2007年、"真のパンクの復権"を提唱する西村茂樹(vo, g:ex.THE LOODS, ex.THE GROOVERS)の呼び掛けに応じて集結した百戦錬磨の猛者たち──伊藤秀孝(g, cho:MeTALpiLL, ex.GYMNOPEDIA)、ヤマジカズヒデ(g:dip)、サワサキヨシヒロ(b:a.k.a. DOCTOR YS)、須藤俊明(ds:ex.MELT-BANANA)。彼らは"LOUDS"を名乗り、同年12月に行なわれた初ライヴを皮切りに"永遠の初期衝動""大人による大人げない本気のパンク"を実践すべくライヴ活動に邁進。亀戸ハードコアを根城に『パンク塾』と題された自主企画を開催し、レベル・ミュージックたり得るパンク・ロックをオーディエンスとその向こう側にある欺瞞に充ち満ちた世界に叩き付けている。そんな彼らが、ライヴ・レコーディングによるファースト・アルバム『PUNK ROCK LIBERATION』の発表と共に本格的に闘争の火蓋を切る。本誌はパンク・ロック解放戦線のアジトである亀戸ハードコアに乗り込み、『パンク塾 三限目』の本番を直前に控えた5人を直撃した。各々のキャリアと矜持を懸けたパンクの解放闘争、その始まりのゴングが今高らかに鳴り響こうとしている──。(interview:椎名宗之)
ザ・ルーズの復活&解散ライヴがすべての始まり
──そもそもどんな経緯でラウズが始まったんでしょう。新宿ロフトで一昨年行なわれたルーズの復活&解散ライヴがやはりきっかけとしてあったんですか。
西村:そうですね。あのライヴをやって久々にエンジンが掛かったと言うか、やっとバンドをやる気になったんです。自分が音楽をやってなかった時期というのは、ブッチャーズとかコーパス・グラインダーズとか、周りに自分の好きな音楽をやってる連中がいたんですよ。彼らが俺の代わりになってくれてる感じだったんだけど、今はまた自分でやりたいと思うようになって。
──本当に錚々たる面子が揃ったと思うんですが、と同時に西村さんと接点があったのが意外な顔触れでもありますよね。
西村:みんな旧知の仲だったんだけど、一緒にプレイをした中で声を掛けたのは須藤君と秀孝だけでした。サワサキ氏はベースを弾けるらしいというので声を掛けたんです。ちゃんと弾けてるところはライヴで一度観ただけだったんですけどね。かなり失礼ですけど、"とりあえず"な人選でした(笑)。でも、スタジオに呼んでみたらもの凄く弾けてビックリしたんですよ。俺の勘が正しかったと言うか、予想以上の大当たりでしたよ(笑)。あと、ヤマジはヘンなことをやってもらえばいいかなと思って。そういう感じでしたね。
──ヤマジさんという人選が個人的には特に意外だったんですよね。そういう繋がりがあったんだなっていう。
ヤマジ:昔、ロフトでやってたルーズのライヴも観に行きましたよ。
西村:こいつはミーハーで何でも好きなんですよ。『宝島』少年みたいなところがあるから(笑)。
──西村さんの脇を固める皆さんにとっては、やはり西村さん=ルーズもしくはラウド・マシーンという印象ですか。
須藤:僕はルーズもラウド・マシーンも知らなくて、実際にライヴも観たことがなかったんです。ただ、このバンドの前に西村さんとスタジオに入ったりしていて、その流れで一緒にやるようになったんですよ。
西村:リズム隊のふたりはプログレが音楽的なルーツとしてあるんだけど、プログレの中でも極端な感じのものが好きなんですよ。テクニック的にギリギリな感じだったりとかね。そこに俺はパンクを感じるんですよね。
伊藤:俺にとって西村さんは、ルーズでありR.B.F.(REBEL BEAT FACTORY)の社長ですね。どちらかと言えば、社長っていうイメージが強いです(笑)。
