
バンド結成10周年を越えた今でも、驚くほどに過剰なまでのエネルギーを放出し続けるRAZORS EDGE。それは年を重ねる毎に、よりパワフルになっていく彼らのライブや作品からも想像が付くだろう。今回リリースされる4th full album『THRASHING GOES LOVELY』でも、現在のRAZORS EDGEがエネルギッシュに、衰えることを全く知らないバンドだと感じ取ることができる。元々バンドが持っていたポップ・センスが花開き、スラッシュ・ハードコアとメロディック・パンクの要素が絶妙に絡み合った新しいサウンド。オーディエンスを大事にするRAZORS EDGEならではの繋がりを強く感じることができる『Dream Team』など、KENJI RAZORSから止めどなく溢れる楽曲群は、全てが個性的な光を放つ。新生RAZORS EDGEから生まれた作品と言っても過言ではない今作『THRASHING GOES LOVELY』は、より多くの支持を受ける作品となることだろう。(interview:椎名宗之+やまだともこ)
ライブ中心の曲作り
──『THRASHING GOES LOVELY』は、ラブリー・キャッチー・ハッピーの3拍子揃った作品となり、よくぞここまでポップになったなという印象を受けました。『MAGICAL JET LIGHT』(3rd album)は9分の大作『NO PAIN, NO GAIN』などサウンドも新しい段階に入り、そこからどうなるのかなって興味津々でしたけど、こう来たかと思いましたよ。
KENJI RAZORS(以下KENJI):先祖返りしたような感じですね(笑)。『MAGICAL JET LIGHT』ではスラッシュ・ハードコアと、シューゲイザーの要素を足した芸術的なものを作ろうと思って、頭でデッカチで音楽を作っていたんです。あと、私生活で味の濃いものとか、強いお酒ばかりを体に入れていて、だいぶケミカルな日々を送っていたおかげで変なアルバムができてしまったんです。あの後見事に体を壊しまして、ナチュラル志向になり、どんどん進化したのが今回なんです。もしかしたら僕が本来持っていたポップな楽しい感じのものが出てきたのかな。
──2nd の『RAZORS RISING!!!!』もあれはあれでポップでキャッチーだったじゃないですか。あのツアーで見えてきたものや、吹っ切れたものがあって『MAGICAL JET LIGHT』に至ったのかなって当時は思ったんですけど。
KENJI:『RAZORS RISING!!!!』は初めてPIZZA OF DEATHから出すってことで試行錯誤もありましたし、2人メンバーが変わって作ったアルバムだったので葛藤もありチャレンジしている部分があったんです。それをさらに進化させたのが『MAGICAL JET LIGHT』。あのアルバムを作って、ちょっと疲れちゃったんですよ。1曲1曲一生懸命作った割には、そんなにリアクションが返ってきてないなって(笑)。でもその後新しいギターに変わってから、ライブが土日以外にもできるようになって、ライブの楽しさの大事さとか、持ち曲の中でもライブで生きる曲っていうのがわかってきて、そっちに自然に流れていったんです。『MOUNTAIN MOUNTAIN』や『RAZORS EDGE IS MOST THRASH!!』はライブで盛り上がるし、僕らもやっていて楽しいので、もしかしたらフリーキーな感じで音を出す方が楽しいんじゃないかなって。
──より感覚的になったということですか?
KENJI:そうそう。とにかく今まではかっこよくなきゃあかーん!って思ってましたけど、曲のネタやアイデアがかっこ悪くても、曲ができた時点で良い悪いの判断ができたらいいかなって軽い感じで曲作りを始めたら『THRASHING GOES LOVELY』になったんです。曲数も一番多いし、フルアルバムを一人で書いたのも初めてですけど、曲作りがラクでしたね。2分半ぐらいの曲もありますし、アルバムらしいアルバムができたかなと。
──PVになっている『Dream Team』は、オーディエンスとの繋がりを大事にしているというかライブあってのRAZORS EDGEみたいなことを改めて感じる曲でしたね。
KENJI:昨年は1年で100本近くライブをやったんですけど、そうすると自然にライブ中心の考え方になるんですよ。
──「トラブルの裏にチャンスあり!!」とか「探す必要なんてもうないよ、もう持ってるじゃん」とか、さりげない一行にメッセージをちゃんと込めてますしね。
KENJI:今まで生きてきた中での揺るぎない価値観みたいなものは文章にちょこちょこ入れてますね。
──説教じみてない、そのさりげなさも良いですよね。
KENJI:説教するようなキャラじゃないので、聞き流してもらっても生きるヒントになってくれてもいいしって感じです。
収録時間は19曲で30分弱!
