベースはただ持ってるだけ(笑)。
宮本:ドラムとギターとボーカルで、ベースは持って立ってるだけっていう。
──斬新ですねえ。
宮本:ははははは! それを知恵美ちゃんが見てたんです。わからへんから、全部パワー・コードでやってました。ハイスタ好きな人、ごめんって思いながら。
──(笑)知恵美さんはバンドはやってなかったんですか?
石本:おままごと的なバンドはやってたんですけど、それもおもろなくなって。活動とかはしてないけど、ひとりでガチャガチャやってる、っていう感じでしたね。
意味より感覚が大事
──ふたりでやり始めたのはどうしてなんですか?
宮本:もともと私と初代のドラムがメンバー募集で知り合って。とりあえずスタジオに入ったりしてたんですけど、そのときのメンバーが大学進学とかでバンドができなくなっちゃって、「やっぱりギターがほしい」ってことになって。で、「あ、そういえばニルヴァーナ好きな子がおった!」って思って、連絡して口説いたんです。
──いきなりバンドだけの生活になったんですか?
石本:そう...かな。仕事もしてたっていうか、高校のときから内緒でやってたバイトを続けてたくらいですけどね。将来の進路はどうしよう? っていうこともありつつ、PAさんになってみたいって思ってたんですけど、具体的に動いてたわけでもなく。どうしよう、どうしよう...っていう感じでした。
──けっこう危ういですよね、それは。
石本:そうですねえ。第3期の暗黒時代だったような。
宮本:ははははは。3回目なんや(笑)。
──(笑)でも、バンドは楽しかった?
石本:そうですね。あのときにマスドレを始めてなかったら、どうなってたんやろうって思います。やり始めたら、すごい楽しかったし。
──このバンドはかっこいい! って思ってた?
石本:単純に3人で音を出したり、セッションしてるときに「今のいいね」ってなったりとか、そういうのでもう、嬉しいんですよ。それが大きかったかな。それまでやってた"おままごとバンド"ではなかった感覚やったから。あと、根拠はないけど、自信みたいなものもあったし。なぁ?
宮本:うん、始めたばっかりやのに何でもできると思ってた。何やったんやろう なぁ? あの恐いものなし感。"俺たち、無敵"っていう(笑)。でも、活動しているとだんだんわかってくるんですよね。他のバンドとかを見て、自分たちの至らなさに気づき始めて...。
石本:もうギターやめたい、とか思ってました。
宮本:1回、ホンマにひどいライブをしてしまったことがあったんですよ。「今日のライブはひどかった」って3人とも感じて、そのときは3人で泣いたよなぁ?
石本:うん、泣いた。
宮本:バンド始めてすぐなんですけど。ライブハウスを出た階段のところで「なんであんなライブになってしまったんやろう?」って、3人で"うわーん"ってなって。今思うと、可愛い なぁ(笑)。
──その時点で既に本気だったってことですよね?
宮本:そうですよね。そうじゃなかったら、泣いたりしないですから。
──そうですよね。曲は最初からオリジナルだけ?
宮本:えーと...。なんとなく自分で作った曲を知恵美ちゃんに聴いてもらったような気がする、最初に。
石本:うん。
宮本:もう、なんとなく、ですけどね。相変わらずパワーコードだけだったし、「何かカッコいいねぇ」みたいな(笑)。
──そのころ作ってた曲って、今 の音とも繋がってます?
宮本:かけ離れてるはいるけど、つながってるかな?。
石本:うーん...。
──やりたいことは変わってないというか。
宮本:いや、そのときどきでやりたいことが変わってはいると思うんですけど、そのときにカッコいいと思うことをやる、っていうスタンスは変わってないっていう。たぶん、曲だけを聴いたら「ずいぶん変わったねぇ」ってことになるんだと思います。
──よく言われてることかもしれないけど、マスドレの音楽って、90年代のオルタナ感がすごくあると思うんですよ。そういうこともあまり意識してないですか?