サワサキ:僕は恵比寿のみるくとかでDJをやってた時に西村さんと知り合ったんですよ。もちろん、それ以前からルーズやラウド・マシーンのことも知ってたんだけど。あと、下北で連日連夜朝まで呑み歩いてた時によくお世話になったんですよね(笑)。
西村:まぁ、90年代の呑み仲間ですね(笑)。
──ラウズのコンセプトは"永遠の初期衝動"であり"大人による大人げない本気のパンク"ということなんですが、今回発表となる『PUNK ROCK LIBERATION』を聴くと、年季の入ったいい大人が大いにヤンチャしている感じが確かに窺えますね。
西村:中学生が初めて楽器を持って始めたバンドみたいに、とりあえず気合いだけで押し通すような感じなんですよ。そういうエネルギーはプリミティヴでパワーがあるし、それを持続させたままでバンドをずっとやっていけたらと思うんです。
──ルーズの復活&解散ライヴで"まだまだやれるぞ!"という手応えを感じての初期衝動モードなんですか。
西村:あのライヴをやる前は、かなり長い間パーマネントのバンドをやってなかったんで、身体がついていかなかったんですよ。あのライヴ前の3、4ヶ月のリハがホントに地獄のような荒行で(笑)、やっとあそこまで持ち直した感じなんです。でも、気持ち的にもまたバンドをやってみたかったし、体力的にもここでまた休んだら元に戻ってしまうと思って、もったいないからやろうと(笑)。もういい歳だから、こんなバンドをやれるのはあと何年もないかもしれないと本気で思ってるから、気合いの入り方が違いますよ。これが最後のチャンスかもしれないし。
伊藤:そんな、社長の墓場作りのバンドじゃないんだから(笑)。
"レイドバック禁止"という鉄の掟
──この5人が揃って初めて音合わせをした時は、"これだ!"という確かな感触を掴めましたか。
西村:『SO ALONE』という俺の昔のレパートリーをやった時の感触は非常に良かったですね。今回出る『PUNK ROCK LIBERATION』にも入ってる曲なんですけど。その時に「ダムドのファーストみたいで格好いい!」ってみんなで盛り上がったんですよ。
伊藤:その1曲をやった時は収拾がつかなかったよね。ギターの音が余りにデカすぎて(笑)。
西村:リハで最初に使ったスタジオは音がバンバン鳴るような環境だったんですよ。みんなして音がデカいもんだから、もうグッチャグチャでね(笑)。そういう物理的な問題で"ヤバイな!"っていうのもあったんです。
サワサキ:僕はそのスタジオの音の響きが好きだったんですよ。いいベースの音がしたから。
須藤:僕も"音がデカすぎる!"っていう印象しか最初はなかったんですよね(笑)。
──まさに文字通り"LOUDS"な感じだった、と(笑)。
須藤:その時はまだちゃんとした名前がなかったんですけどね。とにかく耳鳴りが酷かった(笑)。
伊藤:今のリハは、須藤君のリクエストでギター・アンプが壁に向いたままなんですよ(笑)。
──そんな耳をつんざく出音から今のバンド名が決まったんですか。
西村:このバンドを始めたきっかけはルーズの復活&解散ライヴだったし、あれを続けたいと率直に思ったんですよ。ルーズの延長って考えが最初はあったし、ラウド・マシーンやルーズを連想させるバンド名にしたんです。ただ、俺がグルーヴァーズを作った時もそうだったんだけど、あのバンドはラウド・マシーンのニュー・ヴァージョンのつもりで始めたら全然違うものになったのでバンド名を変えたんです。今回もそんな感じで、このバンドが始まって何ヶ月か経った時点で「バンド名を変えようか?」っていう提案をしたんですよ。だけど、みんな「別にこのままでいいんじゃないですか?」っていう感じだったので、このままにしたんです。執着がないと言うか、適当と言うか(笑)。