──『THRASHING GOES LOVELY』は全19曲と数えて良いのかどうかってのはありますけど、すごくバラエティーに富んでますね。
KENJI:それで筋が一本通っているんですよね。気持ちいいアルバムですね。自分たちでもよく聴きますよ。
──とにかく19曲で30分を切るのは見事としか言い様がないですね(笑)。
KENJI:当初の予定では35分ぐらいだったんですけど。曲が完成していくにしたがってテンポも速くなって、結局30分を切っちゃいましたね。そこだけ予定外なんです(笑)。
──『NO PAIN, NO GAIN』ような長い曲をやってみようという発想はなかったんですか?
KENJI:そうですね。ライブで今の自分達やお客さんが楽しめる感じを第一に考えて、パンク・ロックアルバムを作ろうと思ったんです。そこにRAZORS EDGEなりの疾走感があればいいかなと。なので、今までの振り幅の極端すぎるところをわざと排除した感じです。
──ここまで直球で潔いのはバンド始まって以来ですよね。
KENJI:潔さでいうと1stの『THRASH 'EM ALL !!』も速い・うるさい・短いっていう統一された感じでしたけど、それに近いですね。
──カバーでは ザ・ローリング・ストーンズの『Jumpin' Jack Flash』が収録されてますけど、普通はもうちょっと"通"ぶるところだと思うんですが、ここまで王道の曲を選ぶとは!という感じでしたよ。
KENJI:"通"ぶってやりたいところだったんですけど、みんなが知らない曲をライブでやっても盛り上がらないし、だったらみんなが知ってる曲をやるほうがおもしろいし、興味を持ってくれるかなと。あと、好きなバンドの好きな曲なので、それを自分たちでどう料理できるか。やったら本物よりかっこいいかもって感じなので収録したんです。オリジナルじゃない曲が一番ロックな曲になりました。
──この選曲はストーンズとあややを両立して聴けるKENJIさんならではですね。
KENJI:最近はあややじゃなくて、はるな愛がアツイです(笑)。あとPerfumeはやっぱりいいですね。
──言ってみれば、このPerfumeばりのポピュラリティーは最初から狙いとしてあったんですか?
KENJI:今回はついにメロディックアルバムを作ろうぐらいの感じで、帯をギュッと絞って作り始めた感じです。今回『Dream Team』は本当にメロディックを意識して作ったんですけど、どうもメロコアにならないんですよね。NOFXとか頑張って聴いてるのに(笑)。

オーディエンスとの連帯感
──これだけ曲の数があると、制作はけっこう大変だったのではないですか?
KENJI:それが、そうでもないんですよ。鼻歌で作ってみたり、パソコンに機材を入れたので、ドラムのリズムを流しているだけで曲が生まれちゃうんです。
──ということは、あまり煮詰まりはなかったですか?
KENJI:煮詰まりはなかったですね。今までは曲を作ると、残しておくのが嫌なので全部レコーディングしていたんです。でも今回はちょっとやったらもう一枚できそうなぐらい、まだ次作のアイディアが余っているんですよ。
──10周年を迎えたバンドが、今でも意気盛んにこれだけのエネルギーがあるのは珍しいですね。
KENJI:サウンドがメロディック寄りに進化したところからの初期衝動でしょうね。ウキウキしたまま作れるんです。
──そして何よりも、実際ライブで聴くお客さんが楽しいだろうなと思いますね。
KENJI:サウンドは今までよりもメロディックになりましたけど、ここ1〜2年のライブを見てくれる方にしたら、ライブでの楽しいイメージですんなりと入って聴いてもらえる自信があったんですよ。ライブもあまりせずにこういうのを作ったら総スカンを食らうんじゃないかっていう不安があったと思いますけど、今回はイケるだろうと思ってました。
──『I Love Vans』などライブでは既に演奏されている曲も含めて、手応えは感じているということですか?
