「1年半リリースはなかったですけど、止まっていたわけではないんですよ」と8月にリリースされた『Can't Explain』のインタビュー時に語っていた小田和奏(vo.gt)。前作を越える作品を、という模索を続けた結果、これだけの時間を必要としていたのだ。
今回No Regret Lifeがリリースする3rd.アルバム『Wheels Of Fortune』。"運命の轍"という和訳もできるこの作品は、彼らが試行錯誤していた時間が決して止まっていたわけではなかったことを表していた。この必然だったとも言える時間を過ごしてきたからこそ、リリースされる今作は、これまでのノーリグからさらに一歩を進めたと言える。ノーリグの王道でもある8ビートを軸に、全10曲それぞれが芯をちゃんと持ちながら個性的に煌めきを放っているかの様である。3人でしか出せない音をよりシンプルに、且つダイナミックに。相反するものを巧妙に取り入れたサウンドから、どれほどの思いを込めて作品に取り組んでいたのかも感じることができる。やはり、車輪は止まっていたわけではなかった。歪ながらにも確実に跡を残してきたのだ。そして、この先も終わりなどないレースの果てに向かって車輪を回し続けていくのだろう。今回はメンバー全員にアルバムへの思いを伺った。(interview:やまだともこ)
歩んできた時間は必然だった
──3rd.アルバム『Wheels Of Fortune』は、8月にリリースしているシングル『Can't Explain』と同時進行で制作されていたんですか?
小田:一緒に進行はしていましたが、実際レコーディングが始まる時期はちょっと違いました。シングルにはあの3曲を入れるって決まったので先に完パケさせておいて、シングルのリリースの準備をしてもらっている間にアルバムを録り始めました。
──曲自体はシングルもアルバムも全部一緒の時期に出来ていたんですか?
小田:9割方出来ていました。
──『Wheels Of Fortune』は、訳すと"運命の轍"となりますが、これはNo Regret Lifeそのものを表現しているようにも取れますね。
小田:自分らが1年半で作ってきたwheel(車輪)がギシギシと音を立てながら、スムーズではなかったですが、それでも自分たちが通ってきた時間というのは必然だったのかなという意味を込めて、このタイトルにしたんです。
──今は車輪が再びうまく回り始めたという感じになるんですか?
小田:錆びていたりもするし、油を差すこともある。常に悲鳴を上げながらも1年半の間も変わらずに転がり続けていたから、止まっていたとは思っていないけれど、リリースとしてはすごく時間があいてしまいましたね。
──松村さんと橋口さんはこの1年半、どんな気持ちで曲が完成するのを待っていましたか?
橋口竜太(dr.cho):産みの苦しみはよくわかるので、和奏さんから元ネタがなかなか出てこない時期に、自分たちができることってなんだろうっていうのは常に考えていました。アイディアを貯めていた時間でしたね。自分の中の引き出しを増やそうと、いろんなパターンを叩けるようにもしたし、和奏さんが持ってきたものにすぐに対応できる準備はしておこうって。そう考えると、この1年半は必要な時間だったのかなって思います。
松村元太(ba.cho):和奏が悩んでいたり、なかなか決まらないものをなんとか転がそうとしていたのを見ていたので、信じて待つしかないなというのが第一。俺たちが焦ったり騒いだりするのは良くないなって思っていたので、『Can't Explain』が上がってきた時は本当に嬉しかったですよ。最初に合わせたときから手応えを感じていましたから。あとは、自分のテンションが冷めないように、スタジオに入るのもそうだけど、時間がある時は友だちのライブだったり、自分が見たいアーティストのライブに行って常に音楽に触れるようにしていました。現在進行形で進んでいる感じを味わっていないとダメになるタイプだから、なるべく音楽があるところに顔を出してましたね。とは言っても、自分たちも変わらずにライブは何本もやってはいましたが、ライブで新曲が入ってくることによってバンドは活性化すると思うんです。それが昨年はなかったから、そういう意味で冷めないように、気持ちを保てるように気を付けていましたよ。
橋口:曲が上がってこない時期に、悔しい思いもいっぱいしたからね。
──"悔しい思い"とは?
