ありふれた日常の混沌を掻き鳴らすSUPER BEAVERから、この度2nd.ミニアルバム『心景』(しんけい)がリリースされる。 2007年12月に1st.ミニアルバム『日常』をリリース。その後、精力的にライブを行ない、2008年8月に1st.シングル『リセット』をタワーレコードとタハラにて限定販売し、初の全国ツアーを敢行。この1年で音楽とより密接な関係となって『心景』を作り上げてきたと充分に感じることができる。バンドの初期衝動はそのまま、「いろんなことをやってみたい」という感情を制作活動に注ぎ込み、その結果1st.から明らかに進化した彼らがいた。どこか初々しさを残しながらも、着実にこの1年でバンドの基盤を自らの手で作り上げてきていたのだ。平均年齢20歳の4人が聴かせる『心景』(心の景色)は、たくさんの希望とエネルギーに満ちあふれていた。(interview:やまだともこ)
いろんなことをやってみよう
──1年前の『日常』に比べて、今作の『心景』は1枚で表現できる幅が広がりましたね。
渋谷龍太(Vo.):今回のアルバムを作るにあたり、いろんなことをやってみようという話をしたんです。いろんな方向からのアプローチとか、今までにやったことがないこと、新しいリズムパターンであったり、ギターの音色ひとつにもすごくこだわって作りたいと思っていたんです。
柳沢亮太(Gt,. Cho.):約1年という期間があったので、 1枚目をリリースして以降いろいろ考えたり話したり、それをふまえてライブをやったり、その積み重ねがあって2枚目を出そうとしたときに、もっといろんな角度から攻めてみようとか、やったことをないことをやってみようっていう話になったんですよ。
──1枚目は前から出来ていた曲が入ってましたけど、今回は1st.以降に作った曲になるんですか?
渋谷:完全にそうです。
──10代から20代になるメンバーもいて、出てくる歌詞が変わってきたというのもあるんじゃないですか?
柳沢:歌詞は、前作から大きく変化したひとつでもありますね。根本は日常のすぐそばにある感情を歌っていきたいというのがありますが、前は悩みがあった時に悩んでるんだけどどうしようとか、嫌なことがあったなとか、本当はその先に行きたいんだけどなという感情まででストップしていた詞が多かったんです。でも、1年という時間の中でバンドとしてもいろんなことに挑戦してきましたし、もちろん悩むことはあったんですけど、悩んでいるところから前に進もうと思ったり、悩んでいるからこそ湧いてくる感情だったり、その先へ向かう気持ちが強く出た作品になったんじゃないかと思います。
──みなさんが音楽と密接に日常を過ごしていることは歌詞からも伝わりますね。今回は、渋谷さんや上杉さんも作詞・作曲をされていますが、これは初めての試みですよね?
渋谷:初めてですね。
上杉研太(Ba.):SUPER BEAVERの作品ですってCDになったのは初めて。歌詞を書いていたり、曲を作ってたりしてましたけど、今までは柳沢が持ってきた曲をみんなでアレンジしていて、柳沢以外の人が持ってきた作品を受け入れる体制にはなかったかもしれないです。他の人が作るというのは、どこかでアザーな感じだったんです。今回は、みんなで作っていこうよっていう意識が高まったからすんなりできた。それもひとつの成長なのかなと個人的に思います。
──4人で作っていこうと。
上杉:そう。この4人で。
渋谷:ひとつひとつ若干ではありますが、変わってきているんだと思います。
──渋谷さんは自分が書いた歌詞のほうが歌いやすかったりします?
渋谷:自分の詞が歌いやすいというのはありますけど、柳沢の書いてきた歌詞を歌いにくいと思ったことはほとんどないので今までの作品と変わらないですよ。柳沢が書いてきた詞を自分の中に取り込んで消化してから出すという必要がない分スムーズには進みましたけど、柳沢の歌を歌うことに慣れていたので、自分が作った歌のほうが歌いづらいなという部分もありました(苦笑)。
──上杉さんの書いた詞は?