KENJI:『I Love Vans』はかなりウケはいいですよ。速めのエイトビートでパンク・ロックの曲なんですけど、そこにRAZORS EDGEらしさをお客さんがすでに見つけてくれてます。
──かと思えば、『Tropical Radio』のようなインストも入ってましたね。
KENJI:あれは宅録でドラムはドラムマシーンです。『The Very Best of PIZZA OF DEATH』に入っている『Radio "Punk 007"』のリメイクで、パンク・ロック調にして単音ギターを乗せてみた曲。バックのリフはほぼ一緒だけど、「『Radio "Punk 007"』の違うバージョンじゃん」ってならないところがミソ。わざとAMラジオから流れてきたぐらいの音質でマスタリングしてるんです。今思ったんですけど、『Tropical Radio』と一番最後の『TAKA&MISA』は曲とは言えないですね。全19曲のアルバムと言ってますが、全17曲です。調子こいてました(笑)。
──(笑)サウンド的に『Sunset Beats』は、Oiのテイストとサーフィンのギターの感じがあって、全世界を見回してもOiとサーフミュージックが合体した曲はないと思いますね。
KENJI:言われてみるとそうですね。ギターソロのハワイアン調でサーフの音質は気に入ってます。ちゃんとしたロックバージョンもあったんですけど「ジャスコとかでかかってるダサイ感じがアルバムの最後のほうに来ると切なくていいんじゃない?」ってあえてこっちを選んだんです(笑)。後半はモッシュパート&Oiのシンガロング系になってます。
──シンガロングはRAZORS EDGEの強みと言っても過言ではないですからね。
KENJI:曲調が変わってきたとしても、結成当初からコーラスでみんなが盛り上がれるところは変わってないですね。
──オーディエンスへの温かい視線を感じます。
KENJI:暴れるだけのフロアは経験もしているし好きなんですけど、怖がっちゃう人もたくさんいると思うんです。僕らとしては、自分たちにしかできないフロアの感じを作りたくて、モッシュをしている時に誰かがコケたら助ける。ダイブしても警備の人に抱えられるんじゃなくて、自分たちで降りられるぐらいの良い意味でストロングなお客さんを育てて行きたいんですよ。
──お互いが助け合ってモッシュサークルを生むというのは、美しい光景だと思いますよ。
KENJI:そうしてくれって言ったわけではないですけど、自然とそうなってきましたね。最近はたまに大きい会場でやる時には危険になりうるのであらかじめ言いますけど、フェスとかでダイブ・モッシュ禁止っていう現状は、禁止にしないとライブができない状況になる日本のロックシーンやパンクシーンがかっこ悪いと思うんです。だからそれを微力ながら変えて行きたい。こないだF-Xっていう福岡のフェスに出た時に、5000人ぐらいが集まって。僕らあんな大人数の前でやるのは初めてだったんですけど、雨が降って下がコケやすい状況でも、2〜300人がカッパでモッシュをしていて、そこでもコケた人が出たら助ける人がいて、自分たちがやってきたことが形になっていることが嬉しかったですね。
──オーディエンスはバンドの合わせ鏡ですからね。だからこそ、見てる人たちもチームRAZORS EDGEなんだよって、『Dream Team』みたいな曲ができるんでしょうね。
KENJI:差別するわけではないですけど、うちのバンドを見る時は誇りを持って欲しいし、自分たちも誇りを持ってやりたいという感じなんですよ。
──モッシュをするということは、それなりに若くないと足腰にきてしまうんですが、10年以上突っ走ってきているRAZORS EDGEのライブでそれだけのモッシュが起こると言うことは、ちゃんと若いお客さんが入ってきているということですね。
KENJI:おかげさまで常に若い子が入ってくる状況ですね。ありがたいです。
──RAZORS EDGEの楽曲は間口が広くて、ライブでモッシュできる年齢の人じゃなくても楽しく聴けますし、良いバランスが取れてると思います。
KENJI:僕が目指したいのは、フジロックの深夜のレッドマーキーの盛り上がり。客席の前から後ろまでが手を挙げて躍っている姿...。あれがパンクでできたらかっこいいなと思うんですよ。パンクのライブって前は温度があって後ろは割りと冷ややかな感じで見ている光景が多いと思うんですけど、自分が体験した中でハイスタのライブだったら、前から後ろまで同じ温度で楽しんでいた記憶が残っているんです。
──ハイスタのライブやエアジャムには、客席に連帯感がありましたよね。
KENJI:アツイ気持ちと純粋な気持ちで繋がってる感じがしましたね。前でダイブして後ろでモッシュして、端のほうで見ている人はそいつらを見て楽しんでいる状態であれば、前から後ろまで温度の種類は違うけれど会場全体が温度差のないライブができると思うんです。
──ステージで全身全霊を使うのは当然ですけど、極限まで心を開く気持ちがないとなかなかできないですよね。
KENJI:そのへんは体がクリーンになって、全部出せるようになりましたね。変に恥ずかしがらないようになりました。


ライブへの意識変化
──KENJIさんの体がクリーンになった話は有名ですが、破天荒な生活を続けていたのはアルバムで言うといつぐらいまでですか?
KENJI:『MAGICAL JET LIGHT』です。自分の生きてきた歴史もRAZORS EDGEに関しても、あの時期を境に分かれるんですよ。まずお酒が飲めなくなって、打ち上げを楽しむためにやっていたライブがそうじゃなくなったから、ライブで100%を出し切って楽しむようになったんです。自然にライブにかける意気込みが変わりましたね。
──かつてのライブが打ち上げに向かうために頑張るものだとしたら、今はライブでどれだけ気持ちよさを得るかというところですか?