──ラウズのように初期パンクの色濃いサウンドは皆さんにとってルーツ・ミュージックでしょうし、演奏していて純粋に楽しそうに思えますね。
伊藤:うん、楽しいですよ。
須藤:僕も音をデカく出してるのが凄く楽しいですね。
サワサキ:僕はグッと気合いが入りますね。気合いですよ、気合い(笑)。
ヤマジ:俺は...初期パンク的な感じのものと現代的なものを結び付けようと試みています。
伊藤:また随分とインタビュー向きなことを言うね(笑)。
──ははは。でも、百戦錬磨の皆さんだからこそ、単なる懐古趣味的ではない今日性の高いパンク・ロックを具現化できていると思いますけど。
西村:みんな10年、20年ミュージシャンをやり続けているので、放っておいても出てきちゃうものはあると思うんですよ。ただ、それが退化したものと言うか、昔のロック的なものはやりたくないんです。それはもう、俺自身が聴きたくない。ウチのバンドは"レイドバック禁止"という鉄の掟があるんですよ。バンドを始めた頃、ヤマジもどう弾いていいか判らないからちょっとブルースっぽいフレーズを入れたことがあって、「それ、ダメだから! ちゃんと自分の音を作れ!」と忠告したことがあるんです。大人の手遊びみたいなことはやりたくないし、やって欲しくない。余裕のあるプレイはするな、常にギリギリで音を出そう、と。それが信条ですね。
──そんなラウズのデビュー・アルバム『PUNK ROCK LIBERATION』なんですが、スタジオ盤ではなく敢えてライヴ盤を出すことにしたのはどんな理由からですか。
西村:活動を手っ取り早く活性化させるためにリリースが欲しかったこともあったんです。各々が他にバンドをやっていてスケジュールが大変なこともあったし、このバンドとしての新曲作りもなかなかできないんですよ。だから俺の昔のレパートリーを引っくるめて、今やってるライヴを録ってとりあえず出そうと思ったわけです。
ラウズという名の競技をやっているような感覚
──確かに、この面子ではリハを1回やるにもスケジュールを合わせるのが難しそうですよね。
伊藤:いや、ラウズは結構リハに入ってますよ。
西村:と言っても、週に1回でしょ?
伊藤:今は週に1回になったけど、大人になってこんなにスタジオに入るとは思わなかったから(笑)。ねぇ、ヤマジさん?
ヤマジ:うん、そうだね。
西村:最近になってようやく、毎週金曜日はラウズの日っていうのが制定されたんですよ。
伊藤:それなのに、ちっとも顔を出さない人もいるけどね。ねぇ、ヤマジさん?
ヤマジ:うん、そうだね(笑)。
西村:こいつ(ヤマジ)は今日もリハを欠席して、さっき来たんですよ。
──ヤマジさんはプレイ同様に自由奔放なわけですね(笑)。
ヤマジ:いや、どれだけ自分自身をスリリングな状況まで追い込めるかを実践しているだけですよ(笑)。
西村:こいつは本気で何度もクビにしようと思ったんですよ(笑)。でも、ステージだけはとりあえずちゃんとやるんですよね。そういうところがウマいと言うか、ズルいと言うか。だからステージをハズしたら絶対にクビにします、これはホントに。クビにするって言うか、もう殺すね(笑)。
──リズム隊がしっかりと屋台骨を支えているから、伊藤さんとヤマジさんのギターの自由度が凄く高いのが『PUNK ROCK LIBERATION』を聴いてもよく判りますね。
伊藤:うん、そうですね。自由にやらせてもらってるし、ギターはできるだけいい加減にやったほうがいいのかなと思ってるんですよ。ねぇ、ヤマジさん?
