日本屈指のジャム・バンドとして確固たる地位を築いたDachamboが、通算4作目となるフル・アルバム『L』を発表する。従来の即興性は成りを潜め、プリミティヴなグルーヴはそのままに極めてポップな感覚に彩られた本作は、彼らにとってまさに新境地。各楽曲におけるポップ純度の高さがとにかく凄まじく、緩急の付いた必要最低限のアレンジも絶妙で、何度も繰り返し聴けるスルメ・アルバムであることは間違いない。これまで局地的に圧倒的な支持を集める存在だった彼らが、実はとてつもなく懐の深いバンドであることを証明する傑作であり、陶酔的かつ幻想的なサイケデリック・ミュージックを不得手とする人にこそ是非聴いて欲しい。本作は"Laugh"と"Lucky"に溢れた音の"Labyrinth"であり、ここには"Love"と"Liberty"に充ち満ちた"Life"を生きる数多くのヒントが詰まっている。さぁ、あなただけの"L"を見付けよう。(interview:椎名宗之)
ベクトルそのものをなくしたかった
──気が付けば、前作の発表から2年も経っているんですね。
EIJI(b, cho):何やかんやと忙しかったんで、自分達ではそんなに空いた感じはしないんですよね。
YAO(ds, per):新曲作りよりもライヴ、ライヴの連続でしたから。ちゃんとレコーディングの時間を設けないとアルバムを作れない状況ではありましたね。
AO(g, vo):まぁ、ちょっと遊びすぎた感はありますけど(笑)。
──Dachamboの本懐を遂げる場であるライヴは充実した2年間だった、と。
AO:ライヴも常に修業ですからね。人生は修業の連続、それをどう楽しむかですよ(笑)。まぁ、アルバムはもっと早くに出したかったんですけどね。去年の冬にようやく"ぼちぼち引き籠もりたいね"っていう話になって、合宿をしたんです。そこで曲作りをしたり、セッションをしたりして。
──そんな引き籠もり期間を経て発表される『L』なんですが、ジャケットを見るとアルバム・タイトルの意味するところが判りますね。"Lucky""Life""Liberty""Love"...といった言葉の頭文字であるという。
AO:そういった"L"の付く言葉がキーワードとして多かったんですよ。テーマとしては日常生活の中にも非日常感があるって言うか、そういう感覚に気付き始めたところがあって。それは自分の感じ方次第なんですけどね。あと、Dachamboはどうしても野外でライヴをやるイメージが強いから、家でも楽しんで聴けるアルバムを作りたいっていうのが今回は前提としてあったんです。
──ベクトルがインナーに向かったということですか。
AO:いや、インナーじゃなく、むしろベクトルそのものをなくしたかった。どんな方向にも行けるものにしたかったし、曲の中にも余裕を与えていると言うか。そこまで考えて曲作りをしたんですよ。あと、俺達の尊敬する博士が今年お亡くなりになったので、その博士にアルバムを捧げたかったんです。
──スペシャル・サンクスのクレジットにありましたけど、その博士というのは化学者のアルバート・ホフマンのことですよね。彼も"L"には縁の深い人物ですけど(笑)。
AO:そうですね(笑)。湿っぽく追悼するんじゃなく、俺達なりに祭り上げる感じで弔いたかったんです。ちなみに、俺の葬式はレイヴ・パーティーにすることがすでに決まってますけど(笑)。
EIJI:しかも、チベット仏教で有名な鳥葬でね(笑)。
YAO:十字架に張り付けられて、コンドルについばまれていくっていう(笑)。
──(笑)これまでのDachamboは図らずも聴き手を限定してしまう音楽性を孕んでいたと思うんですが、本作ではそういう狭義な面が薄れて、どんなリスナーにも受け容れられる懐の広さがありますね。
YAO:うん、そこは今回凄く意識したんですよ。
AO:今までいろんな場所でいろんな人達を相手にライヴを続けてきたけど、伝えきれない部分があるとやっぱり悔しいじゃないですか? そこを見つめ直したって言うか。でも、自分達には思っていた以上に振り幅の広さがあることに気付いて、それを一度真正面から確認してみたところはありますね。
──1曲目の「LAMA」からして、平たく言えばロックの血中濃度が増しているし、従来のリスナー以外の層に対しても訴求力が充分あると思うんですよ。
YAO:今までジャム・バンドを敬遠していた層にも気に入ってもらいたいですね。リスナーを選ばないポピュラリティがあると思うし。
──まぁ、あれだけ洗練されたサウンドに、まさか中華料理の名前が羅列されているとは思いませんでしたけどね(笑)。
EIJI:そこは俺達なりの遊び心ですね。タイトルはラマ教の僧侶なのに(笑)。
──ユニークな日本語詞の「Baby Love」は、サザン・ロックっぽい渇いたギターが特徴的な陽気なナンバーで。