KENJI:そこでしか表現もできないし楽しめないので、全身全霊ですね。あとは食生活を変えたおかげで体がダルくないんです。スタミナも付きましたし、声もあまり嗄れなくなったんです。
──そういえばアルバムを聴いて、ボーカルが違うなっていう気はしました。ちゃんと英詞が聴こえて来ますよね。
KENJI:歌い方を変えているんですよ。『SWEET 10 THRASHERS』の後ぐらいから、ライブでマイクに乗りやすい声だったり、叫んでないけど叫んでるように聴こえる効果的な声の出し方を身に付けたんです。それがちょっとずつ見つかってきたんですよ。やっぱりお腹から声を出すのが一番良いんですよ。あとは、まさに健康のおかげ。ライブをたくさんやった分、体力も付いているので、1個1個の音が強くなったんですよ。ミックスも突飛なことはやらずに、シンプルに出したら良い音が録れたんです。
──楽曲が良い方向に向かったというのは、お酒も油ものも全部止めた自信がどこかにあるような気がしますね。
KENJI:精神的なもので、これだけ止めることができたんだから、他のこともできるでしょうって感覚はあるかもしれないですね。本当は肉も食べたいんですけど、そういうわけにもいかない体になってしまったので(苦笑)。バンバン食ってバンバン飲んでるストロングなシンガーとかうらやましいですよ。でも世界的に見て、ミック・ジャガーは毎日10キロ走っているとか、60歳であれだけやれてる人がいると負けたくないし勇気づけられますよね。普段動いてないと、ライブでいきなり動いてゼーゼーしてるアイドルパンチみたいになるんです(笑)。反面教師(笑)。
ライブは一期一会
──ところで、今回詞の中に詰められた情報量がすごく多いですよね。よくこれだけ短い分数の中に詰め込めたなと思ったんですが...。
KENJI:伝えたいことと歌詞の量はリンクしにくくて、言葉足らずなところもあるんですけど、歌詞の量は以前より増えてますね。今までだと1曲の中で歌詞は繰り返しが多かったんですけど、ストーリーのある歌詞にしたら毎回歌詞が違うからライブでは間違えまくりですけどね。脳みその老化だけは止められないです(苦笑)。
──物語性のある詞を意識した部分はあります?
KENJI:自然になりました。言いっぱなしの言い逃げみたいな歌詞は自分との距離に違和感を感じて、伝えたいことを全部言葉にしていくとけっこうなボリュームになっちゃうんですよ。
──『City Connection』は物語の流れがあって、おもしろい歌詞ですよね。
KENJI:これはオモロい歌詞ですよね。これと『Circus Charlie』はファミコンのカセットの名前なんです。仮タイトルで付けておいたんですが、しっくりきたのでそのまま使いました。
──『Circus Charlie』はRAZORS EDGEが音楽をやる意味がさりげなく盛り込まれている気がしますね。
KENJI:サーカスの人はお客さんが1人でも100%以上のパフォーマンスをしますよね。それがライブとリンクしたんです。そう思った時に、金だけではないし、気持ちがないとできひんなって思ったんですよ。
──"トゥー・マッチ・モンキー・ビジネス"とは言いますけど、そこだけじゃないですからね。
KENJI:それぐらい稼げるようになって、パフォーマンスの質が下がったらこの曲はやらなくなりますね(笑)。やっぱり"モンキービジネス"だよねって。
──基本的には今を楽しむっていうのは一貫してますよね。
KENJI:お客さんはお金を払って来てくれているし、僕らもせっかくやる機会があって一期一会ですから。お客さんが少ないからって腐ってやるんじゃなくて、いるヤツだけでも楽しもうよっていう気持ちでライブをやり出してからお客さんがちょっとずつ増えていきましたね。気持ちを入れ替えると伝わりますね。
──だから最近のライブにハズレがないのんでしょうね。
KENJI:うん、そこにブレはないですね。
──ということは、お酒も好物も絶ち、今のKENJIさんの生活で唯一の刺激物がロックになると思いますが、全ては音楽のためにあると思うと美しい話ですね。
KENJI:娯楽がこれぐらいしかないですからね。音楽ができなくなったらどうしてたんだろうって思います。
──そう思うと、年内埋まっているようなライブ・スケジュールも苦にはならないですよね。
KENJI:楽しみです。これ以外にも決まってますし。バンドを真面目にやることが照れくさい時期があったんですけど、今の4人と4人のテンションは真面目に取り組むことを楽しいと感じているんです。今までだったら機材も買わなかったけれど、今だったらまず機材を揃えて音を詰めようよとか、バンドが向いてるベクトルが一緒なので、すごく楽しくやれてますよ。