Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューMONICA URANGLASS('08年08月号)

あらゆる境界線を突き破る“マイスペ世代”の超新星

2008.08.01

"クラブで踊れるロック・バンド"をキーワードに、母体となる鋭利なガレージ・ロックに80年代のダンス・ミュージックやニュー・ウェイヴの要素を大胆に融合させた音楽性ですでに高い注目を集めているMONICA URANGLASS〈モニカ ウラングラス〉。イギリスのクラブ・シーンから勃興して世界中に波及した"NEW RAVE"からの影響が色濃いサウンドを身上とする彼らが、『The Invitation EP』と題されたミニ・アルバムで堂々のデビューを果たす。文字通りバンドからの不敵な挑戦状とも受け取れる本作には、"マイスペ世代"と呼ばれる次世代のシーンを担う旗手ならではの奔放なアイディアと貪欲な表現欲求が充ち満ちている。クラブとライヴハウス、旧世代と新世代、ステージとフロアといったあらゆる境界線を打ち破ろうとする彼らこそ、明日の音楽地図を塗り替える覇者となるのかもしれない。(interview:椎名宗之)

ウランガラスの如き微量の毒と美しい発色

──現在のようなロックとトランスを融合したデジタル・サウンドを志向するようになったのは?

68(vo, syn, prog):もともと打ち込み主体のDJをやっていて、それと並行してやっていた今の前身バンドではロックを追求していたんですよ。それがだんだんと欲が出てきてロックだけに飽き足らなくなって、海外からもロックとデジタル・サウンドを混ぜたバンドがどんどん出てきたこともあって、それに感化されたこともありますね。ヒップホップとかDJに付随する音楽も当然のように好きでしたし。

──前身バンドは今と同じ顔触れで?

68:そうです。前にやっていたのはいわゆるガレージ・ロックで、ジャンル的に一途であり続けることの限界があったんですよ。追求する人はもっと追求していくんでしょうけど、その分岐点で俺たちは真摯ではなかったと言うか。ライヴで同期モノを使うようになって、そっちのほうがスリリングに感じるようになったんです。

──今の編成になってどれくらいですか。

68:1年くらいですね。ただ、デジタル・サウンドを導入してからはもう2、3年経つんですよ。ライヴはやりませんでしたけど、遊びでスタジオに入るような感じで。最初はサイド・プロジェクト的な感じで、発散する場として始めたところはありますね。それが徐々に"こっち一本で行こう"ってことになったんです。

──ちなみに、この一風変わったバンド名の由来というのは?

68:ウランガラスっていうヨーロッパ発祥のガラス工芸があるんですよ。人体に影響のない微量のウランが混ざってあって、ブラックライトで照らすとウランが反応して蛍光の緑や黄色になるんです。そんなウランガラスが好きで、微量の毒と美しい発色が同居しているところに自分と相通ずるものを感じると言うか。単純に言葉の響きも好きだし。

──サウンドはデジタルを基調としながらも、実際の演奏は人力に負う部分も多々あると思うんですが、ドラマーを固定しないのは何か狙いがあるんですか。バンドの肝だし、ドラムの生音こそ人力の最たるものじゃないですか。

68:音源ではカッチリとシークエンスを組んで録ったり、生を入れることもあったりとケース・バイ・ケースなんですが、今は適任のドラマーを探している段階ですね。

GEORGE(b):ドラマーを固定する、しないは余り意識してないですね。自分たちが好きで聴いてきたバンドもライヴでは打ち込みを多用していたし、そういうのを見て慣れていた部分もありますから。

68:前身バンドのドラマーはレッド・ツェッペリンが好きなロックを追求するタイプで、そういうドラムの色付けみたいなものが今はちょっと合わない気がするんですよ。だから今はサポートという形を取っているんです。

──今回発表となる『The Invitation EP』は、バンドの今ある自信曲をギュッと詰め込んだ感じですか。

68:「Jill United」はデモで反応が良かったので入れたんですが、後は割とチョイスから遊んだ感じですね。もちろんどの曲も自信はありますけど。このアルバムに関しては、"今"っていうことに重点を置いたんですよ。3人とも飽きっぽい性格だし、仮に何年後かに同じ曲を録っても全然違う形になると思うんです。後年このアルバムがどう受け止められているかは余り関心がなくて、今この瞬間を大事にしたかったんですよ。それと、こうしてアルバムが出ることで聴いてくれる人たちといろんな形でディスカッションがしたい。別に自信がないわけじゃないんですけど、部分部分の良し悪しが聞きたいんですよね。最近のアーティストはデモが出来るとマイスペースにアップして反応を窺うじゃないですか? それと同じで、周囲の声を意識して聞きたいんです。