宮本:えーと、オルタナって、どういうのを言うんですか?
──スマパンもたぶん、オルタナと呼ばれてたと思います。あとはペイブメントとか。
宮本:あ〜。
石本:でも、確かに"オルタナ"っていうのはよく言われる。
宮本:こっちは意味がわかってないんやけど(笑)、「あ、そうなんや」って。初期のころはグランジって言われることが多かったんですけど、いつからかオルタナって言われるようになったね。
石本:うん(笑)。
宮本:でも、スマパンとかはすごい好きやし。私はたぶん、オルタナと呼ばれるものが好きなんだと思います。90年代の音楽がすごい好きだから、きっと、そういうことなんじゃないかっていう気がした、今。
──なるほど。でも、リアルタイムではないですよね?
宮本:スマパンが解散したのがちょうど高校のときなんですよ。だから最後のアルバムから遡って聴いてみたりとか。そういうことはしてました。
──ものすごく前衛的なこともやりつつも、メロディはしっかり持ってるバンドですよね。
宮本:そう。何をやってもスマパンってポップじゃないですか。たぶん、そういうところに惹かれたんだと思うんですよ。あとね、やさしい音楽と攻撃的な音楽を一緒にやってるって思ったんです。そういうバンドは私にとって初めてだったんですよ。
──それって、マスドレの音楽にも共通してますよね。触った瞬間に壊れてしまいそうな繊細さと、めちゃくちゃ凶暴な感じがひとつになってるというか。
宮本:あ、そうかもしれないですね。そうそう...。
──歌詞についてはどうですか?
宮本:最初はあんまり歌とかなかったんですよ。だって、ボーカリストを探してましたから。でも、なかなか合う人がおらんし、だったら誰か歌える人が歌おうかってことになり。歌がある曲に関しては歌詞を書いてたけど、あんまり"自分が歌う人や"っていう感覚もなくて。
──今回のアルバムは1st.よりも歌が際立ってますよね?
宮本:あ、そうですね。それは意識してたというか、そういうモードだったというか。歌をちゃんと聴かせたいと思ったり、メロディの力を信じていて。だから、歌がたってるって言われるのは嬉しいです。
石本:メロディラインを大事にっていうのはみんなが思ってましたね。
宮本:1st.のときは言うたら、何も考えてなかったんですよ。歌よりもギターのリフで押したいと思ったり、全部音で埋めたれ! っていう感じやったり。
石本:今もそういう感じはあるけど、"間(ま)"だったりメロディを大事にしながらギターのアレンジを考えてます。そういう意識の変化はあるかな。ギターもわりとシンプルなんですよ。重ねるためにアレンジを変えてっていうのはない。そういうことができひんっていうのもあるんですけど(笑)。
宮本:ははははは。そう、たぶんね、難しいことができないんですよ。というか、難しいことに興味がない。
──歌詞は始めから日本語でした?
宮本:はい、日本語でした。私ねえ、日本人が英語で歌ってるのが好きじゃないんですよ。たとえば帰国子女っていうか、ずっとあっちで暮らしてて、母国語みたいになっているならいいと思うんやけど、そうじゃないと"なんでいちいち英語にするんかなぁ?"って思うから。わからへんやん、そんなん、っていうのがあるし、あとは自分がしゃべれないですから(笑)。まあ、今回は『She is inside, He is outside』で英語の歌詞もあるんやけど。
──と言っても、歌詞は「She is inside/He is outside」だけですけどね。
宮本:そう、めちゃくちゃ短いし、誰でもわかるじゃないですか、きっと。長い歌詞を英語にするっていうのは、これからもないんやないかなきっと。
──書き方は決まってます? 歌詞を先に書くこととか...。
宮本:先に歌詞を書くことはないです。まず曲があって、それに歌詞をつけるか、あとは同時に出てくるか。
──じゃあ、たとえば『このスピードの先へ』という曲についても、あくまでも楽曲やサウンドのイメージが先にあったんですか?