ヤマジ:......(今度は無言)。
西村:秀孝に関しては、俺が秀孝のギターが好きで呼んだわけだから、基本的には好きにやってもらってます。曲のベースとなるフレーズも、秀孝が出してるものがラウズらしさを左右していると思うし。ヤマジに関しては、ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズでブリクサ(・バーゲルト)がギターを弾いてる効果音みたいな感じでいいと思ったんですよ。それにしては割とちゃんと弾いてますけどね。まぁ、ヤマジも基本的には自由にやらせてます。
──その自由度の高さも、須藤さんとサワサキさんというボトムの力があってこそですよね。
須藤:僕は自由度というよりは肉体的な感覚を楽しんでますけどね。身体がちゃんとついていくかどうかとか、そういう感覚を。そういうのは、週に1回、同じ曲を何度も何度もリハーサルするような環境じゃないとなかなか試せないんですよ。普通はちょっと曲がいい感じに聴こえたら、そこで終わりにするじゃないですか? このバンドはそうじゃなくて、肉体的な感覚を極限まで追求していこうとするんですよ。
西村:ラウズはバンドっていうよりも、ラウズという名の競技をやってるような感じなんです(笑)。
──バンドマンというよりはアスリートなわけですね(笑)。
サワサキ:でも、自分の場合は体力はそんなに使わないんですよ。過剰に暴れて体力を使うよりも、ベースはドラムと合わせて如何にグルーヴを出すかだから、どれだけドラムに絡んでいくかを常に考えていますね。ある種の器用さと...やっぱり気合いが大事です(笑)。ダダダダダダダダ...っていう性急なドラムに絡んでいかなくちゃいけないから、一瞬でも遅れるともう絡めないわけですよ。だから、体力よりも集中力のほうが大事なんです。点ですよ、点。点を如何に押さえるか。
──今のサワサキさんの発言からも、キャリアのあるミュージシャンたちが余興でやるバンドとは一線を画すものであることがはっきりと判りますね。
西村:そうです。全然余興じゃないんですよ。真剣すぎるほど真剣なんです。
──ルーズやラウド・マシーンのファンだった人にとっては、それらのレパートリーがラウズ・ヴァージョンになってどう生まれ変わっているのかが聴き所のひとつでしょうね。
西村:俺の昔の曲をやるのも、今のところってことなんです。なかなか新曲が出来ないからやってる感じですね。新しい曲が出来た時点で順次古い曲は削ってます。現時点ですでに『LOUD MACHINE』は封印、一昨日のライヴをもって『TERRORIST』も基本的にはもうやらないことにしました。俺自身が飽きたので(笑)。
伊藤:ああ、そうだったんだ? 今初めて聞いた(笑)。
西村:極力新しい曲を優先にして、古い曲はどんどん削っていく方向にしたいんですよ。
反骨精神のある音楽が大きなエネルギーになる
──ということは、毎週金曜日のラウズの日には随時新たな曲が投入されているわけですね。
西村:まぁ、ペースは遅いけど、何とか。
──やはり速くて重い武骨な曲が多いんでしょうか。
西村:それが前提ですね。秀孝は「曲が遅くなったらやめる」って言うから、遅くはできないんですよ(笑)。
伊藤:でも、そういう曲も作ったけどね。
西村:遅い曲の場合はそのぶん重くするのが決まりなんです。何処か極端な部分がないとダメなんですよ。
──西村さん自身は、やはりこの最強の布陣の中で気持ち良く唄えていますか。
西村:もちろん。最高のオケだから気持ちいいに決まってますよ(笑)。
──『SCARS 08』や『P.R.L.』でも効果的に使われている拡声器がラウズのシンボリックなものになりつつありますね。
西村:最初は飛び道具的なものとして使うことにしたんだけど、だんだんと使用頻度が高まってきた感はありますね。
──アルバム・タイトルの『PUNK ROCK LIBERATION』は"パンク・ロックを解放せよ!"という過激なものですが、これは昨今の甘っちょろいパンク・ロックに対するアンチテーゼを込めたものなんですよね?
西村:そういうことかな。パンク・ロックが自由じゃないと感じるんですよ。型にハマったり、しがらみがあったり、若い人たちに関しては勘違いっていうのもあると思うんですけど。
──メロコア、ファストコア、グラインドコア...と厳密に細分化されることで形式に凝り固まったパンクの不自由さを嘆いていると?