予期せぬ化学反応こそバンドの醍醐味

──曲作りはどういった進め方なんですか。

68:俺が大本となるものを持ってきて、GEORGEが土台を作って、KAZ-TICSがふりかけみたいな感じで加わるんですよ。

──ふりかけ?(笑)

68:ある程度まではこちらから何も言わずに味付けをしてもらって、最後は俺が味見して終わりっていう。

──ああ、なるほど。ギターは上物だからサジ加減が難しそうですね。ふりかけを余りかけすぎるとご飯が見えなくなっちゃうし(笑)。

KAZ-TICS(g):たまにふりかけがトロットロになってる時があるんですけど、そういう時は「すいません」と(笑)。やりすぎてグチャグチャになってしまうことがあるんですよね。

68:でも、そういうのが面白いんですよ。ギターは生音の代表格だし、俺とGEORGEは打ち込み色が強いので憧れを持ってるんですよ。曲の持つ泥臭さや温かみはギターが出すべきだと思うし。

GEORGE:そう、一番ロックな部分をギターが持ってきてくれるんですよ、ふりかけとして(笑)。

68:まぁ、たまにふりかけそのものを置いてきちゃう時もあるんですけどね(笑)。

──ふりかけを全くかけない曲もあるんですね。

68:ありますよ。俺が考えたギター・フレーズもありますからね。でもやっぱり、アイディアの部分ではKAZ-TICSには勝てないですよ。自分でもギターは弾きますけど、自分のギターの音色はどうも好きになれない。

──「Toxxic!」や「Galliano」といった曲は後半の盛り上がりでギターが要になっていますけど、曲に合うフレーズを乗せるのはそれほど悩まないものなんですか。

KAZ-TICS:いや、悩みますよ。悩んだ挙げ句に「そのふりかけじゃないよ」というご指摘がありまして(笑)。その後にみんなでどういうふりかけがいいかというディスカッションがあって、次のスタジオでまた試行錯誤すると。言うなれば"ふりかけトーク"ですよ(笑)。

68:俺が作るデモは曲作りの段階でかなり出来すぎちゃうから、のりしろを残してKAZ-TICSに預けて、その味付けを楽しみにしてるところがあるんです。そういう化学反応こそがバンドの醍醐味だと思うし。

──無機的なものと有機的なもののブレンド具合も、その化学反応に委ねる場合が多い?

68:いや、それは俺がだいたい決めますね。2人には材料だけ集めてきてもらって、俺が選ぶ感じです。GEORGEもKAZ-TICSもプレイヤー志向が強いから、どうしてもプレイに軸を置いて考えてしまうんです。俺はそこから一歩引いて、フィルターみたいなものを作る役目なんですよ。2人の見え方や感じ方を変えるようなフィルターをね。

──歌詞は意味よりも音の響きに重きを置いているように感じますね。

68:日本語は意味がダイレクトに伝わるし、インパクトが強すぎて演奏のフレーズを越えてしまう場合は意識的にその言葉を使わないようにしてますね。俺たちの一回り上の世代の音楽は日本語の意味に比重を置きすぎていたので、そういう音楽に対するアンチテーゼみたいな部分もあるんですよ。上の世代が素晴らしい日本語を安っぽくして墓場に持っていったと思ってるし、そういう使い古された素晴らしい日本語をもう一度主役にしたい気持ちはありますね。80年代の日本のロックの歌詞は結構好きなんですよ、プラスチックスとかBOφWYとか。

音楽に棲み分けなんて要らない

──今回のアルバムにはdAdA YakUzaによる「Jill United」、GOATBEDによる「Galliano」という2曲のリミックスが収録されていますが、これはどういった繋がりで実現したんですか。

68:dAdA YakUzaはマイスペを通して知り合ったんです。個人的にずっと好きだったので何か一緒にやりたくて、レーベルのスタッフにアポイントメントを取ってもらったんですよ。GOATBEDは俺たちの志向するニュー・ウェイヴを最も理想的な形で展開しているユニットなので、スタッフに紹介してもらってお願いしたんです。

──dAdA YakUzaのほうは音の輪郭と曲の強度がグッと増した感じで、GOATBEDは80年代のニュー・ウェイヴを彷彿とさせる素晴らしい出来ですね。

68:dAdA YakUzaはニューヨークで、GOATBEDは日本で、それぞれの国民性みたいなものが如実に表れていますね。GOATBEDのリミックスには日本人の奥ゆかしさや繊細さが出ているし、dAdA YakUzaのリミックスにはその対極にあるいい意味で大味な感じが出ていますよね。