宮本:そうですね。みんなの音がひとつになって、そこからイメージを掴んでいくっていう。
──テーマとかメッセージもない?
宮本:タイトルもあとから付けるし、最初にテーマを決めることもないか なぁ。メロディをつけるときに仮で適当に歌っていくんですけど、自分のなかでしっくりくる音っていうのがあって、それが"あ"なのか"い"なのか"う"なのか...その中から言葉が出てきたら、バーッと広がっていく感じですね。
──意味よりも感覚を大事にしている、と?
宮本:入り口としては、"意味よりも感覚"かもしれないですね。そこからは、まったく意味のない歌詞もイヤなので、いろいろ考えることもありますけど。
──なるほど。でも、歌詞はマスドレの魅力だと思いますけどね。
宮本:おー! ありがとうございます。
──具体的なことを歌ってるわけではないんですけど、カタチのないものを掴もうとする感じだったり、そこに伴う焦りだったり、ヒリヒリした気持ちも含まれていて"この感じ、わかる"っていう人も多いと思うんですよね。
宮本:よかった(笑)。嬉しいです。
人にはそれぞれの世界がある
──『ワールドイズユアーズ』っていうタイトルについては?
宮本:えーと、まずは「これはどうかなぁ」っていう話をみんなでして。メンバーが「どうかなぁ?」って言うものを無理に押すのも違うじゃないですか。最初は私が提案するんですけど、話しながら決めてますね。
──前向きな感じのするタイトルですよね。
宮本:前向き...前向きです(笑)。
──何か由来があるんですか?
宮本:由来はないですけど、そういうことを言いたい感じだったというか、そのときに。なんか、あんまりトゲトゲした感じじゃないでしょ? 大きい感じというか、とにかく"世界は君のものだよ"っていうことを言いたくなったと言うか。深い意味はありますか? って言われたら困るけど(笑)、一番しっくりくる言葉がこれやったんです。
──ライブに来てくれる人に向けてる言葉でもある?
宮本:みんなですよね。身近にいる人、みんな。ライブに来てくれる人もそうやし、マスドレを聴いてくれる人たちに対して、っていうのはもちろんですけど。
──じゃあ、"世界は自分のものだ!"って思うことはある?
宮本:ない(笑)。だから"ワールドイズマイン"とは言えないんですよね。でも"ワールドイズユアーズ"とは言えるし、それイコール、"人にはそれぞれの世界がある"っていうことだと思うし。
──あ、なるほど。その人の世界を大事にしてほしいというか...。ふたりが高校生のとき、誰かがこの言葉を言ってくれたら、ずいぶんラクになったんじゃないですか?
石本:あ〜。
宮本:でも、そうかもしれないですね。なんかねえ、自分が音楽を聴き始めたときとか、ロックに出会ったときの感覚を忘れたらあかんって、すごく思うんですよ。やる側に回っちゃうと、それを忘れてもうたりとか、こっちのエゴだったり理想みたいなもんに頭がいっちゃったりするじゃないですか。でも、私が高校くらいのときにライブを見に行って、そこに求めてたものって何やろう? とか、そういうことはよく考えますね。中学、高校のときの、ロックに出会ったときの救われた感じというか、それは大事にしていたいんです。
──...。僕はもう30代後半ですけど、高校のときハード・コアパンクを聴いて「うぉー、すっきりする!」みたいな感覚って、今も完全に残ってますね。
宮本:お、そうですか。
──でも、それってどうなのかな? って思うんですよ。もう20年くらい経ってるのに、あのころ抱えてたものが何も解決されていないような...。
宮本:うーん、そうなのかなぁ? でも、私は忘れたくないですけどね。そういうことで悩まへんような気がする(笑)。何て言うんやろ、"あのころの自分に向ける"くらいの気持ちでやらなぁかんと思うし、それがなくなったら、一番下にある基本的なのところがなくなってしまうことやから。忘れるのは恐いですね。
石本:そう、下からどんどん積み上げていくものやから。その下の部分がなくなったら、バランスも崩れるやろうし。
宮本:バターン! って崩れちゃう(笑)。だから、忘れたくないよね?