渋谷:すんなり入ってきましたし、僕はこのアルバムの中では上杉が作ってきたのが一番好きです。
──作った方それぞれの個性が出ていますね。
渋谷:人柄が出てる感じはありますね。
──アルバムを作るにあたって、この曲は入れようという基準はなんだったんですか?
藤原広明(Dr.):バラエティーです。『日常』は同じ感じの曲が揃ったので、リズムとかメロディの感じとか世界観みたいなものが違うものを集めて入れた。2人の曲が入ったのは、他の曲とも違うっていうことで決めたんです。
4人の意識が同じ方向に向き始めた
──上杉さんが作った『勇気の一歩』で言えば、ライブをここまで意識したような曲はなかったですよね?
柳沢:これを作ってる時楽しかったね。初めてみんなでコーラスをしたりとか、やってるうちにこれをここに入れてみようって増えていった曲だったので、ワイワイ感も詰め込まれている感じがします。
渋谷:ボーカルにエフェクトをかけてみたり、遊び心じゃないですけど『リセット』とか僕らにとって正統派的な曲が続いてきたからここらでやっちゃえば? って。
上杉:最初はメンバーの中にもとまどいがあったと思いますよ。それはないんじゃない? って。でも、やったほうが絶対にいいと思ったし、それが形になったから録ってる時にも成長できたと思う。
──上杉さんは曲を持ってくる段階で、こういう完成形は想像してた?
上杉:いや、もっとギャグな感じでした。でも、せっかくだから、もうちょっと格好良くしよう、格好良い中で面白くしようって。メロディーが変わったとか構成が変わったわけじゃないですけど、弾き方を男っぽくしてもらったりとか、コーラスで"ラララ"を入れたり、"ラララ"に高い声と低い声を入れてみようとか、"ヘイ"を入れるとか、今までのイメージを吹っ切ろう吹っ切ろうと思ったし、できなかったことをやってみようって。それが出来るバンドになりたいという思いはどこかにあったと思います。みんなで話し合ってできた曲です。
柳沢:今まではずっと僕が曲を作っていましたけど、違う人間が作ってくるだけで根本的に雰囲気が変わるじゃないですか。それだけでも変化を楽しめるなというのは音源を聴き比べた時に感じたことで、アレンジはみんなでやってますけど、これを入れたら他の曲と並んだ時にすごいおもしろいんじゃないかって。
──『天気予報』みたいな、スカのリズムもありそうでなかったですよね。
柳沢:中学生の時に聴いていたり自分でやっていた音楽がメロコアとかスカパンクだったので、自分の中でなかったわけじゃないんですけど、SUPER BEAVERというフィルターをかけるとどうだろうっていうところがあったんです。でも、こういう曲はなかったし、いいじゃんっていう話になった。SUPER BEAVERの中では最速の2ビートが入っていたり、この曲も前作から時間が経ってやってみたいなと思えた曲です。
藤原:前まではこういう曲にはこういうリズムだと決めつけていたところがあったんですよ。でも、いろいろ音楽を聴いてるし、できるんだからやってみようよというのはみんなが思っていて、それでできていった曲。
──『pan』のようなギターのカッティングを聴かせる4つ打ち系の曲もあり。
柳沢:これは録る前からライブでやっていた曲で、僕らの中でモロに4つ打ちを出した曲は初めて。でもお客さんは乗りやすいみたいで楽しんでくれてます。それで、こういうのアリじゃんって再確認して、アルバムに入れようってなった。この1年で、ある種吹っ切れたものはありますよ。
上杉:固定概念がなくなったんだよね。
柳沢:ちょっとずつなんでもありじゃんって思えるようになってきた。今まではこれがSUPER BEAVERだって決めつけていたところがあったんですけど、『pan』のような曲をライブでやってみたら自分ら的にもありだった。根底にある歌いたいことは変わらないし、渋谷が歌うのであればSUPER BEAVERになるということに改めて気づけて、アレもコレもやろうと思えたんです。
渋谷:バンドの基礎が固まり始めているので、ある程度自由にできるようになったんです。
──アレンジで言えば前回のインタビューの時は、藤原さんが一番口を出すと言われていましたが今回はどうだったんですか?