橋口:その間にも何曲かはできていてディスカッションを続けていたんですけど、スタッフを含めると「これでいこう」という形になかなかなっていかなかったんです。
松村:2nd.の『Allegro』を作り終わってから、「スタッフも含めて、全員が納得できるものを作ろう」って話を和奏としていたんです。そしたらこれだけかかってしまった。俺たちだけじゃなくて、今回のアルバムにクレジットされる全員が「これでいこう」と思えるような曲を作っていた和奏の気持ちも、音源を聴いてくれる人に伝わってほしいなって思ってます。
橋口:だから、悔しい思いもした中で生まれた曲が形になって、本当に良かったです。『Can't Explain』を待って良かった。
ちょっと大人になりました
──『Can't Explain』や、『Wheels Of Fortune』は、1年半の間にできた曲になるんですか?
小田:完全にそうです。曲はわけがわからなくなるぐらい書いていたので、アルバムにはなんとかうまいこと他の曲も入れようと思ったりもしましたが、流れを変えてしまう曲があったり、余計だったりして、最終的にはこの10曲でしかなかったですね。
──アルバムのコンセプトみたいなものってありました?
小田:2nd.の『Allegro』はファースト『Sign』からの流れもあったし、コンセプトもしっかりとしていたので、今回は短編集にしてやろうかなぐらい。ひとつポイントを作るとしたら、前よりさらに飛躍したバンドサウンドや、ライブが見える感じにしたいというのは思っていました。となると、3ピースならではのダイナミズム、そしてあとは潔く削るという作業が必要なのかというところが、自分たちのキーワードでしたね。
──今回も3人以外の音は入ってないですよね?
小田:うん。エッジを立たせるために、1本で弾くものを敢えて2本に分けて、1本ずつを太くしたというのはありますけど、なるべく重ねない感じにしました。レコーディングってギターを重ねようと思えば何本でも重ねられるじゃないですか。でも、重ねたら重ねただけ音がたくさんになりすぎて曲の核が聴こえないんです。本当は何が必要なの?って考えた時に、ボーカルと3人の鳴らす音がちゃんと出ていることが重要だ、と。それで、ギターのアレンジをストレートにした結果、ドラムもベースも歌もちゃんと前に出てきたんですよ。ということは、足りないのは隙間だったのかなって思ったんです。全部埋めると安心感はあるけど、2回目に聴くと疲れちゃうんですよね。
橋口:インパクトがあるものを作ろうとしたら、シンプルなもののほうが良かったんです。
小田:エンジニアさんと話をして音を決めていったのもあるし、アレンジにアドバイスをもらったりして。
──『Can't Explain』を制作する時に、「纏いすぎていた鎧を一度脱ぎ捨てて必要なものだけ身につけた」とおっしゃってましたね。シンプルにしつつも、ダイナミックなサウンドというのは相反するものだと思いますが、よくこれだけうまくバランスを取れたなと思いますよ。
小田:『Allegro』は足し算で作っていたんです。冗談半分に「器楽部じゃないんだから」って言われたこともありましたけど、アンサンブルにどっぷりと浸かっていた部分もあったんです。今回は何を生き残らせて、何を捨てるかと考えて、ギターのリフから作り出したものが多かったんですよ。それが今までとは違いますね。「ここはこういう感じで」ってメンバー間で意見交換もたくさんしましたから。俺が「ベースのフレーズ、こんなん入れてみたらどう?」とか、「キックの場所を変えてみるのはどうかな?」って今まではそこまで突っ込めなかったものを敢えて言ってみて、「だったらこうするわ」っていう答えが出てくるようにもなりましたよ。いろいろ試して、1曲4分前後のものをみんなで作った感じはします。
──だから、編曲のクレジットは全てNo Regret Lifeになっているんですね。
小田:最初のイメージとかけ離れた曲もあれば、最後の『ヨロコビノウタ』のように、「何もせんでええわい!」って言うぐらいイメージ通りにはまった曲もある。画ができていたものだったり、下書きをしていたものに対して、誰がどこに色を塗るかっていう作業をしていきました。
──この3人だからこそ出せた音になったんですね。
小田:そうですね。誰か違う人間が入ったら同じものはできなかったです。それはお互いの音を知ってないと無理だし、付き合いの年月も関係があるような気がします。他のバンドがどうやって曲を作ってアレンジをしているのかわからないけれど、いろんなパターンがあるじゃないですか。宅録で作ってくる人間もいれば、せーので録るバンドもいる。今回はどっちもやったな。プロトゥールスに取り込んで曲の断片が見えやすい時もあったし、せーのでやったのもありました。どちらかと言えばせーのでやったほうが多かったです。
松村:スタジオで合わせちゃうのが一番手っ取り早いですからね。曲の手触りとか感触を掴みやすいんです。歌がどれぐらい叫びたいのかとか、語りたいのかとか、合わせてみてわかることが多いですからね。
橋口:やり方としても、こっちのほうが慣れてますしね。3人がそれぞれの楽器をプレイしていて、作り込んできたものにアイディアを更に出していくので、どうやったって変わるんですよ。
松村:今回は今までの制作に比べると面白かったですよ。和奏が、ベースのフレーズを考えてきたりしましたからね。フレーズを弾いて、「これ、元太っぽいフレーズなんだけど」って。和奏の中での俺のイメージをフレーズにしてきたんですよ。
──そのフレーズってどこらへんに入ってます?