AO:この曲だけギターはストラトを使ってるんですよ。サザン・ロックというより、最初はアイリッシュ・トラッドを意識してセッションしてたんですけどね。
歌に重きを置いたがゆえのポップさ
──アイリッシュ・トラッドという引き出しも、従来のDachamboにはなかったものですよね。
YAO:YAOAOを始めてから、そういったルーツ・ミュージックに目覚めた部分はあるんですよね。
AO:Dachamboは凄く個性的な集合体だし、それぞれの音楽的嗜好がまるで違うんです。俺自身はずっと黒人音楽ばかりを追い掛けてたんですけど、最近はアイリッシュ・トラッドや、アメリカならアパラチアンとかブルーグラスとかが心地好く感じる年頃になってきたんですよ(笑)。
──「twi」のようなクールなファンク・ナンバーにはAOさん本来の嗜好が窺えますね。余裕で10分を超えてるのがDachamboらしいですが(笑)。
EIJI:これでも相当悩んで短くしたんですけどね。8小節縮めるだけでもみんな喧々囂々でしたよ(笑)。
AO:それも聴く人のことを考えてのことなんです。できる限り聴きやすくしたくて。
──実際とても耳心地がいいし、緩急の付いた構成だから全然長く感じませんよ。端的に言えばポップなんですね。このポップさもYAOAOでの成果の表れなんでしょうか。
AO:どちらにも還元はされてますね。YAOAOではコーラス・ワークに力を入れてるんですけど、それもDachamboにフィードバックして、今では全員がコーラスを取るようになったし。Dachamboのジャム・セッションのノリも、最近はYAOAOにフィードバックしてますしね。
YAO:声の強さって言うか、歌は楽器に勝る力があると思うんです。それが今回のアルバムには全面に出てるし、それが無理なくできたのは布石としてYAOAOがあったからでしょうね。歌に重きを置いたことがポップさに繋がってると思うんですよ。
──「Lazy morning」みたいなダブ・トラックですら、そうしたポップさが貫かれていますよね。過剰なダブダブしさを意識的に抑えていると言うか。
AO:基本的にDachamboは隙間を作るのが余り得意じゃないんですよ。心配性なもので(笑)。でもそこはもういい加減大人になって、出さなくてもいい音は出さないようにしようと思って。
──意図的に音数を減らしたのは、本作のエンジニアであるKNDさんの意向も大きかったんですか。
AO:そうですね。彼とは合宿中からずっと一緒で、生活を共にしながらレコーディングをする中で、お互いに納得の行くまで話し合いをしながら作業を進めていったんですよ。
YAO:しかも、彼は絶対に妥協しないんですよね。
EIJI:俺達がOKを出した後でも、延々とミックスを続けてたしね(笑)。
YAO:6つの音がちゃんと鳴りつつも広がりを持たせると言うか、その辺を彼が絶妙なバランスでまとめてくれたんですよ。
YAO:寝食を共にすれば、自ずと伝えやすい環境になるんですよね。各々が理想とする音をダイレクトに伝えられる環境を彼が作ってくれたんです。そんな有機的なコミュニケーションが音にも表れてると思うし。
──DRY & HEAVYの内田直之さんを起用したのは、「Lazy morning」のみなんですよね。
AO:そうです。ウッチーはいろんなイヴェントで顔を合わせてたんですけど、個人的にもファンなんですよ。ただ、もの凄く忙しい人なんで、何とか捕まえて「せめて1曲だけでもやってくれないか?」って無理を言ったんです。その1曲はやっぱり「Lazy morning」しかないだろうと思って。
──「Yes, please」から「Lazy morning」への流れは組曲のようだし、今回は楽曲の構成にも一捻りあって確かな効果を生んでいますよね。
YAO:曲順も聴きやすさを念頭に置いて、かなり練りましたからね。
AO:まぁ、今までのDachamboでは有り得なかった曲の並びだよね(笑)。
EIJI:これまでもちゃんと考えてはいたんですけど、何となく同じパターンに陥ってた気はしますね。
──適宜な音数や整合性、それに曲順の効果も相俟って、何度でも聴けるアルバムに仕上がったと思いますよ。今までは1曲聴いただけでお腹一杯になるところがあったじゃないですか(笑)。
AO:最後の「Melody Life」が意外とサラッと終わってるから、すぐ1曲目に戻れると思うんですよ。
旅が俺達を導いてくれる
──まぁ、その「Melody Life」も決して一筋縄では行かない、如何にもDachamboらしいエンディングですけどね(笑)。
AO:もちろんただでは終わらせませんよ(笑)。今回こういうポップなアルバムを作れたのは、この2年間で得た賜物だと思うんです。地方に行くとみんな良くしてくれるし、そういう人達に対する感謝の気持ちが原動力としてあった気もしますね。
──今までは多分に独り善がりだった面も否めない?