西村:それもあるし、パンクがファッションとして消耗されている危惧もあるんですよ。要するに、今のパンク・ロック全体が余り面白くないんですよね。ただ、パンクと呼ばれているものを全部聴いてるわけでもないので、そんな偉そうなことを言うのもナンだなとは思うんだけれども、俺の耳に入ってくる限りでは余り面白いパンク・ロックがないなという感じはします。パンク・ロックというものが薄まってきている気がする。
──なるほど。他の皆さんも同じ意見ですか。
ヤマジ:いや、そんなこともないと思うけど(笑)。
西村:まぁ、パンクに限らず音楽全般を見渡しても細分化されすぎ、情報はありすぎでコアなものがどんどん薄まっているように感じるんですよ、俺はね。
──全部が全部そうだとは思いませんが、パンクもロックも子供のオモチャに成り下がっている部分があるのは否めないですね。
西村:パンクっていうのも、ラウズの場合はキーワード的に判りやすく謳っているのであって、こういう音楽をやれているのであれば呼称はパンクでもロックでも何でもいいんですよ、ホントは。ただ、テーマ的なものがあったほうがいろいろとやりやすいし、方向性も絞りやすい側面があるから敢えてパンクと謳っているところも実はあるんですよね。
──西村さんの志向する音楽性がレベル・ミュージックとしてのパンク・ロックであることは、ルーズからこのラウズまで一貫していますよね。主宰されているレーベルも"REBEL BEAT FACTORY"なわけですから。
西村:うん。ずっと反骨精神のある音楽に影響を受けてきたし、そういう音楽こそが格好いいと信じてやってきましたからね。何かに抗うことが未だに自分にとって大きなエネルギーになっているんですよ。
──反体制、反権力、反商業主義こそを信条とすると言うか。
サワサキ:それ、凄く大事ですよ。やっぱり反商業主義じゃないと。
西村:単に儲けることができなくなっただけかもしれないけどね(笑)。
──そんなことを言ったら、「商業主義ロフトを潰せ!」と故・江戸アケミさんにアジテーションされた我々の立つ瀬がないんですけど(笑)。
西村:ははは。まぁ、俺たちは非営利音楽団体を旨としているし、余計な利潤を出さないことにしたいんですけどね。そういうのは全部、お客さんに還元できればいいなと思って。今はみんな他に本業があったり、ギャラのいい仕事をやってたりするからそんなことも言えるのかもしれないけど。今回の『PUNK ROCK LIBERATION』が出て動員がもっと増えれば嬉しいし、ロフトでもお客さんが一杯になるライヴができるようになれば、その時はチャージをできるだけ下げるようにしたいんですよ。
──去年の10月以降、ここ亀戸ハードコアをホームグラウンドとして『パンク塾』という自主企画イヴェントを展開されていますね。これは、パンクのアティテュードを持つ"特別講師"と称されたゲストを迎えて若い世代にパンクを広めていくのがコンセプトなんでしょうか。
西村:そうですね。パンクというものに一家言持っていたり、何かひとつのことに秀でたバンドをゲストに迎えて、"これがパンクですよ"というのを披露してもらおうという企画です。まぁ、若いオーディエンスもまだ少なくて、最前列で盛り上がってるのは割と年齢層が高めなんですよ。そこは今後の課題ですね(笑)。
サワサキ:若い連中をモッシュさせたいですね。そういうライヴをやりたいんですよ。
西村:目の前でそういう状況が起これば、こっちにもフィードバックされて益々ギアが入りますからね。
枯れた境地と逆走するようにムチャをする
──3月に我がロフトで行なわれる『パンク塾』は、"春季特別講習"という拡大版的な内容ですね。
西村:ロフトは半年先はおろか、ヘタすると1年後の土日までブッキングが入ってる状況だから、相変わらず敷居が高いですよね。その3月の『パンク塾』も、キャンセル待ちをしていて急遽日にちが空いたから実現したんですよ。
ヤマジ:ロフトは本番になると電圧が下がるので、あれは何とかして欲しいですね。上にキャバクラとかがあるからだと思うんだけど。