小田:『Empty Bottle』とかですね。
松村:自分のフレーズを誰かに決められるのがイヤだと言う人もいますけど、バンドが良くなる方向を3人で模索して同意できるんだったら、曲の中に入れてもいいと思うんです。ちょっと大人になりました(笑)。
チームNo Regret Life
──『Sign』のリリースが2年前で、その後も1年に1枚というペースでアルバムのリリースはされてますが、『Sign』の時から比べて作品を制作する上で確実に変わってきたものってありますか?
松村:メンバー間は当然ですが、スタッフとのコンビネーションも良くなった。音に対する追求の仕方も、ようやく感覚についていけるようになったし、それに対して自分がどうアプローチしたら良いのかがわかってきた。
小田:調子が良い時に飲むことが増えたよね(笑)。何かのパートが終わったら飲んで。
松村:リズム録りで飲んで、ギター録りで飲んで、ボーカル録りで飲んで。
小田:全部終わって飲んで(笑)。
橋口:よっぽど溜まってるものがあったんでしょうね(笑)。
松村:トラックダウンが終わって飲んで、マスタリングが終わって飲んで。
橋口:飲みながら作ったわけではないですけどね(苦笑)。
小田:"チームNo Regret Life"って言うかコミュニケーションを含めて、ファーストからの緊張感が良い方向に向いている気がします。でも、その分、全員の意見をまとめる作業はやっぱり大変だとは思いましたよ。10人いれば10通りの考え方があって、それをひとつの方向に向けるのはすごく神経をすり減らしますからね。こう来たかって思ってもまとめないといけないのは俺の仕事だと思っているし、そういう意見を最大限生かしつつ、自分は何をするべきか。曲の書き手としてのエゴもありますから。
松村:コンダクターとして、かなり大変だったんだろうなと思いますよ。和奏はそれを俺らには見せないんです。俺らには自由にやらせておいて、自分は俯瞰していろんなものを見ていたと思う。
小田:前に出ようと思えばそれに対して何かをしてくれたり、それならこうしようってなったり。いいプラスマイナスがありましたよ。俺らの曲で基本となっているのはやっぱり8ビートじゃないですか。その中でいろんな表情を見せるにはどうしたらいいかとか、普遍的なものだから難しいですけどね。
橋口:8ビートって言っても気持ち次第で印象はかなり変わりますからね。
松村:一番かっこいいと思うよ、俺は。聴いていてスカッとする。スピード感もあって。普段聴くのもガッチリ歌を聴かせてくれる曲が好きだし、そういう意味でNo Regret Lifeは3人が同じ方向を向いてますね。
──8ビートの曲が並ぶ中にも、16ビートの『パラサイトシティ』のような曲が入ると面白いし、フックになりますね。
小田:『パラサイトシティ』は俺の気まぐれですよ。いろんなことやってみてもいいんじゃないかって。
橋口:なんとなくこういう曲が来るんじゃないのかなっていうのはあったんですよ。ただ、想像以上だったので、随分ごっついフレーズ来たなって思いましたけど(笑)。
松村:俺は8ビートのイメージがあったから、どうやってこれを料理していいのかわからなくて、オープニングのフレーズからどうしよう俺!ってなってました(笑)。ベースとしてはけっこう悩んだ曲ではありましたよ。
小田:ジェフ・ベックのライブビデオを見ていて、こういうのもできるなってギターを弾いていて、そんなフレーズを思い浮かべてやってみたら出来上がった曲です。全然ジェフ・ベックじゃないんだけど(笑)。ドラムは乗っけやすかったと思うけど、ベースはどうするんかなあって(笑)。ツェッペリンみたいな感じでやってみたらどうだろうって案が出たんだけど、うまくハマらなくて、そこからちょっと変形させていったり、そういう作業はすごく面白かったです。気付きにくいとは思いますけど、さりげなくサビで転調してたりするんですよ。
──これまでのノーリグの曲は"それでも前に進もう"みたいなポジティブなものが多かったじゃないですか。その中でこの曲は、全てを投げ出しているというか、めずらしく毒を持った曲ですよね。