EIJI:うーん、単純に余裕がなかったのかもしれませんね。
YAO:若気の至りと言うか...まぁ、決して若くはないですけど(笑)。
AO:従来どおりにもっと土深く進んでも良かったんだけど、ちょっと欲が出てきたのかもしれない。要するに、もっといろんな人に聴いて欲しいと思ったんですよ。これだけいろんな所へ旅をしているわけだから、もっとたくさんの人にDachamboの音楽が伝わるんじゃないかと思って。
──ちょっとディスコっぽい「DWAALSTAR」のようなダンサブルなナンバーも、2年前のDachamboならもっとディープな聴かせ方をしていたと思うんですよ。それが今回は、ちゃんと聴き手に伝えることを前提とした音作りになっていますしね。
AO:まず何が凄いって、BPM(演奏のテンポを示す単位)をだいぶ落としましたからね。いつまでもトランス・バンドって呼ばれるのも困るし(笑)。やっぱり、ちょっと大人になったのかな(笑)。
YAO:ゆったり聴かせたいというのは、今回ポイントとしてあったんですよね。歌は特にそうだし、グルーヴにしても緩やかな上でのダイナミクスや振り幅を付けたかったんですよ。
AO:曲作りの段階では、時間の枠のことは余り考えないんですよね。6人のやりたいことを納得できるまでやろうとすると、1人=1分の考えと換算しても最低6分にはなるわけじゃないですか? それを削ろうとするのは至難の業なんですけど、今回はそういうことも敢えてやってみたんですよ。
──1曲の中に詰め込むアイディアの豊富さがDachamboの魅力でもありますからね。
EIJI:実際、1曲の中に2、3曲分のアイディアやギミックが入ってますからね。今回も1曲の中にいろんなカラクリを必ず入れてあるし。
YAO:ライヴになるとまた話は別なんですけど、今回のレコーディングは"足す"よりも"引く"ことが一番重要でしたね。曲作りの時点からそうでしたから。
AO:完成度の高い作品作りを意識した時点で、1曲ごとに向き合う時間をたくさん取ろうとしたんです。その成果がちゃんと出たと思うんですよね。いつもならセッションの中でまとめていくところを、1曲ごとに対するディスカッションを経て形にしていったんですよ。
──ライヴと作品の棲み分けがようやくできるようになったとも言えるんじゃないですか。
AO:そうかもしれない。まぁ、それもジャム・バンドとしては永遠の課題なんでしょうけどね。どこでバンドの醍醐味を出すかっていう部分で。ただ今回は、今まで以上に作品作りに力を入れたかったんですよ。自分ではちょっと噛み砕きすぎたかな? っていう不安もなくはないんだけど、ちゃんとDachamboらしさが貫かれてると思いますね。Dachamboを知らない人でも充分楽しめるし、知ってる人はさらにニヤッとできる作りになってますから。これを聴いて、自分達なりの遊び方を見付けて欲しいですね。
──ところで、今年も毎年恒例の"Dachambo村・秋の大収穫祭"が行なわれますね。
EIJI:去年からキャンプ・インなんですけど、単独バンドのキャンプ・インは日本で初めてだったんです。お陰様で今年もリピーターが多いみたいで有り難いですね。
AO:去年はもの凄く気持ち良くて、ライヴ中に思わず感極まりましたからね。いずれは海外でもやってみたいですよ。それこそナスカの地上絵とかで(笑)。見るほうもやるほうも途中で高山病になったりして(笑)。まぁ、この先もいろんな旅が俺達を導いてくれると思うんで。
YAO:今度のツアーはバスが移動手段で、それによってメンバーみんなで移動できるようになるんですよ。そこでまた同じ時間を共有できるから、より密な関係性が今後の音にも表れると思いますね。