藤原:今回は楽器を弾かない渋谷も一緒に考えてもらい、4人で作ったという感じですよ。
柳沢:前作からの話じゃないですけど、今まで以上に音楽を4人で共有する感じが強くなった。みんなが同じ方向を向けるようになったんです。今までだとアレンジはヒロが目立つぐらい引っぱってましたけど、4人が同じ方向を向いて曲作りやライブができるようになってきたおかげで、4人がアレンジの案を出すようになったんです。CDを出したというのも大きくて、改めて音楽をやっている人間なんだという気持ちが強くなってきたんです。まだまだですけど、ちょっとずつ意識が近づいてきて同じものを求めるようになったのかな。
SUPER BEAVERのスーパーフィーバー
──ライブで演奏することによって曲が成長していくこともあると思いますが、今回もライブで演奏していくうちに変わっていった曲はあります?
上杉:グルーブとかは変わったと思いますよ。『リセット』とか『pan』は前からやっていて、録ろうっていう時はライブでやってきた経験値が入ってくるから、少なからず新曲よりは成長していると思います。
渋谷:でも、日常にあるものを歌っていくとか、僕らが向いている方向は今後も変わらないんじゃないかなって思います。
──『心景』や『リセット』のように、バンドとして進みたい方向が見えてきたと取れる歌詞もありましたが。
柳沢:詞を書き直したりする作業中もスタジオでメンバーと一緒にいる時間が多かったので、知らず知らずのうちにバンドとしてこうなっていきたいっていう思いも込められていったんだと思います。これから向かいたい方向=自分の思いなんですが、作っている段階から共有してこれた作品が今回は多かったり、4人の意識が同じところに向かってきているから、渋谷が俺の曲を歌いづらいと思ったことはないというのは最近もっと強くなってきていると思うんです。そういう意味では4人の方向性と歌詞がリンクしたりというのが多いです。
──気が早いですけど、これからの次の作品がおもしろくなりそうな気がしますよ。
藤原:任せて下さい!
──最近は精力的に活動されていますね。ツアーに廻ったりもしていますし。
柳沢:今までライブでは関東圏を抜け出したことがなかったんです。そういう意味では本当に初めてのところでやらせてもらったので、新鮮でした。刺激もありましたよ。自分らのことを知らない人たちの前で何を残せるだろうっていうのを考えられたので、成長できた部分かなって思いました。
──行きも帰りも車内で元気いっぱいだったと伺ってますが...。
渋谷:楽しく行ってきました(笑)。
──今回もツアーに行かれますが、ツアーはどうしましょうか!
柳沢:自分らでも納得する何かを残せたり、ちゃんと伝えることができれば、作品を聴いてもらえるチャンスが増えると思うし、前回のツアーでツアーがどんなものかがわかったので、今回はさらに色濃くやっていきたいなって思います。
上杉:必ず結果を残して帰ってくる! 前回よりよりいいツアーに。
──タイトル通り、スーパーフィーバーさせないとですね。ファイナルはO-WESTですが、前回のワンマンは251ですよね? 大きさが倍になりますが、大丈夫ですか?
上杉:大丈夫にさせるためにやらないとならないんです。
──どんどん大きく成長していきますね。場所もバンドも。
柳沢:場所だけじゃないようにしないと(笑)。
──成長するのが場所だけだったら困っちゃいますよ(笑)。ワンマンがすでに来年の話になりますけど、来年はどんな年にしたいですか?
藤原:ワンマンを成功させたいです。あと、『心景』は1年かけて出しましたけど、どんな形であれ次はもうちょっと早く出したいですね。
上杉:バンドとしても人としても大きくなりたいです。
渋谷:あ、完全被りました(苦笑)。...バンドとしても個人としても伸びたいですね。今年以上に伸びたいです。
柳沢:僕は、来年が20歳なので...。
上杉:O-WESTが誕生日なんですよ。
柳沢:そこ押すつもりはなくて、単純に20歳になるということを言いたかったの。来年20歳になって考え方も変わってくるのかなって思うので、バンドに還元して共に成長していけたらなって思います。
──はい。では最後に一言言っておきたいことがあったら...。
上杉:『心景』聴いて下さいね!