小田:人間ですからね。そういう時もありますよ。曲が先に出来ていたんですけど、曲が曲だけに優しいことは書けないなって思ったんです。東京とか新宿をイメージして、俺の地元はこんなんじゃないだろうなって思ったりしつつ。だけど新宿が嫌いなわけじゃないんです。欲望まみれではあるけれど、新宿の空気はすごく好き。ギラギラしているから。それも人間っぽいところだと思うし、そういう感じを書きたいと思ったんです。
橋口:きれいな部分ばかりだけではないですからね。リアルな気持ちは出てますね。演奏していても気持ちいいですよ。
──いちリスナーとして、こういう面が見たかった部分だったりします。
小田:演奏してて忙しいんですよ(苦笑)。
橋口:でも、この曲が出てくることで他の曲がよりリアルさを増すというか、いいアクセントになったと思いますよ。
日本人なりの言葉の乗せ方
──これだけ苛立ちを書いていながら、詞で丁寧語が使われていたりするんですよね。
小田:制作過程で言うと、16ビートのノリでモロに歯切れを良くしようとすると、日本語は英語に比べて不便だなって思ったんです。発音形態も違うし、音符に言葉を乗せる時も言葉にすると長すぎて伝えきれないこともあるし、特にこの曲は気を遣いましたよ。でも、思ったことを書かないと、説明くさいだけで終わる。
松村:和奏さんの性格がちゃんと出ているんじゃないですか?
小田:出てる? どこらへんが出てる?
松村:.........。
小田:言えないんじゃねーかよ。適当に言わんとってよ(笑)。
松村:全体的にそうだよ。サビとかさ。
──日本語って音符にうまく乗り切らないから、どうしても情報量が少なくなってしまうんですよね。
小田:英語で例えば「"I"" Love"」だったら2つ音があったら成立するんですけど、日本語だと「"ぼ""く"」しか乗せることができないんですよね。そうすると、何も伝えられない。
橋口:うまい流れを作れても詞を考えて作らないと、ぶつ切りみたいになっちゃったり、ノリが失われちゃうんですよね。
小田:言葉も足りなくなっちゃう。英語に比べると1個の音符に乗せる情報量の違いもあるし、言葉の乗り方などいろいろ考えるわけですよ。元太がサザンとか好きなので、移動中に聴きながら、言葉の乗せ方でこんなんがあるんだって思ったり、日本語でも独特の乗せ方をする人の曲を聴いて、自分が今まで持っていた価値観を壊していく。サウンドものを含めて、海外の音にも負けないようにというのは考えてましたし、そういうクオリティーを求めて作っているというのは変わらないんです。それを日本のバンドがやっているというところで、言葉ってなんだろう、伝えるってなんだろうなって考えましたね。じゃあ、日本語を捨てるのかって言われたらそれはできないんです。英語で歌うバンドを否定するつもりはないですけど、やっぱり日本人なので、英語では伝えきれないだろうというのが正直なところ。日本語は英語に比べると不便だとは思うけど、決して無理だとは思わないんです。日本人なりの言葉の乗せ方で、結果これは自分なりに面白いことを書けたと思うし、うまい具合に言葉を乗せることができたと思う。今回、新しい詞の書き方ができたので、今後もすごく楽しみですよ。
──『知らぬ間に』の歌詞を読むと、日本人で良かったなと思いますよ。
橋口:俺、この曲好きです。
──これを聴くと日本語で良かったなって。この詞が持っている心境とか、自分に重ねてすごくよくわかるなって。
橋口:日本語の歌詞なのに、ところどころ英語にしたりするのはあまり好きじゃなくて、だったら気持ちを日本語でしっかり乗っけているほうが潔いし、気持ちはダイレクトに伝わると思います。
松村:けっこう歌詞書くの早かったよね。
小田:そう? ノリというか、勢いは大事にしようと思っていて、雰囲気からのインスピレーションも大事にしようと思った。プラス、俺が歌わないと成立しないっていうところに行きたかった。だから、より自分らしい言葉を探さないといけないなというのは日を追う毎に思いますよ。
──"らしい言葉"というと?