石本:うん。
──話が大きいですけど、ストーンズとかもそうなんでしょうね。スコセッシが撮った映画(『シャイン・ア・ライト』)を観ても、ガキっぽさがぜんぜん抜けてないというか。もうとっくに60過ぎてるのに。
宮本:大人じゃないんでしょうね。くるりの岸田さんとかも、年上のお兄さんやのに"小学生か!"って思うようなこと言うてくるし。おかしいですよ、あの人は。ヌルッとしとる。
石本:ははははは!
宮本:すごいなぁって思いますよ。憲ちゃん(中尾憲太郎)もそういうところあるし、いさこん(サポート・ドラムの吉野功)もそう。いさこんなんか36歳やのに、私たちのテンションについてきてくれるっていうだけですごいと思う(笑)。逆に私たちをおいて、ひとりで暴走したりするから。
──ふたりの感じは変わらないですか?
宮本:落ち着いたかどうかっていうこと? そうや なぁ、だいぶ落ち着いたんちゃうん?
石本:うん、丸くなった。
宮本:そうなんや(笑)。
石本:がさついてたというか、殺気立ってたっていうか、前は。
宮本:さっき言ってた、10代特有の悶々とした感じですよ。あとは楽しい雰囲気に乗れない感じとか。
──浜崎あゆみに乗れない感じとか。
宮本:そうそう。安室ちゃんはけっこう好きやったけど。あゆも嫌いじゃないけど、興味がなかった。」
──(笑)あの、07年にフジロック(ROOKIE A GO GO)に出たときのことも少し教えてもらえますか? 正式な音源をリリースしていないバンドが出演するのは異例だったし、マスドレにとっても大きなポイントだったと思うんですが。
宮本:実はその前にも応募したことがあったんですよ。その時は"今回は残念でした"っていう手紙が来て、「あかんかったわー!」とか言っていたので、出れたのは嬉しかったですね。初フジだったんですよ、あの時が。
──あ、そうなんですか。
宮本:うん。神戸から行こうと思ったら遠いし、お金もかかるし。チケット代とか泊まることとか考えたら...なぁ?
石本:無理。
宮本:いつか行きたいなぁって言ってましたからね。でも、出演した時ははしゃぎすぎて他のバンドを見すぎましたね(苦笑)。
──(笑)そうやって注目が集まり始めると、だんだん欲が出てきませんか?
宮本:欲?
──もっと上に行けるんじゃないか、とか。
石本:まあ、行けるところまでは行きたいですけどね。全力でやってることやから、中途半端な感じではいたくないっていう。行ける限りのところまではやりたいです。
宮本:"上に行ける"っていう言葉の持つニュアンスっていうのが...。
石本:業界的なことなのか...。
宮本:"行ける"ってなんだ? みたいな(笑)。何やろう、成功って何なのか? っていうのも、人それぞれじゃないですか。だから、今の自分たちがやれることは全力でやる、っていう感じなんですよね。自分たちが活動しているなかで、もしチャンスが舞い込んできたならば、それは挑戦するし。そういう感じよね?
石本:うん。
──わかりました。最後に2009年はマスドレの存在がさらに強まっていく年になると思うんですが、ふたりとしてはどういう気持ちでいますか?
石本:まず、ライブはガシガシやっていきたいですね。
宮本:ガシガシ(笑)。1月に9mm Parabellum Bulletと一緒に回らせてもらうし、そのあとは自分らのツアーもある。年明けてから、ライブはけっこうありますね。ライブがないと進んでいけない気がするから、どんどんやっていきたいです。
photo by Shigeo"JONES"Kikuchi