──店によく言っておきます(笑)。"特別講師"に負けず劣らず、皆さんもパンクに対しては一家言あると思いますけど。
ヤマジ:俺はアレだ、ブレイク・オン・スルーだ。突き抜けるんだ。
サワサキ:僕はザ・ポップ・グループが好きだったんで、パンクと言えばそれかな。あと、モッシュですね(笑)。
──それと気合いですか?(笑)
サワサキ:そう、ポップ・グループとモッシュと気合い(笑)。
須藤:僕はサワサキさんの感覚に近いですね。やっぱりオーディエンスの反応が凄く気になるんですよ。楽しんでいたり、共有している感じがこのバンドには判りやすくあると思うんで。
伊藤:パンクと言えば、俺はやっぱりスターリンかな。見ちゃいけないものを見たような感じがあったし。
サワサキ:ああ、そうだ、スターリンだ。ポップ・グループとモッシュと気合いとスターリンだ(笑)。
──アルバムの収録曲の中に『HOW FAR FROM THE GROUND ZERO?』という楽曲がありますけど、グラウンド・ゼロ、すなわち広島や長崎といった爆心地のことを唄っているんですか。
西村:端的に言うと、今も係争中である原爆症認定問題のことなんです。被爆している・していないを爆心地からの距離で決められてしまうわけです。最近は少しずつ国も原告の被爆者に対して歩み寄ってきてるけど、それでも頑として跳ねられてるところがある。そうこうしてるうちに被爆者もどんどん高齢化して、亡くなる人も増えてるんですよ。もう64年前の出来事だし、0歳児でも還暦を過ぎてるわけだから。
ヤマジ:そうやって国は被爆者が亡くなるのを待って、逃げ切ろうとしてるんだよ。
西村:ブックレットの歌詞カードにはもっとはっきりと書いてあります。裁判をやると、ほぼ原告側が勝つんですよ。でも、国は裁判所の判定に従わないという現状がある。だから、"国はちゃんと賠償に応じよ"という一文を添えてあるんです。
──そうやって音楽を通じて権力に対して問題を投げ掛けるのは、パンク・ロックの大きな特性のひとつですよね。
西村:特に意識して社会的なテーマを掲げてるわけでもないんだけど、歌のテーマになるものとしてそうしたことが身近にいくらでもあるんですよ。唄うべき題材が多すぎて、純然たるラヴ・ソングを作る余裕がないんです。
──大人になって枯れた円熟味を増すどころか、それと逆行するように益々血気盛んになっていくのがラウズの素晴らしいところですね。落ち着くどころかどんどんムチャをするっていう。
サワサキ:ザ・バンドっているじゃないですか? 彼らが『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』というファースト・アルバムを出した頃って、見た目が思い切りオッサンですよね。でも、当時の彼らはまだ20代なんですよ。20代の連中がああいうユルいレイドバックした音楽をやってたわけです。でも、僕たちはその逆をやってるんですよ(笑)。
西村:ザ・バンドは、ああいう若い連中がレイドバックした音楽を極めようとしていたのがいいんですよ。
──打ち上げの席でも、年齢と逆行するようにムチャをしているんですか。
西村:いや、それは秀孝くらいなもんですよ(笑)。
サワサキ:ただ、レイドバックしない音楽をやるためにも体調管理は重要だと思ってますね(笑)。
──これだけ充実したライヴ盤を聴くと、スタジオ盤に対する期待が高まりますけれども。
西村:作れそうになったら作ろうと思ってます。曲がある程度揃ったら考えようかなと。じっくり構えてるつもりもないんですけどね。このバンドは緊張感がなくなったらいつ止まってもおかしくないので。いつも切羽詰まった感じでいたいし、音楽的な部分での馴れ合いは一切ないですね。
──リハも切羽詰まった感じなんですか。
西村:毎回2時間ビッチリと、凄く濃い感じでやってますよ。
──ヤマジさんはその緊張感に耐えかねて、いつもリハを欠席しているんですか?(笑)
ヤマジ:いや、その緊張感をさらに溜めてステージに臨んでいるんですよ。身を挺してラウズに懸けていますから(笑)。
西村:おまえ、今日ひとつもホントのこと言ってねぇな(笑)。