小田:今までのものも含めて自分らしい表現。ポジティブな面だけではないです。
──それって具体的にこんな感じってあるんですか?
小田:ない。だから正解がないゲームなんだよね。
『Wheels Of Fortune』に散りばめられた巧妙なトラップ
──『ヨロコビノウタ』の詞は温かくてすごく好きな曲でしたよ。
小田:このアルバムの中で真っ裸だよね。サウンドにしても何にしても。
橋口:"「ただいま」と言える場所が ここじゃなくても ただ「おかえり」と言ってくれる〜"...。
小田:読まんでいいよ(笑)。
橋口:いいですよね。
松村:ベース、ドラムも必要最低限しか入れてない。あとは8ビート。
橋口:歌に補強する必要はないですからね。
松村:曲が来て、アレンジはこれで行こうっていう判断がすごく早かった。
橋口:詞だったりメロだったりに呼ばれたような感じです。
松村:シンプルに太く。
──シンプルだけど壮大な雰囲気は持ってますね。
橋口:たくさん入れると結果全体的にボケちゃうだろうっていうのはありましたよ。歌に寄り添って、しっかり運んでいけました。
──歌を立たせて、というのは考えていたんですね。
橋口:気持ち良く歌を運べればいいなと思って、僕は8ビートを叩きました。
──小田さんは気持ち良く歌えましたか?
小田:うーん。
橋口:あれ? そっか...。がんばります(笑)。
小田:でも、詞も早かったし、迷いがなかったですね。今までのアルバムの話に遡りますけど、アルバム制作という意味で言うと、それぞれポイントになる曲があるんです。『Sign』では、最後の『Life』とその手前の『モノクローム』。この2曲が自分の中では気持ちを集約できたような曲なんです。シンプルなんだけど、この曲によってアルバムが仕上がった。『Allegro』は最初に『アンダンテ』ができて、アルバムの最後はこの曲にしようというのはあったんです。それから鼻歌を歌っている時に降りてきたわけですよ、1曲目に置いた『ファンファーレ』が。これができてアルバムが完成したんです。今回だと、『ハルカカナタ』を1曲目にしようっていうのを何となくイメージで決めていたんですけど、エンドロールをどうしようって思った時に『ヨロコビノウタ』ができて、すごく締まった形になったんですよ。そういう意味でも、ポイントになった曲でしたね。
──アルバムの最後にふさわしい、壮大さや華やかさを持ってますしね。
橋口:この曲だったら、どういう流れで来てもそれだけの力はあったと思いますよ。
松村:アルバムを聴いて思ったんだけど、『ハルカカナタ』の 1行目が「もしかしたら僕は 終わりなどないレースの果てに向かって」で、『ヨロコビノウタ』の最後に「帰ろう 君の待つ場所へ」ってなってるでしょ。繋がってるんだよね?