──ああ、確かに。dAdA YakUzaは分厚いステーキを喰らうような音のイメージがありますよね(笑)。

68:舌が真っ赤な感じ、ありますね(笑)。

──MONICA URANGLASSはGOATBEDの繊細さとdAdA YakUzaの大味な感じの間を自由に行き来している印象を音源から感じますけど。

68:どっちも好きだと胸を張って言えますね。どう感じるかは聴く人の解釈次第ですけど。

──デビュー・アルバムと同時発売されるコンピレーション『ROCK HOUSE LOVERS』では、DIGITALISMの「POGO」、JUSTICEの「D.A.N.C.E」という2曲をカヴァーしていますが、この選曲の意図は?

68:制作サイドから選曲の候補をいくつか挙げてもらって、その中にDIGITALISMとJUSTICEっていう2組の好きなアーティストがいたので。まさに今が旬のアーティストなんですけど。

GEORGE:68も僕も、そういう同時代のダンス・ミュージックには以前から傾倒していたんです。JUSTICEはフレンチ・エレクトロの旗手で、彼らのように欧州の中でも変わった趣向のダンス・ミュージックをやるアーティストがメイン・ストリームに出てきたんですよ。DIGITALISMはドイツ出身だし、今はいろんな国から面白いアーティストが出てきて雑多な感じで面白いですね。

──クラブで踊れるロック・バンドを標榜しているとのことですが、やはりライヴハウスよりもクラブのほうが枠にとらわれない面白さがありますか。

68:クラブとライヴハウスの境界線を打ち破りたいですね。もっと雑多に受け止めて欲しいんですよ。ライヴハウスへ行くのが好きな人とクラブへ行くのが好きな人が日本だけ分かれてると思うんです。そういうことに対して肩が凝るって言うか。クラブならライヴがつまらなければドリンクに行けばいいけど、ライヴハウスにはそういう逃げ場がなかったり。ライヴハウスのほうがちょっとかしこまった感じがするんですよね。

──ライヴを披露する場所にしろ、みなさんの音楽性にしろ、ひとつの場所に留まらないごった煮感覚こそが面白いと?

68:そうですね。だから逆に、ジャンルを一本に絞ってそれを追求する人に凄く憧れがありますね。これだけ多岐にわたっていろんな音楽があるから、俺はそのどれかひとつを選べない。どんな音楽も好きだし、棲み分けみたいなものは要らないと思うし。そういう棲み分けのないライヴハウスならたくさん出たいですけどね。

──最近はいわゆる"マイスペ世代"と呼ばれる気鋭のバンドが続々と頭角を現しつつありますけど、そうした同世代のバンドたちと共に新たなムーヴメントを起こしていきたいという気概はありますか。

68:ありますね。マイスペが広まったことで、70年代のようなD.I.Y.精神がまた台頭してきたと思うんですよ。すべてを自分たちだけでアピールしていくんだっていう。そういうのは凄く楽しいし、これだけ音楽が飽和状態の中でも貪欲に面白い音楽を見つけようとする人たちも多いからやり甲斐もあるし、そこにロマンみたいなものも感じるんです。

──クラブとライヴハウスの境界線をなくすように、バンドとオーディエンスとの間にも境はないと考えていますか。

68:全然ないですね。俺たちは特に何も言っていないのに、オーディエンスは黄色いサイリウムを腕に付けて自主的に楽しんでるし、一人一人が主役みたいなものですよ。彼らと一緒にあらゆる垣根を取っ払った新しいムーヴメントを生み出していきたいですね。

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debut mini album
The Invitation EP

actwise / EVOL RECORDS XQCZ-1101
1,890yen (tax in)
2008.8.06 IN STORES

amazonで購入

iTunesStoreで購入

01. Jill United
02. ci-ci-ci
03. Foxy Days
04. Toxxic!
05. Galliano
06. Jill United (dAdA YakUza remix)
07. Galliano (GOATBED remix)

LIVE INFOライブ情報

EVOL RECORDS presents“EVOL NIGHT vol.2”
8月5日(火)渋谷LUSH
with:VELTPUNCH / winnie / reach up to the universe
OPEN 18:00 / START 18:30
TICKET:advance-1,500yen (+1drink) / door-2,000yen (+1drink)
info.:LUSH 03-5467-3071

OTHERS
9月6日(土)渋谷egg man
9月26日(金)稲毛K'S DREAM
10月1日(水)柏DRUNKARD'S STADIUM
11月7日(金)新宿MARZ(ツアーファイナル)

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