小田:それ、狙っているんですよ。
──1枚目に入っている『Life』の最後の部分と、2枚目の『ファンファーレ』の最初も繋がってたじゃないですか。今回もそういう仕掛けはあるのかなって思っていたんですが、ここだったんですね。
小田:それ以外にもあったりするんですよ。
橋口:そういうところも興味を持ってもらうと嬉しいですよ。
小田:ネタ明かしをするわけではないけれど、ちょっとしたトラップみたいなものはところどころ散りばめているので、見つけたらウィキペディアに書いてもらえたらね(笑)。今回のアルバムを短編集にしたかったと言いましたけど、となると本当に捨て曲を作ってはいけないと思って。1曲1曲方向性が違うものを立たせないといけないというのがあって、作品1枚を聴いた時に、もう1回プレイボタンを押してみたくなる感じにしたかったんです。
──1曲1曲がシングルとしても成立するし、捨て曲がないというのは全くそうだと思いますよ。
橋口:そういう意味で『Allegro』とは全然違う流れのアルバムになりましたね。それは流れを意識する中での曲だったりしたので、ボリューム感はこっちのほうがシンプルだけど、たくさんのことを感じることはできるかな。
──前回がアルバム1枚を通してノーリグだったとしたら、今回は1曲ごとがちゃんとNo Regret Lifeになってますね。
小田:その通りですよ。
音の隙間
──『1980』は、まさに小田和奏そのものを表している曲なんですよね?
小田:そうですね。何年も前からいつか自分の生まれた年をタイトルにした曲を書いてみたいなと気持ちはあったので、やっと書けた、という感じです。そうでありながら、歌いたいこととか、1年半というものを含めアルバムの方向性を集約している曲になりました。
──この曲を聴くと、今までのアルバムに比べてリズム隊の音が図太くなった感じがしますね。
橋口:そういう表現がしやすいというのもあったし、フレーズ的にも細かいことはしていないんです。一球入魂じゃないですけど、一音一音を確実に聴かせる意識はしていますよ。
松村:ギターってけっこうかぶせてるの?
小田:いや、2本くらいかな。
松村:たぶんそれもありますね。
小田:それ故に立ち上がってるっていうね。
松村:ベース、ドラムの音が上がってくる感じがね。ドラムの音が素晴らしいですよね。そういうところは前回の『Allegro』とは明らかに違うところだし、そういうところを気づいてもらえるのは嬉しいです。
──『Empty Bottle』はタイトルから、ポリスの『メッセージ・イン・ア・ボトル』を連想しますけど、ポリスの初期って隙間があって音がスカスカしていたじゃないですか。『ハルカカナタ』も音に隙間があって、だからこそ音のメリハリも付いて何度でも聴けるんだなって思いましたよ。
小田:パンパンギュウギュウじゃない感じ。マスタリングの仕上げ方もこだわってもらって、アナログに落としてやったので、ナチュラルなレンジ感になりましたね。
──ボリュームを上げて聴いても音が割れてないんですよね。
小田:つっこみすぎちゃうと歪んで来ちゃうじゃないですか。
橋口:きれいな音じゃなくなっちゃうからね。
松村:爆音で聴きたい方は、ご自分でボリュームを上げてください。
小田:上げれば上げるほど割れなくて気持ちよくなります。
さらに見えたこの先のビジョン
──ところで、No Regret Lifeと言えば"ライブ"みたいなところはありますけど、曲を制作する段階でライブのことは考えて作られていますか?
小田:考えますよ。アレンジも含めてですけど、ライブをやっているうちに、こんな曲がここにあればいいのになっていうのを考えたりするんです。そういうところからイメージして、曲を作り上げることはありますよ。
──出来上がった曲をレコーディング前にライブで演奏したりはします?
小田:それは全然やってないんですよ。やったほうがいい時もあるし、悪い時もある。レコーディング前に、その演奏で慣れちゃうと録る時に迷うこともある。
松村:演奏すればするほど決まっていってしまいますからね。自由が利かなくなるんです。
小田:良くなっていった時に録るのも手法のひとつだと思いますけど、3人とも方向性がずれる時もあるし、曲がぶれるというのもあるし、今は作り上げてからライブに落とし込む方が俺ら的にはいいんじゃないかと思っています。
──そして今回もアルバムをリリースしてからのツアーがたくさんありますね。10月から来年まで続くんでしたっけ?
小田:10月23日から1月23日までですね。楽しみですよ。
橋口:何があるんだろうって。
松村:曲がどういうふうに成長するんだろうっていう楽しみもあります。CDの状態でもいいと思っているから、ライブでやったらどうなるのかなっていうのは未知数。悪い方向には絶対にいかないと思うから。
──今までライブでやって、CDと比べると全然変わった曲ってあるんですか?
小田:まるっきり変わったというのは思いつかないですね。でも、最近複雑なのが、「音源よりライブのほうがいいね」って言われると、嬉しいんだけど、じゃあ音源良くないのか?みたいな(笑)。
橋口:進化していってるからね。『Can't Explain』はそうやって言われることが多いな。ライブで見るとグルーブ感が全然違うって。あんなにライブ感が出る曲だと思わなかったって。
小田:それって、ライブだからいいというのもありますよね。人がそこで演奏しているパワーだと思いますよ。そういう意味ではCDだといつどこで聴いても同じですからね。
橋口:ライブだったらノリも変わってきますからね。
松村:ライブに適正なテンポ感とか3人の中で決まってきているんですよ。
橋口:それは打ち合わせをするわけでもなく、だんだんいい感じに落ち着いていくんですよね。
──それがバンドの醍醐味ですよね。
松村:スタジオで1回やるよりも、1回ライブでやった方が自分たちのものになりますからね。人に見られている緊張感もありますから。
──今の発言、ちょっとMっぽいですね。
松村:(笑)ノーコメントでいいですか。
──ツアーもたくさん回って、たくさんの人に見られますからね。年明けのレコ発東京ライブでは、もっともっと成長した姿を見ることができそうですね。
小田:元太がたくさんの人に見られて、完全に気持ちよくなって帰ってきてくれたらいいですよね(笑)。
松村:意外と真面目に発言したつもりだったんだけどな(笑)。
──(笑)このアルバムの曲は、まだライブではやってないんですか?
小田:『ストレンジャー』だけやりましたね。
松村:今までで一番いい演奏だった(笑)。歌の世界も今の俺らに合ってるよね。
小田:ポップでキャッチーだしね。
──ツアーが終わる頃には年が明けていますが、来年のノーリグはどんなところに向かって行こうと思っていますか?
小田:簡単に言うと、今作を越える4枚目を作り始めるしかないですよね。まだ取りかかっているわけでもなんでもないですけど...。あとは、1月までのツアーをどこまで膨らませて帰って来られるかというのはありますね。『1980』の歌詞のようになりますけど、自分らのものは自分らで掴んでいきたいんです。もっとNo Regret Lifeの音楽も広げたい。あと、元太くんが来年30歳になるので...。
松村:それ違う話だよね?
小田:俺プレゼンツで元太ワンマンライブをプロデュースしようかな(笑)。
松村:何それ? ベース弾き語りでワンマンやるの?
小田:というのは冗談半分ですけど、今回の制作の最後のほうで、ちょっとだけ見えたその先のビジョンがあるので、曲なりなんなりでこの先提示していきたいとは思ってます。今は断片しか見えていないんですが、この先時間をかけてつなぎ合わせていこうと思っています。
松村:まだ世に出せていない曲が今回はたくさんありますからね。
小田:でも、それは全部捨てます。テンションが変わると思うから。書き直すよりは、最初から書いた方が早いんじゃないかな。
松村:僕は来年のことというよりは、手前の試合に勝たないと次に進めないので。トーナメント戦のようなものですよ。だから、まずはツアーを全力でやろうと思っています。
──アスリートのようですね。
小田:体育会系ですね。体育界系のMですね(笑)。
橋口:元太さんの言ったように、まずは一番近いところにあるツアーをちゃんとやっていきたいです。アルバムをリリースして、これまではゆっくりと車輪が回っていたのかもしれませんが、今度は突っ走らせるぐらいの勢いでいるので(笑)、音源を聴いてライブを見に来て欲しいです。
──個人的には『パラサイトシティ』を早くライブで聴きたいです。
小田:考えときます。
松村:考えとくの? 「やります」じゃないの?
小田:もったいぶったほうがいいかなって(笑)。
──(笑)では、最後に一言小田さんからお願いします。
小田:Rooftopの表紙はとても光栄です。ここに載るだけのものを期待されると思うし、ライブを見て「なーんだ」って思われないようにしたい。自信を持ってリリースできる音源にもなったので、それに恥じないツアーをやろうと思います。よろしくお願いします。
photo:AJUKA